クラウドのオープン化を目指すレッドハットのアプローチ


 Red Hat Enterprise Linux(RHEL)やJBossなどのオープンプラットフォームを提供しているレッドハットは、クラウドへとビジネスを拡大していこうとしている。

 レッドハットのクラウド戦略は、同社が持つさまざまなプラットフォームを生かしたオープンなクラウドを目指している。基盤となるのは、ハイパーバイザーのKVMを搭載したRHELになる。

 

クラウドを視野に入れたRHEL 6.1

 現在リリースされているRHEL 6.1は、ホストでサポートされているCPU数(CPUコア)が、4096CPUコアだ。さらに、メモリに関しては、64ビット環境のx64に関しては、64TBまでサポート(32ビット環境のx86は、16TB)。

 ファイルシステム自体も改良され、新しいXFSというファイルシステムを使えば、最大100TBとなっている(1ファイルで最大100TBをサポート)。

 ハイパーバイザーのKVMは、仮想CPUとしては最大64CPU、仮想メモリに関しては1TBにまでアップしている。さらに、1台のホストで同時実行できる仮想環境の数としては2000VM以上にまで拡張されている。

 レッドハットでは、RHEL以外に、仮想化だけにチューニングをしたRed Hat Enterprise Virtualization Hypervisor(RHEV Hypervisor)を用意している。RHEV Hypervisorは、RHELから仮想化以外に必要のないモジュールを削除し、非常にコンパクト化したハイパーバイザーといえる。ただ、基盤としてはLinuxとKVMが使用されているため、開発者や運用者にとっては、今までと変わらない使い方ができる。

 また、クラウドを考えると、各仮想マシンのセキュリティが重要になる。もし、仮想化にセキュリティホールがあると、同じホストで運用されているほかの仮想マシンに影響が及ぶことになる。そこで、レッドハットでは、LinuxのSELinux機能を使用して、高いセキュリティ性を実現している。

 もちろん、RHELやRHEV Hypervisorなどのホストをコントロールする管理ツールとして、Red Hat Enterprise Virtualization(RHEV) Managerがリリースされている。

 新しいRHEV Manager 3.0では、管理コンソールのユーザーインターフェイスも改良されている。メインパネルもVMやネットワーク別にリスト表示されている。ストレージマネジメントのユーザーインターフェイスもシンプルで分かりやすくなっている。もちろん、VMの作成、編集、削除などもRHEV Managerで簡単に行える。さらに、スナップショット、テンプレート化などもサポートされている。また、User Portalという画面で、VMの動作状態を簡単に確認することができる。

 これ以外に、CPUやメモリ、ネットワークなどのリソースの状態をグラフとして表示するダッシュボードなども用意されている。

 RHEV Manager 3.0では、インターフェイスとして、SOAPやHTTP、RESTful APIなどをサポートしている。これにより、多くのアプリケーションとの連携が可能になっている。


レッドハットでは、サーバーの仮想化から、プライベートクラウド、パブリッククラウドへとITは進化していくと考えている。最終的には、パブリッククラウドを利用することでITはユーティリティ化する仮想化のベースとなるのは、RHELとKVM

 

重要なのは、クラウドに対するインターフェイス

 レッドハットでは、着実にプライベートクラウド、パブリッククラウドを構築するためのベースとなるプラットフォームの開発、改良を行ってきた。RHEL6やRHEV Managerのリリースにより、やっとベースとなるプラットフォームが整ってきた段階だ。

 ただ、現実のプライベート/パブリッククラウドという環境を見てみると、レッドハットの製品がすべてではない。VMware、オープンソースのXenベース、シトリックス社のXenServer、マイクロソフト社のHyper-Vと、さまざまなプラットフォームで構築されたクラウドがすでに存在している。

 また、パブリッククラウドにおいては、各社独自の管理用インターフェスが用意されているため、ベースとなるプラットフォームとの相互互換性だけをサポートしたとしても、現実には透過性の高い管理は行えない。現状では、プラットフォーム、クラウド別のサイロ型の管理になっている。

 こういったサイロ型の管理では、クラウドを導入しているメリットがどんどんと失われ始めている。そこで、必要とされているのは、プライベート/パブリックの違いや各社のパブリッククラウドの違いを超えて、ITシステムを管理できる仕組みだ。

 こういった動きは、Open Stackなど、さまざまなベンダーが取り組み始めている。レッドハットでも、オープンソースプロジェクトを集約してCloudFormsとOpenShiftという製品を発表している。

 CloudFormsは、マルチベンダーのIaaSの構築・管理を行う製品だ。CloudFormsの機能としては、アプリケーションライフサイクルマネジメント、Computeリソースのマネジメント、インフラストラクチャサービスに大きく分けられる。

 CloudFormsでは、マルチベンダーのIaaSを管理するということで、KVM、Hyper-V、VMwareなど、複数のハイパーバイザーが混在するような環境でも、仮想マシンを一括して管理可能だ。このために、レッドハットが開発を進めていたDelta Cloud APIが採用されている。

 現状では、クラウドとしては、Amazon EC2とRackspace Cloudに対応。ソフトウェアコンポーネントとしてはJavaやPHP、JBoss Application Server、MySQL、MongoDBなどが対応している。

 CloudFormsを利用することで、RHELで構築したプライベートクラウド上の仮想マシンがリソース不足に陥ったときには、パブリッククラウドに仮想マシンを移動して、ある一時期だIaaSを借りることでリソース不足に対応するといったことも可能になる。

 さらに、CloudFormsには、ユーザーが仮想マシンの発行申請を行うセルフサービス・ポータルがある。構成管理やパッチ管理など、アプリケーションの構築に必要な機能も用意されている。

 こういった機能が、ベンダー依存のサイロ型システムではなく、オープンに行えることがCloudFormsのメリットになる。


さまざまなメーカーのクラウドが存在することで、相互互換性がなくなっているというCloudFormsは、オープンソースを使ってIaaSを再定義する。これにより、今まで相互互換性がなかったクラウドを一括して運用・管理することが可能になる
CloudFormsを利用すれば、IaaSをまたいで、Computeリソースの再配置なども行えるCloudFormsの構成ブロック図。Cloud Engine、System Engine、Application Engineが中核に存在する

 また、レッドハットでは、ミドルウェアとなるCloud Engineを開発している。今までは、クラウド別にアプリケーションを構築していたが、Delta CloudとCloud Engineにより、プライベート/パブリッククラウドの差異がカバーされることで、アプリケーションはどのクラウド上でも共通に動作させることができる。

 さらに、以前買収したMakaraのテクノロジーとなるMakara Cloud Application Platformを使えば、アプリケーションを異なるクラウドに配備し、一括して管理することが可能になる。Makara上で仮想的なサーバークラスタを作成し、利用するソフトウェアコンポーネントを選んだうえで、アプリケーションを配備する。また、運用監視やパフォーマンスのモニタリングのほか、自動スケーリングの機能も持つ。

 OpenShiftは、Java、Python、PHP、Ruby、Spring用開発フレームワーク(最新版ではJava EE6やJBoss Application Serverをサポート)、データベースもMySQL、SQLite、MongoDB、MemBase、Memcacheなどが用意された開発者向けのパブリックPaaSだ。OpenShiftは、開発者がゼロからアプリケーション環境を構築するのではなく、ある程度多くの開発者が利用するオープンプラットフォークをそろえたモノだ。

 OpenShiftは、レッドハットが製品としてパッケージとして提供するのではなく、レッドハット自体がクラウドサービスとして提供している。

 OpenShiftでは、デプロイが簡単な「EXPRESS」、リソースの自動拡張機能などを備える「FLEX」、root権限なども与えられる「POWER」の3種類のサービスレベルを用意している。

 OpenShiftは、OSからミドルウェア、サービス、管理機能、拡張機能、モニタリング機能まで、すべてがレッドハットから提供、運用される。これにより、開発者は、IaaSの運用・管理ではなく、アプリケーション開発に専念できる。


OpenShiftは、レッドハットが提供するミドルウェアまでをパッケージ化したPaaSだOpenShiftの登場により、開発者は環境の構築や管理にパワーをかけるのでなく、アプリケーションやサービスの開発に力を注ぐことができる
OpenShiftは、レッドハットが提供する最新のフレームワーク、クラウドを提供するOpenShiftには、Express、Flex、Powerの3つのモデルが用意されている。開発者の必要に応じて、利用すればいい
MAKARAの管理ツールを使ったOpenShift Flexの管理画面。各コンポーネントのトランザクション性能などがグラフ化されているレッドハットでは、IaaSやPaaSもノーロックインを標ぼうしている。これにより、ベンダーに依存しないクラウドが実現する

 レッドハットのクラウド戦略を見ていると、RHELやRHEV、JBossなどのオープンソースを活用したオープンなクラウド環境を作り上げようとしている。ただ、残念なのは、こういった先進のクラウド環境が日本では積極的に展開されていないことだろう。

 できれば、日本国内でも、先行している米国と同じようなクラウド環境が提供されるようになれば、レッドハットに対する注目もより集まるだろう。さすがに、OpenShiftなどのPaaS環境の日本国以内での提供などは、1社だけで行えることではないだろう。やはり、キャリアやプロバイダーなどと協力して行う必要がある。

 しかし、これだけの先進的なクラウドが米国で提供されていることを考えれば、米国の環境を使用することになるとしても、より日本国内で多くのユーザーが利用できるようにしてほしい。日本国内でのサポートや積極的な情報が提供されることで、よりレッドハットが思い描くクラウド環境がユーザーに受け入れられていくのだと思う。

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