特別企画

IBMのアナリティクスとクラウドはSparkとともに進化する

コグニティブとクラウドへのシフトが鮮明に

 「SparkはIBMにとって久々のチャンスだ」――。10月25日~29日(米国時間)の5日間にわたり、米国ラスベガスで開催されたIBMのデータアナリティクスカンファレンス「IBM Insight 2015」の会場で、あるIBM関係者はこうつぶやいた。

 The Apache Software Foundation(ASF)のもと、オープンソースとして開発が進む「Apache Spark」は急激に存在感を強めているインメモリ型の分散処理基盤だ。同じ分散処理基盤のHadoopよりも高速なパターン分析や非構造化データからの抽出といった処理に長けており、リアルタイムストリーミング処理やマシンラーニングといった“より速くて正確な分析”を求める昨今の市場ニーズに、ぴたりとマッチする。

 このSparkに対しては大小含めた多くのITベンダが投資を行っているが、その中でもここ1年ほどの、IBMのSparkへの力の入れようはすさまじい。Watson AnalyticsやIBM SPSSといった自社製品と同等、あるいはそれ以上のコミットメントをSparkに対して行っているかのようにすら見える。その背景には冒頭でも触れたとおり、SparkがIBMにとって同社の技術的優位性を際立たせる存在だという確信があるからだ。

 ではSparkはIBMにどんな“チャンス”をもたらすのか、本稿では現地での取材をもとに、IBMがデータアナリティクス分野で新たに構築しようとしているエコシステムについて考察してみたい。

シリコンバレーを横断するCaltrainにもIBM Sparkの全面広告を出すほどSparkコミュニティへのアプローチを強めている

Cognosのクラウド版が提供へ、UXもコグニティブ指向に

 Insight 2015の期間中、IBMが同社のアナリティクスソリューションとしてリリース/アップデートを発表したのは以下の3つだ。

・Spark-as-a-Serviceを実現する「IBM Analytics on Apache Spark」
・BIツール「IBM Cognos Analytics」のUX変更とクラウド版リリース
・文書を中心とした非構造化データから分析に必要なデータを的確に抜き出す「IBM Datacap Insight Edition」

 Spark-as-a-Serviceは、IBMのPaaS基盤「IBM Bluemix」上で13週間にわたりベータテストが行われた後、26日から一般提供が開始されている。Bluemix上のオファリングメニューとして提供することで「IBM BigInsigts」「IBM Streams」「IBM SPSS」といったIBM製のクラウドデータサービスだけでなく、HadoopやCloudant(IBMが開発するオープンソースのNoSQLプロダクト)などとも連携がしやすくなっている。

Bluemix上でのSpark-as-a-Serviceも一般提供開始へ

 ベータテスト期間が長かったSparkオファリングの正式発表はある程度予想できたが、Cognosのクラウド提供に関しては、驚きを隠せなかったカンファレンス参加者も少なくなかったようだ。IBMは今回のCognosアップデートについて「Watson Analyticsと同様にセルフサービスを主体とし、ユーザーエクスペリエンスの大きな改善を行った」(IBM アナリティクスプラットフォーム部門 ゼネラルマネージャ ベス・スミス氏)とコメントしている。

 ITに詳しくないユーザーが例えば「売上」「担当営業」「目標額」といったキーワードで検索しても、その意図(インテント)を正しく把握してデータソースから検索、モデリングを行い視覚化する。単一の環境で、製品管理からダッシュボードまでどんなタイプのビジネスレポートにも対応しているのも新たなCognosの特徴だ。そして、オンプレミスとまったく同様のUXをクラウドでも提供すると強調している。10月に登場したAmazon Web ServicesのBIサービス「Amazon QuickSight」をはじめ、今後はクラウドBIツール市場の競争が激化していく前触れだとも言える。

UXが刷新され、クラウド版も提供されたIBMのフラグシップBIツールCognos。よりビジネスユーザにフレンドリーなBIへと進化した

 IBMのコンテンツ管理システム製品ファミリ「IBM Datacap」は、文書イメージからのデータキャプチャを得意とするが、今回発表されたInsight Editionは手書きなどの文書も含めて自動的に分類、分析に必要なデータを適格に抽出し、ビジネスにおける重要な決定のスピードを上げることをうたっている。例えば病院では医師による手書きの文書や画像データが散乱しているが、Datacap Insight Editionはそれらから自動で迅速にデータを抜き出し、分析用の電子データとして適切に分類/保管することが可能になる。

 「エンタープライズデータの90%は非構造化データ。これらの分類しにくいダークデータから効率的にビジネスの知見を得るDatacap Insight Editionのようなアプローチが今後はますます重要になる」(スミス氏)。

(五味 明子)