クラウド&データセンター完全ガイド:プロダクトレビュー DCを支える黒子たち

IaaSの機敏な展開とITサービス提供の自動化を実現する事前統合型システム

Dell Active Infrastructure

デル株式会社

デルが2013年8月2日から販売開始した「Dell Active Infrastructure」は、「データセンターの効率化やITサービスのユーティリティ化を支援するコンバージドインフラストラクチャ」と位置付けられている。構成は、全体のリソース管理とダッシュボードを提供するソフトウェア「Active System Manager」を中心に、ワークロード毎のPaaSテンプレート「Active Solutions」、IaaS基盤用に必要なハードウェアを検証・事前統合済みの状態でパッケージ化した「Active System」という形で提供される。「Active System」は、vSphereとHyper-VベースのIaaSに対応し、規模に応じて4モデルがラインナップされる。

IaaSのためのプラットフォーム

Dell Active Infrastructureは、「IaaS運用に必要な作業を限りなく自動化・シンプル化し、すべてをシングルコンソールで管理する」ことで、パブリック・クラウド・サービスの使い勝手をオンプレミスで実現することをコンセプトとするシステムだ。サーバー、ストレージ、ネットワーク全体をひとつのリソースプールとして管理し、直観的な操作でシンプルに運用することで、要求に応じて“伸び縮み”するアクティブ・スケール(動的な拡張性)を実現する。もちろん、必要な検証済みハードウェアはすべて工場からラックに組み込み・ケーブリング済みで提供されるため、迅速な導入が可能になる。

ユーザー企業のプライベートクラウド構築のためのソリューションとして導入可能なのはもちろん、データセンター事業者やシステムインテグレーターなどが、ホスティングパッケージとして利用することも想定されている。

ハードウェアの構成

写真1 Dell Active Systemシリーズ(出典:デル)

Active Infrastructureを実現するハードウェア・プラットフォームとしては、事前統合済みのパッケージ「Active System」が提供される。ただし、まったく新しいハードウェアということではなく、既存のサーバー、ストレージ、ネットワークスイッチを組み合わせ、検証済みの状態で出荷されるものだ。規模の違いによって4モデルが用意される。基本となるのは、ラックマウントサーバー「PowerEdge R620」×2台で、全モデルに共通する構成要素となる。規模が拡大すると、ラックマウントサーバーやブレードサーバーが追加されていく。また、ストレージとネットワークスイッチに関しては、それぞれ規模に応じて適切なコンポーネントが組み合わされている(写真1)。

Active System 50

ローエンドに位置付けられる「Active System 50」は、「基本的な機能を実現するためのエントリーモデル」と説明される。対象ユーザーは、中堅・中小企業やデータセンター並みのインフラを必要とする小規模ITプロジェクトで、価格は895万円から。PowerEdge R620×2台に、ストレージとしてiSCSI接続のEqualLogic PS6100Xを2台、ネットワークスイッチには1Gbps×24ポートのPowerConnect-7024を4台組み合わせている。

Active System 200

中規模向けとなる「Active System 200」は、中小規模プライベートクラウドや仮想デスクトップなどを想定するが、リモートオフィスや支店向けのDRプラットフォームとしても利用可能という。価格は1,988万円から。Active System 50の構成に、ラックマウントサーバー「PowerEdge R720」を3台追加し、ネットワークスイッチを10Gbps×48ポートのForce10 S4810×2台にアップグレードした形になる。

Active System 800

大規模向けの「Active System 800」は、「中?大規模の仮想化インフラストラクチャに対応する、拡張性に優れたシステム」という位置付けだ。価格は個別見積もり。参考最小構成では、PowerEdge R620×2台にさらにブレードサーバー「PowerEdge M620」を8台(エンクロージャはM1000e×1)を追加し、ストレージはEqualLogic PS6110X×2台、ネットワークスイッチはForce 10 S4810×2とForce 10 S55(1Gbps×44ポート)を1台となる。Active System 2000の追加サーバーをブレードサーバーにアップグレードし、合わせてネットワークポート数を少し足した、という構成になっている。

Active System 1000

最後に、「大規模の仮想化インフラストラクチャに対応し、高度な可用性と拡張性を実現するハイエンドシステム」と位置付けられるActive System 1000は、参考最小構成で「M1000eエンクロージャ」×1、「PowerEdge M620」×8、「PowerEdge R620」×2というサーバーに、FC-SAN接続のストレージ「Compellent SC8000」×2に、SANスイッチ「Brocade 6510」×2が組み合わされる。ネットワークスイッチは、Active System 800と同様に「Force10 S4810」×2+「Force10 S55」×1となる。価格は個別見積もり。

ソリューションとソフトウェア

Active Infrastructureでは、統合管理ソフトウェア「Active System Manager」を中心に、PaaSテンプレートを実装する「Active Solutions」と、事前統合システムの「Active System」から構成されている(図1)。

図1 Dell Active Infrastructureの構成(出典:デル)ワークロードに最適化され、自動化され、統合されたインフラストラクチャにより、ITサービスデリバリを加速。価値創造までの時間を短縮し、TCOを削減。

Active Solutionsはワークロードのプロビジョニングを自動化するためのPaaSソリューションで、事前検証を通じてDellが推奨するリファレンス(参照用)アーキテクチャとともに提供される。対応予定のPaaSテンプレートとしては、マイクロソフトのエンタープライズ製品で、「Lync 10」「UC&C 13」「Exchange 10」「Sharepoint 10」「SQL Server 12」、仮想デスクトップ環境では「Citrix XenDesktop VDI」「VMware VDI」「Microsoft VDI」、プライベートクラウドとして「Microsoft Fast Track 2.0」「同3.0」となっている。

統合管理ソフトウェア「Active System Manager」は、2012年に買収したGale Technologiesの管理ソフトウェア製品で、「作業プロセスを自動化し、シングル・コンソールでコンバージドインフラ全体をシンプルに管理する」というもの。Active Systemに加えて他社のハードウェアも構成に加えて管理できる。主な機能として以下に挙げるものがある。

・テンプレートベースのプロビジョニング
・ワークフローオーケストレーション
・ワークロードマイグレーションとワークロードスケーリング
・インフラストラクチャのライフサイクルマネージメント
・リソースプーリング&ダイナミック割り当て

Active Infrastructureのハードウェアは、対象となる処理負荷の規模に応じて4モデルに分かれてはいるものの、基本的には既存製品の組み合わせであり、組み合わせるコンポーネントの種類や数を増減させているだけといえる。ハードウェア面では特別な新規性はないが、IaaSやプライベートクラウド、エンタープライズアプリケーション向けのインフラとして、ソフトウェアやソリューションを含めたパッケージとなっている点が、特徴だといえるだろう。システムインテグレーションの負荷をエンドユーザー側に投げるのではなく、ベンダー側で処理する、という流れに沿った取り組みだともいえる。パブリッククラウドが実用段階に入ったことで「ITシステムを所有し、適切にメンテナンスしつつ利用していく」ことの負担の大きさが改めて浮き彫りになった感があるが、Active Infrastructureは、そうしたエンドユーザー側の意識の変化に対するデルからの回答と見てよさそうだ。ブレードサーバーをベースに、オールインワン型のソリューションとして提供されるPowerEdge VRTXと一見よく似たアプローチのようにも見えるが、システムとしての性格の部分が異なっている。PowerEdge VRTXが中小規模のオフィス内でのワークロード処理を意識しているプラットフォーム製品なのに対し、Active Infrastructureは、管理ソフトウェアやテンプレートも含め、データセンター全体を最適化するIT基盤という位置付けで構成されている。従来、ハードウェアの差別化は主に機能/性能の面で行われてきたが、この両者の棲み分けからは、ハードウェアに加えてソフトウェアやソリューションによって、システムとしての性格付けを行うことで差別化していく、という方向性も伺える。