クラウド&データセンター完全ガイド:DCC2P

省エネ「ベンチマーク制度」の疑問点を深掘りする――DCC2P Vol.10「改正省エネ法対策特別セミナー」パネルディスカッションレポート

 クラウド&データセンター完全ガイドでは、データセンター業界における新たな価値創造を目指すコミュニティ「DC Co-Creation Place(DCC2P)」を2020年に設立し、定期的な勉強会や交流会を企画・開催している。2023年3月17日にはその第10回目のイベントとして、「データセンター事業者の改正省エネ法対策」にフォーカスした特別セミナーを開催した。特別セミナーの最後には、DCC2Pアドバイザーの田沢一郎氏と、日本データセンター協会(JDCC)環境基準ワーキンググループ リーダー/一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)データセンター省エネ専門委員会 委員長の小林賢造氏(富士通株式会社)が登壇し、基調講演で省略した部分や聴講者からの疑問についての解説とディスカッションを行った。 text:柏木 恵子
DCC2Pアドバイザーの田沢一郎氏
JDCC環境基準ワーキンググループ リーダー/JEITAデータセンター省エネ専門委員会 委員長の小林賢造氏

事業者ごとの報告対象

 パネルディスカッションの最初は、基調講演で時間が足りなかった部分を、小林氏があらためて解説した。各事業者がどの範囲の何を報告するのか、整理しておく。元になるのは、「ベンチマーク制度の概要について」の令和4年4月版(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/support-tools/data/2022_01benchmark.pdf)である。

制度対象となる事業所(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)
テナント事業者のエネルギー使用量(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)
所有形態ごとのエネルギー使用量の報告対象事業者(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)

①データセンターの建物を所有する事業者(オーナー)

PUE:建物全体(複数のデータセンターがあれば合算値で算出)

 「建物全体にかかるエネルギー量」を、自社所有かテナント所有かに関わらず「建物内にあるすべてのIT機器にかかるエネルギー量」で割って算出。ただし、社内システムのみが稼働するデータセンターや、サーバ室面積の合計が300㎡未満のデータセンターは除外する。

エネルギー使用量:建物全体の使用量から、テナントが持ち込んでいる機器や設備の使用量を除く

 エネルギー使用料への疑問点としては、以下のような項目が挙げられた。

1)自社所有IT機器と同フロアでラックスペースを貸しているハウジング部分は、エネルギー使用量をラックごとに計測しなければテナントの使用量を除外できない。ラックごとにエネルギー使用量を計測する仕組みが必要なのか?

2)ラック貸しでIT機器を持ち込んでいるテナントは、エネルギー使用量の報告義務がないため、使用量を通知する必要はない。報告されない部分があっていいのか、それともオーナーの使用量として算入するのか?

3)社内システム専用データセンターは、エネルギー使用量からも除外していいのか?

 疑問1)に対しては、「算出できない場合は、相互で合理的な方法で算出してくださいとなっている。実計測でなくても、例えばラック数で部屋の半分を使っているから使用量も半分にするという方法でも構わない」(小林氏)という見解が示されている。

②DC in DCの事業者(一棟、フロア全体、サーバ室全体を借りていている場合のみ)

PUE:自社が管理する部分のみのPUE

 建物オーナーから、自社が管理する区域(棟なりフロアなり)全体のエネルギー使用量を通知してもらう。この時、全館空調やエレベーターなど共用部分にかかるエネルギー量も加える。共用設備は面積比で、空調は消費電力比で求める。それをDC in DC事業者の建物全体にかかるエネルギー量とみなす。その「みなし建物全体エネルギー量」を、IT機器にかかるエネルギー量で割る。ただし、フロア全体を借りていても、その面積が300㎡未満であれば報告対象外。

エネルギー使用量:みなし建物全体エネルギー量

 建物の空調や照明にかかる使用量がオーナーとテナントの両方に算入されているが、それは気にしない。協力して省エネの努力をすべき物だから、という理由。

③自社IT機器でホスティング・クラウド事業をしているテナント(一棟、フロア全体、サーバ室全体をハウジングで借りている場合のみ)

 年間エネルギー使用量1,500kLを超える大規模なホスティング・クラウド事業者が対象。基調講演で挙げている「AWS」や「DMM GAMES」などはここに入る。フロア全体を借りていても、その面積が300㎡未満であれば報告対象外。

PUE:報告義務なし

 ベンチマーク制度の対象ではないが、省エネ法の対象ではあるので、原単位改善の推移を報告する。

エネルギー使用量:自社が専有している区域の使用量を報告

 建物オーナーから、自社が借りている区域(棟なりフロアなり)全体のエネルギー使用量を通知してもらい、それを報告する。建物の空調や照明の使用量がオーナーとテナントの両方に算入されているが、気にしない。

④ラック単位でハウジング利用し、自社IT機器でホスティング・クラウド事業をしているテナント

PUE:報告義務なし
エネルギー使用量:報告義務なし

 評価基準はあくまでPUE(またはエネルギー消費原単位)なので、エネルギー使用量の正確さに神経質にならなくてもよいのかもしれない。

 ただし、「このようにいろいろな疑問が生じるということは、業界として声を上げる必要がある」(田沢氏)。「自社はこういう方法でやりたい。これが合理的だ」という意見が集まることで、制度が事業者にとってよい方向にチューンされていくので、事業者は大いに声を上げてほしい。

PUE 1.4は妥当なのか?

 参加者から事前に寄せられた質問では、制度に対する疑問がいくつかあった。まず、なぜPUE 1.4という値になったのか。これは、「PUE1.4がアンケート回答事業所の上位15%程度に相当するとして指標化された」というが、アンケートに回答した事業所数は47となっている。

 そこで、以下のような疑問点が挙げられた。
1)47事業所にアンケートした内容で決めるのは妥当か?
2)上位15%で決めるのは妥当か?
3)PUEに影響を与える要素が考慮されないのは妥当か?

 3つめについては、以下のような意見がある。

  • 省エネだけを考えて立地選定しているわけではないのに、立地が考慮されない
  • そもそも1.4は出ない設計の施設もある
  • サーバ室の温度を上げるにはお客さんであるテナントの理解を得なければいけないが、それは難しい
  • テナントが何かの事情で解約した場合もPUEが悪化する

 こうした疑問に対しては、エネ庁には業界としての疑念は伝えていて、「PUE算出方法を統一した初年度報告結果をもって、必要に応じて水準の見直しをする」と返答されているという。「突っ込みどころはたくさんあるが、制度として何か決めてスタートしなければならない。初年度はこれで進めるとして、じっくり取り組むことになるのでは」と小林氏は言う。

PUEの現水準と今後

 また、会場から以下のような意見が聞かれた。

 「原単位削減をがんばってSだったが、施策をやりきって削減できなくなるといきなりBに陥落。それを救済するためのベンチマークだと思うが、そもそも設計上1.4は無理ということはあるはず。多くの企業の落ち着き先はAだと思うので、PUEがいくつならAなのかという数値を議論してほしい」

AクラスのためのPUE値は?

 あるいは、築年数などの条件で目標PUE値を変えるという方向性もあるだろう。いずれにしろ、これも多くの事業者が声を上げて、好ましい制度に変えていく必要がありそうだ。

罰金500万の都市伝説

 「省エネ法に罰金500万と書いてある」という都市伝説が一人歩きしている。しかし、いきなり500万円払わされるようなことはない。

 まず、省エネ法では「5年平均で年1%のエネルギー消費原単位改善か、2030年までにPUE 1.4のどちらかを達成すれば、Sランク」となっている。求められているのは、特定の数値の達成ではなく、「目標を設定し、PDCAを回して改善するという行為だと解釈している」と小林氏は語り、Cと判定されるのは最短でも5年後だ。

 また、目的達成時の評価でCクラスのところに書かれているのは、「省エネ法第6条に基づく指導を実施」である。

目標達成時の評価(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)

 省エネ法第6条の条文は、以下の通り。

『第六条 主務大臣は、工場等におけるエネルギーの使用の合理化の適確な実施又は電気の需要の平準化に資する措置の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、工場等においてエネルギーを使用して事業を行う者に対し、前条第一項に規定する判断の基準となるべき事項を勘案して、同項各号に掲げる事項の実施について必要な指導及び助言をし、又は工場等において電気を使用して事業を行う者に対し、同条第二項に規定する指針を勘案して、同項各号に掲げる事項の実施について必要な指導及び助言をすることができる。』

 つまり、Cクラスのペナルティは「しっかりやってくださいと言われる」(小林氏)ということのようだ。

サーバ室の温度設定

 事前アンケートで、「サーバ室の温度を上げる事を検討する上で、省エネ計算とIT機器に対しての影響をどう考えればいいのかを知りたい」というものがあった。

 サーバ室の空調の設定温度を上げれば、空調にかかる電力は削減できる。しかし、顧客のサーバを預かっている場合、勝手に温度を上げられない。省エネ法では、ビルオーナーとテナントで相談し、協力して省エネに取り組むようにとされているが、顧客からはサーバの故障率が上がると困るから温度は低いままにしてくれと言われて、なかなか難しい。

 できることのひとつが、環境ガイドラインを示して協力を仰ぐというもの。かつて言われていたような低い室温にしなくてもきちんと動作することが、さまざまな検証で明らかになっている。

 さかのぼれば、アメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)が2004年にICT機器のサーマルガイドライン「ASHRAE TC9.9」を制定し、データセンターの温湿度条件が緩和された(その後何度か更新)。日本でも、JEITA データセンター省エネ専門員会により、2020年5月に「日本の省エネ型データセンターにおけるIT機器の環境条件ガイドライン(ETR-3001)」が制定されている。

 「サーバ室の温湿度について、上限と下限をサーバメーカーと検討した結果をまとめて、空気線図を掲載している。従来のようなシビアな温湿度でなくても、年平均で25℃であれば夏場は少し温度が高くてもよいという内容」(小林氏)なので、JEITAから入手してテナントとの協議に活用してほしい。

空気線図とクラス定義

 また田沢氏は、「室温も大事だが、空気の流れも大事」だと指摘。高集積サーバやGPUサーバがあると、どうしても熱塊が生じる。その対策として「ラック間にサーキュレータを置くのも、シンプルだが効果的な対策」(田沢氏)だ。このため、新しいデータセンターでは、壁吹き出しの空調が主流になっている。

 また、「ロスや漏れのない冷却系を作るのが効果的。ファンの電力は風量の三乗分なので、ファンの回転数を下げるとかなりの省エネになる。スカスカの部屋でぶんぶん回すのが一番ダメ」と小林氏は言う。空調効率のためには、アイルコンテインメントは重要だ。

 田沢氏は、「PUEの問題を含めて、制度自体がまだ途上の状態。皆さんが『こうした方が合理的だと考える』という声を上げて、よりよい制度に変える必要がある」と、パネルディスカッションを締めくくった。