事例紹介

ランサーズのワーカーが「柔軟な働き方」の向こうに描く「夢」

「Lancer of the Year 2015 -新しい働き方大賞-」開催

 ランサーズ株式会社は26日、2014年に輝いた「ランサー(ランサーズのワーカーの通称)」を表彰する「Lancer of the Year 2015 -新しい働き方大賞-」を開催した。7つの部門に輝いたランサーを讃えるとともに、経産省による基調講演、フリーランスの実態調査などが発表された。

 受賞者には、わずか1年で急激に成果を上げた山田祐太さん(ルーキ―ランサー賞)、長期間・安定的に活躍する三河賢文さん(ベテランサー賞)、一児の母としてランサーズ上でライターの仕事をする吉見夏実さん(ママランサー賞)、“イクメン”ランサーの永田義郎さん(パパランサー賞)、場所にとらわれない働き方を体現する藤清貴さん(“フリー”ランサー賞)、地域の新しい働き方を生み出した伊藤貴之さん(地域を元気にするランサー賞)、法人として選出されたNPO法人キッズバレイ(ベストコミュニティ賞)のほか、爆笑問題の立役者・大田光代さんがランサーズが参考にしたいフリーランスとして特別賞に選ばれた。

左から、ルーキーランサー賞の山田祐太さん、ベテランサー賞の三河賢文さん、ママランサー賞の吉見夏実さん、ランサーズの秋好陽介社長、“フリー”ランサー賞の藤清貴さん、地域を元気にするランサー賞の伊藤貴之さん、パパランサー賞の永田善郎さん、ベストコミュニティ賞のキッズバレイ代表・赤石麻美さん
大田光代さん
吉見夏実さん

 ママランサー賞に輝いた吉見夏実さんは、務めていた会社の業績が不振となり、副収入を得るためランサーズ上でライター業を開始。リピート依頼が続くようになったため、就職活動はせずにそのままフリーランスに転向した。

 それ以降、仕事をしながらでも学校行事やPTAに積極的に参加し、友人とのランチの時間もゆっくりとれるようになった。また、学童保育の太鼓クラブの練習や子供がインフルエンザにかかった際の看病など「自分がやりたいことをすべて自分のペースでできている充実感があります」と語る。

 今後は「ライターとして実績を積み、力がついてきたらライターを志す人々にライティングのノウハウを伝え、ライティングの世界を広げていきたい」としている。

伊藤貴之さん

 地域を元気にするランサー賞に輝いた伊藤貴之さんは、エンジニアとしてランサーズを利用。元NRI社員で遅いときは22時ごろまで働いていた。このころからサテライトオフィスでリモートワークをする機会があり、場所にとらわれない働き方のメリットを感じたという。

 「成果と評価が明確になるクラウドソーシングは面白いと思い、エンジニアとしての働き方を変えたいと考えました」。いつかは故郷の岩手に帰りたいと思っていたため、岩手に移り住み「好きな人と好きな場所で好きな仕事をする環境」をめざして奮闘中。

 会社員時代は場所に限定された働き方だったのが、働く場所を自由に選べるようになった。「岩手だとエンジニアのスキルを生かせる仕事がまだない上に、仕事のつながりもまだ限られるので、クラウドソーシングがなければ企業は難しかったと思います。」という。そして「現在は7人のエンジニア集団ですが、将来的には東北に1000人の雇用を生み出し、地域ごとの課題を解決するソリューションが地域で誕生して広まっていく、そんな社会を創りたい」と夢を描いている。

藤清貴さん

 “フリー”ランサー賞を受賞した藤清貴さんは、3児の子を育てながら、フリーのWebデザイナーとして働いている。会社員時代はゲーム開発やWebデザインなどを担当していたが、一日中日光を浴びない生活が続いていた。いつしか太陽の下で働きたいと思うようになり、ハワイで労働と生活を両立したいという夢を抱くようになった。

 当初は定年後か貯金してからと思っていたが、ランサーズを利用して半年後には月収10万円を得られるようになり、これなら生計が立てられると、実際にハワイへの移住を実現。現在は移住生活を終え、両親のいる福岡で親孝行しながら仕事をしている。

 この働く場所の柔軟さが評価され、「Lancer of the Year 2015」のMVP賞にも輝いた。「現在はサラリーマン時代の2倍の収入を実現。今後は4倍をめざすとともに、今年は家を建てる予定で、その後も持ち家にとらわれることなく北海道やアメリカを旅行したい」としている。

フリーランス実態調査

 では、日本におけるフリーランスの実態はどうなのか。表彰式ではそれを明らかにするフリーランス実態調査結果も公開された。2015年1月に3094人(うちフリーランスは1548人)を対象に行ったものだ。

 これによると、広義の国内フリーランスの数は1228万人。その働き方によって「副業系すきまワーカー」「複業系パラレルワーカー」「自由業系フリーワーカー」「自営業系独立オーナー」の4つに大別されるという。

日本のフリーランスは1228万人に達する
ランサーは4タイプに大別される

 最も数が多いのはフリーランス全体の48%を占める副業系で、常時雇用されながら副業でも稼ぐため、年収も最も多い結果となった。また、自営業系は男性が中心、副業系は若年層が多く、自由業系・自営業系は高齢層が多いことも分かった。

副業系が48%と最も多い
収入が多いのも副業系

 自由な働き方へのモチベーションは「自由で柔軟な生活ができる」が最も高く46pt。続いて「生活費や家計費を補助できる(42pt)」「本業以外でお金を稼げる(42pt)」「自分のやりたい仕事ができる(28pt)」となった。

 調査では通常のワーカーも76%が「副業をしてみたい」と答え、69%が実際に「自由な働き方をする人が今後増える」とした。一方で「自由な働き方で得られる報酬は増えていく」と考えるワーカーは43%と半数に満たない結果も明らかになった。

自由な働き方のモチベーションは「自由で柔軟な生活ができる」が最も高く46pt
69%が実際に「自由な働き方をする人が今後増える」

 今後の状況については「もう1つ別の才能を生かして、老後もできるような仕事を見つけたい」「会社に依存しない生き方をしたい」「自分の好きな時間に好きな場所で働きたい」など「自由な働き方」を志向する考え方が、特に女性において多く出てきていることから、「新しい働き方は今後も広がっていくことが予想される」としている。

人口減少、いかに労働力を確保するか

 そんな国内における状況だが、諸外国と比べるとその動きは遅れているのが現状だ。たとえば、オンラインで仕事を受注したことがある人は、米国が42%なのに対して、日本は12%に過ぎない。

オンラインで仕事を受注したことがある人。米国42%、日本12%
働き方の柔軟性につながる制度も日本は大きな遅れ

 日本でも政府が積極的に柔軟な働き方を推進しているが、それは高齢化などさまざまな問題が諸外国よりも一足先に表面化する「課題先進国」の日本においても、その実現が急務となっているからだ。

 経済産業省 商務情報政策局 サービス政策課 課長補佐の大西啓仁氏によれば、「日本は戦後の高度経済成長期にさまざまな産業を生み出し、景気回復に比例するように人口は増え続けた。ところが、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、今世紀末には約4960万人と約4割に急減する見通しとなっている。現状でもすでに地方から人が、特に若年女性が減り続けている。労働力をいかに確保するかが急務だがそれだけではなく、長時間労働者の割合が諸外国より突出しているにもかかわらず、生産性は諸外国よりも低いという問題もある」という。

人口急減。高齢化率は増加
日本は長時間労働者の割合が突出
一方で生産性は底辺を這うような状況

 こうしたさまざまな状況に対するためにも、地方でも問題なく働けるテレワークの整備をはじめ、より効率の良い働き方を創出していく必要があるのだ。

 その1つの手段としてクラウドソーシングに期待がかかっている。日本では非正規雇用が増加し、その比率は2014年に37.9%にもおよんでいる。これがネガティブなことかというとそうでもなく、ランサーズの秋好社長は「多様なキャリアが少しずつ受け入れられているポジティブなことと捉え、正規・非正規につづく“第3の働き方”を模索したい」とそう述べる。

 受賞者の表情を見ていると、いきいきと楽しんでいる印象を受ける。労働時間もほとんどの受賞者がフリーランスに転向してから2~3時間短縮したという。

 パナソニック創業者の松下幸之助さんは生前「今までよりも一時間少なく働いて、今まで以上の成果を上げることもまた尊い。額に汗することを称えるのもいいが、額に汗のない涼しい姿も称えるべきだろう。怠けろというのではない。楽をするくふうをしろというのである。楽々と働いて、なおすばらしい成果が上げられる働き方を、お互いにもっとくふうしたいというのである。そこから社会の繁栄も生まれてくるであろう」と述べたという。

 社会の問題が差し迫る中、働き方に対する意識においては、想像以上に大きな変化が求められているのかもしれない。

川島 弘之