週刊データセンターWatch:

データセンター選びの基礎知識

 ビジネスにおけるインターネットの重要性が増大し、24時間365日の停まらない運用が求められるなか、サーバーアウトソーシングのニーズは高まっている。データセンター事業者各社もこれに応えるべくファシリティやサービスを充実させている。このため、ユーザーもかつてのようにラック料金だけの比較でデータセンターを選択することは難しくなってきている。データセンターをチョイスするためのチェックポイントを解説する。

(1)データセンターサービスの全体像とアウトソーシングニーズの判断

 データセンターの選択には、さまざまな条件が複雑に絡み合ってくる。ラック料金が安いからとか、特定の機能を提供しているからといった理由だけで簡単に選択して、その後の運用がうまくいくものではない。選択のためにどうしても事前にチェックが必要なポイントを分類すると、

  • ファシリティ
  • サービス
  • サポート

の3つが挙げられる。

 このうちのどれかひとつが充実していれば、サーバー運用がうまくいくわけではなく、ニーズにあわせてそれぞれのポイントをチェックし、すべてを満たす使えるサービスを選択しなくてはならない。

 ここで重要なのが「ニーズにあわせて」という点だ。ユーザーそれぞれがサーバーアウトソーシングに何を求めているかによって、選択すべきサービスや事業者は異なってくる。

 たとえば、現在オフィスのフロアに置いているファイルサーバーを、セキュリティ強化のためにデータセンターに預ける場合、重要になるのは、データセンターの物理的なセキュリティとバーチャルなセキュリティ、ファイルアクセス時の速度、障害時等のサポート体制などだ。また、データセンター利用の目的が大規模なコミュニケーションサイトの運営である場合には、大量のアクセスに対応できるネットワークの確保や急激な成長に耐えうる機器のスピーディーな確保、増設などへの対応も必要になる。

 つまり、それぞれの企業がビジネスを行っていくうえで、データセンターに託すべき機能を正確に把握し、それを実現するサービスが提供されているかを確認することが必要になる。

データセンター選択のための要素(ファシリティ、サービス&サポート)

(2)マネージドとフルマネージドの必要性を判断する

 サーバーアウトソーシングには物理的なメリットと人的なメリットがある。

 現在、特に重要視されているのが人なメリットだ。24時間365日のサーバー無停止稼動を求められることで企業内のシステム部門の負荷は急激に上昇しているが、社会的に見てもそれが部門増員に直結するのは稀だろう。そのため、自社内では対応の難しい24時間監視が最も急がれるアウトソーシング項目となる。さらに、監視だけでなく復旧まで、ダウンタイムを減らし無停止稼動に近づけるためのリクエストがデータセンターに寄せられる。

 企業内の運用負荷を軽減しコアコンピタンスに集中するためには、自社でノウハウを持たない部分から始めて、現在内部で行っている作業でもアウトソース可能なものを切り分け、データセンター側に渡していく努力が必要だろう。

 マネージドやアプリケーションレイヤーまで含めたフルマネージドサービス対応をうたうデータセンターも増加してきており、ニーズのヒヤリングから運用手順書への落とし込みまで、しっかり対応してくれるはずだ。

マネージドサービスからフルマネージドへ、アウトソーシングの要求は拡大している

(3)導入コストと運用コストが機器レンタルニーズを広げる

 従来のラックを借りるデータセンター利用の場合、サーバーやネットワーク機器といったハードウェアはユーザーが用意するものだったが、自社購入となると初期導入費用が高くなるうえ、減価償却処理なども必要になる。

 特に、企業の関心の的であるセキュリティ関連のアプライアンスは高額なものが多く、高機能なものを導入しようとするとかなりの投資が必要になる。

 少ない資本でビジネスを開始したベンチャー企業や、コンテンツプロバイダーなど急成長が予測される企業では、この投資に充てるキャッシュフローが十分でない場合もある。

 最近、データセンター事業者のなかにもこうした機器を幅広く、しかも月額利用料ベースでレンタルするケースが増加してきた。従来はサーバーのみがレンタル品目だったところでも、ネットワーク機器やセキュリティアプライアンスなどをメニューに加えてきている。

 特にアプライアンス系は技術進歩も激しいので、常に新しいバージョンアップ版を利用できるレンタルサービスがあれば積極的に利用したいところだ。

機器レンタルのアドバンテージ

(4)安定稼動と冗長化構成

 最近は専用レンタルサーバーサービスでも複数台構成を提供しているところもあり、サーバーの二重化やロードバランサーによる負荷分散も馴染み深いものになっているが、データセンター利用時に無停止安定稼動を目指すなら、冗長化を行うのは当然として、どこまで冗長化を行うかを問題にすべきだろう。

 注目されているのは回線の完全二重化で、別キャリアの線を使ってインターネットまで出て行く形を取れば、万一片方のキャリアがダウンしたとしても、ウェブを利用したサービスなどを停止させずに提供できる。

 しかし、そこまでの冗長化を果たそうとすれば、ファイアーウォールやロードバランサー、スイッチ類などもすべて2機ずつ備えなければならない。前述の機器レンタルサービスや、マネージドでネットワーク系の設定なども請け負ってくれる事業者を探すなど、選定には慎重さが必要だ。

冗長化構成は機器のみならず回線まで実現することで信頼性が高まる

(5)将来的な拡張性をどう判断するか?

 データセンター選択の条件のなかで、最も判断しづらい項目がこれかも知れない。サーバーは増加し、リプレースされていくものだという前提に立って、いかに継続的に使用できるデータセンターを選択するかという点は、企業にとって重要な問題になるだろう。別のデータセンターへ移行するのはコストと労力がかかるし、通常ユーザーは移行をあまり考えない。

 必要とされる拡張性とはどんなものだろうか?

 まずひとつは、ビジネスが順調に進展した際のラックやサーバーの追加にスピーディーに対応できるかという点だ。現在、人気の高い都心型のデータセンターでは、追加のラック等のリクエストに対し、スペース不足から応えるのに時間がかかるケースも少なくない。導入時や契約の更新時などに、こうした可能性への対応を確かめておくべきだろう。

 もうひとつの形として、サーバーやネットワーク機器のリプレースがある。ハードウェアの進歩のスピードは早く、減価償却を終えたタイミングでは最新のマシンにリプレースしたほうがパフォーマンスもセキュリティなども格段に高くなるのが常だ。この際に問題になってくるのが電力問題だ。

 デュアルコア、クアッドコアのCPUや、演算パワーを飛躍的に集積するブレードサーバーなどの登場で、ラック当たりの電力消費量と発熱量は飛躍的に上昇している。

 従来のデータセンターの電力、空調設備では、ここで必要とされる電力供給と空調(排熱)をまかなえないため、制限が設けられるなどして、せっかくのリプレースが十分なパフォーマンス向上に結びつかないケースがある。特に空調設備の改造は数千万円規模の投資が必要なためなかなか困難だ。しかし、新規に建設されるデータセンターではこうしたニーズに応える設備を用意しているところも増えている。CPU負荷の高いサーバー利用を想定している場合には、新しいデータセンターで、電力使用量制限について尋ねてみるべきだろう。

データセンターの乗り換え意向はわずか(「インターネット白書2007」資料3-2-9 CimpressR&D,2007)

(6)都心型、郊外型とディザスターリカバリー

 データセンターの選択肢として都心型か地方型かという問題がある。首都圏に集中するネット系ビジネスを展開する企業や、大企業の本社などからすると、都心型は交通の便がよく、障害時や増設時などに担当者が行くのに便利だ。このため、近年都心型データセンターに需要が集中して、供給が不足している状態だ。都心にはデータセンター専用に建てられたビルは少なく、既存のビルのフロアをデータセンターに利用しようとした場合、電力不足や加重に対する強度不足などの問題が起こってくるケースもあるので注意が必要だ。特に無停電電源装置の収容スペースには不自由するケースは多いようだ。

 一方、郊外型は土地代が安いためコストメリットがある。また、セキュリティ面での堅牢性も実現しやすい。しかし、バックボーンなどで都心型の回線環境には一歩譲るケースも多く、高速大容量アクセスを必要とするサーバーの設置には不向きと考えられてきた。

 しかし最近では強力な回線を用意する郊外型センターも出現してきており、また、事業継続をにらんだバックアップやディザスターリカバリーのニーズが具体化しつつある。かつては違うプレート上でないと災害時のバックアップは役に立たないという考え方もあったが、現在はむしろ復旧までの時間を重視する傾向が強く、都心から2時間圏などのデータセンターに注目が集まり始めている。今後、内部統制関連でそうした利用も予想されるのであれば、バックアップで連携しているデータセンターを持っている事業者もあるので、導入時に確かめてみるといいだろう。