クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

垣根を超えた交流でデータセンター業界の活性化を目指す「JADOG」

JADOG 5.0 イベントレポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年9月30日
定価:本体2000円+税

データセンター業界のオープンなコミュニティ「JADOG(Japan Datacenter Operators' Group)」の会合となる「JADOG 5.0」が、2019年7月19日に東京都内で開催された(写真1)。今回のJADOG 5.0には約50人の参加者があり、データセンターにおけるネットワークの重要性や、データセンター事業者の近況とメガクラウドといった発表のほか、データセンター要員の確保に向けて話し合うグループディスカッションなどが行われた。 text:三柳英樹

写真1:JADOG 5.0の模様

データセンター運用についてオープンに議論する場

 JADOGは、ネットワーク運用担当者コミュニティの「JANOG(Japan Network Operators' Group)」で活動してきたNECの石原隆行氏(写真2)が、「データセンター運用についてオープンに議論する場を」と音頭をとり、有志により2017年に発足したコミュニティだ。

 JANOGは20年以上の歴史があり、さまざまな企業のネットワーク運用担当者が垣根を超えて、運用のノウハウや最新の情報などを共有しあうコミュニティとなっている。一方、データセンター業界では担当者間の交流は活発ではなかったが、こうした状況を打破し、担当者同士の交流によりデータセンター業界を盛り上げていこうという目的で、JADOGが設立されている。

写真2:JADOG発起人の石原隆行氏

IXの使い方はクラウド接続やDC間接続などにも広がる

 ライトニングトークのセッションでは、株式会社ブロードバンドタワーの西野大氏(写真3)が、データセンターにおけるネットワークサービスについて発表。データセンターの主要なサービスとしては、顧客の機材を預かるコロケーションサービスや運用支援を行うマネージドサービスがあるが、近年では顧客にネットワークを提供するコネクションサービスの重要性が高まっていると説明。提供する回線サービスとしては、顧客ラックからインターネットへの接続回線や、通信回線への接続、フロア間など顧客間の接続、IXとの接続、パブリックピアリング、プライベートピアリングといった種類があるが、最近ではパブリッククラウドサービスへのプライベート接続へのニーズが高まっているとした。

 また、データセンターはスケールアップが困難であり、データセンター事業において拠点分散は宿命だと説明。顧客からサーバーやラックなどを増設したいといったスケールアップへの要望があった場合も、同じフロア内や建物内に空きスペースがないといったケースも多く、事業者にとっても保有するデータセンター間の接続回線が重要になっていると語った、

写真3:ブロードバンドタワーの西野大氏

 日本インターネットエクスチェンジ株式会社(JPIX)の中川あきら氏(写真4)は、最近のIXの使い方と題して発表した。IXは巨大なL2スイッチ群により構成されている。IXに接続している事業者同士が合意の上、両者の設定により接続(ピアリング)を行う場を提供することが主な目的となっており、現在ではコンテンツ事業者の大量のコンテンツを効率的にネットワーク事業者に渡す接続ポイントとしての役割が高まっていると説明。コンテンツ事業者、ISPともに、インターネット経由の通信と比べて高速・低遅延・一定品質・高可用性な接続と、低価格を同時に実現できる点がメリットとなっているとした。

 一方で、現在ではピアリング以外のIXの使い方も増えているとして、JPIXの例では同じ事業者の複数のデータセンターからの回線を、JPIX内のピアリング用のVLANとは別のVLANで接続するといった形で閉域網としても使えると説明。IXに物理回線を1本接続しておくことで、ピアリング以外にもインターネット接続回線の調達やパブリッククラウドへの閉域網接続、データセンター間接続といった多様な用途での利用が盛んになっているとした。

写真4:JPIXの中川あきら氏

DCを支える次世代運用基盤

 アイビーシー株式会社の明星誠氏は、同社の「System Answer G3」を活用した次世代の運用監視基盤について説明。System Answer G3は、複雑化したネットワークシステム全体の性能状態を可視化する製品で、監視の自動化による品質向上を図っていると説明。新たに起動したノードの自動登録や、新たにリンクアップしたポートの自動監視登録に加え、構成変更に伴ってダウンしたノードやインターフェイスを一定時間で非監視とする機能も備え、変化する監視条件に自動で追従でき、監視ステータスも柔軟に変更できる点が特徴だとした。実際に、Interop Tokyo 2019のShowNetにSystem Answer G3を導入したケースでは、従来は手動登録で2日ほどかかっていた設定が、自動登録により30分ほどで初期設定が完了し、その後も自動的に情報を更新できたという。

 また、トラフィックの監視についても、500マイクロ秒単位でのトラフィック解析を実現することで、従来のSNMPによるトラフィック監視では実現できなかった、マイクロバーストと呼ばれるごく短い時間の瞬間的なスループット増を正確に把握できるようになり、これまでは見えなかった問題の把握が可能になったとした。

写真5:アイビーシーの明星誠氏

地方DCがクラウドで黒字を出す秘訣とは

 株式会社えむぼまの森正彦氏は、運営する愛媛のデータセンターで展開するクラウド事業で黒字化を達成したノウハウを紹介。同社の現在の売上割合は、VMware CloudやAWSのサーバー構築運用、クラウド関連システム開発などクラウド関連が約8割となっており、規模としてはASPサービス事業者への基盤提供(サーバー提供)や、顧客の商用システム(非ウェブ案件)が伸びているという。

 こうした状況の中で、売上を上げるポイントとしては「大容量&高品質、高信頼のネットワーク」「固い需要をベースにポートフォリオを構成」「継続的にコストメリットを提供」の3点を紹介。特に、法人の手堅い顧客をつかむには、ネットワークがなによりも重要だと説明。最近では多くの顧客がネットワークを最重要視しており、価格も重要な要素だが、高品質なネットワークを提供しなければ顧客は獲得できないとして、いかに高品質なネットワークを調達できるかが重要だと語った。

写真6:えむぼまの森正彦氏

データセンター要員の確保について討論

 後半では、「データセンター要員の確保」をテーマとしたグループディスカッションを開催。データセンターの運用に携わる要員についても人手不足が課題となる一方、コストがかけられない、運用業務に若い人が魅力を感じていないといった問題も多いという。こうした課題について、参加者がそれぞれの立場を超えて本音での議論を行った。

 ディスカッション後の発表では、運用の自動化・効率化に向けた投資を行っていくこと、データセンター要員のキャリアパスについて考えていくこと、運用業務は評価されにくいことが多いが、きちんと働きに見合った対価を支払うことが重要だといった意見が発表された。また、JADOGのような会合を通じて、データセンター業界の魅力を若い人にもアピールしていくことが重要だとして、今後も業界内外への情報発信を今後も続けていくことが確認された。