クラウド&データセンター完全ガイド:特集
データセンター選定のポイント2014
データセンターをどう選ぶか?――担当者としての基本スタンス[Part1]
2014年6月30日 00:00
[Part1] 「サービスの中身」で選ぶデータセンター/クラウド基盤
本誌を手に取った方の中には、「新年度を迎えて、自社のITインフラ担当としてはじめてデータセンターやクラウドサービスの選定に携わることになった」という方もきっとおられることだろう。本パートでは、今日のデータセンターの方向性と、その選定にあたっての基本的なスタンスについて述べたい。 text:渡邉利和
データセンターの進展で確立された、いくつかの常識
データセンターはもともと高価で貴重な資産であるメインフレームを安全に運用するための施設として生まれたものだ。そのため、耐震/免震といった地震対策や防火体制、停電に備えた自家発電設備なども準備されている。どの事業者のデータセンターも防災を含めた安全性/信頼性の確保には力を注いでおり、あまり差が感じられない部分ではあるが、やはりデータセンターの重要な要件であることに変わりはない。建物自体の構造に起因する部分や設備の充実度にかかわる部分など、チェックすべきポイントは多々あるが、事業者側にとってもユーザーにとってもほぼ常識が確立された部分だと見てよいだろう。
その後、コンピューティングの主役がメインフレームからオープン系システムへと移り変わる中でデータセンターの役割も変化していった。新たに生まれた要件がネットワークへの接続性の確保で、当時はその点を強調し、それまでのデータセンターとの違いを明確にするためにわざわざ「インターネットデータセンター(iDC)」と呼ぶことも行われた。現在においては、インターネットへの接続性を持たないデータセンターのほうがまれであり、ことさら強調されることもなくなってきているが、どのくらいのネットワーク帯域が確保されているのか、接続先はどこなのか、という点も無視できないチェックポイントとなっている。
そして、設備の運用面も含めたセキュリティの体制も重要だ。防災対策もセキュリティに含める考え方もあるが、ここではより人的な要素に注目したものをセキュリティとしておく。機器やデータに対する不正なアクセスや持ち出し/漏洩に対する対策だ。ネットワーク経由の不正アクセスはデータセンターの問題とは言いにくい面があるので、ここで主に問題になるのは設備内への立ち入りのチェック体制や設備内の監視体制などだ。
高密度から高効率へ
上述の基本的なチェックポイントは常識として現在でも有効ではあるのだが、データセンター自体のあり方が変わってきた面もある。
2000年前後には、データセンターの高密度実装がひたすら追求される傾向があった。コスト面からの要請で、床面積当たりのIT機器の集積度をどんどん高めていくことでコストを下げようという動きだ。典型的にはブレードサーバーの普及に対応した設備の刷新がこの時期のデータセンターの特徴となる。ラックのサイズは同じでも、そこに搭載されるIT機器の数が大幅に増加することで、重量と発熱量が増大する。そこで、この時期のデータセンターは、ラックを置くマシンルームの床は1m2当たりの耐荷重が1トンを超えるような強度を持ち、かつ高密度に実装されたサーバーが発生する大量の熱を効果的に取り除くための通気スペースとなる床下と天井裏に十分な高さを確保する、といった特殊な建築設計が行われるようになった。最盛期には、マシンルームの床下に高さ1m以上の空間が確保される設計のデータセンターも作られたのである。
しかし、その後冷却に要する電力コストが重大な問題として浮上する。その結果、データセンターのトレンドは高密度から高効率へと大きく転換することになった。データセンターにおける電力消費に関しては、PUE(Power Usage Effectiveness)指標が導入された。PUE値は、データセンター全体の電力消費量をIT機器の消費電力量で割ることで算出される値で、概念としては、データセンター全体の電力消費量がIT機器の消費電力量の何倍に相当するかを数値化して示すものだ。理想のPUE値は1.0で、これはIT機器が消費する電力以外の電力はまったく使われていないという意味になる。現在の最先端の高効率データセンターでは、PUE値が1.1台まで下がる例もあるようだ。
高効率データセンターでは、電力消費量増大の原因である空調機の運転を極力避け、自然の外気を取り入れて冷却を行うなどの工夫を行っている。逆の見方をすれば、IT機器にある程度の負担を掛けることで電力コストを下げているとも言える。こうした努力は、ユーザーが持ち込んだIT機器を収容するコロケーション/ハウジング型のサービスでは限界があり、自社設備を運用するクラウドサービス事業者の方が高効率を追求できる立場にある。自社でデータセンターを運営する場合には最先端の高効率データセンターの取り組みが参考になるが、ラックを借りる立場の場合はデータセンターの高効率化についてはあまりこだわりすぎないほうがよいかもしれない。
クラウドの効率性とかかるコストのバランスを考える
データセンターの利用が一般化したのは、実のところそのほうがコスト効率が高いからという理由によるものだ。IT機器の高度化/大規模化によってサーバールームの設備も高度化した結果、自前で設備を作るよりも外部のデータセンターのラックを借りるほうが得策だという判断に至った。
最近では、IT設備をオンプレミス(自社構築・運用)にせず、すべてをクラウドサービスでまかなえばよいという「クラウドファースト」の考え方も台頭している。データセンター担当者としても、クラウドの利用については冷静に判断していく必要があろう。
クラウドサービスでは、「使った分だけ払う」という従量課金の考え方が基本になっている。そのため、小規模から始めて段階的に規模を拡大していくような用途では無駄な投資を抑制することができる。ただし、「使った分だけ払う」というモデルは、使用量が増えると支払いも当然、高額になることに注意したい。自社所有のIT機器では、使えば使うほど投資を無駄なく活用したことになるが、クラウドサービスの場合、あまりに使用量が増えすぎると請求額に驚かされることになりかねないわけだ。
スタート時点ではその先の成長ペースが読めない新事業などで、まずはクラウドサービスを利用するというのは合理的だろう。ただしあまりに規模が大きくなるような場合は、むしろオンプレミスに移行したほうがコストを下げられる場合も多々ある。クラウドサービスの市場価格も変動するので、こまめに情報を収集し、柔軟に判断していくことが重要になる(図1)。
加えて、クラウドサービスの場合、事業者を切り替える作業に想像以上の負荷がかかることもあるので、その点もあらかじめ考慮しておきたい。システムを段階的に拡張していく過程では特に問題にならなくても、最終的に大規模になったシステムを移転しようと思ったら、データのコピーだけでもネットワーク経由では時間とコストがかかりすぎて非現実的だった、などということも起こりうるからだ。
東日本大震災が残した重要な教訓は、将来何が起こりうるのかを完全に予測し尽くすことも、万全の対応を準備して備えることもまず不可能だということだろう。想定外の事態が起こる可能性をゼロにするのはきわめて困難であり、またどのような事態が発生しても問題が生じないように万全の備えをしようと思えば莫大なコストを要することになる。IT機器の運用は、突き詰めればコスト効率の追求にほかならず、万一の障害に備えるための対策費用がIT設備を運用することによって得られる利益を超えるようでは事業として成立しない。
データセンターをどう選び、どう活用していくか。クラウドに対してはどうなのか。そうした問いに対しては、コスト効率を考えることで一定の指針が得られるだろう。コストだけでは割り切れない要素もあるだろうが、まずはコストを正しく把握しておくことで例外的な状況に対しても適切な判断が下せるようになるのではないだろうか。
(データセンター完全ガイド2014年春号)