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性能が強化されたAMDのサーバー向け新プロセッサー「第3世代EPYC」、搭載サーバーが早くも登場

 半導体メーカーAMDが発表した第3世代EPYCプロセッサー(開発コード名:Milan)は、Zen 3の名称で知られる新しいCPUマイクロアーキテクチャを採用したサーバー向けCPUだ。

 前世代となる第2世代EPYCプロセッサー(開発コード名:Rome)と同様、「チップレット」と呼ばれる、1つのパッケージに複数のダイを実装する技術を採用し、最大64コアを1ソケットで実現しているが、従来世代と比べて最大25%の性能向上、最大15%のコストパフォーマンス向上を達成しているという。

 x86サーバー「PowerEdge」において、EPYC搭載製品のラインアップに力を入れているデル・テクノロジーズは、この第3世代EPYCの登場に合わせてEPYC搭載サーバーのリフレッシュを行い、EPYC搭載モデルのCPUを第3世代EPYCへと強化した。

デル・テクノロジーズの第3世代EPYC搭載サーバーのラインアップ(出典:デル・テクノロジーズ)

 また、マシンラーニング/ディープラーニングの学習向けソリューションとして、GPUを搭載したサーバー「PowerEdge XE8545」を新たに投入し、こちらにも第3世代EPYCを搭載することで、より効率の良いディープラーニングの学習を支援する。

 なお、AMD EPYC搭載製品のラインアップを増やしていることは、デル・テクノロジーズの市場シェアにも良い影響を与えており、2020年第3四半期には国内ベンダーに次ぐ市場シェア第3位となっているように、市場シェアは直近4年間で上昇傾向が続いているという。

AMD EPYCの第3世代「Milan」が正式発表される

 AMDが発表した第3世代EPYCプロセッサーは、開発コード名「Milan」(ミラン、英語でミラノのこと)で知られる、新しいサーバー市場向けのCPUだ。EPYCは、2017年の6月に発表された開発コード名「Naples」(ネイプルス、英語でナポリのこと)こと第1世代EPYC、2019年の8月に発表された開発コード名「Rome」(ローマ)こと第2世代EPYCと順当に進化してきたが、Milanはその第3世代となる。

 なお、EPYCのコードネームはいずれもイタリアの都市名になっており、Milanの次世代としてAMDが開発している「Genoa」(ジェノア、英語でジェノバのこと)もイタリアの都市名だ。

最高性能のx86 CPUとうたわれる、Milanこと第3世代EPYC(出典:AMD)

 以下の表は、そのEPYCのスペックを、第1世代、第2世代、第3世代それぞれでまとめたものとなる。表中で赤い文字で表現している部分が前世代からの強化点となる。

表1:AMD EPYC各世代のスペック(AMD社が配布した資料などより筆者作成)

 これを見てわかるように、第1世代(Naples)から第2世代(Rome)への進化に関しては、ほとんど大改造と言って良いほどの大きな進化になっていた。特に大きな違いは、チップレット・アーキテクチャと呼ばれる、CPUパッケージの中に複数のダイを搭載する仕組みの変更だ。

 第1世代EPYCは第1世代のチップレット・アーキテクチャを採用しており、8コアのCPUダイが最大4つ搭載されるので、CPUソケット1つで最大32コアが実現できる仕組みになっていた。この当時の競合メーカーは、パッケージあたり最大22コアの製品しかラインアップしていなかったため、ソケットあたり32コアというのは大きなインパクトがあった。第1世代EPYCが成功を収めた理由のひとつとして、このチップレットを採用したことがあるのは疑いの余地がない。

 第2世代EPYCでは、そのチップレット・アーキテクチャが第2世代に進化した。第2世代のチップレットでは、CPUとI/O(メモリコントローラやPCI Expressコントローラ)が分離され、パッケージの中に8コアのCPUを8つと、IOD(I/O Die)が1つ搭載される形に強化した。これによりソケットあたりのCPUコア数は最大64へと増えたほか、新しくPCI Express Gen 4に対応。Infinity Fabricと呼ばれる内部バスの通信速度も、10.7GT/秒から18GT/秒へと強化された。

 ソケットあたりのCPUコア数は、競合メーカーの28コアと比較して倍以上となり、性能面で大きく優位性を持つこととなった。こうした点が評価されて市場シェアは大きく向上しており、AMDが公開している資料(AMD CORPORATE PRESENTATION 2021年版)によれば、2017年時点での市場シェアは1%だった市場シェアは、2018年に5%、2019年には8%へと向上しているという。

AMDのx86サーバー向けCPUの市場シェアは、2017年には1%とほぼないに等しかったが、Naplesリリース後は上昇の一途だ(出典:AMD CORPORATE PRESENTATION 2021年版)

CPUのマイクロアーキテクチャがZen3になった第3世代

 そして今回の第3世代EPYCだが、大きなくくりで言うと、チップレット・アーキテクチャは、第2世代EPYCと同じ第2世代のチップレット・アーキテクチャが採用されている。つまり、最大で8つのCPUダイ+1つのIODという構成となり、第2世代EPYCとまったく同じだ。また、それぞれのチップの製造プロセスルールも据え置かれており、CPUダイは7nm、IODは14nmで製造されている。

 それでは何が強化されているのかと言えば、CPUダイのマイクロアーキテクチャ(内部設計)だ。第2世代EPYCで競合に対して十分競争力があった部分はそのままに、CPUのマイクロアーキテクチャが強化された製品、それが第3世代EPYCといえる。

第3世代EPYCのハイレベルの特徴(出典:AMD)

 第2世代EPYCに搭載されていたCPUダイは、Zen 2という、AMDのZenアーキテクチャの第2世代にあたるCPUマイクロアーキテクチャが採用されていた。Zen 2は、第1世代EPYCに採用されていたZen 1アーキテクチャと比較すると、IPC(Instructions Per Clock-cycle、1クロックサイクルあたりに実行できる命令数のことで、この数字が高ければ高いほどCPUの命令実行効率が良いことを意味している)が向上している点が特徴だった。

 Zen 3ではそれをさらに進めている。特に大きな改良が加えられているのは、CPUダイに搭載されているL3キャッシュである。日本AMD株式会社 コマーシャル営業本部 ソリューション・アーキテクトの中村正澄氏は、「第3世代EPYCではL3キャッシュのセグメンテーションが向上しており、コアあたりに使えるL3キャッシュが32MBに増えている」と、そのメリットを説明する。

 Zen 1とZen 2では、CCXと呼ばれる、CPUダイ内部のCPUの塊2つから構成されていた(当時のCCXは、CPUコア4つから構成されている)。

 そのCCX1つにそれぞれL3キャッシュが搭載されており、Zen 1では8MB、Zen 2では16MBのL3キャッシュを4つのCPUが共有する構造だったが、Zen 3ではCCX=CPUダイとなり、8つのCPUすべてが32MBのL3キャッシュを共有する構造に変更されている。

第2世代EPYCでは、ダイは2つのCCXから構成されていたが、第3世代EPYCでは1つのCCXだけになる(出典:AMD)
8つのCPUコアがL3キャッシュをシェアできる(出典:AMD)

 これによって、コア1つが使えるL3キャッシュの量は仮想的に増えることになり、その結果メモリレイテンシが削減されて、IPCが向上する。

なお、CPUコア数の構成によって、32MBのL3キャッシュをいくつのCPUコアがシェアするかは変わってくる。72F3というSKUでは1つのCPUコアが32MBのL3キャッシュを独占するぜいたく構成(出典:AMD)

 AMDによれば、32コア製品同士の比較では、SPECrate2017_int_baseにおいて25%の性能向上が実現されており、コストパフォーマンスは15%向上したという。

性能は25%向上し、コストパフォーマンスは15%向上(出典:AMD)

 プラットフォーム側の改善としては、6チャンネルのメモリ構成を正式サポートすることが挙げられる。第2世代EPYCまでは4chと8chをサポートしていたが、6chの構成はサポート対象外になっており、6chに構成した場合には、動作はするが性能が低下するという仕様になっていた。

 しかし第3世代ではそこが改善されて6chも正式サポートされ、きちんと性能が出るようになった。これにより、コストの都合で6ch構成にしたい場合にも、しっかりと性能が発揮できるようになっている。

第3世代EPYCでは6チャンネルのメモリ構成をサポートする(出典:AMD)
6チャンネルのメモリ構成では384GBや768GB、1536GB、3072GBなどの容量を選択することができるようになり、より柔軟なメモリ容量選択が可能になる(出典:AMD)

 なお、プラットフォームレベルでは、第3世代EPYCと第2世代EPYCはソケット互換のため、システムボードのファームウェアを第3世代対応版にアップグレードし、CPUを差し替えれば利用可能だ。つまり、既存のシャシーなどの投資を生かしつつ、CPUだけを交換して安価にアップグレードできるパスが用意されることになる。

1U・2ソケットや2U・2ソケットなど5つの選択肢を用意、ユーザーがニーズに合わせて選択可能

 こうしたAMDのEPYCを搭載した製品を、デル・テクノロジーズはフルラインアップで提供している。2ソケットが3製品(PowerEdge R7525/R6525/C6525)、1ソケットが2製品(PowerEdge R7515/R6515)と、いずれも複数製品がラインアップされており、ユーザーが自社のニーズに合わせて選択できることが特徴だ。

 第2世代EPYC時代に人気を集めた、1Uサイズながら2ソケットを実現した高密度向けのPowerEdge R6525や、より多くのストレージを積める2U・2ソケットのPowerEdge R7525などが、引き続きラインアップされている。

 またPowerEdge C6525は、東京大学のスーパーコンピューターとして2020年10月に納入されるなど、実際の導入事例も増えていること。

EPYC搭載PowerEdge(出典:デル・テクノロジーズ)

 なお、第3世代EPYC対応のPowerEdge最新世代では、いくつかのアップデートと新しい周辺機器が提供されている。PowerEdge R7525/6525に関しては、中央と右端に置かれていた電源をそれぞれ左右の端に移動することで、エアフローの改善を実現する改良がケース側に加えられた。

 またストレージの搭載方法として、PCI Expressスロットを消費せず、筐体のバックプレーンに装着する形で同社初のNVMe ハードウェアRAIDを実現した「PERC H755N」をサポートするほか、ブート専用のM.2デバイス「BOSS-S2」が進化し、背面アクセスでホットプラグに対応するなどの強化も行われた。いずれも購入時にオプションとして選ぶことができる。

熱設計の改良や新しいオプションの提供が開始される(出典:デル・テクノロジーズ)

 加えて、以前の弊誌記事「これを使わない手はない? 確かな実力とTCOに裏打ちされたAMD EPYC搭載サーバー、その利点を知る」で紹介した、Windows Server 2019の特別ライセンス・キャンペーン「Windows Server OEM ライセンスのコアキャップ制プライシング」も継続されており、2021年の6月までに、Windows Server 2019をプレインストールOSとして選択した場合には、CPUコアが64コアであっても、ライランス価格は32コア分で打ち止めになる。

 CPUコア数が多いEPYCをWindows Server 2019で利用しようと考えているユーザーには、とてもうれしいキャンペーンだ。

Windows Server OEM ライセンスのコアキャップ制プライシング(出典:デル・テクノロジーズ)

GPUだけでなくCPUも強化することで快適なML/DLの学習が行えるPowerEdge XE8545

 そして今回、新しく第3世代EPYC搭載製品として追加されるのが「PowerEdge XE8545」だ。XE8545は、NVIDIA A100 GPUを最大で4つ搭載可能で、第3世代EPYCと組み合わせて利用することにより、マシンラーニングやディープラーニングの学習を効率的に行えるHPC(High Performance Computer)向け製品となる。

PowerEdge XE8545(出典:デル・テクノロジーズ)

 GPUは、NVIDIA A100の40GBメモリ搭載版ないしは80GBメモリ搭載版を選択可能で、最大4つ搭載できる。熱設計には余裕を持たせて作られており、80GBモデルを搭載した製品についても、一般的な空冷環境でTDP500Wまで耐えうるような設計となった。廃熱に気を遣わざるを得ないGPUサーバーでも、より安心して利用できるような設計になっている。

 それでいて、サーバーの奥行きは810mmに抑えられ、国内のデータセンターで使われている標準ラックにも、余裕を持って格納可能だ。一般に、GPU搭載サーバーは奥行きのある製品が多く、国内のデータセンターで使われているラックではギリギリだったり、そもそも入らなかったりという製品が少なくないそうで、これも見逃せないメリットといえる。

 なお、デル・テクノロジーズがサーバー向けに提供している管理技術の「iDRAC 9」によって、GPUの消費電力、稼働温度をGUIでリアルタイムに可視化できる。サーバー管理者がコンソールから消費電力や稼働温度をチェックできるので、消費電力や廃熱の管理が難しく、サーバー管理者の頭痛の種となっているGPUサーバーも安心して管理することが可能だ。

iDRAC 9でGPUの管理をしているところ(出典:デル・テクノロジーズ)

 デル・テクノロジーズの岡野氏は、「GPUサーバーが本当に性能を発揮するには、CPUとの通信やメモリの性能も重要になる。第3世代EPYCを搭載したXE8545は、高いトータルバランスを実現している」と強調し、より強力な最新CPUを搭載していることが、第2世代AMD EPYCベースの他社のGPUサーバーとの大きな違いになるとアピールした。

現在日本での市場シェア上昇中のデル・テクノロジーズ

 なお、2020年の国内サーバー市場は、特に前半、企業の投資マインドがCOVID-19の影響を受けたこともあり、前年同期に比べると低調だったが、その中でもデル・テクノロジーズは市場シェアを伸ばし成長を続けてきたという。デル・テクノロジーズの岡野氏によれば、2015年から2020年で、国内市場における同社サーバーの金額シェアは2倍に成長しており、メジャーベンダーで唯一と言える成長ぶりということだ。岡野氏は「ユーザーさまとパートナーさまのおかげ」と話し、今後も顧客に支持されるようなサーバー製品を投入することで市場シェアの拡大を狙っていきたいとした。