特別企画

IBMのアナリティクスとクラウドはSparkとともに進化する

コグニティブとクラウドへのシフトが鮮明に

コグニティブとクラウドへのシフトが鮮明に

 複数のアナリティクスソリューションをラインアップとして抱えるIBMだが、今回の新発表を見ると、同社のアナリティクス部門はWatsonに代表される“コグニティブコンピューティング(cognitive conputing)”への収束、そしてクラウド上でのエコシステム構築に力を入れていることがわかる。

 コグニティブコンピューティングは、“人工知能”という言葉の利用をかたくなに拒否するIBMが多用するキーワードだが、同社は人間の脳を代替するAI技術ではなく、Watsonをはじめとするコグニティブコンピューティングでは自然言語による処理を重要視している。

 アナリティクスの分野においても、人間がふだん使う言葉や画像をそのままの状態で正しく高速に理解し、分析に役立てることにフォーカスしており、例えばCognosのUX変更などは、まさにビジネスユーザーが日常的に利用するキーワードを使った分析の実現に努めている。「マシン語から自然言語へ」というWatsonで実現しようとしてるプラットフォームのパラダイムシフトを、アナリティクスの分野にも持ち込もうとしている狙いが見て取れる。

 もうひとつのクラウドへのフォーカスに関しては、クラウド市場でのIBMの微妙な立ち位置が影響している。クラウド市場最大のベンダーであるAWSは、すでにクラウド上に大量のデータを蓄積しており、基本的にクラウドからオンプレミスにデータをわざわざ戻すことを考えていない。同社はすでにクラウド上で確たるエコシステムを構築しているので、クラウドだけでデータのライフサイクルを完結できるのだ。

 またAWSを追い上げようとするMicrosoftも、ここ1、2年でクラウドへのシフトを鮮明にしており、サティア・ナデラCEOに変わってからはHadoopやDockerなどのオープンソースプロダクトへの投資も積極的に行っている。Azure上でのマシンラーニングへの市場からの引き合いも強い。

 一方でハードウェアベンダーとしての歴史が長かったIBMは、これらの競合のような大胆でわかりやすいクラウドへのアプローチを取りにくいという事情がある。オンプレミス上にはまだ膨大な顧客のデータがあり、それらのほとんどはクラウドへの移行がなされていない。SoftLayerやBluemixも伸びてはいるものの、まだクラウドプラットフォームとしての実績は、AWSやMicrosoft Azureに遠く及ばない。IBMは顧客もデータ処理もまだオンプレミスが主流であり、クラウドだけで(あるいはクラウド中心で)データのライフサイクルを回すことはできないのだ。

 ハイブリッドクラウドという言葉は、オンプレミスに大量の顧客とデータを抱えるIBMのようなベンダが取らざるを得ない施策だということもできる。

(五味 明子)