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マイケル・デルとジェンスン・フアンが語るAIエージェント時代、最短6時間で展開する「PowerRack」などAIインフラを大拡充
Dell Technologies World 2026基調講演レポート
2026年5月19日 12:54
米Dell Technologies(以下、Dell)は、同社の年次イベント「Dell Technologies World 2026」(以下DTW 26)を、5月18日~5月20日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市の「The Venetian Expo」において開催している。初日となった5月18日午前(日本時間5月19日未明)には、同社 創業者・CEO マイケル・デル氏を始めとする同社幹部が登壇して、初日基調講演が行われた。
この基調講演には、米NVIDIA 共同創業者・CEO ジェンスン・フアン氏がゲストとして登壇し、DellのNVIDIA GPUソリューションを紹介する内容になった。今回のDTW26において、DellはNVIDIA GPUを採用したAIファクトリー(いわゆるAIデータセンターのこと)の構築ソリューションを幅広く提供することを明らかにしたほか、サーバー機器からラックレベルのソリューションまで一気通貫に提供する「Dell AI Factory with NVIDIA」のアップデートも発表した。
40年で売上約19兆円の企業にまで成長したDell、PCからデータセンターまでをフルラインアップ
Dellは、1984年に、当時テキサス大学の学生だったマイケル・デル氏がPCの面白さにハマって作ったIBM PC互換メーカー「PC's Limited」から始まった企業だ。Dellはグローバルなサプライチェーンを最適化することで、カスタマイズ時に購入者がスペックを決められるCTO(Customize To Order)を武器に、PCメーカーとして急成長した。
その後、IntelがPC用のプロセッサーだけでなく、サーバー用のプロセッサーの供給を開始するのと歩を合わせるようにサーバー機器事業にも進出し、PCだけでなくサーバーなどを含めた総合的なコンピュータ機器ベンダーへと変貌を遂げた。
さらに2015年には、サーバー用のストレージ事業を展開していたEMCを買収し(2016年に買収完了)、サーバーだけでなくストレージ製品もラインアップに加えて、より幅広い製品群を展開するようになっている。
こうした買収により、Dellは、クライアント製品(PCやワークステーションなど)、x86サーバー、GPUサーバー、データストレージ、ネットワーク製品など、フルラインアップで製品を提供できるようになっている。なお、2025年の売上高は1135億ドル(1ドル=158.79円で日本円換算して18兆8166億円)で、前年比19%アップとなっている。
DTW 2026は、そうしたDellのB2B向けの年次イベントとして開催されている。このため内容は多岐にわたっており、PC製品、x86サーバー、NVIDIA GPUサーバー、さらにはデータセンター向けのハードウェア(EMC由来のストレージやネットワーク製品など)といった新製品が多数紹介されるイベントになっている。例年は5月にラスベガスで開催されており、2026年も同時期にラスベガスで開催されている。
AIは何かを相談する相手から何かを替わりにやってもらう相手になった
初日の基調講演に登壇したのは、同社 創業者・CEOのマイケル・デル氏。1984年にDellを創業して以来、一時期を除いてCEOを務めており、その名字が社名になっていることからもわかるように、同社の顔と言っていい存在だ。デル氏は、顧客企業やパートナー企業のCEOなどをゲストとして呼びながら、DellのAI向け製品戦略などに関して説明していった。
デル氏は「われわれは今、歴史上で最も重要な変化期を迎えている。“リッチなインテリジェンス”(豊富な知性)の時代は未来の話ではなく、今ここにあるのだ。AIは今やインフラになりつつある。発電所により電気が供給され始めて世界を変えたように、AIもスクリーンに届いた時から世界を変えつつある。AIモデルは人間よりも賢くなりつつあり、その性能は指数関数的に向上している。ChatGPTが登場したばかりの頃の小論文が書けるチャットボットから、今では、自分で改善を続けるAIエージェントへと進化している。これらはコードを書き、ワークフローを実行し、24時間体制で動き続ける」と述べ、ここ数年のAIの進化で、そもそもAIが、人間が相談する相手から、何かを替わりにやってもらう相手へと変わっていると説明した。
その上で、「エンタープライズのような組織にとってAIは単なる機能ではなく、OSそのものになりつつある。これからAIにより新しいモダン・エンタープライズができあがっていく。ヘルスケア、製造、金融、農業、スモールビジネス、そして政府まで、すべての規模の組織を変えていくことになるだろう」と述べ、AIによりエンタープライズが大きく変わっていくというビジョンを表明し、それに合わせた環境作りが重要だと強調した。
デル氏はパートナーとの協業についても説明し、Google Cloud、Meta、Mistral、IBM、Microsoft、OpenAI、SpaceXといったクラウドサービス事業者やソフトウェアベンダーとの関係を強化していることを強調した。
例えば、Google Cloudとの協業では、「Dell PowerEdge XE9780」にGDC(Google Distributed Cloud、Google Cloudのオンプレミスソリューション)のGemini 3 Flashを導入することが明らかにされた。大企業はGDCを活用することで、自社のデータセンターや自国内のクラウドサービス事業者のデータセンターなどで、Gemini 3 Flashモデルを動かすことが可能になる。ソブリン要件などにより、国外のGoogle CloudのGemini 3を利用できない大企業などにとって、有益な選択肢となるわけだ。
構築開始から6時間で展開が可能なラックソリューション「PowerRack」など、AI Factoryを拡張
デル氏は同社がAIファクトリー(AIの演算性能を提供する工場という意味で、要するに巨大なAIデータセンターのこと)と呼んでいるNVIDIA GPUベースのソリューションとして、昨年発表された「Dell AI Factory with NVIDIA」に関するアップデートを発表した。
Dell AI Factory with NVIDIAは、DellがNVIDIA GPUを利用してAIファクトリーを構築するのに必要なハードウェア(GPUサーバー、NVLink SwitchやInfiniBand/Ethernetのようなネットワーク、ストレージ、NVL72のようなラック、空冷/水冷などの冷却ソリューション)を一気通貫で提供する時のブランドになる。例えば、データセンターを構築する事業者(クラウドサービス事業者や巨大なオンプレミスのデータセンターを計画している大企業)などが、GPUベースのAIデータセンターを構築する場合に注文するパッケージが、Dell AI Factory with NVIDIAになる。
従来、こうしたGPUのソリューションは別々に提供されており、例えば、GPUサーバーはDellから、ネットワーク機器はネットワークベンダーから、ストレージはストレージベンダーから――といった形でそれぞれを個別に調達し、データセンターを建設する際などに組み合わせて導入していた。
しかし、今やGPUベースのシステムがデータセンター全体に導入されることは当たり前になりつつあり、こうした一括で導入できるソリューションが求められているのだ。特に、NVIDIAのBlackwell世代以降では、サーバー機器単位ではなく、GB200/GB300 NVL72のようにラック単位で導入されることに加え、消費電力が上がったことにより冷却装置では水冷が当たり前になりつつあり、ラックや冷却装置などに関するノウハウが必須になっている。そのため、そのようなノウハウも含めて一括で導入できる「GPUデータセンターのパッケージ化」が求められるようになってきているのだ。
今回、DellはこうしたDell AI Factory with NVIDIAの機能拡張などを発表している。同社は、NVIDIAがサンノゼで3月に開催した「GTC 26」において、NVIDIAの新世代GPU「Rubin」に基づいた新製品をすでに発表している。
例えば、Vera Rubin NVL72ベースのラックとなる「PowerEdge XE9812」、NVIDIA HGX Rubin NVL8ベースのラック用ブレードの「PowerEdge XE9880L/XE9882L/XE9885L」、イーサネットスイッチになる「Dell PowerSwitch SN6000シリーズ」、InfiniBandスイッチになる「NVIDIA Quantum-X800 InfiniBand Q3300-LD」などは、3月18日(米国時間、GTC 26の初日)に発表された。
今回のDTW 26では、Vera Rubin NVL72などを含むラックスケールソリューションになる「Dell PowerRack」が発表されている。PowerRackは、ラックレベルでのターンキーデザインで、演算装置、ネットワーク、ストレージ、冷却装置など、AIファクトリーを構築する際に必要な要素を1つにして提供する仕組みだ。
Dellがラックのデザインから構築までを請け負ってくれるので、データセンター事業者やオンプレミスにAIファクトリーを作ろうと考えている大企業などは、AIファクトリーのラック構築がこれまでよりも容易になる。Dellでは、配送から実際に起動して稼働を始めるまでに最短6時間で完了できると説明している。
また、大企業向けストレージ製品となる「Dell Exascale Storage」に「Dell PowerFlex」を追加し、AI、HPC、および要求の厳しいエンタープライズワークロード向けのブロック(PowerFlex)、ファイル(PowerScale、Lightning File System)、およびオブジェクト(ObjectScale)を利用可能にした。
そのほかにも、次世代CDU(Cooling Distributed Unit)である「Dell PowerCool CDU C7000」、ラックマウントのワークステーション「Dell Pro Precision 7 R1」なども発表されている。
さらに、ソフトウェア面では「Dell AI Data Platform」の機能が拡張された。オーケストレーション(統合制御)とRAGが強化され、何十億もの非構造化ファイルのインデックス化が実現したことで、それに基づいたAI向けデータ検知とデータ作成が高速化されるほか、Blackwell(GPU)、Vera(CPU)向けの最適化が行われ、SQLデータベースでの分析が高速化される。
加えて、Dell AI Data Platform のストレージとRAGがOmniverseライブラリーと統合され、Omniverseを利用したフィジカルAIの学習と推論に高品質のデータを提供可能になる。
AIは「使えるAI」になったとNVIDIA ジェンスン・フアンCEO、計算量増大に備える必要がある
また、「Dell Deskside Agentic AI」を発表した。Deskside Agentic AIは、大企業などのAI開発者が、Dell Pro PrecisionなどのワークステーションPCで開発したAIアプリケーションを、オンプレミスのデータセンターやクラウドへと展開するためのソリューションだ。ソフトウェアとしてはNVIDIAの「OpenShell」、「Dell AI Data Platform」を活用して実現される。
例えば、NVIDIAのGB10を搭載した「Dell Pro Max with GB10」のようなミニPC、3月のGTCで発表された「Dell Pro Max with GB300」のようなワークステーションから、「Dell PowerEdge XE」のようなサーバー機器までをカバーしており、ワークステーションPCで開発したソフトウェアを容易に実用環境に展開することが可能になる。
こうしたことが重要になっている背景には、フロンティア・エージェントとして、Anthropic Claude Coworkなどのクラウドベースだけでなく、オープンソースで提供されているOpenClawなどが注目を集めていることがある。
NVIDIAは、OpenClawにセキュリティ機能を付加したNemoCalwを3月のGTCで発表しており、それを活用して業務の自動化などを進める大企業が今後増えると見込まれている。そうした時に、まずはワークステーション上で開発し、それをそのままクラウドベースで展開するなどの使い方が考えられるだけに、重要な取り組みになる。
なお、デル氏はこうしたOpenClawのような業務自動化ツールを使うと「生産性は20~30倍になる」と表現し、それだけでも企業にとっては注目の取り組みと言える。
こうしたNVIDIAのソリューションを紹介した後で、デル氏はゲストとしてNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏を紹介した。フアン氏とデル氏は、俗な言葉で言えば「マブダチ」として知られており、2年前のGTC 24ではVIPゲスト席にいたデル氏をフアン氏が紹介して「イジる」ような、非常に近しい関係だ。
フアン氏は「2年前にここに来た時には生成AIの話をした。今や生成AIは、コンテンツ生成から思考を生成するようになっており、AIエージェントへ、そして“使えるAI”へと進化しているのだ。それにより必要な計算量は100倍、1000倍――と増大しており、今や需要は指数関数的に増えている。仕事によっては一週間かかっていたような計算をエージェントが代行することも増えている。これにより生産性は非常に上がっており、この数年ものすごい勢いで進化している」と述べ、AIがより実用的なAIへと進化することで、計算能力への需要は増えており、それに対応する必要があると聴衆に呼びかけた。
また、新しいCPUのVeraについても触れ「従来のCPUはコア数を最大化する設計手法がとられていた。AIエージェントの時代にはトークンを生成することが重要で、最も高いシングルスレッド性能と高いメモリ帯域を実現し、Starburstのようなデータベースが非常に高速に動く。エージェント時代にはトークンを高速に生成するのが価値で、データベースに高速にアクセスするためにシングルスレッド性能が重要だ」と述べ、NVIDIAのVeraが現在データセンターで使われているCPUに比べて高いシングルスレッドを実現し、トークンの生成といった推論の需要に適していると強調した。
その後、2人はDellのVera Rubin NVL72となるPowerEdge XE9812に、魂入れ(あるいはだるまの目入れ)ならぬサイン入れの儀式を行った。最近、さまざまなカンファレンスで、フアン氏がOEMベンダーの機器にサインして歩くというのが1つの風物詩のようになっており、今回はそれを基調講演の中で行った形だ。
フアン氏がサインを終えると「マイケルもここにサインしたらどうか?」と呼びかけると、デル氏は「いや、あちこちにデルってもう書いてあるからその必要はないよ!」(Dellの製品なので、Dellのロゴがあちこちについているという意味)とジョークで返し、会場は大きな笑いに包まれた。
Eli Lilly and Company、Honeywell、Samsungの事例などが紹介される
今回の基調講演では、Eli Lilly and Company、Honeywellといった企業がDellの顧客として紹介された。それぞれ、幹部がステージに呼ばれ紹介が行われた。
Eli Lilly and Company(イーライリリー・アンド・カンパニー)は米国の製薬会社で、研究開発部門ではさまざまな医薬品開発に向けた研究(創薬研究)が行われている。Eli Lilly and Company 上席副社長 兼 CIO 兼 CDO ディオゴ・ラウ氏は、DellとEli Lillyの関係が15年にもわたっており、最近導入した1000基以上のGPUを活用したスーパーコンピュータ「LillyPod」を利用し、デジタルツインや検査の自動化などにより、医薬品開発のスピードと生産品質の両立を実現していると説明した。
Honeywell CTO スラッシュ・ベンカタラル氏は、HoneywellがAIとソフトウェアを活用したオートメーション企業へと変革しており、同社がForgeと呼ぶプラットフォームを軸にして産業向けのAIプラットフォームをDellやNVIDIAと連携して開発していると説明した。
そのほかにもSamsung Electronicsの事例がビデオで紹介され、同社の半導体製造事業において、DellとNVIDIAのデジタルツインソリューションが研究開発から生産まで活用されていると説明された。





















