ニュース

関西医大と日本IBM、医療AIプラットフォームを共同開発――第1弾は年間7000時間の業務削減へ

 学校法人関西医科大学と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は8日、病院の運営や診療支援に必要なシステムを共通のプラットフォーム上で作動させる「医療AI共通ICTプラットフォーム」を共同開発したと発表した。

医療AI共通プラットフォームのイメージ

 病床利用率が常時満床に近い状態が続く関西医科大学附属病院では、業務改善と患者の受診環境改善を目指し、6年前から「スマート病院構想」を推進してきた。

 関西医科大学附属病院 病院長の松田公志氏によると、同構想のもと、これまでに患者がスムーズに転院できる地域連携システムや、体温などの測定データを電子カルテに自動入力する看護業務支援システムを導入。さらに、手術室の進行状況を配信して術後の病棟での受け入れ準備や指導医による的確な指示を可能にする手術映像システム、AIを用いた画像診断、急な体調悪化をいち早く察知する早期警戒アラートといった診療支援体制も採用してきた。

関西医科大学附属病院 概要
関西医科大学附属病院における「スマート病院構想」
関西医科大学附属病院 病院長 松田公志氏

 患者の受診環境改善に向けても、スマートフォンのアプリを用いた院外での順番待ち呼び出し機能や自動後払いシステム、数日中に稼働予定のAI案内ロボットなど、数々の技術を積極的に取り入れている。

 こうしてすでにAI活用が進んでいた同病院だが、松田氏は「これまで医療における看護サマリーや退院サマリーなどの文書作成にAIを導入しようとすると、それぞれに個別のAIエンジンが必要で、電子カルテとの接続にも多大な手間と経費がかかり、高価になってしまうことが課題だった。共通プラットフォームがあれば、基本システムを載せるだけで共通のAIエンジンが動き、安価かつ容易に新しいプログラムを導入できる」と、新プラットフォームの共同開発に至った背景を語った。

 関西医科大学 DX推進室 顧問の長岡亨氏は、今回の開発に至った技術面での目的について、「昨今、DXやAIが医療に急接近する中、病院の内部とそれを取り巻く外部環境との間では、患者の個人情報をはじめとする極めてクリティカルな情報の行き来が急増している。これらをいかに安全につなぎ、AIを生かしてDXやICTのさらなる発展、そして高度な診療サービスの提供につなげていくかが、今回の取り組みのゴールだ」とした。

関西医科大学 DX推進室 顧問 長岡亨氏

 長岡氏は、医療機関が直面しているヘルスケアAIプロダクトのリスクについて、「現在、病院の現場には多くのAI製品の選択肢があるが、それらが実際どこで機能し、本当に日本国内で処理されているのか、仕組みは開示されていない。特に海外に出してはいけない重要な遺伝子情報などの患者データや診療記録を提供しているにもかかわらず、そのデータが海外のサーバーなどでどのように扱われているか、サービスプロバイダー側が明確な回答を避けるケースが増えており、非常に危険な状態にある」と指摘する。

 さらに、「ベンダー側は複数の病院からデータを入手してより深いナレッジを蓄積しているにもかかわらず、それが医療機関側に還元されるビジネスモデルになっていない。こうした課題があるにも関わらず、サービスを購入し続ける現状に疑問を感じ、独自にプラットフォームを作ろうと考えた」(長岡氏)としている。

 その上で長岡氏は、従来のファイアウォールによる境界型セキュリティの限界を指摘した。多くの医療機関は現在もセキュリティ対策としてファイアウォールを採用しているが、「今はSaaSなどをはじめ、外部のデータを取り込んで内部システムとうまく融合させながら付加価値を生み出す時代。そのため、レガシーなファイアウォールによる『中は安全、外は危険』という考えとは合わない」(長岡氏)とする。

 そこで今回開発したプラットフォームでは、外部ネットワークと院内を安全につなぐゼロトラストネットワークの仕組みを確立。強固な認証・認可基盤によるセキュリティシステムで、医療データやAIアプリケーションをどこからでも安全に利用できる環境を実現した。

 また、ベンダーごとにサイロ化していた40~50ものシステムに手を加えることなく、あらゆるデータを疎結合させて1つのデータベースに格納するデータレイクハウスを構築。そこに、多様なデータを国際標準規格「HL7/FHIR」へと変換できる日本IBMのFHIR対応サーバーを導入した。これにより、異なるベンダーのシステムによる診療データを1つの標準化モデルに統合する。さらにAI実行基盤としては、大規模言語モデル(LLM)をはじめとするAIサービスを安全に利用できる環境をクラウド上に構築、今後の機能拡張にも柔軟に対応できる構成にした。

 これにより、「データがどこにあろうと、必要なサービスや医療支援システムに直結できる世界観を作った。当大学には4つの病院があるが、1カ所で作ったアプリケーションをそれぞれの病院で同時リリースでき、セキュリティも保全されている。データがどこで動き、AIが何を使い、その結果に対する医療のエビデンスはきちんと確保されるという、守るべきものがすべて自分たちの手の内にある状態を実現できた」と長岡氏は説明している。

医療AI共通プラットフォームの詳細

AIによるサマリー作成で年間7000時間を削減

 関西医科大学では、同プラットフォームを用いた具体的な診療支援サービスの第一弾として、医師や看護師向けの「生成AIサマリー作成支援アプリケーション」の実運用を開始している。

 まず、看護師が作成する入院患者の「看護サマリー」では、従来、看護師が電子カルテを見ながら手入力で約35分かけて作成していたものが、生成AIサマリー作成支援アプリケーションを活用すると、画面上のボタンを1回押すだけでAIがサマリーを自動生成し、確認や修正を含めてもわずか5分に短縮されるという。

 松田氏は「看護師長による確認の時間なども含めると、患者1人あたり約40分の削減になる。病院全体で1日約25件作成されているため、年間では約7000時間の短縮を達成できる計算だ」とする。

 また、担当医の交代時や他院への紹介状作成時に医師が作成する「外来サマリー」でも、指定した回数分の診療経過をAIが瞬時に要約するため、医師のカルテ作成や引き継ぎ業務が大幅に効率化できるという。

 日本IBM 理事の先崎心智氏は、AIが病院のあり方そのものを変える「AIファーストホスピタル」の時代が到来している言及。「AIを1つずつ個別開発し導入する発想はもはや限界。複数病院で共通かつ安全に、次々とAIを追加し共有していく基盤が必要で、それが今回開発したプラットフォームとなる。このプラットフォームは、日本の医療DXの推進にも大きく活用できるだろう」とした。

日本IBM 理事 先崎心智氏
左から、日本IBM 理事 先崎心智氏、関西医科大学附属病院 病院長 松田公志氏、関西医科大学 DX推進室 顧問 長岡亨氏、関西医科大学 常務理事・広報担当理事 齋藤貴徳氏