2012年はクラウドストレージに注目~その利用法の広がりを見る
昨年は、東日本大震災や電力不足による停電などにより、クラウドに関する注目が一気に集まった。社内でサーバーを運用している場合、停電時にサーバーが運用できなくなるというデメリットがあるからだ。
しかしクラウドサービスを利用すれば、停電によってサーバーがダウンする確率は小さくなる。それは、クラウドを運用している多くのデータセンターでは、自家発電設備を用意しているため。ずっと停電が続くような場合はともかくとして、ある程度の期間であれば、停電が起こってもセンター内の機器の運用が続けられる。
ただ、実際に自社のシステムを一気にクラウドへ移行することは難しい。そこで、注目されてきたいのが、データ保存環境をクラウドへ移動させる、クラウドストレージだ。今回は、このクラウドストレージを活用するソリューションなどを紹介していく。
■DRやBCPの観点から注目を集めるクラウドストレージ
今までは重要なデータは、テープ/ディスクストレージにバックアップすることが一般的だった。また、災害対策(ディザスタリカバリ:DR)として複数拠点へのデータ保管を行う手法もよく知られている。企業がビジネスを継続していく上では、さまざまなデータが必要になるため、災害でそれらがなくなってしまうと、業務がストップしてしまう。
東日本大震災では、役所の建物が津波に流されて、最新の住民データなどがなくなってしまったが、数カ月前にバックアップしたデータから、ある程度住民データが復元できた、という話も聞く。このように、多少古くとも過去のデータが残っていれば、1拠点が災害にあってもデータの復旧を試みることはできる。
しかし、災害対策用のシステムを別個に調達するには、コストが多くかかってしまうという問題があった。災害対策用のバックアップ環境を構築するには、場所を確保からネットワーク環境の導入、ハードウェアやソフトウェアの調達とシステム構築、運用フローの決定など、多くの手間がかかり、IT予算が潤沢にある一部の企業ならともかく、多くの中小企業では容易に取り組めないのが現状だ。
ところが、クラウドストレージを利用すると、こうした状況を打破できる可能性がある。導入にもさほど手間がかからない上、災害が起こっても、クラウドストレージから簡単に復元することができるし、データが保存されるデータセンターの建物は、耐震性や火災対策などが行われているので、災害時にも安定的にサーバー運用が可能になっている。
また、複数のデータセンターにデータが冗長化されているケースも多い。特に、MicrosoftのWindows Azureなど、全世界にまたがるパブリッククラウドでは、国をまたがったリスク分散を行うことができる。このため、さらに高い安全性を確保することが可能になる。
■クラウドストレージをバックアップ/アーカイブに活用する
もちろん、ただクラウドストレージを使ってバックアップをしよう、といっても、多くの企業は、何をしていいのかが分からないだろう。そこで、クラウドストレージを便利に使うための支援機能を、多くのソフトウェアやハードウェアが備えてきた。
例えば、著名なバックアップソフトである、CA Technologiesの「ARCserve R16シリーズ」、Symantecの「NetBackupシリーズ」には、Amazon Web ServiceのAmazon S3やWindows Azureストレージといった、クラウドストレージへのバックアップ機能が用意されている。
ここでは、ARCserveシリーズを例に取って説明しよう。同シリーズは、ローカルストレージのバックアップを行うARCserve Backup、Windows対応のディスクベースのイメージバックアップ製品であるARCserve D2D、リアルタイムにデータをレプリケーションするARCserve Replicationなどが用意されているが、これらのソフトウェアすべてに、クラウドストレージへのバックアップ機能が搭載されている。
その中のARCserve D2Dでは、データの利用頻度などの条件に応じて、クラウドストレージへデータをコピーすることが可能だ。クラウドストレージにコピーした後、ローカルストレージのデータは自動的に削除される。このため、ローカルとクラウドに二重にデータを持つこともない。
また、ARCserve Replicationは、Amazon EC2環境に社内サーバー環境をレプリケーションすることが可能だ。これを利用すれば、低コストでクラウドを利用した遠隔バックアップ環境を整えられる。もし、社内サーバーが災害にあえば、AWSのクラウド環境でシステムを動かすことができる。
もちろん、レプリケーション機能により、災害にあう直前の状態をクラウドへコピーしているため、災害が起こってクラウドにスイッチしても、最新の状況でビジネスを継続していくことが可能だ。
ARCserve Replicationを使えば、クラウドストレージとのデータレプリケーションを行える |
■クラウドストレージを“ファイルサーバー化”
一方、クラウドストレージサービスをファイルサーバーと同様に利用できるようにする製品も、多く見られるようになった。
そうした製品の例として、FOBASの「FOBAS Cloud Storage Cache」(以下、FOBAS CSC)が挙げられる。FOBAS CSCは、WebDAV、CIFS、NFSのインターフェイスを通じて、Amazon S3やGoogle Docs、ニフティクラウドストレージなど、多くのクラウドストレージサービスをファイルサーバーとして利用できるようにするソフトだ。
■バッファローのNAS TeraStationもクラウドストレージをサポート
ソフトウェアだけでなく、NASなどのストレージでも、クラウドストレージ対応が進んできた。
2011年9月末にファームウェアのアップデートを行ったバッファローのNAS TeraStationには、「Webサービス連携機能」が追加された。この機能は、NAS上に作成したフォルダをAmazon S3に接続するもので、Amazon S3と連携設定されたNAS上の共有フォルダにデータを保存すると、クラウド上にデータが保存されるようになる。
また、Webサービス連携機能とTeraStationのバックアップ機能を使用すれば、設定した時刻に、バックアップをAmazon S3にとることも可能だ。Amazon S3にバックアップされたデータは、フラットなファイルとしてバックアップされているため、Amazon S3にリンクしたフォルダへユーザーがアクセスすれば、バックアップしたデータにもアクセスすることができる。
また、TeraStationはMac OS XのTimeMachine機能のバックアップストレージとして利用することができる。このため、Webサービス連携機能を組み合わせれば、Amazon S3にMacのバックアップをとることが可能になる。
Windows PCに関しては、バッファローが販売しているAcronis Backup&Recovery for Buffaloを利用すると、OSを含めてPC環境を丸ごとイメージバックアップできる。
データ量が多くなればネットワークのトラフィックが増えるため、直接Amazon S3とリンクしたフォルダにバックアップすると時間がかかる。この場合は、いったんTeraStationのNASに保存し、その後Amazon S3に自動的にバックアップするように設定すると、Windows PCのバックアップ時間を短縮できる。
今後、できれば、TeraStationに保存したデータを丸ごとAmazon S3などにバックアップし、設定1つで新しいTeraStationにリストアする、といった機能が搭載されると、非常に便利になると思う。
もし、地震や火災などで、TeraStationが被災してデータを失ったとしても、Amazon S3にフルバックアップされているデータから新しいTeraStationへデータをリストアできるからだ。
また現在、TeraStationでは、Webサービス連携機能の対象としてはAmazon S3しかサポートしていないが、Windows Azureストレージなど、ほかのクラウドストレージもサポートすると、クラウドストレージの選択肢も増えて使いやすくなるだろう。
■クラウドストレージ活用時のセキュリティ確保は?
パブリッククラウドのストレージに重要なデータを保存するには、セキュリティ的に問題があると考えるユーザーも多いだろう。これに対応するため、各社は独自にデータを暗号化している。
ARCserveは、データをAESで暗号化してクラウドストレージに保存する。さらに、クラウドストレージとのコネクションは、SSLを使用してセッションを確立するため、途中でデータを盗み見されることもない。
さらに、ウイルス対策機能により、バックアップ/リストア時にデータをチェックするため、ウイルスに冒されたデータをバックアップしたり、リストアしたりすることもないという。
ARCserve Replicationは、暗号化してデータをレプリケーションできる |
FOBAS CSCでは、データを一定のブロックサイズに分割して、AES方式で暗号化を行っている。それぞれのブロックは、異なる最大256ビット(Community Editionは、128ビット)の暗号化鍵が使用されている。
さらに、複数のクラウドストレージにデータを分散配置するため、もしクラウドストレージの中身を盗み見られたとしても、暗号化された一部のブロックしか見ることができず、内容をすべて見ることは難しい。複数のクラウドストレージにデータを分散配置する機能は、FOBAS CSC独自の機能だ。
バッファローのTeraStationは、NASで使用しているHDD自体を暗号化する機能が用意されている。また、Amazon S3とのコネクションはSSLを使用するため、通信中のセキュリティは保たれているが、Amazon S3に保存するデータを暗号化する機能は用意されていない。
■クラウドストレージのコストは?
では、クラウドストレージを利用する場合、どの程度のコストがかかるのだろうか。
ソフトやNAS自体のコストにプラスして、クラウドストレージへのデータ保存料金と、データのアップロード/ダウンロードのトランザクション料金、リクエスト料金が必要になる(Amazon S3やWindows Azureのように、アップロードには費用がかからない場合も多い)。
クラウドストレージの保存料金は、各サービス提供者によって異なるが、Amazon S3の場合1TBで140ドル/月(スタンダードストレージの場合、低冗長化ストレージでは93ドル/月)、Windows Azureの場合1TBで128ドル/月となっている。また、クラウドサービスによっては、6カ月や12カ月の料金プラン、各種割引プランなどが用意されているため、ボリュームが増えれば、実際にはもう少し低コストで利用できるだろう。
データの転送料金は、例えばAmazon S3で1TB転送する場合は120ドル/月(最初の1GB/月までは無料)となる。
FOBAS CSCは若干複雑で、仮想アプライアンスタイプとSaaSタイプの2種類が用意されている。仮想アプライアンスタイプは、仮想アプライアンスのコスト+クラウドストレージの利用コストになるが、SaaSタイプはFOBAS側のSaaSを利用するため、データ量によってSaaSの利用コストがかかり、さらに、クラウドストレージの利用料金がかかる。
例えば、通信容量/キャッシュ容量が各200MBまでは無料、通信容量1GB/キャッシュ容量500MBまでが300円/月、通信容量100GB/キャッシュ容量50GBでも1万800円/月で、これにクラウドストレージのコストがプラスする。またクラウドストレージのコストを含んだプランも用意しており、こちらでは例えば、ストレージ容量1TB、通信容量100GB/キャッシュ容量50GBでは1万8000円/月となる。
なお、バックアップやストレージとしてクラウドストレージをそのまま利用すると、データ量が多くなり、クラウドストレージの利用料金がかさんでいく。このため、ARCserveやFOBAS CSCでは、データを圧縮したり重複排除したりして、クラウドストレージに保存するデータサイズをコンパクトにする機能も備えている。
例えば、FOBAS CSCでは、データを圧縮し、ブロック単位での重複を排除してクラウドストレージに保存していく。これにより、クラウドストレージの利用コストを削減することが可能だ(データの種類に左右されるが、データ量を1/3から1/10程度に圧縮可能という)。
なお1月16日時点のTeraStationには、データ圧縮機能や重複排除機能は用意されていない。この部分は今後の機能強化に期待したい。
今回は、クラウドストレージを遠隔バックアップとして利用する例や、ファイルサーバーとして使う例などを紹介してきた。ただしクラウドストレージは、エンタープライズ分野だけでなく、個人ユーザーにとっても便利なサービスだ。PCで保存したデータを外出先のスマートフォンで取り出すといったことも簡単にできるようになる。近日中に、個人向けの利用例も紹介していこうと考えている。