「クラウドセンター」でお客さまへ体験を提供、Azureの活用も積極的に-富士ソフト

SIerにクラウドへの取り組みを聞く


 富士ソフト株式会社は、クラウドにいち早く取り組んだSIerとして知られている。2008年からGoogle Appsの販売を手掛け、2009年からは全従業員がGoogle Appsを利用するようになったほか、マイクロソフトとも協業を強化。2010年の3月に、「マイクロソフトソリューション&クラウドセンター」(以下、クラウドセンター)を開設し、BPOS(Microsoft Business Productivity Online Suite)の拡販にも、本格的に取り組み始めた。

 今回は、その富士ソフトのクラウドセンターを取材し、同社のクラウドに関する取り組みを聞いた。

クラウドサービスを体感できるセンターを開設、高い稼働率を記録

クラウドセンター

 「4月に開設されたセンターだが、来社されるお客さまの数は、5月後半から6月にかけて本格化し、6月には40社のお客さまにお越しいただけた」――。富士ソフト マイクロソフトソリューション&クラウドセンター センター長の森本真里氏は、現在の状況をそう説明する。

 もともとこのセンターは、BPOSなどのクラウドサービス導入を検討する顧客が、実際にその利用感などを体験できるように、との意図で設置されたものだが、富士ソフトのその狙い通り、「実機を体感していただくことで、よりよいシミュレーションが可能になり、お客さまからも好評をいただいている」のだという。

 その言葉が示す通り、6月からは、1日あたり2社のキャパシティに対して、稼働率が約90%を記録するなど、利用が活発化。「そのうち半数が案件化され、受注に結びついているものもある」と、営業面で大きな効果を上げるようになった。コンテンツ面でも、7月には2010シリーズのデモ環境が整備されており、随時拡充が行われている。

ユーザーが普段作業している環境にできる限り近いシーンを作り、実際にその環境で操作・検証が可能な「検証ゾーン」セミナーなどを行えるクラウドセンターの「解説ゾーン」

 クラウドソリューションの場合は、その特長の1つとして「迅速な導入が可能」な点が挙げられることが多い。実は商談でも、このスピード感が発揮されているのか、「クラウドは、案件化してからの展開が早い。実機体感していただくことで、より細かなシミュレーションができるため、お客さまからも好評いただいている」のだという。また、富士ソフトは長年Google Appsを扱ってきた経験を持つことから、「Googleとの比較も聞きたいという場合は、さまざまご説明して、ニーズにあったものを紹介できる」(森本センター長)点も、プラスに働いている。

富士ソフトの森本真里センター長(中)、青木大介主任(右)と東証コンピュータシステムの日詰廣造室長(左)

 現在の商談の中心は、BPOSでは25シート以上、最大300シート未満といった規模で、一見少ないようにも感じる。しかし、これは企業の規模が小さいからというよりも、「現在は『まずは使ってみて』という段階で、『本格導入は秋以降に』とか、『本年度中の本格導入を検討している』などというケースが多いため」(富士ソフト システム開発事業グループ MSユニット ユニット長の見ル野雅成氏)。同社の顧客層が大手企業中心ということもあって、来場されるのは大手企業の方が多いそうで、「クラウドには経営層も関心を示す例が多くなっているからか、役員クラスの来場も多くなっている」状況で、クラウドに関する関心は依然として高いものがある。

 案件としては、BPOSの導入が半分程度で、Exchange Online単体での引き合いも強い。これは、「メールシステムをクラウドに移行することで、コスト、特に運用の負担を切り離したい」(富士ソフト システム開発事業グループ MSユニット MSソリューション&クラウドディビジョン 主任の青木大介氏)というニーズが相当数あるためだ。

 移行の負荷が少ないほか、現状利用しているMicrosoft Exchangeユーザーとの共存がしやすいことから、大企業が部分的に導入するというケースもある。また、バックエンドのメールシステムをクラウドベースに移行させても、「クライアントツール側はOutlookを使えるので、ユーザー側に混乱を生じにくい、という点も決め手になっている」(青木氏)とのこと。実際に、こうした点が評価され、導入ユーザーの1/3~1/2はオンプレミスのMicrosoft Exchangeからの移行だという。

 もちろん、他社製品からの乗り換えも多く、現に最大規模の300シートの導入をしたユーザーは、Notesからの移行だったそうで、こうした乗り換えについても、マイクロソフトと協力して推進していくとしている。

 なおマイクロソフトによれば、現在BPOSのパートナー数は順調に伸び、300社を超える規模に成長しているそうだが、富士ソフトは3本の指に入るほどの好調ぶりを示しているとのこと。もちろん、この好調さを下支えしているいくつかの要因の中に、クラウドセンターがあるのは間違いない。こうした状況を受け、富士ソフトでは大阪にも同様のセンターを開設する計画で、マイクロソフトの大手町のセンターとも連携を密にし、顧客からのクラウド検証に関する求に応えていく意向だ。

 

Azureの活用でも先行、上場企業の公開情報をまとめた「みんかい」をオープン

みんかいのトップページ。「遊びごころを加えて、柔らかく使っていただきたいし、操作が難しくてもいけない」との意図から、Silverlightを使って作られている

 一方で富士ソフトでは、WebアプリケーションのプラットフォームとしてWindows Azureを利用した事例も公開している。それが、富士ソフト、東証コンピュータシステム、東京証券取引所の3社が手掛ける、上場企業の公開情報をまとめたB2Cサービス「みんなの会社情報(みんかい)」だ。

 これは、4000数社の上場企業の情報をディスクローズするためのWebアプリケーションで、主に、株価やIR情報を個人に提供している。しかし、単に情報を提供するといっても、「会社情報には、HTMLはもちろん、PDF、Excel、PowerPoint、動画などさまざまなデータの仕組みがあるし、過去にさかのぼるとその量はすごく多い」(東証コンピュータシステム 戦略企画室 室長の日詰廣造氏)。そこで、柔軟性があり、スケーラビリティの点では申し分のないAzureをPaaS的に使って、このアプリケーションを作り上げたのだという。

 日詰室長によれば、「.NETの開発手法が使えるので分かりやすい部分があるし、進めていく方法論がイメージしやすい。また、ストレージについても数種類のタイプが用意されており、使いやすいものを使っていけるため、それに応じたデータを格納していけば、レスポンスのよいシステムが構築できる」のがAzureのメリットとのこと。他社のサービスについては、「Amazonのサービスはまだイメージしづらい部分があるし、GoogleもPaaSよりはSaaSとしてイメージされている」とのことから、Azureに決めたのだとした。

 ただし、クラウドのメリットの1つとされるコスト面は、開発当初はAzureがまだCTPで課金を開始していなかったため、どの程度かかるかは意識していなかったという。それでも、「開発の人件費もかかっていないし、ハードウェアのインフラも考えなくていいし、ハードウェアの運用コストもかからないので、メリットは大きい。Azureの場合、トランザクションとデータ量で課金されるモデルだが、アーキテクチャをうまく考えることで、かなりコストダウンできている。現在はまだトランザクションがあまり発生していないが、今後発生してきても安く済むだろう」(日詰室長)と述べ、効果は出ていると強調している。

 なお、クラウドサービスでは、主要サービスのデータセンターはすべて海外にある点を問題視される場合もある。パフォーマンスやセキュリティが問題なのでは、という懸念を抱かれるわけだが、日詰室長はこの点について「主に北米のデータセンターからデータが来ているが、操作感はそれほど重くない」とし、現時点ではパフォーマンス面の問題はないとする。またセキュリティについては、みんかいの場合は基本的に開示された情報の集約になっていることから、問題視はしていないとした。


四季報の情報をもとにした企業情報【左】や、20分遅れで配信される株価情報【右】などを、自由に閲覧可能
過去3カ年の決算情報、IR資料なども蓄積されているので、その企業の情報を効率的に閲覧することができる株価の値上がり率、値下がり率のランキングを集計する機能も利用可能だ。このデータ自体はAzure上にあるが、個々の株価のデータは、オンプレミスのサーバーで一度集計してからAzureへアップしているので、トランザクションはさほど発生しない。こうした仕組みで課金を抑えている
動画の配信機能も備えており、18時にはその日の株式市場の概況を配信。また、CMや社長のあいさつなど、個々の企業の動画コンテンツを掲載することも可能だ

 こうして、富士ソフトではAzureを手掛けてノウハウを蓄積しているが、見ル野ユニット長は、「Azureの実績も作ったし、お客さまから引き合いが来ているので、マイクロソフトと一緒になって、コンサルティングから入っていこうと思っている」と、SIerである富士ソフトにとって、こうしたクラウド活用の経験を積むことは欠かせないことだとする。

 また今後は、「当社自身が持っているソフトをAzureに載せられないのか、という視点でも、新しいプロダクトを展開していこうと思っている」と述べ、クラウドサービスの再販、クラウド関連のSI、アプリケーションのクラウドからの提供、といった各面で、今後も事業を進める意向を示している。

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