クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

災害に強い岡山でBPOまでワンストップ コロナ対策にも配慮した新規棟が完成――両備システムズ「Ryobi-IDC 第3センター」

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2021年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2020年12月22日
定価:本体2000円+税

両備システムズは、自然災害が少なく中四国地方の空路・陸路の要衝である岡山県内で、データセンター事業を展開している。ただし、データセンター事業単体ではなく、コンピューティングリソース(データセンター)、処理する人材(アウトソーシング事業)、BPOサービス事業までをワンストップで提供するのが同社の特徴だ。岡山市の北側にある「おかやまクラウドセンター」内にはRyobi-IDC 第2センターがあるが、2020年9月に同センター内に「Ryobi-IDC 第3センター」が竣工、全体で1000ラック相当のラックスペースの提供が可能になった。また、第3センターでは、設備のアップデートの他、Withコロナの時代を反映し、コロナ対策の設備も投入されている。 text:柏木恵子

写真1:Ryobi-IDC 第3センター外観

おかやまクラウドセンターに新規棟が完成

 両備システムズは、運輸交通観光関連、情報関連、生活関連の多岐にわたるサービスを提供する両備グループのICT部門を担う事業会社で、岡山県内にRyobi-IDCを展開している。本社に併設された第1センター、岡山県が造成した工業団地に構築された「おかやまクラウドセンター」内に第2センターを提供していたが、2020年9月に第3センターが竣工した(写真1)。

 おかやまクラウドセンターを構築したきっかけのひとつが、東日本大震災だった。それまでほとんどなかった、関東・関西からの問い合わせが増えたのだ。本社が立地するのは岡山駅の南側だが、おかやまクラウドセンターは北側の高台にできた先進企業向け工業団地内にある。

 岡山県は元々自然災害の少ない土地だが、高台にあるため水害のリスクはさらに低減される。そのメリットもあり、現在多くの県外の企業がDRやバックアップセンターとして利用している。また、Ryobi-IDCは以前からLGWAN(総合行政ネットワーク)に接続しているため、自治体などの利用が多いことも特徴だ。

 両備システムズ クラウドサービスカンパニー クラウドビジネス事業部センターサービス部の小西 暁センター長は、「第1センターはホストコンピュータを置いていた電算センターを改築したもので、終息させる方向。サービス提供が続くシステムについては、より可用性の高い第2センターに移動をお願いしているところ」と言う。その第2センターが満床に近づき、同敷地内に完成したのが第3センターだ。両備システムズでは2004年頃からデータセンター事業を提供してきたが、その経験から得た知見を活かして、設備などのアップデートも行っているという。

マルチティアに対応 第3センターのファシリティ概要

 第3センターの収容ラック数は最大520ラック。第2センターと合わせると、おかやまクラウドセンター全体では約1000ラックを提供する。これが一杯になれば、さらに第4センターを建てる予定だ。

 管理棟は第2センターにあり、第3センター以降はこちらを共用する。事務スペース、設備監視などのオペレーションルーム、顧客向けに貸し出す会議室やセットアップルーム、レンタルルーム、リフレッシュコーナーなどは、管理棟にある。

 第3センターの構造は鉄骨造地上3階建てで、各種積層ゴムを使った建物免震(写真2)。消火設備は窒素ガス消火だが、これは噴出すると非常に大きな音が出てサーバが止まるという危険性があるため、消音ノズルをつけて対応している(写真3)。

 データセンターのファシリティ基準では、JDCCのティア4相当で構築しているが、実際にはティア3で十分という顧客も多い。そこで、標準提供はティア3、要望に応じてティア4やティア2でも提供するマルチティア対応となっている。その他、FISC(金融情報システムセンター)の認証も受けている。

 ベンダー色のない地場データセンターのため、ネットワークは当然キャリアフリー。LGWAN接続の他に、TOKAIコミュニケーションズが「おかやまクラウドセンター」でIXを提供しているため、構内接続でその大容量ネットワークが利用できるのも特徴だ。

写真2:鉛プラグ入り積層ゴム(左)と天然ゴム系積層ゴム(右)
写真3:消音型ガス放出ノズル

運用経験に基づいて電力・空調設備をアップデート

 データセンターで重要な電力は、異なる2つの変電所から2系統受電。中国電力は電力供給予備率が国内トップクラスで、中国地方は実は電力が潤沢な地域だ。

 現状は6600Vで受電しているが、第3センターは特高引き入れを前提とした設計のため、需要が増えれば特高設備に置き換えることができる。非常時の自家発電装置もN+1冗長構成で、最低でも72時間、3日間は稼働可能。現在の電力需用なら、「200時間は大丈夫」(小西氏)という。広域災害時などそれ以上の稼働が必要な場合も、グループ内にガソリンスタンドを経営する両備エネシスがあるため、確実に燃料を確保できる。

 UPSは、基本はN+1構成だが、N+2にしてティア4で提供することも可能。また、データセンターサービスを安定して継続するために、これまでの運用で分かってきた設備構成のアップデートも行った。

 従来の一般的なUPSの構造では、複数のUPSを一括でバイパスするため、大規模な電源断が発生するリスクがあった。そこで第3センターは、1台のUPSをメンテナンスのために切り離す場合、グループ化された複数台のUPSをひとつのバイパス回路に切り替えるのではなく、そのUPSだけを個別にバイパスさせるという構成で構築。メンテナンス時などの電源消失のリスクを低減している。

 もうひとつの重要要素である空調だが、おかやまクラウドセンターでは環境配慮の観点から外気冷房を採用している。免震ピットを利用して外気を冷却し、空調に活用するというものだ。第2センターではさらに省電力を追求するため、チラーによる冷水を使った空冷を組み合わせた集中空調を採用した。ただし、第3センターでは湿度コントロールがしやすい高効率パッケージ空調との組み合わせに変更している。

 サーバルーム内はアイルキャッピングされ、床下から吹き上げた冷気を前面吸気(写真4)、暖気は背面から排出して天井裏に集め、外部に排出する。第2、第3センターでは、AIによる空調制御が行われている。

 ラックの上下に温度センサーと、約1.5ラック間隔のワイヤレスセンサーを設置して、室内空間全体の温度分布を測定。室内全体が均一に冷やされるように空調機を個別にAIが自動でコントロールする。熱だまりができないことも重要だが、高密度ラックの発熱に合わせた空調で冷えすぎのエリアができてしまうと無駄な電力を消費することになるため、冷やしすぎないことも重要だ。また、万一空調機が故障したり急に機器の発熱量が変化したりした場合でも、即座に自動的にサーバルーム内の空調バランスをとることで空調環境の可用性にも寄与している。

 空調機をどのように制御すればどこの温度がどう変化するか、1カ月程度学習させたAIが制御している(図1)。

写真4:冷気は床下から吹き上げ、暖気を天井へ排気
図1:AIを活用した空調制御

フレキシブルな構造のサーバルームセキュリティとコロナ対策

 サーバルームは建物の2階と3階だが、部屋を区切ってさまざまなエリアを設定できるのが第3センターの最大の特徴である(図2)。簡易なパーテーションではなく、壁を作って部屋として提供し、50ラック以上であれば専用の前室および指定のTier環境を備えた個別のサーバルームとして利用できる。

 ラック当たりの供給電力は、通常ラックエリアでは6~8kVA、高負荷エリアは最大20kVAとなり、高集積サーバやGPUサーバの搭載も可能。ラック搭載重量はラック当たり1トンとなっている。提供ラックは、フルラック、ハーフラック、クオーターラック、1/8ラックの4タイプを用意している(写真5)。

図2:フレキシブルな構造のサーバルーム
写真5:フルラック、ハーフラック、クオーターラック、1/8ラックの4タイプを提供

 データセンター敷地内からサーバルームまで、物理的なセキュリティ区画を設定し、セキュリティレベルに応じた各種装置を配置している。入館には事前申請が必要で24時間365日有人対応で入退室管理を行う他、監視カメラで建物内外を常時監視・記録。権限設定したICカードとフラッパーゲートで、セキュリティレベルに応じた入退出制限と追跡、共連れ防止を行っている。さらに、サーバルーム内に入室する際には生体認証を行い(写真6)、ラックの解錠・施錠はICカードで管理して開閉ログを保存(写真7)。

 その他、第3センターで追加された設備として、前室にボディスキャナを設置している(写真8)。これは、入退室管理だけでなく、個人レベルでの持ち込み品の管理を厳重にしたいというニーズがあったためだ。サーバルーム内には事前申請のないUSBメモリなどのような小さなものも持ち込めないようになっている。

写真6:サーバルーム内への入室は生体認証
写真7:ラックの解錠もICカードで行う
写真8:サーバルーム前室にボディスキャナ(金属探知機)を完備

 また、Withコロナの時代ということもあり、マスク着用のチェックをするカメラを設置している(写真9)。空調で空気は循環しているものの、サーバルーム内は密閉空間なので、マスクを着けずに入室しないようにということだ。さらに、密を避けるという意味で、前室内に入る人数を制限するためのカメラと案内表示も設置している(写真10)。

 コロナ対策といえば、第2センターにあるリフレッシュコーナーは広いスペースに机や椅子を配置した開放スペースだが、第3センター内には個室のリフレッシュコーナーがある(写真11)。人と接触せずにPCで作業できるし、そこでリモート会議に参加しても音漏れしないようになっているという。

写真9:マスク着用をチェックするカメラを設置
写真10:前室が密にならないように、入室の可否を案内する
写真11:個人用のリフレッシュコーナー「サテライトブース」

ハイブリッド環境を提案 共創クラウドを目指す

 両備システムズは、データセンター事業以外にソリューション提供やコールセンター・プリンティングなどのアウトソーシング事業、BPOサービスなど、さまざまなICTサービスを提供している。おかやまクラウドセンター横には事業所を構えており、複数のエンジニアが勤務しているため、大規模災害が発生してSEの手が必要となれば人的な支援も行える。

 また現在、IaaSやクラウド型のビジネスアプリケーションなど、パブリッククラウドとの閉域接続も進めており、ユーザーはマルチプラットフォームによるハイブリッドクラウド環境が利用できる。さらに、両備システムズクラウドサービスカンパニー クラウドビジネス事業部の水田 稔執行役員は「その延長で、いろいろな企業とのBPOを含めた仕組みや、新たな価値の提供を生み出す“共創クラウド構想“の実現化を進めている」と語る。

図3:「共創クラウド」の概念図
表1:Ryobi-IDC 第3センター設備概要
所在地岡山県岡山市
竣工2020年9月
建物仕様 構造鉄骨造
     階数地上3階
   延床面積3,049㎡(最大520ラック)
    床荷重約1,000kg/ラック
   免震構造各種積層ゴム
受電設備異変電所より2系統受電
非常用電源設備UPS(N+1冗長構成)、非常用発電機(72時間連続運転可能、N+1冗長構成)
空調設備外気冷房+高効率パッケージ空調、AI制御
火災対策設備窒素ガス消火設備、超高感度煙探知システム
認証方法ICカード、生体認証
その他セキュリティ監視カメラ、フラッパーゲート、ボディスキャナ等
ラック供給電力標準6~8kVA/ラック、高負荷エリアは最大20kVA/ラック
ネットワークキャリアフリー(複数ルートで引込可能)、LGWANへの接続が可能
アメニティレンタルルーム、リフレッシュコーナー、サテライトブース、シャワルーム、仮眠室