クラウド&データセンター完全ガイド:特集

データセンター選定のポイント2014

データセンター選びで必須の「基礎知識」と「10の観点」[Part2]

[Part2] データセンター選びで必須の「基礎知識」と「10の観点」

ビジネスニーズからの要求レベルの変化やテクノロジーの進歩などに伴い、データセンターを選ぶ際の観点も大きく様変わりしている。本パートでは、データセンター選定のポイントや考慮点について、重要な観点を挙げて説明していく。 text:一山正行・寺岡 宏

 東日本大震災以降、システムの安定稼働を求めるユーザーからデータセンターに対するニーズが高まっている。地震や津波による建物の倒壊、停電による事業停止リスクへの懸念が後押ししていることは明らかだ。

 一般的なオフィスビルの一画でも、ミッションクリティカルなシステムを災害から守り24時間運用することは決して不可能ではないだろう。しかしながら、地震対策、電源や回線の冗長化、監視・待機体制など、そのための投資と労力は相当なものとなる。また、災害が起こらなくとも法定点検のため停電を余儀なくされるなど、事業継続性を阻害する要因は少なくない。

 だからこそ、データセンターの存在価値がある。施設やインフラを借りるだけではない。ITシステムを災害から守る堅牢な建物と、情報漏洩や盗難から守るセキュリティ、システムを安定して運用するための多様なサービスに対してコストを払うのである。

あらためて、データセンターとは?

 データセンターの定義を再確認しよう。データセンターとは、サーバーやストレージなど利用者のIT資産を預かり、運用・保守や各種通信系サービスを提供する専用施設のことである。

 現在、多くの事業者がデータセンター事業に参入し、サービスを提供している。企業がデータセンター全体を所有してサービスを提供する場合もあれば、別の企業のデータセンターの一部を間借りして自社サービスとして付加価値と共に提供する場合もある。

 データセンターは一般に、地震や火事、その他の災害に耐えうる強固な建物、不審者の侵入を防ぐ物理(対人)セキュリティ、安定した電源・温度管理を実現するための専用設備などを備えており、利用者が個別に対策を講じる必要はなくなる。そのため、利用者は設備投資を抑えながら、本来の業務に集中することが可能となる。

 各社のサービスをインターネットや雑誌などで得られる情報をざっと比較してみると、どのサービスも一見、違いがないように見えてしまうものだ。だからと言って料金だけで選んでしまうと、後々「期待したほどコスト削減効果が得られない」「場所が遠すぎて訪問しにくい」といった問題に直面しがちである。また、一度契約して利用を開始してしまうと容易には変更できないため、利用目的や自社の環境に応じて正しく選定をする必要がある。

データセンターの使い方

 データセンターの利用形態は近年、多様化している。サービスの名称は事業者によってさまざまだが、大別すると①ハウジング、②ホスティング、③クラウドの3つになる。

①ハウジング(コロケーション/ケージング)

 自社保有システムをデータセンターに設置し、ファシリティや付帯サービスを利用する形態。データセンター側で用意したラックに設置するのがハウジングであり、特定の部屋やケージで囲われたスペースをレンタルして自前のラックを持ち込む、あるいはラックマウントできない特殊な機器を設置するなど自由に使うことができるのがコロケーションやケージングである。

②ホスティング(レンタルサーバー)

 データセンター側が用意したサーバーやストレージ機器のリソースを共有・専有で利用する形態。利用する機器のスペックに応じて課金される。サーバーにはあらかじめWebサーバーなどの機能やアプリケーション開発環境が実装されている場合もある。前述のハウジングと比べ、ハードウェアの調達が不要であり、固定費の削減につながるというメリットがある。

 一方、利用できる機器やOS、ミドルウェアがある程度固定されているため、選択の自由度という点ではハウジングに一歩譲る。

③クラウドサービス

 ご存じのとおり、クラウドコンピューティングは、サーバー仮想化の浸透に伴い登場したサービス提供の概念である。クラウドサービスを提供するベンダーがデータセンター内に大規模な仮想環境を構築し、ユーザーのニーズに合わせて仮想化されたリソースを提供するといったものだ。提供するリソース(レイヤ)の種別に応じて3パターンに分類される。

  • SaaS(Software as a Service)
    クラウドベンダーが自社のクラウド基盤に構築したアプリケーションを、利用者がリモートから利用するというもので従来のASP(Application Service Provider)に相当する。利用者はハードウェアやソフトウェアを用意することなく、ニーズにあったアプリケーションを即座に利用できるというメリットがある。一方、利用者に合わせて細やかなカスタマイズができない、リソースを他社と共有するためセキュリティが心配、といった懸念もある。
  • PaaS(Platform as a Service)
    クラウドベンダーが提供するアプリケーション開発・実行環境をリモートから利用する。ハードウェアや開発環境、ミドルウェアなどを利用者が用意する必要がないため開発効率を高めることができる。
  • IaaS(Infrastructure as a Service)
    クラウドベンダーが提供する仮想サーバー、仮想ストレージといったインフラリソースをリモートから利用する。OSと一部のミドルウェアが提供されており、アプリケーションは自社で開発・構築する能力がある企業が採用するスタイルである。これもやはり、ハードウェアから調達する必要がなく、オーダーして間もなく利用できるものが多いため、一時利用やピーク変動に合わせた運用が必要なシステムの基盤に向くとされている。

 クラウドサービスの場合、クラウド提供ベンダーがインフラリソースを構築し、サービスを提供する形のため、利用者がその先にあるデータセンターを意識することは基本的にない。しかし自社が利用しているクラウドサービスの品質管理という観点で言えば、そのクラウドサービスがどのようなデータセンターで運用されているのかは把握しておきたいところだ。クラウドサービスだから冗長性が高い、耐障害性が高いと一概に言うことはできない。

選定時の「10の観点」

 利用のしかたを踏まえたところで、データセンターを選ぶ際に押さえておくべき「10の観点」を挙げて説明しよう。ケースとして、自社保有のシステムをデータセンターが用意するラックに預けるハウジングサービスの利用を想定する。

①耐災害性

 データセンターは一般に地震や火災、浸水といった災害を考慮した堅牢な構造となっているが、地震大国である日本では特に地震対策に関するデータセンターへの期待値は高い。

 選定の際には、地理・地形的に地震や津波といった災害が起きにくい地域かや、万が一の災害時に、建物や機器への影響を最小化する仕組みがあるかどうかを確認することが重要だ。

 地震の起きやすさについては、独立行政法人 防災科学技術研究所が「今後30年間震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」というハザードマップを公開しているので参照されたい(http://www.j-shis.bosai.go.jp/)。

 それでも起きてしまう地震への備えとして、データセンターでは地震対策がとられている。一口に地震対策といっても、一般的に3つに細分化される。ラック内に搭載された機器への影響を減衰させる能力順に記載する。

  • ダンパーによる免震装置で揺れを抑える「免震」
  • 制震部材で揺れを抑える「制震」
  • 頑丈な構造で建物自体は揺れに耐える「耐震」

 データセンターを長期利用することを考えると、大規模地震が起こる可能性が低い地域を選ぶことは重要だ。しかし建物が地震に耐えられたとしても、揺れの影響で機器が故障したのでは意味がない。ラック内に設置されている機材への影響を考慮すると、やはり揺れを最も軽減できる免震構造(図1)が望ましく、最低でも制震構造であることが望ましい。耐震の場合、建物自体は地震に耐えられるがラックに搭載された機器へのダメージは他の構造に比べると大きいとされる。

図1:大地震にも耐える免震構造(出典:セコムトラストシステムズ http://www.secomtrust.net/service/datacenter/datacenter/bcp.html)

②立地・アクセス

 構築が終わり運用フェーズに入ってしまえばデータセンターに赴くことはないだろうと考えるかもしれないが、実際はそうでもない。現地でなければできない作業、例えばサーバーの追加やケーブリングの変更、機器交換の立ち合いなどのため、データセンターに頻繁に赴くことになるケースもあるからだ。特にシステム構築時には連日のように通うことになるため、利用料が安いからといってアクセスの悪い地域を選ぶと後悔することもある。

 例えリモートアクセスが可能な場合であっても、物理的な障害が発生すれば現地に行くことになる。障害からの復旧時間を考えればアクセスのよさは無視できない。また、障害時のことを考えれば、もちろん24時間入館可能であることが望ましい。

 都心に比べ、郊外のデータセンターは利用料が低く抑えられる場合が多いが、アクセスとコストのバランスが重要だ。自社からの所要時間、交通手段などを確認しておきたい。

 なおメインのデータセンターがすでにあり、バックアップサイト(バックアップデータや待機系システムを設置するデータセンター)としてデータセンターを選定する場合は、アクセスよりもメインのデータセンターからの距離を気にしたい。一度の災害で両方が被災したのでは、バックアップセンターの意味がないからだ。

③回線・通信設備

 データセンターが備える通信設備を利用して、インターネット接続、VPN、広域イーサネット、専用線などの接続サービスを提供する。ここはサービスラインナップに差が出やすく、特に通信に強みを持った事業者がバリエーションに富んだサービスを提供している。

 上記に加えて、ネットワーク周辺サービスとしてDNSサーバーの運用代行、ドメイン名管理、ファイアウォールなどのネットワーク機器のレンタルおよび運用代行サービスを提供している事業者も多い。リードタイムなく自社Webサイトなどを開始できるといった、利用者へのメリットも生み出している。

④空調・温度管理

 2011年3月の東日本大震災の後、家庭・企業問わず節電が求められることとなり、データセンターも例外ではなかった。あるデータセンターでは、停電は免れたものの節電の求めに応じてやむをえず室内温度を上げたところ、機器の故障率が上昇したという話も聞く。たった1℃の違いではあるが、それほど空調管理、温度管理はITシステムへの影響が大きいということだ。

 システムを安定稼働させるには、適切な温度の空気を機器の吸気口に届けることが肝心だ。いかに冷たい空気をサーバーに送り込み、熱せられた空気をうまく排出するかが勝負どころである(図2)。そこで、温度計を持って事前に現地視察に行き、ラック内温度を測ってみることをお薦めする。

図2:空調効率を高める空間設計(出典:セコムトラストシステムズ http://www.secomtrust.net/service/datacenter/datacenter/ecology.html)

 余談ではあるが、データセンターの冷却能力が十分であるにもかかわらず、まれにラック内温度が異常に上昇してしまうケースもある。これは、機器の設置方法やケーブリングが原因となっている可能性がある。機器が排出した高温の空気をケーブルでせき止めていないか、ある機器の排出口と別の機器の吸入口が向かい合わせになっていないかなど、ラックマウントの際には配慮が必要である。

 近年では、どのデータセンターでも消費電力、電気効率の改善に取り組んでいる。データセンターの電気効率を示す指標としてPUE(Power Usage Effectiveness:データセンター全体の消費電力÷IT機器による消費電力)が知られている。1.0に近いほど、無駄な電力消費が少ないことを示しており、一般的には2.0以内が目標値とされている。

⑤物理セキュリティ

 データセンターに機器を設置すると、多くの場合、他のユーザーと同じフロアを共同利用することとなる。そこでやはり気になるのがセキュリティの問題だ。部外者にラックを勝手に開錠されてデータを盗まれる、電源を落とされる、機器を破壊されるといった事態を避けなければならない。

 多くの場合、データセンターでは入館時に事前申請を求めており、予定外の入館は不可としている。また入館、入室ゲートに生体認証を設置しており、事前登録された人物以外の出入りを防いでいるケースもある。

 入退館のセキュリティはどのデータセンターも積極的に取り組んでいるが、意外と盲点なのがラックの鍵である。ラックの鍵は共用となっている場合があり、1つの鍵で他のラックが開錠できてしまうというケースがあるため、データセンターの選定時には他のラックと共用の鍵ではないことは最低限確認したい。電子錠システムにより、自社のラックしか開錠できないシステムになっていればさらに安心だ。

⑥マネージドサービス(オペレーションサービス)

 データセンターに設置した機器の簡易運用作業を事業者が代行するサービスである。システムの稼働監視や、現地でなくてはできない作業(電源オン/オフ、ランプ確認、ケーブル結線、テープ交換、作業立ち合い)が一般的であり、一部は標準メニューとしてラック利用料に含まれていることもある。特に遠隔地を選ぶ場合には、これらの作業のためにわざわざ現地に赴くのは考えにくく、どのようなマネージドサービスが提供されているかは重要なファクターになる。

 また、エンジニアがサーバーやネットワーク、ストレージの設計、構築、設置、運用まで手掛けるといった、ハイレベルなサービスを提供している場合もある。マネージドサービスは、ファシリティに比べてデータセンターの特色が出る部分だ。自社のニーズに合ったサービスが提供されているかどうかを見極めたい。

⑦空きスペース/ラックの融通

 人気の高いデータセンターや小規模なデータセンターはラックの増設スペースが限られる場合がある。いざラックを増設したくても空きスペースがないのではどうしようもない。またスペースは空いていたとしても別フロアや離れたラックだと作業効率が著しく低下し、配線なども複雑なものとなってしまう。場合によってはネットワーク機器の追加が必要となる。

 データセンター選定の際には、ラック増設のための空きスペースがあるか、また隣接するラックを予約・仮押さえできるかという点についてもチェックしておきたい。

⑧電源

 安定した電源は、データセンターを利用する主要なメリットの1つである。まずは、電源の種別について。200V/100V、単相/三相などバリエーションが多いが、種別以外にも、以下に挙げるようなポイントがある。

  • UPS経由の電源を引き込めるか?
    UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)は、外部からの電源供給が停止した際に一定時間の電源を供給する装置である。UPS経由の電源がラックに供給されていない場合、UPSを利用者側で用意する必要がある。ただし、UPS自体もラックスペースや電源を消費するため、無駄なコストを生む場合があるので注意が必要だ。
  • 1ラックに引き込み可能な電源の上限はどれくらいか?
    リソース集積率の高いブレードサーバーやストレージはそのサイズから想像するよりも消費電力が大きい。そのため、1ラック内で使用可能な電源量の上限が低いとラックスペースが空いているにもかかわらずそのスペースに機器を増設できなくなる。結果として契約ラックが増えてしまい、コスト高となってしまうことがある。
  • 複数の電源系統から給電が可能か?
    電源の冗長化はすでに一般化しているが、電源が2つあるからといって、同じ系統の電源を2本つないだ場合、電源パーツの故障には対応できるが、変電所のトラブルや受電設備の故障には当然、対応できない。複数系統の電源を給電することで、よりハイレベルな電源の冗長性を確保できる(図3)。1つのラックに複数系統の電源を引き込むことができるかを確認したい。
図3:給電ルートの2重化と電源設備の冗長化(出典:セコムトラストシステムズ http://www.secomtrust.net/service/datacenter/datacenter/bcp.html)
  • 法定点検などによる停電の影響を受けないか?
    一般的なデータセンターでは考えにくいことだが、念のため強制的な停電がないことも確認したい。受電設備やPDU(Power Distribution Unit:配電盤)/PDF(Power Distribution Frame:分電盤)の点検のため、強制的に停電を迫られるようなことがないかをチェックしておく(写真1)。
写真1:電源設備の例。左から特別高圧受電設備室、UPS設備室、変電設備室(出典:セコムトラストシステムズ http://www.secomtrust.net/service/datacenter/datacenter/bcp.html)
  • 自家発電による電源供給時間はどれくらいか?
    電源対策がしっかりなされたデータセンターは、変電所からの給電停止に備えて自家発電機を備えている。例え給電が止まっても一定時間、電力の供給を続けることで、手順に沿って安全にシステム停止させることができる。しかし、燃料が尽きれば当然、すべての給電がゼロになるので、備蓄されている燃料で何時間まで給電されるのかは確認しておきたいところだ。

⑨付帯サービス

 サービスメニューには表記されないことが多いが、意外と重要なのがデータセンターの付帯サービスである。例えば、プロジェクトルームのレンタル、キッティングで発生したダンボールや不要パーツなどの廃棄物を処分してくれるか、荷物の一時預かりや荷物の発送が可能かなど、実務者レベルで見た場合に無視できない違いがある。これらの付帯サービスはデータセンター選定時に問い合わせるなどして確認するほかない。

⑩コスト

 データセンターを選定する際、コストを考慮しないユーザーは皆無なはずなので、10番目に記すことにした。

 実際にデータセンターを利用する場合、必要となるコストはラック利用料だけではない。電源や回線、マネージドサービスなど、さまざまなところでコストがかかってくる。選定に際しては、自社での利用形態から実際にどのぐらいのコストがかかるかを候補のデータセンターごとに算出しトータルで比較するのが賢明であろう。以下では、ハウジング(ラック貸し)を想定し、一般にかかるコストの種別を挙げて説明する。

  • ラック利用料
    ラックの利用料は、基本的に月ごとの課金となる。多くの事業者は4分の1、2分の1、フルラックなどラックサイズに応じた料金プランを用意している。また、ラック利用料金に標準の電源が含まれているケースもあり、細かく確認しておく必要がある。
  • 電源利用料
    ラック利用料金に電源が含まれていない場合や追加電源が必要な場合、オプションとして選択でき、月額に加算される。上述したブレードサーバーや大型ストレージの場合、それほどスペースをとらない筐体サイズでも大量の電力を消費することや、電源が冗長構成になっている場合、定格の2倍の電源を用意する必要があることには注意が必要だ。
    アンペア数での課金の場合、例えば100V/200Vのどちらの電源にでも対応可能な機器は200Vを選択したほうがアンペア数を下げることができるため、コストを抑えられる。
  • インターネット回線料
    データセンターに備わる広帯域バックボーンを利用した高速なインターネット接続サービスを利用することができる。共用ベストエフォートタイプと専有タイプがあり、もちろん専有タイプの方が高額となる。
    データセンターによって料金に違いがあるのは当然であるが、利用する帯域幅の変更などでどれぐらいの自由度があるかは見逃せないポイントだ。例えば、繁忙期など一時的に帯域を増やしたい場合に、柔軟に要望に応えてくれるかどうかなどを確認しておくことになる。
  • 保守・運用管理料(マネージドサービス)
    データセンター事業者が提供するマネージドサービスやオペレーションサービスの料金である。もちろん、サービスの内容に応じて料金は変動する。ランプ確認や電源のオン/オフなど、ごく基本的な運用は基本メニューとしてラック利用料に含まれている場合もある。

システム移設・移行時の考慮点

 自社の用途にマッチしたデータセンターを選定し終えたとして、それがゼロから新規構築するシステムであれば、後は利用を開始するだけだが、運用中の既存システムの移行であれば、そのプロセスについても十分な検討が必要だ。自社の業務や顧客に提供中のサービスの状況を鑑みて、システムの停止告知と停止、システムの移行、新しいデータセンターへのシステム移設、システムの再開といったタイムスケジュールを計画することになる。大規模システムであれば、一大プロジェクトである。

 そうしたシステムの移設・移行には予期せぬトラブルも発生しがちだ。いったん停止したサーバーは移設後、必ずしも同じ状態で稼働できるとは限らない。紙幅の都合上、本稿では詳しく言及しないが、事前検証を入念に行うなどして、リスク因子は1つでも減らしておくなどの対処が必要だ。人員やノウハウの不足から自社で完遂できないとなれば、ベンダーやSIerの力を借りるべきだろう。

*  *  *

 ご存じのように近年は、地球温暖化対策や省エネの推進で、ITシステムにおけるエネルギー効率の改善(グリーンIT)が期待されている。とりわけ多数の機器が集積され、空調コストも大きいデータセンターでは、技術革新に伴って改善が大きく進むと考えられるため注目度も高い。経済産業省を主体に設立されたグリーンIT推進協議会では、データセンターの省エネ度合を評価する基準としてエネルギー効率指標(DPPE)を策定している(http://home.jeita.or.jp/greenit-pc/topics/release/100316_j.html)。

 CSR(企業の社会的責任)の一環として省エネに取り組んでいる企業では、このような政府が定めるエネルギー効率指標も、利用するデータセンターの選定・評価基準の1つとして参考にすべきだろう。

筆者プロフィール

一山正行

プライスウォーターハウスクーパース株式会社 コンサルティング部門 テクノロジー シニアマネージャー

外資系コンサルティングファーム、IT会社役員を経て現職。システム構築関連分野・事業立ち上げ支援を専門とし、システム構築を中心に幅広い領域でのコンサルティングに従事。ITコスト削減、インフラ展開等を中心に顧客に対するサービスを提供。

寺岡 宏

プライスウォーターハウスクーパース株式会社 コンサルティング部門 テクノロジー シニアアソシエイト

データセンター事業者、SIer、ITコンサルティング会社を経て現職。データセンターの移転・統合プロジェクトや、オープン系システムの設計・構築プロジェクトに従事。システム運用を中心に業務効率化、コスト削減等のアドバイザリーサービスを提供。

Market Research:クラウドサービス選び、ユーザー企業の関心はコストから品質へ――MM総研クラウド総合評価調査より

text:IT Leaders編集部

主要20社の企業向けクラウドサービスを70評価項目で総合評価

 ビジネスクラウド総合評価調査は、企業の情報システム基盤や災害時に継続運用できる社会基盤に適したサービスを選定する視点で、クラウドサービスを客観的に評価することが目的に、MM総研が2014年1月~2月上旬に実施した。2013年に実施した第1回調査(2013年2月19日発表)に続き今回が2回目となる。本格的な普及期を迎えるクラウドサービスを適切に評価するために、今回よりIaaS/PaaSの基本性能だけでなく、信頼性・安全性、導入・運用管理の観点も加えて総合的な評価を行ったという。

 調査対象となったのは、クラウドサービス(IaaS/PaaS)を提供する主要20社。「パブリッククラウドのサービス機能・品質」「プライベートクラウドのサービス機能・品質」「サービス料金」、「導入支援・運用管理」の4分野について、合計70項目にわたる評価項目に関して重要度を加味した上で点数化している。評価項目は、第1回調査の43評価項目に対して、プライベートクラウドのサービス機能や導入支援・運用管理、セキュリティ、ハイブリッド環境対応などの項目を加えた70評価項目となっている。

 なお、重要度については、評価項目を適正化するためにユーザーアンケート調査の結果から算出。各企業でクラウドサービスの選定に関わる1329名を対象にサービス選定時の重要度を反映し、項目別の重要度が設定された。さらに、ICT業界に精通した有識者による審査委員会の検討を経て、公正な総合ランキングとして結果をまとめている。

最高水準のAAAサービスに8社を選定

 今回、評価対象にした20社のクラウドサービスは、いずれも高品質で多様な機能を提供する優良サービスだが、なかでも表1に示す8社は多くの項目で高い評価を得て、総合評価において最高水準の格付けとなるAAA(90点以上)を獲得している。

表1:第2回 ビジネスクラウド総合評価調査でAAAサービスを獲得した8社(出典:MM総研)
企業名サービス名総合評価
1NTTコミュニケーションズBizホスティングAAA
2IIJIIJ GIOサービスAAA
3日本IBMSmarterCloudAAA
4富士通FUJITSU Cloud InitiativeAAA
5KVHKVHクラウドソリューションAAA
6IDCフロンティアIDCフロンティア クラウドサービスAAA
7アマゾン データサービス ジャパンAmazon Web ServicesAAA
8GMOクラウドGMOクラウド Public / PrivateAAA
  • NTTコミュニケーションズの「Bizホスティング」は、プライベートクラウドのサービス機能・品質、サービス料金、導入支援・運用管理などの各分野で高い評価となり、高い総合評価を獲得した。
  • IIJの「IIJ GIOサービス」や日本IBMの「SmarterCloud」、富士通の「FUJI-TSU Cloud Initiative」、KVHの「KVHクラウドソリューション」、IDCフロンティアの「IDCフロンティア クラウドサービス」は、パブリッククラウド、プライベートクラウドのサービス機能・品質に加えて、導入支援・運用管理などソリューションサービスが高く評価された。
  • アマゾンデータサービスジャパンの「Amazon Web Services」、GMOクラウドの「GMOクラウド Public / Private」は、パブリッククラウドのサービス機能・品質、サービス料金が高く評価された。

バックアップ、脆弱性対策などの信頼性を重視する企業が増加

 また、MM総研によれば、今回の調査では、企業の情報システム基盤としてクラウドの導入が本格化する中で、バックアップサービスやサーバー脆弱性対策、ウイルス対策など、ITインフラとしての信頼性を確保する機能・サービスを重視するユーザーが目立ったという。

 「特に、クラウドの導入で先行する従業員数1000名以上の大企業では、料金や操作性よりも信頼性を確保する機能や導入支援・運用管理サービスを重視する傾向が見られた」(同社)

プライベートクラウドとセキュリティサービスが充実

 MM総研は、クラウドを導入する企業がテスト段階から本番へと移行しているのを反映して、プライベートクラウドのサービスが充実してきていることも挙げる。導入後の運用管理、とりわけパブリッククラウドやオンプレミスシステムと統合するハイブリッド環境の運用管理における品質やVPN接続の容易さなどが重要な観点になっているという。

 また、急増するサイバー攻撃とそれへのユーザー企業での関心の高まりも、セキュリティサービスの充実というかたちで調査結果に現れており、「全体にコストから品質へと関心が移ってきている」(同社)ようだ。

図1:ビジネスクラウドの選定要因/重要度(出典:MM総研)

(データセンター完全ガイド2014年春号)