クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

三菱商事 MCC三鷹ビル――高度で堅牢なファシリティと快適なオフィス、「マシン」と「ヒト」の最適な環境を追求

東京・三鷹の地で三菱商事が運営するコンピューターセンターとしてスタートしたMCC 三鷹ビル。1985年の開業より始まったDC in DC モデルのデータセンター事業は、2013年10月、最先端の設備でエコと高効率を実現したサウス棟の完成以降、いっそうの強化を重ねてきた。JDCC ファシリティスタンダードティア4 相当の設備設計、72時間連続運転可能な非常用発電機といった堅牢なファシリティと、オペレーションセンターやBCPオフィス利用などの快適なオフィススペースを併せ持つ同データセンターの特徴・スペックを紹介する。

DC事業者がテナントのDC in DCモデル

 本連載では、これまで主に事業者がエンドユーザー企業に向けて運営するデータセンターを取り上げてきたが、今回は少し毛色が違う。三菱商事MCC三鷹ビル(写真1)は、データセンター/クラウドサービス事業者などがテナントとして入居する「DC in DC」がメインのデータセンターである。

写真1:MCC三鷹ビルの外観。ノース棟(左)とサウス棟(右)という異なる特徴を持つ2棟からなる

 テナントには、大手通信事業者や大手SIerがおり、各テナントが自社ブランドでデータセンタービジネスを展開している。三菱商事の社名は表に出てこないが、長年の設計・運用経験を基に高性能・高信頼なサービス提供を支えている。いわばデータセンタービジネスの黒子とも言える存在だ。

 テナント側から見たDC in DCの利用メリットは、膨大な設備投資が不要で、構築までにかかる時間を短縮、設備人材の確保・維持の心配がない点だ。現在、2020年の東京夏季オリンピック・パラリンピックを控えて建設コストが高騰していることもあり、自社でデータセンターを建設するには大きな投資が必要となる。さらに、非常用発電機1台とっても発注から納品までに8カ月かかるなど、建設には長い期間を要す。必要なタイミングでデータセンターやクラウドのビジネスを始動させるのに、実績のある施設を短納期で利用できる選択は合理的だ。人材面でも、腕のある設備系エンジニアを一から確保するのは難しく、そこをエキスパートに任せて自社のコアビジネスに集中するのが正解だろう。

 コンシューマーの世界ではシェアリングエコノミーが広く浸透した。エンタープライズの世界でも、「IT資産の所有から利用へ」の流れが着実に進んでいる。SaaSやPaaS、IaaSと同じ考え方で、データセンター事業者がファシリティを所有せずとも事業を行えるDC in DCの選択は理にかなっているし、すでに欧米などでは一般的なモデルとなっている。

「DCでヒトとマシンはどうあるべきか」を追求したノース棟とサウス棟

 東京都三鷹市はいわゆる“データセンター銀座”として知られる。新宿駅から三鷹駅までは約15分と都心からのアクセスが良好。そのうえ立川断層帯から10km以上離れた武蔵野台地の固い地盤(N値60以上)に位置している。東京湾から20km以上、標高53mと津波の心配もない。この点は2011年の東日本大震災の後、いっそう脚光を浴びることとなった。さらに、都心から見て「大きな河川を渡らない」というのもメリットだ。災害時に橋やその付近が大渋滞になることが多いが、そうした影響も受けにくい。

 こうした立地の利便性、耐災害性の高さに加えて自治体の誘致も盛んなため、多くのデータセンターが三鷹に集まってきた。その中でも三菱商事がこの地でデータセンター事業を始めたのは早く、すでに30年以上の運用実績がある。

 写真1をご覧のように、MCC三鷹ビルは、ノース棟とサウス棟というタイプの異なる2棟が1つの敷地内に隣接している。事業者個々のニーズに応じて、1ラックのハウジングから、1フロアの「スケルトン」、サーバー室とオペレーションセンターを組み合わせたコロケーションまで自由度の高い設計が可能だ。

 ノース棟(写真2)はデータセンターの利用に加えて、拡張可能なオフィススペースや会議室(写真3)、カフェテリア(写真4)、仮眠室などを備え、“ヒト”が快適に働くためのスペースとなっている。

写真2:ノース棟のエントランスには、有人受付とICカード利用のフラッパーゲートがある
写真3:ノース棟には、プレゼンルームや会議室を含む広大なオフィススペースがある
写真4:カフェテリアは社員食堂といった趣で、毎日しっかりした食事がとれる

 一方、2013年10月開設のサウス棟は“マシン”の稼働に特化した堅牢なスペースを提供する。もちろん、ノース棟とは地下の管路でネットワークがつながり、各種のオペレーションが可能となっている。

堅牢なインフラが24時間・365日の事業継続を支える

写真5:無給油72 時間の連続運転が可能な非常用自家発電機

 ファシリティ面での最大の特徴は、強固なインフラをベースにあらゆるリスクを想定した事業継続体制を構築している点にある。電力は、東京電力千歳変電所から特別高圧6万6000Vを本線予備線の2系統受電、通信回線や配管、その他設備を冗長化している。非常用自家発電機はガスタービン式とディーゼル式(写真5)がN+1構成で、両棟合計で18台が設置されており、無給油で72時間(3日間)の連続運転が可能だ。

 しかも、災害時にはグループ会社から優先的に燃料を調達できる体制が整う。4カ所の給油所から24時間で燃料が届くため、後は発電機が壊れでもしないかぎり発電し続けられるわけだ。また、予備の発電機がすでに用意されてあり、電力需要が急に増えた場合でも対応することができる。

 また、上述したノース棟のオフィススペースは「BCPオフィス」としての要件を備える(オフィスのみの利用も可能)。電源はデータセンターと同じように非常用発電機から供給され、大規模な災害時でも通常どおりの業務を継続できる。すでに金融機関などの企業が入居している。

サウス棟の免震システムとセキュリティ

 ファシリティの詳細を見ていこう。ノース棟は新基準による耐震構造をとり、新しいサウス棟は免震システムを導入している。積層ゴム支承(写真6)を26本、弾性すべり支承(写真7)を14本、合計40本の免震装置で建物を支えている。免震システムでは、揺れを吸収するとともに元の位置に戻ることが重要だが、2015年の小笠原地震のときのレコーダーの記録によれば、このとき5mmほど動いて中心に戻っていた。

写真6:変形して揺れを低減し元の位置に戻す積層ゴム支承
写真7:摩擦で地震エネルギーを吸収する弾性すべり支承
写真8:重量計および人感センサー搭載のサークルゲート

 サウス棟は、エントランスからは見えない場所に検査室があり、X線による手荷物検査と金属探知ゲートがある。検査室を抜けるにはフラッパーゲートがあり、ICカードで認証する。マシンルームエリアに入るには、アンチパスバックが設定された前室からサークルゲート(写真8)を通る。サークルゲートは、「共連れ」や「すれ違い」といった不正通行を排除するため、エリアセンサー、マットスイッチ、重量センサー(上限110kg)によって1名の通行であることを厳格にチェック。さらに、個別のマシンルームに入るには、ICカードと静脈の2要素で認証する。また、マシンルーム内には多数の監視カメラが設置されている。

フリーデザインのマシンルーム

 サウス棟は2~4階がマシンルームのエリアで、1つのフロアは廊下で東西2つのエリアに分けられている。この2分の1フロアが一般的な貸し出しサイズ単位で、それぞれに電気室と空調機械室が隣接している。マシンルームは階高4,550mm、フリーアクセス800mmで、床荷重1.5t/ ㎡、平均6kVA/ラックまで対応可能だ。

 電源設備を冗長化し2系統で受電するため、ラック(写真9)の両側に配電盤があり、100Vと200Vに対応している。また、ラックの開閉はラック列側面のICカードリーダーで行う。MCC三鷹ビルのテナントの多くは、ある程度広いスペースで契約している。あたかも自社のデータセンターのように自由にデザインできる点が評価されている。高集積、高密度搭載ラックやケージング、段階実装など、多様なニーズに合わせたレイアウト設計が可能で、要件に応じて設備などをカスタマイズすることも可能だ。

写真9:ラックは標準的な46Uサイズ(1,200×750×2,200mm)

 マシンルームの東西側に隣接して電気室があり、2500kWのUPS電力を、1/2フロア単位に供給する。特高室から6600Vで届く電気をUPSで400Vに落とし、そこからPDUで100V/200Vに落としてマシンルームに2系統で供給するという流れだ。

東京で初、外気空調を利用

 空調は床下吹き上げの方式で、暖気は壁の上方のスリットから南北側に隣接する空調機械室に送られる。空調機械室にはエアハンドリングユニットが設置されるが、外気も利用できる設計になっている(都心近郊で初)。完全外気空調の場合のPUE設計値は1.22だ。

写真10:外気利用時の排気ファン

 完全外気空調では、夏季の日中など外気温が高い時を除き、年間の約7割の時間を外気で冷却する。冬季は外気が冷たすぎるのでサーバーの排熱と混合し設定温度に自動調節する。この場合、外気取り入れ口から取り込んだ冷気を空調機の中で除加湿し、マシンルームの床下から吹き上げる。排熱は壁のスリットから空調機械室へ流れ、排気ファン(写真10)で外に逃がす(図1)。屋外に出した排熱を上の階の外気取り入れ口から吸わないよう、排気ファンはダクトにつながっていて屋上に排気する。

図1:都心近郊データセンターで初採用の完全外気空調システム

 屋上に設置されている空調機のチラーは上部にパイプが巡らせてあり、そこからミストを噴射して空調効率を上げる工夫が施されている。また、冷水のバッファタンクも屋上に設置されている。災害などで電力が止まると、非常用発電機が起動して再び空調機が稼働するまでにマシンルームの温度が急激に上がってしまう。そこで、空調機が数分以内で再稼働するまでの間、バッファタンクの冷水を用いて冷却する。

 事業者や企業にとって、堅牢なファシリティを構築するに要するコスト、時間、人材の問題は非常に大きな課題だ。そこで、実績豊富な高信頼ファシリティで、しかもカスタマイズの自由度も高いMCC三鷹ビルのDC in DCは検討する価値の高い選択肢だと言える。また、オフィスのすぐれた居住性や省エネ性に着目して、BCP体制の強化を図る際にも有用だろう。

表1:三菱商事 MCC三鷹ビルの設備概要

(データセンター完全ガイド2016年秋号)