クラウド&データセンター完全ガイド:特集

2015年、日本のデータセンターが目指す方向を考える

クラウド大競争時代「日本のデータセンターの生きる道」[Part1]

クラウド大競争時代「日本のデータセンターの生きる道」
[Part1] Introduction
2015年、日本のデータセンターが目指す方向を考える

データセンター市場自体の成長性やグローバルレベルでの競争力は、その国や企業の発展にもかかわる重要なテーマである。北米やアジアの海外勢が勢いを増す中、日本のデータセンターはこれからどうあるべきなのか。2015年を迎えるにあたって、「日本のデータセンターが生きる道」を考えてみたい。

データこそが企業の競争優位性の源泉

 データの収集・管理・活用のレベルが数年前とは比較にならないほどまでに高まり、その巧拙が企業経営に多大な影響を与えるようになった。今は、あらためてデータの時代だと言える。

 かつて、企業が業務の情報化に取り組み始めた頃、高価なハードウェアやアプリケーションに投資すれば、それだけでもある程度の競争優位を築くことができた。だがその後、ITが劇的に進化し成熟を遂げると、多くの技術・製品がコモディティ化し、そうした“器(うつわ)”への投資だけでは競合他社との差別化を図れなくなっていった。ならば、器の“中身”、すなわちデータへの着目と高度活用こそが競争優位の源泉となる、という流れだ。

 こうして多くの企業がデータ活用のレベルを上げていくにあたり、データの格納・管理を司るデータセンターも当然にレベルアップが要求される。一般的なユーザー企業が持ちえない高度なノウハウの下、大量・多種のデータやシステムをセキュアに格納・管理するのは基本の機能だ。処理性能・信頼性・コストのバランスをとりながら、ユーザーの高度な要求にこたえて、高い満足度を与えられるかが今の事業者に問われている。

グローバルの中での日本のデータセンター

 本題に入ろう。グローバル全体における日本のポジションが低下傾向にある中、日本経済が勢いを取り戻していくにあたって、国や企業の情報管理基盤たるデータセンターやクラウドサービスの役割はことのほか大きい。以下、国内データセンター市場・業界の成長性について、グローバルの中での日本市場という観点から考察してみる。

 総務省が2014年7月に公開した平成26年度 情報通信白書に、世界のICT産業に関する項目がある。各地域の市場規模の比較を見ると、法人向け3分野(ITサービス、ソフトウェア、データセンター)では察しのとおり北米市場の強さが際立つ。2013年の全世界のデータセンター市場規模約140億ドルのうち、北米市場は約56億8,000万ドル、世界全体の40.6%を占めている。一方の日本市場は約12億5,000万ドルで、全体の8.9%にとどまる。また、2013年から2018年にかけての成長率予測では、日本を除くアジア太平洋地域が5.7%と最も高く、日本の成長率はわずか1.9%と見積もられている(図1)。特に成長率予測の低さには危機感をおぼえざるをえない。

図1:2013年における世界各地域のICT産業市場規模の業種別割合(左)と業種別成長率(出典:総務省「平成26年度 情報通信白書」)

課題から考える、日本のデータセンターの生きる道

 上に挙げた現状を踏まえて、日本のデータセンターは今後どの方向を目指せば、グローバルレベルのビジネスに資するインフラたりえるのか。市場競争力向上と地域分散化という2つのテーマを取り上げて考察してみる。

(1)市場競争力向上のカギを握る高品質な運用サポート

 先の調査結果に明らかな北米やアジアの勢いは、それぞれの地域の事業者の好調ぶりを反映したものだ。なかでも有力なクラウドサービス事業者たちは、国境をたやすく越えて、進出先の市場シェアを奪っていく。したがって、国内の事業者にとって、グローバルレベルでの市場競争力の強化は、生き残りをかけた喫緊の課題だ。

 近年ホットなIaaSやPaaSの市場ではすでにその動きが明らかだ。アマゾン ウェブ サービスやグーグル、マイクロソフト、IBMなど米国大手ベンダーがスケールメリットを全面に出して攻勢を強め各国でのシェアを伸ばしている。各社とも近年、自社データセンターの国外設置を加速しており、これまでクラウドのグローバル展開でのハードルとされてきた顧客データの格納場所の問題もクリアにしつつある。

 つまり、今のクラウドの世界では、ネットワークのレイテンシー、ユーザー企業における情報管理のコンプライアンス、「国外に自社のデータを置くのは不安」といった心理面などでの“地の利”はほぼ消失したと言ってよい。ユーザーのニーズに応じて、従来のハウジング主体からクラウド主体への転換を図ろうにも、待っているのはスケール勝負の茨の道という厳しさだ。

 タフな状況だが、打開策として、やはり持ち前の高品質な運用サポート/サービスを打ち出していくことは重要だろう。特にクラウドに事業の主軸が移ったとき価格競争ではさらに劣勢が強いられることが予想される。そこで、海外勢とは一線を画したきめ細やかなサポートや、SIer/NIerと連携しながら付加価値サービス(マネージドサービス、BPO連携オプションなど)の提供に努めることで、多数の国内ユーザーから篤い信頼を得られるようになる可能性が高い。

(2)地方/郊外型データセンターでコストメリット追求、地域活性化を

 古くからのテーマであるデータセンターの地域分散化がなかなか進まない。これはもちろん、ICT企業を筆頭にした、膨大なコンピュート/ストレージリソースを要する企業が東京圏に一極集中するという事情によるところが大きい。

 しかしながら、折からの同圏の地価上昇、クラウド利用の普及、そして2011年3月の東日本大震災以降はBCP(事業継続管理)/DR(災害復旧)のニーズ増大の動きも加わって、地方/郊外型データセンターの価値が再び議論されるようになっている。都市圏に比べればはるかに安価で広大な敷地を確保できるメリットや、東北・北海道などでは外気冷却採用によるエネルギーコストの抑制など、大きなコストメリットを打ち出せる環境が揃っており、海外勢と十分に価格競争できる可能性がある。

 とはいえ、利用企業数のケタが違う都市型ないしは都市近郊型データセンターに注力し続ける事業者は多く、上述した事業者の市場競争力向上の観点からも現状では理にかなっている。ユーザーの側でも低レイテンシーや現地に赴く際のロケーションを重要視する都市型志向は依然として強い。加えて、2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催に向けた東京の社会インフラ再整備の盛り上がりもある。

 諸々の状況を考えると、都市型データセンターも重要だが、例えばIIJの松江データセンターパークやさくらインターネットの石狩データセンター等に続けとばかりに、地方型/郊外型データセンターがもっと多く設立され、コストメリットや地域活性化、地産地消などの効果が多くの地域で享受されつつ広範に周知されていくようなサイクルに極力早く入っていくことが望ましい。

 となれば、やはり国家レベルの取り組みが欠かせない。総務省が推進する「データセンターの地域分散化に関する調査研究」などがそうだ。同調査研究では、データセンター事業者の地方進出を支援する優遇内容の検討や、地方のデータセンター運営で求められる人材育成モデルの策定などが取り組まれている。ICTが社会インフラのコアになった今、海外勢にこれ以上の差をつけられないよう、取り組みのフェーズが着実に進むことを強く期待したい。

(データセンター完全ガイド2015年冬号)