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富士通研、潜伏したマルウェアの高速検知技術などを開発
最新技術を紹介する研究開発戦略説明会を開催
(2014/4/16 06:00)
株式会社富士通研究所は15日、報道関係者を対象に、2014年度研究開発戦略説明会を開催した。
説明会の冒頭には、4月1日付けで富士通研究所の代表取締役社長に就任した佐相秀幸氏が研究開発戦略を説明。
「富士通のビジョンは、ヒューマンセントリックス・インテリジェントソサエティ。人々がICTの力を利用して、より安全で豊かな持続可能な社会を実現していくことになる。人、情報、インフラの潜在力を引き出すことで、イノベーションを創出する。そこに富士通は力を注いでいく」との姿勢を話した。
また、「富士通研究所のミッションは、富士通グループの成長を技術でけん引すること。新たなバリューチェーンの極大化、再構築が鍵になる。研究テーマは、事業化計画が明確であり、事業に直結する事業化研究、新事業創出のための先行研究、研究所の見識によって革新的技術の研究に取り組むシーズ研究の3つに分けられる」と説明。
それぞれについては、「事業化研究は全体の約30%であり、事業部および関係会社が負担する。先行研究は約50%を占め、シーズ研究は約20%を占める。富士通グループ以外からの収入もある。そのなかで、人と情報、インフラをつなぐフロント技術の開発と基幹連携によるサービス創出を行う『ユビキタスイノベーション』、情報・データの利活用によりソーシャルビジネスを拡大し、新ICTビジネス領域を開拓する『ソーシャルイノベーション』、新たな価値をもたらす新規統合型の超スケールICTプラットフォームを開発する『ICTイノベーション』、先端技術をフル活用し、テクノロジーバリューチェーンに欠かせないハードウェア、ソフトウェア技術を開発する『ものづくりイノベーション』の4つのイノベーション領域に取り組んでいる」との現状を紹介した。
さらに、「富士通研究所は、北京、ロンドン、サニーベール(米国カリフォルニア州)にも拠点を設置しており、世界160カ国、107のプロジェクトを推進している」とも述べた。
4つの観点から研究開発を推進
2014年度の取り組みとしては、4月4日に発表した富士通テクノロジーサービスビジョンにのっとり、人、情報、インフラ、共通な基盤という4つの観点から研究開発を推進する姿勢を示した。
「人」では、ヒューマンパワーメントとして、ユビキタス・サービスプラットフォーム、ヒューマンインターフェース、メディア処理の観点から研究開発に取り組み、フロントを起点とした人に寄り添うICTを実現すると説明。
「情報」では、クリエイティブ・インテリジェンスを切り口に、ナレッジ・プラットフォーム、データプラットフォーム、セキュリティという観点から、異種情報の連携やデータの利活用により社会サービスを提供する。
「インフラ」では、コネクテッド・インフラストラクチャにより、ICTサービス・プラットフォーム、ネットワークシステムへ取り組み、ソフトウェア制御によりオンデマンドでサービスを提供。
「共通な基盤」では、ものづくりを支え、ICTバリューの向上に貢献。実装技術やコアデバイス技術、ハードウェアおよびソフトウェアによるものづくりへの取り組みを進めるという。
「富士通研究所では、研究開発を行うだけでなく、ビジネスの実践に向けた技術戦略を視野にとらえており、先端技術をベースとして、富士通グループ全体での共創に取り組む。インベンションとビジネスモデルによって、イノベーションを創出できる」などと語った。
2つの新技術を発表
一方、研究開発戦略説明会では、「マルウェアによる社内潜伏活動の高速検知技術」、「ローカルな場での端末・機器間の情報交換サービスを迅速に構築できる基盤技術」の2つの新技術を発表した。
マルウェアによる社内潜伏活動の高速検知技術は、特定の企業や個人を狙った標的型攻撃に対して、組織内ネットワークを監視し、マルウェアの社内潜伏活動を検知するもので、社内潜伏活動でみられる特徴的通信パターンに着目。汎用的なサーバーなどでリアルタイムでマルウェアを検出できるという。早期に潜伏活動を検知することで、情報漏えいを未然に防ぐことができるという。
富士通研究所 ソーシャルイノベーション研究所の原裕貴所長は、「これまで富士通研究所で取り組んできた不正HTTPトンネル通信監視、パケット・キャプチャ蓄積技術を発展、活用して開発した技術。脅威の複雑化によってマルウェアそのものを検知することは難しくなっている。そこで、複数の攻撃に共通にとらざるをえない攻撃の特徴であるチョークポイントをとらえ、潜伏活動を検知する。通信パケットの特定領域と通信順序の関係のみから攻撃通信を判定する特定領域判定と、攻撃の処理手順と通信情報を比較して不審通信を検知する絞り込み判定の技術を開発したことで、処理できる通信量を30倍にでき、ギガビット回線でも取りこぼしなく監視が可能になる。2000台規模の実ネットワークにおいて有効性を確認しており、2014年度には製品あるいはサービスとして製品化を予定している」とした。
2つ目の、ローカルな場での端末・機器間の情報交換サービスを迅速に構築できる基盤技術は、人が集まったその場で端末や機器をつなげて、画面共有や共同作業を行う情報交換サービスを構築する技術。事前にメンバー登録を行ったり、ドライバをインストールすることなく、機器や人をつなぐことができる。学校におけるグループ学習や店舗における顧客端末への商品情報提供、大画面と連動した商品紹介などの用途に活用でき、共同作業を行うためのアプリケーション開発の工数を約10分の1に削減できるという。
富士通研究所 ヒューマンセントリックコンピューティング研究所の森田俊彦所長は、「富士通研究所では、昨年、オフィスや店頭、倉庫などの特定の場所にきたら、必要なモバイルアプリ群が自動的にプッシュ配信される技術として、『やりたいことがさっとできるコンテキストスイッチ技術』を開発しており、動き回る人の行動に、IT側があわせる仕組みを構築することができた。だが、この技術は、1人だけを対象にしたものだった。今回の技術は複数の人が集まった場合での利用へと進化させたもの。自然と集まった人同士が連携できるものであり、集まる人が固定されない場合で利用するためのサービス基盤になる」としている。
場所を介した端末間連携技術、機器の仮想化技術、ローカルWeb基盤サービス技術という3つの技術により実現したもので、今後は、FUJITSU Mobile Initiativeの製品群に適用していくことになるという。