クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行
エクイニクス IBXデータセンター「TY4」
2014年3月19日 15:54
エクイニクスは、世界15カ国、主要31都市に95カ所以上のデータセンターを運営するグローバル企業である。社名の由来は「イコール・インターネットエクスチェンジ」ということで、インターネットエクスチェンジの会社としてスタートした。現在は、インターコネクションとグローバルのデータセンター、さらにエクイニクスマーケットプレイスなどを活用したビジネスエコシステムによって、Platform Equinixを形成している。
ビジネスエコシステムでは、ネットワーク事業者を中核として、金融サービス、クラウドコンピューティング、コンテンツ&デジタルメディア、エンタープライズの4つの事業分野を合わせ、計5つの業種に対してサービスを提供している。顧客数が最も多いのはネットワーク事業者だが、それぞれバランスよく各業種の事業者が参加して、活発なビジネスエコシステムを形成している。
インターネットトラフィックの大きい市場に進出するのがエクイニクスのビジネスの指針であり、現在大きく拡大しているのがアジア・パシフィック地域である。特に、スマートフォンを中心としたモバイルのトラフィック、そこで広告配信を行うアド・エクスチェンジ、金融の電子取引などがトラフィック増大の大きな要因となっている。
エクイニクスでは、トラフィック増加によるデータセンター需要に応える形で市場に進出し、2013年はデータセンターの増設や新設などのプロジェクトが13件動いている。そのうち6カ所がアジア・パシフィック地域であり、日本では8月にスタートした大手町に続いて、12月には大阪にもIBXデータセンターがオープンする。2001年5月にTY1がスタートした時には800ラック相当だったキャパシティも、TY4のスタートで3,450ラック相当となった。12月に大阪のOS1がスタートすれば4,250ラック相当になる。エクイニクスにとっての日本市場は、最も積極的に取り組んでいる市場のひとつといえるだろう(図1)。
インターネットトラフィックの中心地
エクイニクスのIBXデータセンターは、グローバル展開しており、バイリンガル対応が可能である点、高信頼で低遅延のネットワークに多数接続できることが特長である。エクイニクス・ジャパン代表取締役の古田敬氏は、IBXデータセンターが多数の通信事業者を選択できるキャリアニュートラルなポリシーを維持している点が、最も重要だという。ネットワークだけでなく、クラウド事業者などについても、特定の事業者に偏重せずに、中立性を保っている。
そもそも、大手町に新しいデータセンターを作るのはなぜか。高層ビルの地下にデータセンターを設置するのは、グローバルに見てもあまり例がない。本来は、データセンター専用の建物を建てる方が、運用の柔軟性が高く、収益性や効率はよい。それでも、大手町に新しいデータセンターを設置することについて、特に外資系企業からは非常に歓迎されたという。というのは、大手町は通信事業者の制限を受けたり、拡張が難しいなどの制約のあるデータセンターが多く、さまざまな企業が十数年にわたって苦労してきたという歴史があるためだ。
制約があるとはいえ、多くのネットワークが大手町にプレゼンスを持ち、利便性やネットワーク密度の高さといったメリットがある「メッカ」であることは間違いない。インターネットエクスチェンジの会社として始まったエクイニクスが、そのメッカである大手町にデータセンターを持っていないというのは、日本のインターネット通信基盤を強化する目的に照らせば、まだ発展途上にあったといえる。TY4の開設によって、「本来あるべき場所にようやくできた」(古田氏)ということになる。
大手町というロケーションには国内主要IXが集中し、150以上の通信事業者やコンテンツ事業者が相互接続しているなど、日本のインターネットトラフィックの中心地である。また、国内主要キャリアによる充実した光ファイバ網があり、複数のPOPへアクセスが可能であるなど、大容量で高速な通信環境が整っている。さらに、日本最大のビジネスエリアであり、交通の便もよい。
大手町のTY4が加わったことにより、エクイニクスのIBXデータセンターは都内に4カ所となった。さらに、エクイニクスの外部アクセスポイント(ネットワークノード)であるTP(Tokyo POP)がやはり都内に4カ所あり、これらにより東京メトロバーチャルキャンパスを構築している。
個別の要望に応えるエンジニアリング
データセンターとして最低限の仕様、設備を用意し、そのうえで顧客からの個別の要望に応えることがエクイニクスの特長だ。
データセンターの大部分のスペースは、建物を建設したときにラックの設置まで行い、そのラック単位で貸し出す場合が多い。統一された規格の中に機器を設置してもらうというスタンスである。しかし、特に外資系企業では、ケージ、ラック、電源仕様、ケーブリングの仕様に対して、自社のポリシーを持つ場合が多い。そこでエクイニクスでは、セールス・エンジニアが電源や冷却の他、どのようなラックやケージが必要かなどのリクエストをSDR(スペシャルデザインリクエスト)としてヒアリングし、さまざまな要望に応える体制を整えている。ケージの網目の形まで指定されるケースや、ネットワークの遅延にシビアな金融取引事業者の場合は、接続したいラックへの距離まで指定されることがあるという。そのような細かい要望まで対応するのがエクイニクスの特長だ。
最初に効率がよくなるようにラックを配置しておく場合と異なり、それぞれ独自の形をしたケージを効率よく配置するには工夫が必要となる。電源や冷却の効率も含めて、スペース効率よくコロケーションルームを埋めるために、パズルをするように工夫している。エクイニクスでは、顧客ごとに固有のさまざまな課題や要求に対して、エンジニアリングが対応可能だという。
そもそも、顧客の変化や顧客企業のビジネスの成長などにより、データセンターは当初設計したとおりに運用されることはほとんど期待できない。そこを顧客の要望に応えるエンジニアリングで対応できるところが、エクイニクスの強みだといえるだろう。
差別化ポイントとなる運用サービス
顧客の個別の要望に応えるという点では、プリセールスの段階だけでなく、日常の運用においても、その柔軟な対応はエクイニクスの最も重要な差別化ポイントであるという。通常、データセンターは24時間監視オペレータに監視、運用されている。データセンターの利用者にとっては、ちょっとした作業を彼らにお願いできないか、と思うのが人情だ。しかし、日本の多くのデータセンターではそれは難しい。「事前に手順を取り決めて合意した内容以外はお受けできません」というケースも多く、IT機器の設置もままならないこともある。これは日本の会社が運用の取り決めに厳格であるという、運用ポリシーの問題以外に、データセンター事業者側と顧客側との責任範囲であったり、手厚いオプションサービスにはそれなりのリスクが加わるため、簡単に利用できないといった事情もある。結果として、IT機器の設置・運用、そして障害の発生時には、企業のITスタッフがかけつけるという状況が生まれる。
それに対してエクイニクスは、基本的な運用ルールはグローバルで共通しており、それに基づいたサービスを提供している。ファシリティやネットワークの監視は、シンガポールと日本の二重で監視しており、現場には、フィールド・エンジニアと呼ばれる、データセンターのファシリティやITにかかわるさまざまなスキルを身に付けたスタッフが常駐している。顧客ごとの個別の要望に対しても、柔軟な対応が可能だという。しかも、バイリンガルの対応が可能だ。
このような運用サービスを提供している背景には、日本にITスタッフが常駐しない外資系企業の顧客が多いという事情が大きいと思われる。しかし、スピードが要求されるビジネスにおいては、IT部門の迅速な対応が必要であったり、グローバルに進出しはじめた企業であれば、外資系企業に限らず、国内企業でもエクイニクスのグローバルで統一されたサービスを必要とすることもあるだろう。実際、日本企業であっても、グローバルに進出している企業では、オペレーションをインドなどにオフショアしているケースが出てきており、問い合わせを英語で依頼する企業ニーズもあるという。
設備と物理セキュリティ対策
TY4のある大手町フィナンシャルシティは、地下にデータセンターの区画を持つ物件として作られている。空調機はすべて空冷式で、ノースタワーとサウスタワーの間のアトリウムに空調機の外調機を置くスペースがある。高層ビル全体が煙突効果で排熱を処理しており、建物全体のエネルギー消費量を削減している。また、3機のジェネレータを置くスペース、燃料の備蓄槽などはあらかじめビル側が用意している。別用途の建物を改修するのとは異なり、データセンターに必要な施策はすべて打たれている場所だ。ビル自体は制震構造だが、データセンターは地下にあるので、横揺れの影響は少ないと考えていいだろう。受電能力は、ビル自体が66kV特別高圧受電をループ方式で引き込み、そこからデータセンター専用に分岐させている。
UPSシステムは高効率のダブルコンバージョン方式を採用。各UPSは6台の500kVAユニットで構成され、オープン時の容量は2500kVAだが、将来的にUPS500kVAを4台追加可能であり、最大容量は4000kVAとなる。非常用発電機は、N+1構成の3500kVAガスタービン式発電機を複数備えている。発電機は商用電源の遮断を検知すると自動的に起動し、電力の供給を開始する。3基の燃料保存タンクはそれぞれ7万5000リッターの容量を持ち、地下に設置されている。
コロケーションルーム内の基本設備は、空調はインバータFAN付きCRAC(コンピュータ室空調)ユニット、電力はSTS付き冗長構成PDU。ネットワークケーブル配線は天井のトレイ内に張りめぐらされており、照明はモーションセンサで点灯するLED照明である。また、ガス消化制御バルブは、死角のない火災予兆システム(VESDA)で起動する。
使用環境
入室の際は、セキュリティ・コントロールルーム(いわゆる受付)でパスの発行を受ける。セキュリティスタッフは24時間常駐しており、CCDカメラで監視している。入場ゲートは1カ所のみで、地下なので裏口もない。データセンター内に入るとすぐにローカル・オペレーション・コマンド・センターがある。24時間365日体制でビル管理システムによる常時監視や警報受信をするほか、顧客からの要望に応じたオンサイトサービスを提供するフィールド・エンジニアが常駐している。
コロケーションルーム内に入るには、カードと掌静脈による生体認証を行う。コロケーションルーム付近の作業用ブースは、飲料や軽食の自販機もあり、かなり便利そうだ。ちょっとした打ち合わせや休憩ができるテーブルもある。また、セットアップなどのための部屋や、梱包材などのごみを集積している部屋もあり、使い勝手がよさそうである。中で作業をする人のために、無線LANや内線電話も提供している。
交通の便がよくすぐに駆け付けることができて、内部での作業をするにも快適という都市型データセンターだが、実は現地のスタッフに多くのことを任せることもできる。「ビジネスがうまくいっている会社はスピードも求めているし、多くの要求があってわがまま。そのわがままに応えることができるデータセンター」(古田氏)である。