クラウド&データセンター完全ガイド:特集

企業ITインフラを選ぶにあたっての“現時点”での着眼点

2015年、データセンター/クラウドサービスはこう選ぶ[Part1]

2015年、データセンター/クラウドサービスはこう選ぶ
[Part1] Introduction
企業ITインフラを選ぶにあたっての“現時点”での着眼点

クラウドコンピューティングの普及で、企業のITインフラ選びの選択肢は、数年前と比べて大幅に拡充されることとなった。そうした状況で、自社にとって最もふさわしい選択を行うことは案外に難しいものだ。本パートでは、企業ITインフラを選ぶにあたっての“現時点”での着眼点を挙げてみたい。

クラウドの普及で変わった情報システムに対する意識

 クラウドの進展と普及によって、ユーザー企業の意識も大きく変化してきているようだ。かつては本誌の特集の主要テーマとして「情報システムの構築と運用について、“自前主義”にこだわらず、データセンターの活用も検討しよう」といった内容が頻繁に取り上げられていたことを思うと、まさに隔世の感がある。

 現在では、オンプレミスと呼ばれるユーザー企業所有のシステムであっても、その設置場所は外部のデータセンターであるというケースが少なくない。実のところ、自社設備としてデータセンターを保有しているという企業はむしろ少数派と言ってよいだろう。さらに、インターネットでの事業展開を中核に据える新興企業などでは、「クラウドファースト」と呼ばれるビジネスの新たな“常識”も生まれつつある。

選択肢の拡大が意味するもの

 今起こっているオンプレミスからクラウドへという変化は、情報システムの進化というよりは選択肢の拡大を意味している。そこで、「ユーザー企業が適材適所で使い分けてこそ真価を発揮する」という考え方をよく耳目にするが、このことを少し掘り下げて考えてみたい。

 現在では、「情報システムを自社で所有する」または「借りて使う」、「設置場所となるデータセンターを自社で所有する」または「借りて使う」と、単純な組み合わせで4パターンに大別され、さらに付帯的なサービスを組み合わせることでバリエーションはさらに広がる。

 企業のITインフラ担当者は、こうした幅広いバリエーションの中から最適なものを選び出す必要があるわけだが、ここでポイントとなるのは、「最適解が1つだけ存在する」とは限らない点だ。なぜなら、自社の業務のためにシステム/アプリケーションが実行する処理内容(ワークロード)の特性に応じて最適なインフラのあり方が変わってくるからだ。わかりやすい例としては、Webアプリケーションなどではクラウドとの相性が非常によいが、ERPのような基幹業務アプリケーションや大量の顧客情報を格納するRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)といったものであれば、高いセキュリティレベルを保つことも考慮して、オンプレミスで運用するユーザーが大半だろう。

 難しいのは、ワークロードごとにそれぞれ最適なインフラを用意するのが最善かと言えば、必ずしもそうとも言えないところだ。仮にワークロードに合わせて、さまざまな種類のITインフラを使い分けるとなると、単純に数の問題から、IT部門スタッフの運用管理の負担が増大することになる。そのうえ、上手く統合を図ることができないと、運用にかかるコスト面でも膨れ上がる一方という事態になってしまいかねない。

 例えば、オンプレミスで運用してきたERPをクラウドベースのSaaS利用に切り替え、そのITインフラに関してはWeb系システムと上手く統合・共通化できれば合理的だと考えられる。ただしこの場合は、ERPをSaaSへ移行するのに要するコストや、ネットワーク経路の安全性の確保、社内のエンドユーザーが体感するパフォーマンスの低下の度合いなど、さまざまな観点からの検討が必要になることが予想される。

 ITインフラの選択肢が広がり、さまざまなニーズにきめ細かく対応できるサービスが充実してきているのは事実だ。しかしながら、ユーザー企業の側で選択が簡単になっているわけではなく、むしろ、「持ちかけた相談に応じて、最適解を提案してくれるパートナー」の存在価値が高まっているという現実もある。この辺りは、従来型のSIerにとってのビジネスチャンスになるのかもしれない。

企業はどのような選択を行うべきか

 ITインフラの幅広い選択肢として、さまざまなサービスが豊富にそろい始めている今、「とりあえず迷ったらコレ」といった単純な解を示すのは残念ながら不可能だ。ユーザー企業の側でこれまでどのようなITインフラを構築し、運用してきたのかという過去の投資経緯や、その間に蓄積された経験なども加味する必要があるからだ。フローチャートで導き出されるように単純明快な解は無理としても、大まかな指針を示すとすれば、まずは「極端な最適化を避け、柔軟性を維持すること」を第一に考えるべきだろう。

 大きなトレンドとして、クラウドサービスが今後、さらに重要度を高めていくことになるのはほぼ間違いのないところだ。長年期待されていた「ITのサービス化/ユーティリティ化(注1)」という流れが着実に進展し、クラウドの普及はその1つの端的な表れだと見てよいだろう。

 このクラウド化の流れは、マクロの視点で言えば逆転の恐れはなく、着実に前進するはずだが、ミクロの視点で言えば「昨日まで使えていたサービスが今日からは使えなくなる」といったトラブルが生じる可能性は否定できない。そのため、システム全体に一定レベルの冗長性を組み込み、特定の事業者やサービスに全面的に依存してしまうのは避けるべきだろう。端的に言えば現状はまだまだ過渡期だと言わざるをえず、それうえに将来どのような形で決着がつくとしても柔軟に対応できるように備えておくのが、現時点での最良ということになる。

注1:電気や水道のように使った文の対価を支払う方式

クラウド活用の課題はネットワーク環境

 ITインフラに関して、クラウドサービスというかたちで認知度が増し、国内外のクラウドサービスベンダー/プロバイダー各社によって、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)といったサービスの充実が図られている一方、そのサービスにアクセスするためのネットワークの進化は、現状ではあまり顕著なものはない。

 そもそもは、1990年代末から2000年代初頭にかけてのブロードバンド接続の急速な普及を受けての現在のクラウドの進展だと位置づけるべきなのだろうが、ともあれ、クラウドを最大限に活用するうえで、ネットワーク環境は課題となってくる。企業内の個々のユーザーがクラウドにアクセスするためのネットワーク回線の品質や帯域幅、コストが変化することで、クラウドの使い勝手や有用性も大きな影響を受けることになる。

 上述したように、現在ではモバイルファーストというトレンドもあり、企業内に設置された有線ネットワークと、ノートPCやタブレット、スマートフォンなどエンドユーザー個々人が個別に所有する機器がつなげられる無線ネットワークが併存している状況である。

 こうした状況は多様性の確保やシステムの冗長性という観点からは有利にはたらくだろうが、コスト面では無駄も出てくる。携帯電話キャリア各社のサービス/料金競争も限界まで行き着いたような印象もあるので、今後こうしたネットワークのコストがどうなっていくかも重要な注目ポイントと言えるだろう。

ITインフラ選びの現時点で好ましい態度とは

 ITの分野では、テクノロジーや製品の栄枯盛衰の変化が速いが、それでも実際にユーザーが利用可能なサービスのレベルではそう極端に変化する訳でもなく、数年程度の期間を経て変遷していくことになる。

 そのため、IT機器や情報システムの寿命を3~4年と考える場合には、とりあえずはどのようなやり方が主流になるかがはっきり見えてきたところでそれに従い、先行き不透明な状況では、まずは現時点で最良と思われる選択をしておく、という態度で問題はないように思われる。

 現状では、インフラもシステムも自社所有となる完全なオンプレミス型のシステムと、インフラもシステムも外部の完全なクラウドサービスが対極に位置づけられ、その間にさまざまな性格のサービスが棲み分けている。例えば、ITインフラは他社で、システムは自社という組み合わせだと一般的なデータセンターのラック貸し、ハウジング、コロケーションが該当するだろう。

 逆に、システムは他社、インフラは自社という組み合わせの場合、提供例はまださほど多くないが、いわばホステッド・プライベートクラウドのサービスとして提供されている。このように、現状ではユーザーが望むであろうどのような組み合わせであってもまず確実にサービスメニュー化されていると考えてよい状況だ。

 将来的に何らかの変更の要が生じる可能性を含みつつ、将来のために現状に我慢を強いるというかたちではなく、現状においても最良もしくはそれに近いというプランを選びとっていくことが重要だろう。

(データセンター完全ガイド2015年春号)