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富士通研、スマートデバイスと周辺機器を簡単につなげる技術を開発
最新技術を紹介する研究開発戦略説明会を開催
(2015/4/3 06:00)
富士通研究所は2日、2015年度の研究開発戦略を発表するとともに、同社が開発中の最新技術など17件の技術を公開した。
富士通研究所の佐相秀幸社長は、「技術革新だけでは、イノベーションは実現できない。そこにビジネスモデルの視点を持ち込むことが必要である。富士通研究所は、その点からも、今年80周年を迎える富士通に貢献していくことになる」と述べた。
富士通研究所は、1968年に川崎市に研究拠点を開設。現在は、川崎および厚木の拠点で1200人が勤務。また、海外拠点として、米国、中国、英国に展開。210人の体制を持つ。
ICTシステム、クラウドシステム、ソフトウェア、ネットワーク、IoTのほか、材料、デバイス、実装技術などの研究も行っている。
佐相社長は、「富士通研究所は、短期的な事業成果が求められる事業部とは異なり、中長期的なスパンでコーポレート予算を活用し、事業から独立した形で研究を行っている。成長市場、新領域、新市場に、どうやってICTを浸透させることができるのか、といったことを研究しており、富士通グループの成長を技術でけん引し、富士通のビジネスに還元していくことになる」とした。
富士通と富士通研究所では、技術戦略委員会、技術戦略タスクフォース、技術戦略タスクフォースワーキンググループを通じて研究開発を検討。ICTの進展を踏まえて、技術、ビジネスの方向性を明確化し、技術戦略策定および推進を行うという。また、国家プロジェクトと連携した取り組みなどにも乗り出しており、「これらの取り組みも、中長期的には富士通のビジネスに貢献していくことになる」とする。
研究予算は年間300億円規模。事業に直結する「事業化研究」が30%、事業部門と連携して事業の拡大や、競争力強化に向けた先行的な研究を行う「先行研究」が50%、将来大きなブレイクスルーにつなげる技術研究や新たなビジネス領域やビジネスモデルの探索を行う「長期・戦略研究」が20%という構成になっている。また、全研究予算のうち、国家プロジェクト関連の予算は、2けたの億の規模だという。
先行研究では、「フロント端末、ネットワーク、クラウドシステムの融合」、「知能コンピューティング」に取り組んでいるほか、事業化研究では、「SIビジネスでの競争力強化」、「次世代クラウドシステムの事業化」に取り組んでいる。
次世代クラウドにおいては、スケーラブルなクラウドアーキテクチャをアジャイル、レジリエント、ハイブリッドに構築し、フロントコンピューティングとバックエンドをシームレスにシステム化することに取り組んでいるとを明らかにした。
また、応用研究では、新ビジネスの開拓と創出に向けて、自動車研究所、次世代医療研究所、ソーシャルイノベーション研究所といった具体的な市場領域を想定した組織を通じて、研究活動を展開。さらに、スポーツ領域や東京オリンピックを視野に入れたライフイノベーション研究所、ロボット関連の研究を行うロボティクス推進室も設置している。
このほか富士通研究所では、新たな組織として、SE部門向けの研究を統合した「システム技術研究所」、ビッグデータや人工知能などの研究を行う「知識情報処理研究所」、新たな領域に向けて既存技術と新たな技術を統合する「応用研究センター」の、3つの研究所を設置したことも明らかにした。
佐相社長は、「IoT時代といわれるように、2020年には500億個のデバイスが接続される。IPv6では、340澗(かん)ものデバイスが接続可能になる。これは1人が3億4000万個ものデバイスが使えるということであり、まさに無限に使えるのと同じだ」とし、「富士通は、こうした動きを、ハイパーコネクテッド・クラウドというアーキテクチャのなかでとらえていくことになる。ここでは、サーバー、ストレージ、アプリ単体が、クラウドへと移行。同時に、フロントネットワークデバイスにクラウドのアーキテクチャが染みだしていくことになる。さらに複数のクラウドがアメーバ的に連携し、ハイパーコネクテッド・クラウドを形成することになる。既存のシステム・オブ・レコードと、新たなシステム・オブ・エンゲージメントの融合によって、IoT時代の新たなデジタルビジネスプラットフォームが形成されるなかで、フロントネットワークデバイスを中心にした提案を加速したい」などと説明した。
2つの新技術を発表
新たな技術としては、「世界最高速の200Gbpsで通信をモニタしながら品質解析するソフトウェア」と、「さまざまなスマートフォンと周辺デバイスを簡単につなげるWebOS技術」を発表した。
「世界最高速の200Gbpsで通信をモニタしながら品質解析するソフトウェア」は、通信パケット収集時の負荷を軽減する技術や、メモリコピーや排他制御を不要にする技術、複数のCPUコアを使用しても競合が発生しない並列化技術により実現したもの。
1台の汎用ハードウェアだけで、従来の10倍の性能である200Gbpsで通信パケットをモニタしながら、ネットワークとアプリケーションの品質をリアルタイムに解析。高価な専用ハードウェアを必要とせず、低コストで、サービスの安定利用を支えるネットワークインフラの実現に活用できるという。従来のPCやサーバーなどの汎用ハードウェアで通信パケットをモニタする場合、CPUやメモリアクセスの性能に限界があったが、これを解決した。
富士通研究所 ソフトウェア研究所の岸本光弘所長は、「重大トラブルが長期化し、セキュリティ脅威が増加する一方で、利用者数の急増でレスポンスが低下するといった問題がある。そうしたなかで、圧倒的な通信量までをスケールする、サービス品質の解析技術が求められていた。従来の技術では、川崎市だけの移動トラフィックを解析できる規模であったが、200Gbpsの技術により東京都と神奈川県の移動トラフィックの解析が可能になる。また、6時間かかっていたサービス品質解析が、5分で完了するといった結果も出ているほか、データセンター内の10Gbps通信を複数同時に解析が可能になる」とした。
今後、社内外の実践を通じて、サービス品質解析の有効性を検証し、2015年度には実用化する予定だという。
一方の「さまざまなスマートフォンと周辺デバイスを簡単につなげるWebOS技術」は、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイス上で、HTML5に代表されるWebアプリケーションから周辺デバイスの制御を可能にし、クラウドサービスと周辺デバイスの接続を自由に組み合わせられる技術だ。
OS非依存で周辺デバイスを利用できるようにするため、Webベースのアプリケーション層とOSの汎用通信インターフェイスをWebアプリケーション実行環境層でつなげる、インターフェイスのブリッジ制御を開発。ドライバをWeb層に配置することで非依存性を実現した。
また、周辺デバイスの接続を制御するため、デバイスの発見とドライバの動的な配信を行うプラグ&プレイマネージャー、ドライバの配信を制御するデバイス管理を開発した。
これにより、サービス事業者やデバイスメーカーは、OSに依存しないアプリケーションやドライバの開発が可能になるとともに、サービス利用者は周辺にあるデバイスを即座にスマートデバイスにつないで活用できるという。
スマートデバイスを活用して周辺デバイスを利用するには、OSと周辺デバイスごとに専用アプリケーションが必要であり、利用者はアプリケーションのインストールの手間がかかったり、開発者はOSや周辺デバイスごとにアプリケーション開発が必要になったり、といった問題があった。こうした課題を解決することで、利便性と開発コストの観点でメリットが生まれるという。
富士通研究所 ユビキタスシステム研究所の森田俊彦所長は、「IoT時代においては、事業者やメーカー間を超えて協業するビジネスエコシステムが求められる。そのなかで、この技術の有効性が発揮できると考えている。開発者人口最大の標準的Webテクノロジーであり、モノを含めた領域にも広げていくものになる」と説明。
「ユーザーにとっては、新たなデバイスを即座にスマート端末につないだ活用が可能になり、アプリ開発者にはOS、デバイスに依存しないアプリ開発が可能になる。また、デバイスメーカーは、OSに依存しないドライバ開発が可能になり、頻繁なOSのバージョンアップへの対応が不要になる。具体的な事例として、訪問看護ではバイタル測定器との接続により利便性の向上、運送・宅配業務では、タグリーダーやモバイルプリンタとの接続などが想定され、さまざまな用途での利用が期待できる技術である」としている。