クラウド&データセンター完全ガイド:特集
データセンター選定のポイント2014
ユーザーニーズの高まりで活気づく企業向けクラウドストレージ[Part3]
2014年6月30日 00:00
[Part3]ユーザーニーズの高まりで活気づく企業向けクラウドストレージ
“クラウドファースト”という言葉が端的に示すとおり、企業のIT環境もまずはクラウドを検討し、クラウドではダメだという場合にはじめてオンプレミス環境を考えるというマインドセットに切り替わった感がある。サーバーと共にデータセンターインフラの中軸をなすストレージも当然ながら同様で、企業がITインフラの一環として活用可能なクラウドストレージサービスが豊富に揃いつつある。 text:渡邉利和
コンシューマーに人気を博し後に企業向けサービスが登場
クラウドストレージサービスは、まずは企業ユーザー向けではなく一般消費者向けとして登場し成功を収めた。このこと自体が、「ITのコンシューマライゼーション」と呼ばれる変化の象徴であり、コンシューマー市場がITの進化/変化を主導する時代になったことを端的に示している。
さておき、コンシューマー向けクラウドストレージサービスとして最初に成功を収めたのがご存じ「Dropbox」である。直感的なインタフェースでローカルデバイスとクラウドの間でファイルをやりとりできるDropboxは、PCからスマートフォンやタブレットへ、という、主流のコンピューティングデバイスの切り替えタイミングと相まってコンシューマーから大きな支持を得た。そして、こうしたコンシューマーが勤務先の企業でも同様に業務関連のデータをDropboxのフォルダに置き始めた。この辺りから「企業向けのクラウドストレージ」というアイデアが具体化し始めたことになる。
ご記憶の方も多いと思われるが、その当時、Dropboxを業務で活用するという発想に対する反発はかなり大きかった。まず指摘されたのは、クラウドサービスのセキュリティ面での懸念で、情報漏洩につながるというものだ。そこで、個人向けの簡単なパスワード認証ではなく、より緻密なユーザー管理やアクセス制御機能を追加することで、企業向けクラウドストレージサービスだって成立しうる、という発想が生まれてきた。それを具体化したのが、例えばシトリックス・システムズが提供する「ShareFile」のようなビジネス用途を謳ったサービスだ。
Amazon S3が導くオブジェクトストレージの進展
一方で、クラウドでストレージサービスを提供する場合、そこに保存されるデータは個人レベルで管理する非構造化データファイルにとどまらないのではないかという見方もできる。こちらの流れは、IaaSなどのクラウドサービスが普及する過程で、サーバーがクラウド化していく以上、そのサーバーが利用するストレージも同時にクラウド化するという必然から生じている。
初期には、「仮想サーバーが内蔵するストレージ容量」として、いわば仮想サーバーの構成オプションの形態で提供されていたが、やがて独立したストレージサービスとしても成り立っていく。
この分野で早期に台頭したのが、アマゾン ウェブ サービスの「Amazon S3」である。オブジェクトストレージという技術を普及に導くという大きな成果も達成した点でも大きな意義を持つサービスだ。
オブジェクトストレージは、Webアプリケーションと相性のよいストレージシステムで、HTTPの上に構築されたREST APIを介してファイルデータをオブジェクトとしてやりとりするインタフェースを実装している。いわば“Webアプリケーション専用ストレージ”なのだが、他のファイルアクセス手段をREST APIに変換することで従来型のストレージとして利用することももちろんできる。
Amazon S3の成功ぶりを見るに、サーバー(物理/仮想)のクラウドサービスではWebアプリケーションの実行環境としての用途がまず立ち上がったため、そのサーバー群から利用されるストレージとしてオブジェクトストレージが成立したという流れだととらえられる。周知のように、Amazon S3はネットサービス開発者を中心に多大な支持を集めており、今では同サービスの上に実装されて付加価値を提供するストレージサービスがアマゾン以外の事業者から提供されるといった広がりを見せている(詳細は後述)。
オンプレミスと同等の性能をクラウドで
見てきたように、オブジェクトストレージは、容量辺りのコストや使い勝手などでクラウドストレージサービスの中心的な存在に育ちつつある。一方、クラウドサービスがWebアプリケーションのプラットフォーム以外にも既存のIT環境のコスト効率の高い受け皿として利用されるようになると、当然ながら従来のオンプレミスで稼働していたストレージと同様のインタフェース/機能を備えたストレージのニーズも生まれてくる。
既存のエンタープライズアプリケーションから利用されることを想定したクラウドストレージサービスも選択肢が豊富になってきた。形態としては、オンプレミス型のハイエンドRAIDボックスをクラウド経由で利用させるようなものもあれば、分散型スケールアウトストレージシステムをデータセンター内部に構築するものもある。バリエーションは豊富だが、いずれも狙いはエンタープライズアプリケーションをクラウドに移行する際に必要となるストレージシステムを提供するという点にある。
こうして、一口に企業向けクラウドストレージといっても、異なる用途/異なる実装が混在しているのが現状である。
注目株は分散型スケールアウトストレージ
ここからは、企業向けクラウドストレージを大まかに分類しつつ、代表的・特徴的なサービスを概観していく。
まず、用途に注目して大別すると、「人間であるユーザーがデバイスや場所に依存せずにいつでも必要なファイルにアクセスできる」といったモバイル・ワークスタイル支援を目的としたファイルサービスと、クラウド上に展開されたサーバー(物理/仮想問わず)が利用するためのストレージサービスの、大きく2種類に分類できるだろう。
前者のモバイル支援型のクラウドストレージサービスは、前述のとおり、まずはコンシューマー向けサービスとして成立し、そこにセキュリティ機能や運用管理担当者による一元管理機能などを追加するかたちで企業向けサービスとしたものだ。この領域ではコンシューマー向けと企業向けの境界は言うほど明確ではないが、エンタープライズ向けを明確に打ち出したサービスとしては前述のShareFileが代表格の1つとして挙げられる(図1)。
一方、クラウド上のサーバーから利用されるストレージにコンシューマーニーズはあまり見られず、もっぱら企業向けに提供されるサービスが主流となっている。クラウド上に展開する仮想サーバーでは、サーバーイメージを確定する段階で任意の容量の仮想HDDを組み込めるようになっているのが一般的で、これが最も基本的な形式のクラウドストレージサービスであるという見方もできなくはない。ただし、現実にはこれは仮想サーバーのオプションの1つとして扱われており、独立したクラウドストレージサービスとみなして利用することはまずないだろう。
クラウド環境との親和性の高いストレージサービスとして提供されるオブジェクトストレージサービスの代表格はやはりAmazon S3となる。この分野での最近のニュースと言えば、さくらインターネットが「Amplidata」をベースにした「さくらのBASE Storage」を2014年2月1日から3月31日までの予定でベータサービス提供を行ったことが挙げられよう。AmplidataはIAサーバーを使って分散型スケールアウトストレージを実現するソフトウェアで、インテルが強力な支援を行っていることでも知られる。
分散型スケールアウトストレージは現在、急速に注目を集めつつあるテクノロジーで、ハードウェアにHDDを内蔵したIAサーバーを使って、ソフトウェア制御でこれをストレージ化するというアプローチをとる。前述のAmplidataのほか、レッドハットが製品化した「Red Hat Storage Server」も同種のソフトウェアである。仮想サーバーをベースにストレージシステムを構築することにも対応しており、実際にAmazon EC2環境上に構築/利用できるようになっている。Amazon EC2では「テストドライブ」としてRed Hat Storage Serverのサーバーイメージが準備されており、これを利用して即座に環境を準備し、試用できる環境まで整っている。
しかも、Red Hat Storage Serverの場合、外部インタフェースとしてNFS/CIFSといった業界標準のファイルアクセスプロトコルをサポートしている。そのため、Webアプリケーションのみではなく、大規模な業務アプリケーションのためのストレージをクラウド上に構築するといった用途にも対応できるのが目を引く。
先にさくらインターネットの例を挙げたが、データセンター事業者との協業・協働も活発化している。Amazon EC2環境と密接に連携しながら、Amazon S3では提供されないエンタープライズ向けの機能を提供するというアプローチでは、ザダーラ・ストレージの取り組みが挙げられる。同社はデータセンター事業者であるKVHとパートナーシップを構築し、日本国内向けにもサービス提供を開始している。
ザダーラとKVHが共同提供する「Virtual Private Storage Arrays」は、ファイルアクセス(NFS)とブロックアクセス(iSCSI)の両方をサポートできるクラウドストレージサービスで、オブジェクトストレージでは対応しにくいエンタープライズアプリケーション向けのストレージとして用意されたものだ。
KVHのデータセンターとAmazon AWSのデータセンターを専用線で直結することで、Amazon EC2の仮想サーバー群がVirtual Private Storage ArraysをAmazon AWSのストレージサービスであるかのように低遅延で利用できるようになっており、Amazon AWSとの密接なパートナーシップに基づいて付加価値を提供するものとなっている(画面1)。
アマゾン以外のクラウド事業者も、クラウドストレージサービスの豊富なメニューを取りそろえつつある。例えばIIJは「IIJ GIO」ブランドで各種のクラウドサービスの提供を行っており、「IIJ GIOストレージサービス」では、Webインタフェースを備えたファイル交換/配布向けのオンラインストレージサービス「IIJドキュメントエクスチェンジサービス」やREST API型(オブジェクトストレージ型)のクラウドストレージサービス「IIJ GIOストレージサービスFV/S」、NAS/SANをサポートするストレージハードウェアを準備する「IIJ GIOコンポーネントサービス ストレージアドオン」といった広範なバリエーションを展開し、企業の様々なストレージサービスへのニーズに対応している。
なお、IIJはEMCジャパンが国内で提供開始した「EMC Velocityサービス・プロバイダ・パートナー・プログラム」の第1号パートナーとして契約締結したことも発表しており、エンタープライズストレージベンダーであるEMCとのパートナーシップによる企業向けストレージのクラウド提供という形態にも積極的に取り組んでいる。
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企業が必要とするストレージにはさまざまなバリエーションがあるため、企業向けクラウドストレージも急速に発展・多様化しつつある。現時点ではまだ過渡的な状況ではあるが、クラウド環境もストレージが不可欠、と言う点ではまさに現時点ですでにリアルな需要が存在しており、過渡的状況とは言いつつもすでに実用サービスが多数提供開始されている状況だ。
クラウドストレージサービスでは狙いとするサービス機能もさまざまなうえ、内部的な実装手法もまちまちなので、ユーザーが自身のニーズを明確にしたうえで、適切なサービスを選定する必要があるだろう。少なくとも、現時点ではまだ「値段が安いところを選んでおけばよい」というほど画一的な状況にはなっていない。したがって、サービス内容に踏み込んだ詳細な比較検討が必要になるだろう。
(データセンター完全ガイド2014年春号)