クラウド特捜部

JunoリリースでOpenStack採用が加速する?

次期リリースKiloもまもなく登場

高い安定性と信頼性を求めて

 Junoリリースは機能面から見れば、Sahara以外はバグフィックスや既存機能の強化が中心といわれている。OpenStack Foundationでも、Junoにおいては新機能の開発よりも、既存機能のバグフィックスを中心に行っていると解説している。実際、開発項目としては340個ほどだが、バグ修正に関しては3200個ほど行われた。

 OpenStackのベースとなるCompute部のNovaでは、例えば、Juno以前ではVMのシャットダウンは強制停止しか手段がなかったのに対し、JunoからはOSシャットダウンにも対応するなど、問題点の解消が図られた。さらに、ホストアグリゲーション単位でのリソース管理と、Conductorの機能強化により、VM作成やVMリサイズをConductorで行えるようにすることで、耐障害性が向上している。

 また、ESX-i、KVM、Hyper-V、Xenなどのハイパーバイザーとの連携性が高くなった。ハイパーバイザーを提供している各社やコミュニティが、OpenStack向けにさまざまなモジュールを開発・提供することで、機能や安定性の向上が図られている。

 こうしたバグフィクスや既存機能の強化というのは一見すると地味なところだが、実はその効果は大きい。Novaだけでなく、オブジェクトストレージのSwift、ブロックストレージのCinderなどでバグフィックスや機能強化などが行われた結果、OpenStackが動作する上での高い安定性、信頼性を実現している。

 例として、VMのテンプレートイメージを管理しているGlanceでは、Glanceのストレージ部のコードを分離して、将来的にNovaやCinderなどで共用できるような仕様に変更されている。Glanceのバックエンドストレージとしては、ローカルのファイルシステムだけでなく、Amazon S3、GridFS、Swift、Cinder、Ceph、Sheepdog、VMwareデータストアなどが利用できる。

Glanceでは、各種のストレージをバックエンドとして利用できる
OpenStackの各モジュールの熟成度。Swiftは、Rackspaceが商用で利用していたソフトウェアが提供されたので、もともと熟成度が高かった。ComputeのNovaやテンプレート管理のGlanceは、リリースを経るにつれて熟成度がアップしている

 こうした方向性の変化は、オープンソースのOpenStackをベースにして、さまざまな企業がディストリビューションをリリースしたり、ユーザー企業がオープンソースのOpenStackをベースに自社のシステムを構築したりしてきたことが影響している。

 以前は、OpenStackのコミュニティが新機能を取り込むことを中心にしていたため、各リリースは非常に荒削りなものだった。OpenStackが提供しているソースコードだけでは、実際の環境としては利用できないこともあった。

 このため、確実に動作し、独自機能が提供されている各社のディストリビューションにユーザー企業の注目が集まっていた。

 例えばRed HatのOpenStack Platform、SUSE Cloud、Ubuntu OpenStackなど、もともとLinuxのディストリビューションを提供していた企業のもの、HP Helion OpenStackのように、自社でOpenStackベースのクラウドを展開している企業が提供するものなどが存在する。またVMwareが、VMware Integrated OpenStackというディストリビューションを提供し始めたことも注目されていた(昨年8月末に開催されたVMwareのイベントで発表。今年になって提供が開始されている)。

 しかし、各社のディストリビューションが独自進化してしまうと、ディストリビューションごとに、大きなフラグメンテーションを起こすことになる。そこで、OpenStack自体のクオリティを上げ、基本部分では各ディストリビューションの機能差をなくし、安定した動作環境を実現する方向に開発方針が変わったようだ。

 また、仮想ネットワークのNeutron、ダッシュボードのHorizon、認証関連のKeystone、テレメータのCeilometer、クラウドオーケストレーションのHeatなどにより、クラウドを構築・管理・運営していくための基本機能が一通りそろったことも、方針が変わった一因だろうと思われる。

 今回、Neutronにおいては、Open vSwitchの分散仮想ルータの提供、L3エージェントにおける冗長化構成の対応、IPv6対応以外に、各社のネットワークテクノロジー(L3ルータ、ファイアウォール、ロードバランサー、VPNなど)に対応したプラグインなどが提供されている。分散仮想ルータとL3エージェントにおける冗長化構成の対応は、「高いレベルでのインプリメントが行われているため、プロダクションレベルだ」とNeutronチームは話している。

 一方、FWaaS(FireWall as a Service)はまだまだプロダクションレベルに達せず、実験的機能扱いとなっている(これは、1つのテナントに複数のファイアウォールを作成できないから)。また前述したNeutronに関しても、基本機能は利用できても、さまざまな追加機能を利用していく上では問題があるようだ。

 このように、いくつかのモジュールでは問題はあるが、基盤となるNova、Swift、Cinderなどについては、バージョンを重ねることで安定してきている。商用システムとしてみれば、これらの基盤モジュールに関してまだまだ機能不足と思うユーザーもいるだろう。しかしベースとなる基盤が安定してきているのは、ユーザーやディストリビュータにとっては非常に大きなことだ。

ネットワークのNeutronでは、分散仮想ルータなどが追加された
各社のネットワークテクノロジーに対応している
Junoリリースにおいて、ダッシュボードのHorizonに追加された機能
ゲストOSのシャットダウン機能、Saharaのメニューも追加されている
ダッシュボードでは、分散仮想ルータなどのネットワーク構成も確認することができる

(山本 雅史)