特集

AIを経理の実務に組み込む具体像と、AIへの「委譲」のステップ

【第2回】AI時代の経理業務再設計:「思考の代替」がもたらす組織の進化

 第1回では、経理業務におけるAI活用について、「業務代替型(思考の代替)」へのシフトを通じたプロセス再設計の重要性を整理しました。では、実際の現場では何が変わり始めているのでしょうか。

 先進企業ではすでに、日常業務の中でプロセス再設計による変化が始まっています。本稿では、先進企業におけるAI活用状況やAIによって代替が進んでいる具体的な業務を紹介します。また、AIを業務に組み込む際の実務上のポイントにも触れることで、経理業務のAI活用における「今」を浮き彫りにしていきます。

【特集】AI時代の経理業務再設計:「思考の代替」がもたらす組織の進化

【第1回】:経理AIはなぜ「周辺業務」で止まってしまうのか? 経理の構造課題と打開への設計思想
▼【第2回】AIを経理の実務に組み込む具体像と、AIへの「委譲」のステップ(本記事)
▼【第3回】AI時代に経理が果たすべき新しい役割とは? 処理から「設計・調整」の領域へ(7月6日掲載予定)

1.先進企業におけるAIの活用状況

1-1.汎用AIの業務利用から「業務プロセスへの組み込み」へ

 現在、多くの企業でChatGPTやGemini、Copilotなどの汎用AIが導入されています。しかし、第1回で示した通り、その活用は「調べもの」や「文章の要約」といった周辺業務にとどまるケースが多く、経理部門が抱える「過度な手作業」や「属人化」といった本質的な課題の解決にはつながりにくいのが実情です。

 一方で、先進企業では、汎用AIを個々が利用する段階から、AIが組み込まれたERPや会計システムを導入する段階へと移行しつつあります。実際の製品においても、入力から決算に至る各プロセスで、AIが思考を代替し、人間の判断を高度にサポートする機能の実装が進んでいます。

 こうした変化により、担当者は意識せずともシステム操作の延長線上でAIの支援を受けられるようになり、業務のあり方にも変化が生まれています。

2.AIが代替し始めている業務とは

 システムに組み込まれたAIが実際の経理実務においてどのように機能し、業務を変革しているのか、「入力」「照合」「承認」「締め処理」の4つの工程に分けて、具体的な変化を見ていきます。

2-1.入力業務の変革:定型化できない「矛盾」や「不足」を検知

 入力業務では、AIが領収書の内容を読み取り、どの科目を入力すべきかの判断まで補完することで、入力作業そのものが変わり始めています。これまでのシステムでは、「特定の文言があれば特定の科目に分類する」といった細かいルールベースの設定が必要でしたが、設定のメンテナンスに多大な労力がかかり、すべてを網羅することは現実的ではありませんでした。AIを活用することで、こうしたメンテナンスにかかる負担が大きく軽減されます。結果として、人による入力内容の差分や間違いもなくなり、運用全体の効率化につながります。

2-2.照合業務の変革:イレギュラー対応の「調査」をサポート

 入金消込などの照合業務では、AIが照合対象の調査の手間を軽減し、自動化をサポートします。例えば、振込名義の揺れや振込手数料による金額の不一致など、従来は人が確認していたイレギュラーなデータに対し、可能性の高い消込候補をAIが判断し、その根拠とともに提示します。これにより、担当者はゼロから対象を探すのではなく、確認対象が絞り込まれた状態から作業を始められるため、調査にかかる時間を大きく削減できます。さらに、AIが提示した判断根拠をルールとして蓄積することで、自動処理の精度向上にもつながります。

2-3.承認業務の変革:属人的な「判断」をスコアリングで標準化

 承認業務では、AIが申請内容を総合的にチェックし、確認の必要性をスコアとして提示する仕組みも登場しています。承認者は、AIが提示したスコアとその根拠をもとに判断することで、申請内容を一から確認する必要がなくなります。さらに、一定の条件を満たす低リスクな案件については、AIによる自動承認を取り入れることも可能となり、承認プロセス全体のスピードが大幅に向上します。

2-4.締め処理業務の変革:膨大な「確認・加工」から異常値の検知へ

 月次決算などの締め処理では、未承認データのチェックや残高チェックの際に、AIが事前にデータを解析し要約や異常値の検知を行うことで、確認の手間を削減します。これにより、担当者は大量のデータを出力・加工するのではなく、ハイライトされたポイントに集中することができます。また、AIの解析結果に基づいた改善案を提示することで、経営報告を行う際の報告内容作成もサポートします。

3.AIを業務に組み込む際に重要なポイント

 ここまで見てきたように、AIは経理業務の各工程における「判断」を支えることで、業務プロセスに変化をもたらしています。こうした変化を実務に定着させるためには、押さえておくべき重要なポイントがあります。

3-1.人の「責任」とAIへの「委譲」のバランス

 AIは強力な判断支援ツールですが、経理業務において最初から100%の精度を保証することは困難であり、最終的な判断と責任は人が担う必要があります。一方で、すべてを人が一から判断し続ける前提では、業務のあり方はこれまでと大きく変えられません。

 重要なのは、人が最終的な責任を持ちつつも、前段の処理や一次判定をどこまでAIに委ねるのかを設計することです。こうした「責任と委譲のバランス」を取ることがAIを業務に組み込むうえでの出発点となります。

3-2.「責任を持って任せる」ための段階的なアプローチ

 このバランスを実現するうえで鍵となるのが、「少しずつ任せる範囲を増やす」という考え方です。AI活用においては、いきなり業務全体を任せるのではなく、挙動や精度を確認しながら、段階的に適用範囲を広げていくことが求められます。こうしたステップを踏まずに業務を委ねてしまうと、イレギュラーが発生した際に人が責任を取ることができません。実務においては、以下のようなステップで活用を進めていくことが考えられます。

1.エラーチェックから活用する: 入力の不足や矛盾の検知など、まずは人の作業を補助する機能として使い始め、AIの挙動や精度を確認します。

2.AIの意見(スコア)をもとに、人が判断する: AIが提示するスコアリングや根拠を「AI承認者の意見」として参考にしつつ、最終的な判断・承認は人が行い、AIとの協働に慣れていきます。

3.任せられる範囲を段階的に広げる: 精度の高さが確認できた領域から、低リスクな業務を中心にAIに完全に処理を任せる範囲を広げていきます。

 このように、段階的にAIの判断を評価し、人が納得したうえで任せる範囲を広げていくことが、実務におけるAI活用を成功させる最大の鍵となります。

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 本稿では、入力・照合・承認・締め処理といった日常の経理実務において、AIがどのように業務に入り込み、業務を再設計していくのかを整理しました。AIによる「思考の代替」が進むことで、経理担当者は膨大なデータの確認やイレギュラー対応といった処理業務から徐々に解放されていきます。重要なのは、こうした変化を支えるために、人の「責任」とAIへの「委譲」のバランスを取りながら段階的に活用範囲を広げていくことです。

 次回は、「経理部門に求められる新しい役割」をテーマに、AI時代において経理部門がどのように進化していくべきかを考えます。

皆川 新/株式会社ワークスアプリケーションズ
カスタマーサクセス本部 エヴァンジェリスト

株式会社ワークスアプリケーションズにて、既存顧客のアカウントマネージャを担当。様々な業種・規模の顧客に対し、製品を通しての課題解決に取り組んでいる。

また、経理・財務領域における業務改革やAI活用も推進。HUEエヴァンジェリストとして、実務に即した業務設計とシステム活用の橋渡しを担う。