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揺れるGoogle AI倫理研究者の退社問題

 著名なAI研究者の退社をめぐってGoogleが揺れている。研究者が黒人女性で、社会の多様性を求める活動でも知られることから、メディアの高い関心を集めている。発端となったのは、今、最もホットな「大規模言語処理モデル」の問題を指摘したものだった。

黒人女性の著名研究者が突然「解雇」?

 GoogleのAI倫理担当チームの共同リーダーであるTimnit Gebru氏が12月2日、「解雇」されたとツイートした。同氏が共著者となっているAI分野の論文を社内プレビューに提出したところ、部門責任者から「社内審査の発表基準を満たしていない」として、撤回あるいは署名の削除を求められたという。

 CNNなどによると、論文は来年3月に開かれる「ACM FAccT」(公正・説明責任・透明性に関する会議)に提出するものだった。コンピューターと倫理をテーマとする査読付き学術会議だ。

 Gebru氏は、この措置の説明と話し合いを求めていたが、休暇を取って復帰すると、従業員アカウントを閉鎖されていたという。

 社内に対しては、Google Researchの責任者Jeff Dean氏が12月3日付のメモでGebru氏が退職したと説明。同氏に「Googleで仕事を続けるためにいくつかの条件を満たすことを求めた」ところ、「条件に満たないのであれば、辞める」と書いてきたため、「彼女の決断を受け入れた」としている。

 Gebru氏はエチオピア生まれ。米国に移住後、スタンフォード大学でコンピューター科学を学び、GoogleのAIチーフサイエンティストだったFei-Fei Li氏の下で博士号を取得した。顔認識技術での黒人女性の認識率が、白人男性に比べてはるかに低いことを発見したり、黒人AI研究者のコミュニティ「Black in AI」を立ち上げたことなどで知られる。

 その退職は、一気に知れ渡り、ただちにGoogle従業員からGebru氏を支援する動きが立ち上がった。12月3日、パブリッシングプラットフォームのMedium上に嘆願書を作成。「Gebru氏への会社の報復と、研究を黙殺する動きへの懸念」を表明し、「研究の完全性と、GoogleのAI原則の尊重を約束すること」を要求した。

 これに従業員約2300人、外部の研究者ら約3700人が署名している。Jeff Dean氏の緊急の社内説明はこうした動きへの対応だった。

 その後、当初は知られていなかった論文の内容が、MIT Technology Reviewなどのメディアが入手して明らかになっている。