クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

社会インフラのスマート化 三菱重工の次世代データセンター ソリューション

データセンター・イノベーション・フォーラム2023 特別企業講演レポート

 データセンター・イノベーション・フォーラム プログラム委員会とインプレスは、社会的なインフラとなっているデータセンターの今後の方向性を展望するイベント「データセンター・イノベーション・フォーラム2023 オンライン」を、2023年12月7日に開催した。

 データセンター・イノベーション・フォーラムは、データセンター/クラウド基盤サービス事業者に加えて、ゼネコン、サブコン、設計会社、不動産会社や自社でデータセンターを保有するユーザー企業など、データセンター事業に関わる各事業者を参加対象としたイベントとして、毎年開催している。

 通算で32回目となる今回の「データセンター・イノベーション・フォーラム 2023 オンライン」は、「データセンター事業の事業戦略・サービス企画・設計・建設・運用管理の責任者、キーパーソンとともに次世代データセンターのあり方を考える場」として、AI用途などで高消費電力化・高発熱化するサーバーの冷却に対応するソリューションや、政府のデータセンター関連施策、全国のデータセンター事業者の動向など、多数のセッションが行われた。ここでは、特別企業講演として行われた、三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)のセッションを紹介する。

ネットゼロへの取り組み「高砂水素パーク」

 130年以上の歴史を持つ三菱重工業グループが、これまで培ってきた技術を活用し、次世代の社会インフラであるデータセンターへの貢献を目指している。セッションでは、水素を使ったCO2排出ゼロの発電技術、液冷却による高集積化とPUEの大幅改善、多様な事業領域で培ったデジタル技術による運用最適化、そしてそれらを統合したワンストップソリューションを紹介した。

 セッションの前半では、三菱重工の五味慎一郎氏(成長推進室 事業開発部 次長)が、データセンターへの取り組みの概要を紹介した。

三菱重工の五味慎一郎氏(成長推進室 事業開発部 次長)

 三菱重工は、CO2削減に貢献できるグループ各社のさまざまな製品・技術・サービスおよびパートナーとのソリューションやイノベーションなどにより、グローバル社会全体のネットゼロ実現を目指している。

 グループとしてのCO2排出削減目標を定め、2040年にネットゼロを実現する「2040年カーボンニュートラル宣言」を出している。五味氏によれば、「2040年と期日を決めたのは、多くのお客さまが2050年に向けたネットゼロの活動を進める中、10年前倒しでソリューションを提供したいという思い」からだという。

 その一環として、開発・製造拠点を置く高砂製作所(兵庫県高砂市)に「高砂水素パーク」を整備している。高砂製作所は長らく発電プラントの実証を続けてきた拠点で、新たに次世代の水素製造装置を設置し、水素製造から発電までの一連の技術を、一貫して検証できる環境を構築した。

 水素を燃料とする水素ガスタービンの早期商用化に向けたもので、五味氏は「これは世界初の取り組み。今後、ここでの実証を経て、CO2の出ない高効率の発電システムを世の中へ提供しようともくろんでいる」と言う。

CO2排出0への取り組み

データセンター ワンストップソリューション

 三菱重工では、発電、蓄電、空調、データセンター、エネルギーマネジメントといったさまざまな技術を提供しているが、市場の変化をふまえて、これらを組み合わせたシステムとして提供・インテグレートし、データセンター ワンストップソリューションとすることを考えている。

 データセンター関連製品としては、サステナブルかつ分散化を目指した電源、省エネの冷却技術、各機能を賢く安全につなぐデジタルソリューションを提供している。これらを組み合わせて最適化したワンストップソリューションの提案を目指して、さまざまな取り組みを進めているところだ。

データセンターワンストップソリューションの各技術

 昨今、データセンターではカーボンニュートラルの要請が厳しくなり、再生可能エネルギーの利用率を上げることが求められている。再エネを電力会社から調達する際に競争になり、高コスト化が懸念されることから、オンサイトでの発電も選択肢に入ってくるだろう。その時に、小型・中型・大型の多様な発電システムを有している三菱重工の技術が使えるのではないかというのが、同社の仮説だ。

 また、世界の電力消費は拡大傾向にあり、その中でもIT電力は特に急激な速さで拡大している。エネルギー消費全体では、2020年から2030年で25%増と言われているが、IT電力だけに限ると、10年で2倍と予測されている。

 背景にあるのが、CPUやGPUといったプロセッサの高性能化で、消費電力が1000W以上になるという予測もある。そうなると、従来の空冷方式で冷却するのは不可能で、液冷という新しい技術に移り変わることは必至だ。

 さらに今後、大規模なデータセンターがすべてのシステムを収容する中央集権的な世界観から、ある程度の処理をデータが発生する場所の近くで行う、マイクロエッジデータセンターへと変化することも考えられる。三菱重工は、そのマイクロエッジで活用できるコンテナ型データセンターの開発も、鋭意進めている。

 さらに、顧客が満足するには、技術開発だけでなく、困った時に迅速に対応するサービスが重要となる。三菱重工はその点にも目を向けており、北米で電源の保守サービスを主に手がけるConcentric社を買収した。「信頼性の高い製品を持ちつつもタイムリーにお客さまをサポートできる体制づくりを、国内外で進めている」(五味氏)という。

コンテナ型データセンター

三菱重工の杉原大志郎氏(成長推進室 データセンター事業推進グループ)

 後半は、三菱重工が開発している個別のデータセンター製品について、杉原大志郎氏(成長推進室 データセンター事業推進グループ)が紹介した。ひとつめは、コンテナ型データセンターである。

 三菱重工業は、異なる3種類の冷却方式を採用するサーバーが混在した状態で搭載できる、ハイブリッド冷却方式のコンテナ型データセンターを開発し、2023年10月に発表した。冷却方式は、液浸冷却(25kVA)、空気冷却(8kVA)、水冷却(8kVA)の3種類。

 異なる冷却方法を一体化したシステムとして統合最適化し、12フィートコンテナのパッケージ内に高密度に配置する。さらにフリークーリングを採用することで、40℃環境下におけるシステム性能は、液浸冷却単体ではPUE1.05、液浸冷却と空気冷却の併用でPUE1.14を発揮する見込みだ。

液浸・空冷ハイブリッド冷却方式コンテナ型データセンター

 コンテナ型データセンターの最大のメリットは、リードタイムが短いことにある。欲しい時、欲しい場所に、トレーラーで運搬して開設できる。また、工場や工事現場、研究施設、その他独立した環境での運用が可能であり、ビジネスアイデアを柔軟に実現できると期待できる。

 現在、さまざまな場所で検証を進めている。

ラック型液浸冷却システム

 三菱重工では、既存データセンターに導入可能な、ラックマウントタイプの液浸冷却システムも開発している。

 液浸冷却は、フッ素系不活性液体などの絶縁性のある液体にサーバーなどのIT機器を直接浸すことで冷却する方式。高効率だが、冷媒のタンクにサーバーを浸す形なので、特別な設備が必要になる点が導入のネックとなっていた。

 そこで三菱重工のラック型液浸冷却システムでは、小型のボックスに冷媒を満たしてサーバーを収容し、それをデータセンター構築では一般的な19インチラックに搭載できるようにした。1ラックあたり、20kWから30kWまで対応できる見込みだ。同一ラック内に液浸機器と空冷機器の同居が可能になるので、システム構築の柔軟性も上がる。今までのサーバー運用に近い形で作業ができる構造というのも、メリットになるだろう。

 さらに、三菱重工のドライクーラーを使ったフリークーリングシステムを採用した実証環境では、PUE1.05を計測した。NTTデータと共同で検証し、運用性や安定性を確認、改善を行った。

ラック型液浸冷却システム

二相式ダイレクトチップ冷却

 二相式ダイレクトチップ冷却は、プロセッサに冷却用のコールドプレートを直接接触させて冷却する方式。コールドプレートの内部には沸点の低い冷媒が入っていて、液体から気体への相変化(いわゆる気化熱)で冷却する。

 気化した冷媒はマニホールド(接続部)を通ってヒートリジェクションユニットのファンで冷却されて液体に戻り、再びコールドプレートに戻る。この3つのパーツが、すべてサーバーラック内に収容できる構造になっている。

二相式ダイレクトチップ冷却

 熱交換する冷媒は完全にクローズドな環境で循環し、サーバーの改造が少なくすむのが特徴で、導入のハードルはさほど高くない。既に、海外では導入実績があるという。

 気化した冷媒を冷やすヒートリジェクションユニットは、サーバールーム内の空調で熱交換するタイプと、冷水を使って熱交換するタイプの2種類ある。サーバールームの環境は各社で異なるので、環境に合わせた構成を選択できる。

データセンター統合管理ソフトウェア

 その他、三菱重工ではデータセンター統合管理ソフトウェア(DCIM)についても、取り組みを進めている。2023年7月には、脱炭素に貢献するサステナブルなデータセンターの構築を目的に、ドイツのFNTソフトウェアとの協力関係構築を発表した。デジタル化の加速に伴って消費電力量が急増しているデータセンターにとって、省エネ化は喫緊の課題である。その課題に対応するため、三菱重工のエネルギーマネジメント技術と、FNTのインフラマネジメント技術を融合し、新たなソリューションの開発を目指している。

 「当社の、発電設備・空調設備開発の知見を生かした解析技術やエネルギーマネジメントに関する技術・経験と、FNTのDCIMを組み合わせ、データセンター向けに開発を進める液浸冷却システムと組み合わせた実証試験などを実施していく計画」(杉原氏)だという。

DCIMとエネルギーマネジメントにおける解析技術の組み合わせ例