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Software Definedで進化を遂げた「ハイパーコンバージドインフラ」の価値を探る

「Software Defined」インフラ刷新に今、着手すべき理由[Part3]

「Software Defined」インフラ刷新に今、着手すべき理由
[Part3] Technology Focus 02
Software Definedで進化を遂げた「ハイパーコンバージドインフラ」の価値を探る

サーバー/ストレージ製品ベンダーが、事前構築済みをメリットとする統合システム製品を「コンバージドインフラ」「コンバージドシステム」などと呼んで提供するようになって久しい。最近では「ハイパーコンバージドインフラ」なる製品が登場し、再び注目を集めつつある。ここでは、従来製品との違いはどこにあり、どんな価値をもたらすのかを整理しておく。

コンバージドからハイパーコンバージドへ

(垂直)統合システム、コンバージドインフラ(Converged Infrastructure)あるいはコンバージドシステムと呼ばれる製品分野が登場してから、かなりの年月が経過した。進化が急激なIT業界では、1年前に発表されたコンセプトでも新鮮味を失うことが多々ある。その意味ではコンバージドインフラ/システムの考え方にもはや目新しさは感じられないという向きも多いだろう。

しかしながら、目新しさを感じないからといっても有用性が失われるわけではもちろんない。盛んに注目を集めた新しい技術がすっかり話題に上らなくなった頃にようやく現場で使われ始めるという展開は特にめずらしいことではない。ITインフラを構成するハードウェアコンポーネントを統合するという考え方や製品も、特段話題になる局面は少なくなったものの、データセンターやサーバールームの現場では着々と導入が進んでいるというのが今である。そして、この考え方をさらに進化させたハイパーコンバージドインフラ(Hyper-Converged Infrastructure) が普及に向けたフェーズに入ろうとしている。

事前構成済みを売りにしたコンバージドインフラ

コンバージドインフラがどのようなものかを考えるとき、やはり具体的な製品を思い浮かべるのがわかりやすいだろう。ヴイエムウェア、シスコシステムズ、EMCの協業で発足し、EMC(現デルテクノロジーズ)のコンバージドインフラ事業会社となったVCEの「Vblock System」や、オラクルがエンジニアドシステムと呼ぶ、インフラハードウェアとデータベースの緊密な統合が売りの「Oracle Exadata」などである。

これらの製品を特徴づけるキーワードの1つに「Pre-Confi gured(事前構成済み)」がある。サーバーやストレージ、ネットワークといったITインフラを構成するさまざまなコンポーネントを適切に選択し、組み合わせてきちんと動作させるのは簡単なことではなく、技術知識やノウハウが求められる高度な作業である。

コンバージドインフラでは、この「適切に組み合わせ、構成する」という作業があらかじめ完了した状態の製品として販売される。サーバー/ネットワーク(共にシスコ製)とストレージ(EMC製)、仮想化ソフトウェアプラットフォーム(ヴイエムウェア製)という、VCEのありようを考えてみれば理解しやすいかもしれない。コンバージドインフラを構成する個々のコンポーネント自体は既存製品と変わりはなく、せいぜいラックにロゴが入っているぐらいの違いしかない。事前構成のために投入されている技術力やノウハウに価値があるとはいえ、そのベンダーにしか提供できないというレベルでもなかろう。

米国では、ユーザー企業のIT部門がITインフラ/システムの導入・構築を自ら手がけるケースが多い。そのためこうした事前構成済みのシステムは導入・構築の負担を直接的に軽減してくれる付加価値として認められやすいだろう。

一方で、システムの導入・構築をITベンダーやSIerに任せるのが一般的な日本企業のIT部門にとっては、そもそも自分たちが手を煩わせていた作業ではないことから、その手間が軽減されることがメリットとしてさほど響かない可能性が高い。

このような、コンバージドインフラの事前構築済みという特徴から直接的なメリットを得られるのは実はSIerであってエンドユーザーではないというのは日本市場独特の事情になるかもしれない。SIerがコンバージドインフラの採用で得る負担軽減を価格引き下げのかたちでユーザーに還元してくれるのであればよいが、ユーザー自身、導入されるシステムがコンバージドなのか、従来のベストオブブリードの組み合わせなのかはさほど気にしなかったりもする。

コンバージドとハイパーコンバージドの違い

図1は、従来の統合システム/コンバージドインフラと、ハイパーコンバージドインフラの違いをごく単純化して表現した図だ。一言で言えば、統合の度合いがさらに進むかたちでアーキテクチャ面が進化を遂げている点がコンバージドインフラとの違いとなる。従来型のコンポーネントを組み合わせるのではなく、コンポーネント自体がそれぞれ、Software Definedのアプローチに基づく、新しいアーキテクチャのものに切り替わっているのである。

図1:従来の統合システム/コンバージドインフラと、ハイパーコンバージドインフラの違い(出典:ニュータニックス)

ハイパーコンバージドの根源的な発想は、実のところ、SDS(Software-Defined Storage)の発展をきっかけに生まれたものととらえることができる。

コンピュート(演算処理)を担うことからサーバーの最新モデルと考えがちだが、コンポーネントの起源は水平分散型のスケールアウトストレージにある。SDSによって実現した水平分散型のスケールアウトストレージは、ハードウェアとしてはストレージ(HDD/SSD)を内蔵したIAサーバーそのものであり、これをソフトウェアの力で仮想的に束ねて、分散する多台数の内蔵ストレージから巨大な仮想ボリュームを作り出すという仕組みだ。

耐障害性のためのデータの分散/重複記録などをサポートするうえ、当然、本来サーバーとしても利用可能なCPUやメインメモリを備えていることから、演算処理能力に十分な余裕があり、これを生かした高度なストレージソフトウェアの実行もサポートする。

例えば、データ圧縮や重複排除といった容量効率向上のためのソフトウェア処理や、ブロックアクセスにもファイルアクセスにも対応できる柔軟なインタフェース機能の提供などが可能だ。さらに、分散型のスケールアウトシステムであることから、規模の拡張はノードの追加だけで可能で、ユーザーの手作業による設定変更などは不要となっている。

ハイパーコンバージドインフラでは、こうして分散ストレージをいわば先祖返りさせるかのように、一般的なサーバーとしても利用可能としたものだ。そのため、サーバーとストレージがあらかじめ一体化したコンポーネントをネットワークで接続して利用する形態となっている。

従来のコンバージドは、内部的にはサーバー/ストレージ/ネットワークと完全に分かれており、従来のオンプレミス型アーキテクチャのままであるのに対し、ハイパーコンバージドは、「サーバー+ストレージ」という新しいコンポーネントが生み出され、これをスケールアウト型で拡張していくというクラウド型アーキテクチャを採用している。この点が両者の最大の違いとなる。

ハイパーコンバージドの特徴ともたらす価値

ハイパーコンバージドインフラを特徴づけるキーワードを挙げる場合、コンバージドインフラの事前構成済みに対して、「構成不要(Non-Configured)」という感じになるだろうか。アーキテクチャの進化により、従来は不可欠だった構成という作業を根本的に不要とし、導入にあたってユーザー側で考えなくてはならない要素は性能や容量ぐらいにまで単純化されている。

つまり、ユーザーとしては、自社で使用するアプリケーションやデータが要求してくる処理能力やストレージ容量に対し、現状の構成で余裕がどの程度残されているのかだけに注意を払い、不足に陥る前にノードを追加するという単純な運用管理だけで済むようになる。

もっとも、構成に関して何も考えなくてよいというのは現実にはさすがに誇張がある。例えば、ボトルネックを作らないようなネットワーク構成を考え、L2ネットワークのサイズを適正に保つなどの配慮は必要になろう。しかしそれでも、従来型のサーバー/ストレージ/ネットワークのバランスを適正に保つ作業と比較すれば負担が大幅に軽くなるはずだ。

こうした点は、ITインフラをみずから導入・構築・運用する企業のIT部門にとってはもちろん、データセンターやクラウドサービス事業者にとっても価値あるメリットとなる。とりわけクラウドサービスを提供する事業者の場合、ITインフラの運用管理コストを極力抑えないと料金競争に生き残っていけないため、省力化と併せてその導入が大きく寄与することが期待できる。

さらに、ITインフラ/システム規模の拡大に応じて段階的にノード追加するだけでよいため、将来のIT投資計画にも見通しが立てやすいだろう。足りなくなったら追加するだけ、というシンプルな運用が可能になることは、一般企業よりもむしろITインフラ規模が巨大になりがちな事業者のほうが得られるメリットが大きくなる可能性がある。

さらに、かつてのブレードサーバーで見られた高価なシャーシに相当する要素がハイパーコンバージドシステムには存在しない点もメリットとなる。さすがにネットワークスイッチなどは必要とは言え、ユーザーが選択する構成要素が純粋にノードのみなので、2~3ノード程度の構成から数百台、数千台規模の構成までシームレスに拡張していくことが可能であり、IT投資額が跳ね上がるようなギャップが存在しない。

ひと頃のブレードサーバーはシャーシのコストが大変高価だったため、1、2台のブレードで済むシステムを構成した場合、初期投資額が大きくなりすぎる欠点があったが、ハイパーコンバージドシステムではこの問題から解放される。スモールスタートで利用を始め、問題がなければ随時拡張するというアプローチによって、IT投資の非効率が発生しない点は高く評価できる。

主要ハイパーコンバージドインフラ製品の特徴

ハイパーコンバージドインフラは単なるコンセプトではなく、すでに具体的な製品となっている。ここで主要な製品をいくつか取り上げて概観しておくが、いわゆるバイヤーズガイドではないので、個々の企業にとっての選定の指標となるような機能の詳細には深入りせず、特徴を紹介する程度にとどめておく。

Nutanix Xtreme Computing Platform ニュータニックス

まず、この分野で先駆者的存在の米ニュータニックス(Nutanix)は、ほぼハイパーコンバージドインフラ専業という製品ラインアップを用意する。

同社のハイパーコンバージドインフラ「Nutanix Xtreme Computing Platform」は、管理プラットフォームの「Prism」と、ストレージ/サーバー/仮想化用データファブリックと呼ぶ「Acropolis」で構成される。ハードウェアアプライアンスの形態で提供されるが、その価値の中核はソフトウェア技術にあり、ハードウェアはいわばコモディティなコンポーネントを必要に応じて組み合わせただけといった位置づけになる。

上でハイパーコンバージドインフラの発想はSDSから生まれたものと述べたが、ニュータニックスの起源もまさにストレージ技術にある。そのことは、同社がグーグルで分散ファイルシステムのGFS(Google File System)を開発していたチームのスピンアウトとして設立された経緯からも明らかだろう。したがって、技術のベースはApache Hadoopなどと同様で、データを分散配置で格納したうえで、データのある場所にコンピュートを移動して分散実行するアーキテクチャを構成している(図2)。

図2:Nutanixの分散ストレージファブリックの概念図(出典:ニュータニックス)

ニュータニックスは、以前より、VMwareやHyper-Vなどの主要仮想化プラットフォーム(ハイパーバイザー)をサポートしてきたが、今ではKVMをベースに自社で開発したハイパーバイザー「Acropolis Hypervisor(AHV)」も提供している。AHVの提供に踏み切ったのは、既存のハードウェアインフラを前提に開発されたハイパーバイザーでは、ハイパーコンバージドで求められるシンプルさを完全には実現できず、どうしても複雑な要素が残ってしまう面があるためだという。また、ユーザーメリットとしてはVMwareなどのライセンス料が不要になる点がある。

一方で、ハードウェアの構成についてはシンプル化が進行している。従来はHDDとSDDの搭載モデルが別個に用意されていたが、最新のラインアップでは全モデルでSSDが選択可能になるなど、フラッシュストレージの普及状況を踏まえた簡略化がなされている。

VMware Hyper-ConvergedSoftware(HCS) ヴイエムウェア

ハイパーコンバージドインフラの中核がソフトウェアという点は、ITインフラ仮想化のリーディング企業であるヴイエムウェアの取り組みを見ても鮮明だ。

ヴイエムウェアは「VMware Hyper-Converged Software(HCS)」として、ハイパーコンバージドインフラを構成するためのソフトウェア群を販売する。それと同時に、アライアンスパートナーとの協業によってアプライアンス製品の提供も行う。例えば、同社自身も深く関わるVCEから「VCE VxRail」というアプライアンス製品が提供されている。

ヴイエムウェアのビジョンも、ニュータニックスと同様に分散型スケールアウトストレージがベースとなっている。それは、VMware HCSの中核モジュールとして「Virtual SAN(VSAN)」が含まれているところに見てとれる。

Virtual SANは国内では2014年3月に発表されたストレージソフトウェアで、サーバーの内蔵ストレージを仮想的に統合してハイパーバイザー直結型の仮想ストレージボリュームとして利用する(図3)。その後の分散型スケールアウトストレージの発展方向をリードすることとなる。ニュータニックスと共通するSoftware Definedのアプローチであり、ハイパーコンバージドインフラの本流とも言える構成となっている。

図3:VMware Hyper-Converged Software(HCS)の核となるVirtual SANの概念図(出典:米ヴイエムウェア)

HPE Convergedsystem/HPE Hyper Converged ヒューレット・パッカード エンタープライズ

サーバー分野で長い歴史を誇る米ヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)は、「HPE Convergedsystem」と「HPE Hyper Converged」(写真1)というコンバージドとハイパーコンバージドの2系統のインフラ製品ラインを揃えているところが面白い。

写真1:HPE Hyper Converged 380の筐体写真(出典:米ヒューレット・パッカード エンタープライズ)

HPE Convergedsystemは、ターゲットの用途をビッグデータ分析、クライアント仮想化、クラウド、高密度ワークロードとしており、それぞれで必要な各種コンポーネントをラックに収容して事前構築済みのシステムとして提供する。

一方、HPE Hyper Convergedのほうは、外観上はシンプルなラックマウントサーバーの形態で、採用する仮想化プラットフォームの違いに応じて「for VMware」「for Microsoft」といったバリエーションが用意される。必要なソフトウェアを組み込んだ事前構成済みのアプライアンスである点は競合他社の製品と同様だ。

ここで挙げた3社以外にも、シスコシステムズの「Cisco HyperFlex System」や、レノボの「Lenovo Converged HX」といった製品がハイパーコンバージドインフラの名称を冠して市場に出荷されている。

こうしてハイパーコンバージドインフラを提供するベンダーの顔ぶれも揃ってきており、ユーザーにとっては導入しやすい環境ができあがりつつある。導入の検討に際しては、「ハイパーコンバージドシステムの本質は拡張性にすぐれたハードウェアシステムではなく、あくまでも、サーバー/ストレージの仮想化技術を基盤としたソフトウェアソリューション」であることを念頭に置くとよいだろう。

コモディティハードウェアに関しては任意のタイミングで入れ替えが可能だ。一方、ソフトウェアソリューションを入れ替える(言い換えれば、ソフトウェアプラットフォームを切り替える)となると、それまでの自社における運用現場での知識・ノウハウの蓄積を考えると、はるかに敷居が高い作業となる点には注意が必要だ。

ハイパーコンバージドインフラの導入にあたっては、ある程度長期的な視点に立って、安定的・継続的にシステムの運用を続けられるかどうかを重視する必要があろう。

(データセンター完全ガイド2016年秋号)