トピック

真のDX推進を加速するハイブリッドクラウドソリューション
マイクロソフトの「新世代Azure Stack HCI」とは?

 今や、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。しかし、そのDXは「残念なDX」になっていないだろうか? マイクロソフトが考えるDXと、それを実現するためのハイブリッドクラウド、さらには、アナウンスされたばかりの新世代Azure Stack HCIがもたらすメリットについて、マイクロソフトに話を聞いた。

マイクロソフトが考えるDXの進むべき先

 ビジネスを取り巻く環境が急激に変化する近年、企業はその対応に追われており、中でもDXの推進に意欲的に取り組む企業は多い。しかし、そうした中で「残念なDXが散見される状況にある」と指摘するのは、日本マイクロソフト株式会社 Azure ビジネス本部 プロダクトマネージャー 佐藤壮一氏だ。

 DXの定義はあいまいで、とらえ方が揺らぎやすい。佐藤氏は残念なDXの例として、仮想マシンをクラウドに移行すること、つまり「ただクラウドを使うこと」や「クラウドへ移行すること」自体が目的になってしまっているケース、また在宅勤務だけが目的になってしまうケースなどを挙げた。

 では本来、DXが向かうべき先とはどこなのだろうか。佐藤氏は一例として 「"Data Driven"な状態、すなわち"Digital feedback loop"を実現すること」と表現する。ビジネスをデジタル化し、データを収集・解析して、それを改善、反映につなげる。このサイクルを素早く回すことで、新製品や新サービスの開発スピード、すなわちビジネスのスピードを向上できる状態だ。

 これがマイクロソフトの考えるDXの本質である。

Digital feedback loop(資料提供:日本マイクロソフト、以下同じ)

 では、真にDXを実現するためにはどうするべきか。それは、これまでもマイクロソフトが主張してきた「Intelligent Cloud、Intelligent Edge」という言葉がその方向性を示す。

Hybridを選択する理由

 さまざまなデータ・情報はリアルな世界、つまりオンプレミスやエッジで発生する。すべてのデータをクラウドに集める必要はなく、処理効率的にも最適とは限らない。オンプレミスやエッジで処理すべきデータも存在する。

 「DXを実現するためには、クラウドだけを使うわけではなく、クラウドを中心として扱いながらも、クラウドはハブとして使いながら、リアルな世界とクラウドを上手につなげていくことが大切です。俯瞰(ふかん)して、監視・運用管理の全体最適化を図り、ビジネスのスピードを上げていくことのできる世界を創りあげるための最適解がハイブリッドクラウドなのです」と佐藤氏は強調する。

「Azure Arc」によりすべての場所に存在するリソースを管理

 マイクロソフトでは、DXはもちろんのこと、IoTやAIの活用といった将来的な進化も視野に入れながら、現在、ハイブリッドクラウドに強くコミットしている。

Azureを中心としたハイブリッドクラウドソリューション

 上の図が、マイクロソフトが提供している、もしくは提供しようしているハイブリッドクラウド系のソリューションを1枚で表したもので、中でもキーとなるテクノロジーが「Azure Arc」である。

 2019年11月に発表された「Azure Arc」は、オンプレミス、エッジ、マルチクラウドの全体で複雑かつ分散した環境において、Azureの管理をあらゆるインフラストラクチャに拡大するテクノロジーだ。

 「分散・複雑化したインフラストラクチャすべてに対して一貫した管理を行うこと、ガバナンスを効かせることは大変困難で、企業がハイブリッドクラウド/マルチクラウドに舵を切ろうとした時の大きな課題になります。それを解決するのがAzure Arcです」と佐藤氏。

 リソース管理の一元化を実現するAzure Arcは、「Azure Arc for servers」「Azure Arc enabled Kubernetes」「Azure data services on Azure Arc」の3つの機能で、すべての場所・インフラ上のリソースに対してAzureのサービスや運用管理機能を提供する。「Azure Arc for servers」は2020年9月から一般提供が開始されている。

Azure Arc

 さらにAzure Arcに加え、認証・アクセス管理を一元化する「Azure Active Directory」、セキュリティ情報の一元管理を実現する「Azure Sentinel」により、マイクロソフトはハイブリッドクラウド/マルチクラウド環境下における包括的なガバナンスとセキュリティ管理へのアプローチも提供している。

理想のハイブリッドクラウドを実現するための新世代「Azure Stack HCI」

 Azure Arcによる一元的な管理。価値を最大化するためのソリューションとしてマイクロソフトが提供するのが「Azure Stack」シリーズである。

Azure Stackのポートフォリオ

 Azure Stack Edgeは、マイクロソフトが提供するエッジコンピューティング用途のクラウドネイティブアプライアンスだ。Azureポータルから利用申請することで、月額課金形式で専用ハードウェアを利用することができる。このアプライアンスを導入することで、Azureのエッジコンピューティング機能やデータ転送、IoT Edgeといった機能をオンプレミス環境で利用できる。

 Azure Stack Hub(旧称:Azure Stack)は、オンプレミスでAzureサービスを使用して、クラウドネイティブアプリと接続、または切断された状態で、独自の自律型プライベートクラウドを実行する統合システムだ。

 そして、2020年7月に発表された新しいAzure Stack HCIは、Azureサービスとして提供される新しいハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)オペレーティングシステムである

 ここで「おや?」と思われる方もいるかもしれない。Azure Stack HCIは、提供が開始されてすでに1年以上が経過しているソリューションのはずだ、と。そう、Azure Stack HCIはさらなる進化を遂げ、新世代Azure Stack HCIとして生まれ変わるのだ。

従来のAzure Stack HCI(左)と新生代のAzure Stack HCI(右)

 まず大きな変更点として挙げられるのが、従来のAzure Stack HCIがWindows ServerベースのHCIのリファレンスアーキテクチャであったのに対し、新世代Azure Stack HCIは、Azureの1サービスとして提供されるハイブリッドクラウドソリューションである点だ。

新世代Azure Stack HCI

 「従来のAzure Stack HCIの利点であるパフォーマンス向上やコスト削減といった部分はそのままに進化します。オンプレミスのAzure Stack HCIクラスターをAzureとネイティブに統合し、パブリックのAzure側からHCIクラスターを一元管理できます」と佐藤氏。

 すなわち、オンプレミスのAzure Stack HCIクラスターとAzureクラウドリソースの両方の管理を、Azure Portalから直接行うことができ、複数クラスターの大規模な監視や、Azure Stack HCIクラスター上の仮想マシンの可視化と管理が可能となるのだ。

 新世代Azure Stack HCIは現在パブリックプレビュー中であるが、正式リリース当初から使える機能として現在アナウンスされている機能としては以下のものがある。

・Azure Resource Manager(ARM)の標準構成要素
・タグでクラスターを分類
・クラスターをリソースグループに整理
・単一のグローバルビューですべてのAzure Stack HCIクラスターを表示
・AzureのIDおよびアクセス管理(IAM)を利用

 なお、Azureとネイティブで統合ということを考えた時に、常時インターネット接続が必須のように考えられるかもしれないが、そうではない。エッジローカルの管理ツールも常に利用可能で、インターネット接続は少なくとも30日に1回の課金情報同期ができれば良い。

 ライセンス形態も従来のAzure Stack HCIから変更となる。ゲストOSとホストOSのライセンスを分離し、ホストOSはAzureのサービスとしてサブスクリプション型の課金になり、ゲストOSは必要な分だけライセンスを購入する形となる。

ゲストOSとホストOSのライセンスを分離している

 環境規模に応じてコストが変動するモデルになるため、さらに高い柔軟性をもって活用が可能となる。

エッジからデータセンターまで、予測可能なコストで利用できる

 「従来のAzure Stack HCIと比べると、現段階では特に大規模な利用ではコストメリットが小さい課金体系に見えると思いますが、今後、運用管理系の機能をさらに拡張していくことで、大規模環境下でも十分なコストメリットを提供できるように継続的な更新が予定されています」と佐藤氏は強調する。

 今後の拡張では、Azure Stack HCI上での仮想マシン作成のセルフサービス機能や更新機能の統合などが、「そう遠くないタイミング」(佐藤氏)に予定されている。パブリックのAzureポータルからAzure Arcと連動してオンプレミスのHCIの仮想マシンをデプロイできるようになるほか、ファームウェアやドライバーの更新なども一元管理が可能となる。これにより、大規模な環境でも一元管理のメリットを最大限に享受することができるようになるだろう。

 例えば、データセンターに設置したレガシーのシステム群をHCIに置き換え、フットプリントを大幅に削減するとともに、運用管理工数の削減を実現、さらに、新世代Azure Stack HCIを導入することで、Azureとのハイブリッドクラウドを構築し、オンプレミス、クラウドを問わない監視と運用管理を実現する。

 Azure Arcを活用すれば、マルチクラウドやエッジコンピュータ環境の一元的な管理も可能となる。DXを推進する企業にとって大きなメリットになることは間違いない。

Azureを中核としたハイブリッドクラウドソリューションにより、場所を問わないイノベーションを実現

 「DXを推進していくためにはデジタル化が必須です。そしてデータを収集、分析して新製品や新サービスの開発スピード、ビジネスのスピードを向上する、真のDXのための基盤にはハイブリッドクラウドが近道であり、最適解です。将来的なことを考え、既存の環境を置き換えるにあたっては、新世代Azure Stack HCIを選択肢としてぜひご検討ください」と佐藤氏は語った。