クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

自社保有DCからマルチクラウドのデジタルインフラへ――デジタルエコノミー時代のデータセンター

クラウド&データセンターコンファレンス2018 Summer オープニング基調講演レポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2018年9月29日
定価:本体2000円+税

グローバルでIX(Internet Exchange Point:相互接続点)とデータセンターを展開する米エクイニクス(Equinix)。世界のインターネットとデータセンターをつなぐ立場にある同社は、この市場・産業の現況と将来をどのように見ているのか。2018年7月3日、東京都内で開催されたクラウド&データセンターコンファレンス2018 Summer(主催:インプレス)のオープニング基調講演に、エクイニクス・ジャパン 代表取締役兼北アジア事業統括の古田敬氏が登壇。「デジタルエコノミー時代のデータセンター」と題した講演で、データセンターの今後を語った。 text:柏木恵子

運営効率の低いデータセンターの“終焉”

写真1:エクイニクス・ジャパン 代表取締役兼北アジア事業統括の古田敬氏

 1998年に創業したエクイニクスは今年で20周年を迎える。同社は企業・組織間、データセンター間をつなぐインターコネクション(相互接続)の価値を追求してきた企業だ。同社は、インターコネクションが2020年までにトラフィックで2倍、帯域で6倍という急激な伸びを予測している(図1)。また、データセンター事業も大きく伸長し、現在、世界52都市、200拠点でIBX(International Business Exchange)データセンターを運営している。

 クラウド&データセンターコンファレンス2018 Summerのオープニング基調講演に登壇したのは、エクイニクス・ジャパン 代表取締役兼北アジア事業統括の古田敬氏(写真1)だ。同氏は、最新の市場動向として「データセンター時代の終焉(Data Center is Dead)、デジタルインフラストラクチャの繁栄」という米ガートナー(Gartner)のレポートを紹介した。

 データセンターの終焉とはかなり刺激的なタイトルだが、その要旨は、「デジタルインフラストラクチャ」として、企業のITリソースの大部分がクラウド側(しかも、複数社のクラウドサービスを併用するマルチクラウド)に集約されつつあることと、それに伴い、企業が保有・運営するデータセンター(SIerが運営代行するものも含む)は存在意義を失っていくというもの。ガートナーは、「2025年までに80%の企業は自社データセンターを閉鎖する」と予測している。

 古田氏は、データセンター施設が7年ごとに蓄電池を、15~16年ごとに電気設備を更改しなければならず、建物自体も30年経てば何かしらの対応が必要になることを指摘した。

 「つまり、箱としてではなく機能として考えると、データセンターの運営は非常に効率が悪い。したがって、データセンターはデジタルインフラストラクチャの一構成要素だという考え方が正しいだろう」(同氏)。

図1:インターネットを超えるインターコネクション帯域の伸び。2020年までにトラフィックで2倍、帯域で6倍に(出典:エクイニクス・ジャパン)

 自社保有のデータセンターから、マルチクラウドのデジタルインフラに向かう過程で、ビジネスのグローバル化はいっそう進む。図2は、世界のトラフィックにおいて、大陸間のトラフィックの伸びが非常に大きいことを示すスライドだ。古田氏は「10年前にはAWSが今のようになるとはだれも思っていなかった」と述べ、何でもグローバルである必要はないが、グローバルのスケーラビリティを持つことの優位性を指摘した。

 古田氏の言うデジタルインフラストラクチャは、複数社のクラウドサービスを併用するマルチクラウドを含む、さまざまなタイプのITインフラリソースの集合体を指す。その全体の中でデータセンターをとらえるのがよいというのが氏の考え方だ。

 さらに、「デジタルによって何を実現したいかというアプリケーションや目的が、徐々にはっきりしてきた」と古田氏。例えば自動運転では、1台あたり1日で1TB(テラバイト)もの膨大なデータを通信する必要があり、1つの事業者が提供することが不可能なほどの、巨大なデータの活用目的ができつつあるという。「こうしてエコシステムが形成されるのが、デジタルインフラストラクチャの1つの大きな特徴」(古田氏)ということだ。

図2:グローバルへ拡大するビジネスニーズ(出典:エクイニクス・ジャパン)

DXの進展とITインフラのシームレスな変化

 続いて古田氏は、ここ数年バズワード的に叫ばれているデジタルトランスフォーメーション(DX)について言及。デジタル化の流れの中で、変化がシームレスに起こっており、とりわけ地球規模のネットワークで、リアルタイムコミュニケーションが可能になったことは大きいと語った。

 「DXとは、すべての業界がデジタル技術やデータを活用しながら効率を追求し、よりよい社会や生活のための価値創造を行うこと。その本質はコスト削減ではないし、また、デジタルでリプレースが可能なものは、いずれそうなる」と古田氏。日本人は、変化を楽しむ気質ではないと言われることが多いが、「それでも、10年前に比べれば日本人もかなりグローバライズされてきたと感じる。例えば、AWSのような海外のハイパースケールに拒否感を示す人は、今ではあまりいない」と古田氏は述べた。

 古田氏は、デジタルビジネスを支えるITインフラの要件として、スケーラビリティと俊敏性/エッジ対応(後述)/ネットワーク最適化/脅威の最小化(リスクマネジメント)/信頼できるパフォーマンス/レガシーITのクラウド化を挙げた。

 「マルチクラウドのニーズが増しているように、デジタル時代は、1つのソリューションがすべてということにはならない。これは組織のDXを推進するポイントになってくる」と古田氏は説いた。

エッジコンピューティングで集中から再び分散へ

 コンピューティングモデルは分散と集中が循環している。クラウドは各企業に分散していたオンプレミスのシステムやデータを集中させ、それによって効率が上がるというモデルだが、古田氏は「数年前からは、エッジコンピューティング、あるいはレイヤードアーキテクチャ(Layered Architecture)のモデルが広がり始めている」と指摘した。

 レイヤードアーキテクチャは、ストレージの階層管理を大規模にしたような考え方で、古田氏は次のように説明した。「コンピュートのリソースを複数層に分け、それほど高性能でなくてもよく、レイテンシも気にならない場合、例えば山奥に置く。そうでないものは処理対象のなるべく近いところに、それでも間に合わないものは処理対象のそば、エッジに置く」

 エッジモデルで最もリアリティがある例として古田氏は、5G(第5世代移動通信システム)の基地局で処理をして返すケースを挙げた。「ただし、エッジモデルやディストリビュート(分散)モデルに、すべてのデータセンターが対応する必要というわけではない」と同氏。

 図3は、冒頭で触れたデジタルインフラの特徴をまとめたものだ。データセンターのアーキテクチャは、エッジ/レイヤードコンピューティングにより中央集約型から分散型へ移行すると同時に、マルチクラウドとハイブリッドITインフラが最も理にかなった構成として多くの企業に選ばれていく。

 エクイニクスは、マルチクラウド環境をサポートする「Equinix Cloud Exchange」サービスを提供しており、2018年4月には、都市間接続サービス「Equinix Cloud Exchange Fabric」の国内展開もスタートしている。ユーザー企業は、異なるリージョンでしか提供されていないクラウドサービスを含めたハイブリッド環境の構築が可能になり、自社システムのBCP/DR機能を高めることができるという。

 デジタルインフラやDXは、今後、あらゆる業界において本格的に進んでいくというのがエクイニクスの見方だ。業界、業種によって規模やスピード感は違うが、国内でもユーザー事例が徐々に増えている。古田氏の言う、シームレスな変化をとらえながら、デジタルビジネスを有効に展開可能なITインフラの整備・拡充が必須で求められていくだろう。

図3:デジタル時代のインフラストラクチャ(出典:エクイニクス・ジャパン)