クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

日本のデータセンターの価値を高める「運用現場」視点の課題解決策とは

クラウド&データセンターコンファレンス2017-18 アフタヌーン基調講演レポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2018年3月30日
定価:本体2000円+税

 データ経営時代にその格納、管理、活用の基盤として、これまでにないほどデータセンターの重要度が増している。しかしながら、データセンター業界はこれまで「セキュリティ」の名目上、情報をほとんど開放せず閉鎖的な時代が長かった。こうした現状を打破しようと、業界の有志により発足したオープンコミュニティがJADOG(Japan Datacenter Operators' Group:ジャドグ)だ。アフタヌーン基調講演に登壇したのは、JADOG発起人でビッグローブ 法人事業本部 マネージャー(登壇当時/現職はエクイニクス・ジャパン アカウント エグゼクティブ)の石原隆行氏(写真1)だ。氏はJADOGの活動指針から、現場視点でのデータセンターの課題を整理し、その解決のアプローチを提示した。 text:阿部欽一(キットフック代表) photo:河原 潤

人員不足、スキル不足を補う運用アイデア

 ビジネスにとって「データ」の重要性はますます高まっている。一方で、このまま閉鎖的な状況が続けばデータセンター業界の未来はない——。そんな危機感の下で2017年春に発足したのがJADOGだ。20年の歴史を持つネットワーク運用担当者コミュニティJANOG(Japan Network Operators' Group:ジャノグ)で活動していた石原氏が、「データセンター運用についてオープンに議論する場を」と発足の音頭をとり、有志が集まって発足したコミュニティである。

写真1:JADOG発起人/ビッグローブ 法人事業本部 マネージャー(登壇当時/現職はエクイニクス・ジャパン アカウント エグゼクティブ)石原隆行氏

 石原氏は、JADOGでの議論で挙がったメンバーの関心から、①人員/スキル不足、②老朽化対策、③外資クラウドの進出、④売り方の変化、⑤新技術の取り込みの5点を挙げて、事例を交えながら考察を示した。

 ①のデータセンター運用に携わる人員/スキル不足について、石原氏は「データセンターの運用とは、電源周りなどの統制センターだけではなく、顧客対応や営業対応を含めたトータルな運用である」と説明。運用担当者は、顧客対応・営業対応・社内対応の3つに追われ、「短納期や無茶な工事立ち会い、スキル不足、無茶な受注、ひいては人員削減という困難に直面している」と指摘した。

 こうした課題への解決策を、石原氏はみずから実践したものも含めて紹介した。入館申請システム、夜間コールシステム、リモート電源、ラック周りの工具貸出などだ。加えて、ウォークスルー顔認証、自販機や電子レンジなどの共用スペースの充実、ラック前に設置した防犯カメラを活用した電話でのリモート作業、メガネ型のウェアラブルデバイスによる作業支援といったアイデアを提案した。

 とりわけユニークなのが、RFIDでラック内位置を特定できるDCIM(Data Center Infrastructure Management)による棚卸しの業務効率化のアイデアだ。石原氏によると、実際に村田製作所が2018年3月にサーバーラックの棚卸しのためのRFID試作機をリリースする予定だという。

2021年、日本の企業DCの30%が老朽化で移転

 ②のデータセンター施設、設備の老朽化対策は、データセンター事業者が抱える課題の1位にもなっている課題だ。ガートナージャパンは「2021年までに日本の企業データセンターの30%が老朽化で移転せざるをえなくなり、そのための計画・推進・資金確保に多大な労力をつぎ込むことになる」と予測している。「米国では、データセンター事業にREIT(不動産投資信託)による事業集約・統合化の波も押し寄せている。日本においても、今後はこうした流れが加速化することが考えられる」(石原氏)

 解決策の例として石原氏は、大手事業者との提携・共同出資による新設、郊外移転、既存資産の移管などを挙げた。「撤退の際には、経緯・理由、複数の意向案・費用負担などについて社内で明確に決めておく必要があり、相当の工数がかかるケースも覚悟する必要がある」と指摘した。

 ④の売り方の変化については、データセンター施設・設備の保有状況に関する調査(インプレス総合研究所・クラウド&データセンター完全ガイド編集部)の結果として「自社保有の事業者の割合が増えている一方で、DC in DCで調達している事業者の割合が減少している」ことが示された(図1)。

図1:データセンター施設・設備の保有状況(出典:インプレス総合研究所/クラウド&データセンター完全ガイド「データセンター調査報告書2017」)

 ⑤の新技術の取り込みでは、多くのデータセンター事業者が課題に挙げる運用自動化の一例として、石原氏は、フィックスポイントの運用自動化プラットフォーム「Kompira(コンピラ)」の活用を紹介した。「運用担当者の増員が見送られる中で、サーバーは増え続けている。そんな状況下では、自動化技術は必須だ。今のところ100%の自動化は難しく、経験とチューニングが不可欠だが、Kompiraの導入効果は大きい」(石原氏)

 また最近では、ディープラーニングやAIの処理に必要なGPUサーバーをデータセンターでどう扱うのかという議論が頻繁に行われていると石原氏。特にGPUサーバーの排熱処理をどうするかが焦点になっているとして、東京工業大学が実証実験を進める液浸ラック技術を紹介した。

データセンターを中核とした街づくり

 今後、日本のデータセンター業界は、施設の老朽化問題とともに強者と弱者の差が拡大し、M&Aなどによって淘汰が進んでいく——。石原氏は「加えて、共同・オフショア運用などでさらに人件費を削減する動きが出てくることが考えられる。また、海外事業者の進出もより加速することが予想され、海外顧客増によるバイリンガル対応のサポートもやがて必須となると見ている」と述べた。

 そうした中で、データセンターの目指すべき1つの理想形として、石原氏は京都リサーチパーク(出資母体:大阪ガス)を挙げた。ここではデータセンターを中核に、研究所・大学、ベンチャー企業などが集結するような街づくりを行い、データセンターを高度に活用するインキュベート施設が共存するような環境の研究開発が行われている。

 講演の最後に石原氏は、データセンター業界をさらに活性化すべく、JADOGの活動を成功させたいとして次のような抱負と来場者への呼びかけを行った。

 「現在、JADOGの会員数は84名。事務局開設の準備も進んでいる。今回のような講演機会も得て、徐々に知名度を上げてきているので、3年後には300名くらいにまで拡大できたらという目標を持っている。皆さん、現場から日本のデータセンター業界を大いに盛り上げていきましょう」