クラウド&データセンター完全ガイド:DCC2P

省エネ法ベンチマーク制度とPUE計測のポイント・留意・注意点――DCC2P Vol.10「改正省エネ法対策特別セミナー」基調講演レポート

 クラウド&データセンター完全ガイドでは、データセンター業界における新たな価値創造を目指すコミュニティ「DC Co-Creation Place(DCC2P)」を2020年に設立し、定期的な勉強会や交流会を企画・開催している。2023年3月17日にはその第10回目のイベントとして、「データセンター事業者の改正省エネ法対策」にフォーカスした特別セミナーを開催した。特別セミナーでは、ベンチマーク制度への対応および省エネ対策に向けて、データセンター事業者はまず何から着手するべきか、どのようなソリューション・製品が考えられるかなどを紹介した。本稿では当日のプログラムの中から、日本データセンター協会(JDCC)環境基準ワーキンググループ リーダー/一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)データセンター省エネ専門委員会 委員長の小林賢造氏(富士通株式会社)による基調講演の内容を紹介する。 text:柏木 恵子
JDCC 環境基準ワーキンググループ リーダーの小林賢造氏

省エネ法の対象は200~300ラック以上の規模

 資源エネルギー庁(以下、エネ庁)の省エネポータルサイト(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/report/)によると、省エネ法の概要は以下の通りだ。

  • 毎年度のエネルギーの使用状況等について、翌年度7月末日までに「定期報告書」を提出する
  • 本社所在地を管轄する経済産業局及び所管省庁に、すべての事業所に係る報告書を提出する
  • 定期報告書では、エネルギー使用量、エネルギー消費原単位と推移などを報告する
  • 提出された報告書により、事業者をS(優良事業者)・A(一般事業者)・B(停滞事業者)にクラス分けする
  • 特定の業種においては、業界ごとのベンチマーク指標を設定し、定期報告に記載。優良事業者としての評価に活用する(ベンチマーク制度)
  • 毎年度、エネルギー使用合理化の目標達成のための中長期(3~5年)的な計画を作成し提出する
  • Sクラスになると、中長期計画書の提出頻度が軽減される

 ざっくり言うと、データセンター業を営む企業は、「年間エネルギー使用量とPEU(複数データセンターあれば合算)などの報告書と、中長期計画書を、翌年7月末までに提出しなければならないが、Sクラスになると中長期計画書を毎年出さなくてもよい」ということになる。

 省エネ法の対象となるのは「年間のエネルギー使用量が原油換算で1,500キロリットル以上」の事業者で、これは大まかな目安として200~300ラック相当になるという。ひとつのデータセンターのラック数ではなく、自社のデータセンターを合算して300ラックを超えていれば、対象となる。

 ベンチマーク制度が適用されるのは、2023年度の報告(2024年7月末までに提出)から。今まで省エネ法対象の指定を受けていない場合は、24年5月末までに報告書を提出し、指定を受ける必要がある。

今後のスケジュール

「PUE 1.4」が「義務」ではない

 省エネ法では、原単位目標として「5年度間平均エネルギー消費原単位の年1%改善」を求めているが、改善が進んで高効率になった事業者がさらに改善するのは難しい。そこで、新しい指標として業界標準のベンチマークを設定することになった(「ベンチマーク制度の概要について」平成28年11月版)。データセンターの場合はそれがPUEで、目標は「2030年までにPUE 1.4」だ。

 つまり、「毎年1%(5年平均で年1%)の消費原単位改善か、PUE 1.4のどちらかを達成すれば、Sクラス」となる。

 「ベンチマーク制度の概要について」は、エネ庁が公開しているドキュメントだが、データセンター業についての最新版である令和4年4月版(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/support-tools/data/2022_01benchmark.pdf)には、以下のように書いてある。

ベンチマーク制度について(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)

 期限内に過半数が1.4を達成したらもっと厳しくするというのだから、そもそも「全員が達成できない数値」を努力目標に掲げる制度である。

 S、A、B(その中でも特に問題があればC)にクラス分けされるが、目的は競争を促すことで、すべての事業者がPUE 1.4を達成する義務があるわけではない(義務なのは「報告」すること)。実際には、多くの事業者がAクラスに落ち着くことになるだろう。AクラスのためのPUE値は明確でないのだが、その件については別記事(パネルディスカッションのレポート)で触れる。

目標達成時の評価(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)

 また、省エネ定期報告書で報告するPUEは事業者全体の値で、対象となるデータセンターが複数ある場合は事業所単位の数値を合算して算出する。本来、PUEは建物ごとに評価するものなので、省エネ法のベンチマークは厳密には国際標準のPUEではなく、「事業者PUE」という独自指標である。

 ちなみに、「富士通のすべてのデータセンターを合わせたPUEは1.5xだが、新しいデータセンターでは1.4以下を既に達成しているセンターもある」(小林氏)。そういう事業者はたくさんあることだろう。

報告義務がある事業者と報告対象範囲

 エネ庁は、省エネ法のベンチマーク制度で報告義務がある業種を指定し、その中に「データセンター業」と書いてある。まず、データセンター業が何を指しているか定義しなければ、話が進まない。

ベンチマーク制度の対象となる事業者

 上で紹介した「ベンチマーク制度の概要 令和4年4月版」では、『データセンター業とは、データセンターを運営し、又は利用し、情報処理に係る設備又は機能の一部を提供する事業』と書かれており、以下の3種類が想定されている。

①IT機器を持たず、サーバスペースを貸し出すハウジング事業
②建物とIT機器を所有するホスティング・クラウド事業(オーナー型)
③建物は所有せず、IT機器のみ所有するホスティング・クラウド事業(テナント型)

 ここで言う「ホスティング・クラウド事業」には、どのようなサービスが該当するのか。これまで公表されている資料を元にすると、レンタルサーバーやIaaS/PaaSだけでなく、SaaSやXSP、さらにはSalesforceやZoomのようなサービスを自社で提供する用途も含まれるだろうと小林氏は考察する。

 事業者感覚としては、上記の③にあたるテナント型の施設などは、データセンター業と定義するのはやや違和感があるかもしれないが、「制度上の定義としてひとまず理解しないと制度資料の要所が読解不能に陥る」(小林氏)ので、とりあえず受け入れるしかないだろう。ただ、業界として疑問があるという意見は提出済みで、「来年度あらためて検討する」という回答が来ているという。

 さらに、「ベンチマーク制度の対象事業者は、建物・付帯設備に関するエネルギー管理権限を有している事業者」とある。「エネルギー管理権限」という言葉があちこちに出てくるが、これは、投資家の資金で建てた場合、所有者という言葉では正確でないとの考慮だろう。要するに、機器などをコントロールや増設する権限がある人が報告義務を負うということで、一般的には「建物や設備を所有する事業者」である。DC in DCなどで、建物・付帯設備のエネルギー管理権限の一部を保有している場合もこれに含まれる。

 一方、テナントとしてホスティングやクラウドサービスを提供している事業者は、ベンチマーク制度の対象外となる。

制度の対象となる事業者(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)

 また、建物のオーナーがデータセンター事業者ではなく、オフィスビルなどに入っているデータセンターもある。この場合も、建物・設備のエネルギー管理権限があれば、ベンチマーク制度の対象となる。ビルオーナーから自社フロアの電力使用量を通知してもらい、PUEを算出する。エレベーターや全館空調など建物の設備にかかる電力使用量も含める必要があるが、これは「建物のオーナーに確認するか、推計する」ようにとされている。

運用形態ごとの報告対象事業者(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)
所有形態ごとのエネルギー使用量の報告対象事業者(出典:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度の概要 令和4年4月」)

【ベンチマーク制度の対象事業者】
 省エネ法の対象事業者(年間エネルギー使用量が原油換算1,500kL以上)のうち、
①ハウジング事業者(建物オーナー)

  • エネルギー使用量は、自社が所有している設備や機器の使用量のみ報告(テナントが持ち込んだものは除外)
  • PUEは建物全体で報告(分母は自社所有かテナント所有かに関わらず、すべてのIT機器)

②DC in DCをしているテナント事業者

  • 一棟、フロア、マシン室をまるごと借りている場合は、エネルギー使用量、PUEともに自社の管理部分のみ、①と同じルールで報告
  • ラック単位で借りている場合はどちらも報告義務なし

③テナントとしてホスティングやクラウドサービスをしている事業者

  • 一棟、フロア、マシン室をまるごと借りている場合は、借りている部分全体の使用量を報告(PUE報告は不要だが、消費原単位の推移を報告する)
  • ラック単位で借りている場合はどちらも報告義務なし

テナント事業者の報告義務について補足

 従来の省エネ法では、データセンターにIT機器を預けた事業者は、そこで消費されるエネルギーを自社エネルギーとして報告する必要はなかった。しかし、前出の「ベンチマーク制度の概要 令和4年4月版」には『ハウジング事業におけるサーバスペースは、IT機器を所有するのテナント事業者の事業場と捉えられるため、令和5年度の報告から参入方法が変更となる』とある。

テナント事業者の報告義務はある?

 データセンター事業者がテナントに対してエネルギー使用量を個別に通知しなければならず、今まで報告義務のなかったクラウド事業者などに報告義務が生じる。「インパクトのある変更にも関わらず、説明資料ではベンチマーク制度の附則のような扱い」(小林氏)だ。

 しかし、令和5年1月の説明会で配布された「省エネ法の定期報告に係る留意点」というドキュメント(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/faq/pdf/a1-18.pdf)では、例外ケースが紹介されている。

エネルギー使用量の報告対象と範囲

 これによると、報告が必要なのは一棟借り、フロア借り、サーバ室借りの事業者に限定される。50ラックのサーバ室全体を使っている場合は報告の対象となるが、100ラックの広さの部屋で50ラックを使ってサービス提供している場合は対象外。釈然としないが、とりあえず初年度はラック借りの事業者へエネルギー使用量通知はしなくてよいようだ。

ベンチマーク制度の対象となる事業所

 ベンチマーク制度の対象となるデータセンターは、基本的には「収益を上げているデータセンター」だ。一方で、制度の対象とはならないデータセンターもある。

【対象となる事業所】
・他者にハウジングサービス、ホスティング・クラウドサービス等を提供するデータセンター
・自社で情報サービス提供を行うデータセンター
・自社のグループ企業にサービスを提供し、企業間取引として事業収益を得ているデータセンター

【対象外の事業所】
・自社の社内システムや情報通信以外のサービス(ECや金融など)用途のデータセンター
・通信局舎やIXといったネットワークセンター
・事業所におけるサーバ室面積の合計が300㎡未満のデータセンター
・年度の途中で開業した場合は、その年度は対象外

 また、PUEはデータセンターの稼働率で大きく違ってしまうが、基本的にそれは考慮されない。

PUE測定・計算のポイント

 JDCCが作る「PUE計測・計算方法に関するガイドライン」は、版を重ねて現在はVer3.0である。これはかなり詳細なドキュメントなので、ベンチマーク制度に関係する部分を抜粋した「PUE計測・計算方法に関するガイドライン ベンチマーク制度対応版」を2022年9月に公開した(JDCCのサイトからダウンロード可能、無償)。省エネ法対応のためには、こちらの抜粋版だけでも用が足りる。

ガイドラインの要点

 PUEは年間エネルギー使用量を積算した値から算出するが、エネルギー使用量を常に計測しているデータセンターばかりではないため、ガイドラインでは代替の方法を決めてある。その他、どこで消費エネルギーを計測するか、計測位置によってロスが発生するのでどのように差し引くかなどが定められている。

IT機器消費エネルギーの計測点

 国際標準のPUEでは、複数の計測点が規定されている。その中で、JDCCが推奨するのは「PDU出力」の部分である。

計測点

①PDU出力
 ロスを考慮しなくていい。課金のために計測しているケースもあるので、可能ならここで計測する。

②~⑤PDUより上流
 ロスが発生するので、それを差し引く。ガイドラインにはロス計算ツール(数値を入れると計算してくれるExcelのシート)も添えられている。力率が不明な場合は95%を用いる。

積算計測ができない場合

 消費電力を常時計測していない場合は、以下の2つの方法でもよい。

①1日1回計測
 瞬時計測した値に24時間をかけて1日分の消費電力量とみなす。毎日計測し、その値を1年分足し上げて、年間消費量とみなす。

②月1回計測
 月に1回、24時間の積算計測を行い(不可能なら、瞬時計測を24時間かける方法でも可)、その月の日数をかけて1カ月の消費電力量とみなす。月間消費量を12カ月分足し上げて、年間消費量とみなす。

 これらはそれぞれ計測誤差があるが、その考え方もドキュメントに記載されている。もちろん、可能ならば誤差の少ない方を優先する。

複合施設の場合

 高層ビルのワンフロアがデータセンターという場合、ビル共通のエレベーターや全館空調の電力も算入する必要がある。その場合は、データセンター部と非データセンター部の面積比や消費電力比で計算する。課題としては、ビルオーナーに必要な情報をもらわなければならないので、オーナー側とその方法について相談してほしい。

複合施設型データセンター

 ガイドラインにはロス計算ツール以外にも、チェックシートやブロックチャートなどが付録としてついている。それぞれExcelやPowerPointのファイルなので、自社の状況に合わせてカスタマイズが可能。とりあえず数字を埋めていくと、ベンチマーク制度の報告に必要な数値が導かれるようになっている。

 小林氏は、「少し大変な作業になるが、ここで紹介した情報を頼りに検討し、分からないことがあったらJDCCに問い合わせてください」と締めくくった。

【マスターとして参照すべき、公開されているドキュメント】
「データセンター業のベンチマーク制度 制度の概要 令和4年4月版(資源エネルギー庁)」
「PUE計測・計算方法に関するガイドライン ベンチマーク制度対応版(JDCC)」
 いずれも、JDCCのサイト(https://www.jdcc.or.jp/pue_guide/)からダウンロード可能

【届け出についての説明】
「省エネポータルサイト」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/procedure/index.html