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キヤノンITS、2030年に売上高2000億円超へ――須山新社長が挑む持続的成長へのロードマップ
2026年4月27日 06:00
キヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)の代表取締役社長に3月23日付で就任した須山寛氏が会見を行い、2030年に向けた事業戦略を発表するとともに、新たなビジョンについても発表した。
2030年の売上高は2025年比で1.4倍以上とし、重点事業領域の売上高は年平均成長率で8.4%以上を目指す。キヤノンITSの2025年(2025年1月~12月)の売上高は1472億円となっており、2000億円突破が目標になる。
また、これらの目標の実現に向けて、2027年には、適用可能なすべての開発案件において、AI駆動開発を全社標準として適用する考えも明らかにした。
新たなビジョンメッセージとして、「共想共創カンパニー2030 未来を見すえる。変化に挑戦する。価値を創出し、社会へ届ける」を打ち出した須山新社長は、「新ビジョンは、共想共創を起点に、社会やお客さまの発展に欠くことのできない存在であり続けるための信頼と挑戦が連鎖していく成長モデルを示すもの」と位置づけた。
親会社であるキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)では、2026年から新たな中期経営計画をスタートするとともに、2030年を見据えた長期経営構想を発表。2030年にはITソリューション事業の売上高5000億円を目標に掲げており、キヤノンITSは、その中核を担うことになる。
「キヤノンMJからの期待は大きい。長年にわたり、培ってきた技術力と、お客さまと築いてきた信頼関係を基盤に、ITソリューションを通じた価値提供に取り組む。キヤノンMJグループの顧客基盤やアセットを生かしながら、グループシナジーを生み出し、さらなるITソリューションを軸とした事業拡大を進める。アイデアを出し、サービスを創出する『創造業』といえる存在になりたい」とする。
一方、「SIを中心とした事業モデルからの転換を図らないとその先の成長が厳しくなる。新たな領域や新たなサービスを創出することで、エンジニアだけに頼らないビジネスモデルを構築することが重要である。これを成長戦略とセットで考えなくてはならない。5年、10年先を見据えた基盤をこの5年で作りたい」と述べた。
進化する3つの事業モデルから価値創出に取り組む
社長に就任した須山氏は、1972年生まれで茨城県出身。1995年に独立系SI企業であるアルゴテクノス21に入社したが、2007年にキヤノンMJがアルゴ21を完全子会社化したのに伴い、キヤノンMJグループに移籍。SIサービス事業本部金融事業部長に就任した。
その後、金融分野を中心としたシステムインテグレーション事業を行う金融・社会ソリューション事業部門担当執行役員や、コンサルティングを主力とするビジネスイノベーション推進センター担当上席執行役員などを経て、2023年3月に取締役に就任。2024年3月に常務執行役員に就いていた。
自らの経営姿勢として、「社会との共存・価値創出」、「社員の成長を考え続ける」、「これまでの当たり前を疑い続ける」、「ストーリー(つながり)を重視する」、「周りを巻き込み、ともに進める」の5点を挙げ、「常にお客さまの先にある社会とその未来を見据え、社員一人ひとりの成長を考え続け、過去の成功に慢心せず当たり前を問い直す。また、ストーリーとつながりを大切にしながら、周囲と連携しながら皆で価値創出に取り組む」とコメントした。
新ビジョンでは、3つの事業モデルから価値創出に取り組むという。
ひとつめは、「マーケットイン型サービス提供モデル」である。これまでの「サービス提供モデル」を進化させたものであり、業界や業種、業務に共通したニーズをもとに、これらを満たすサービスを提供する。
具体的なターゲットとして、SCM・PLM領域での新サービスを拡充するほか、クラウドセキュリティ領域におけるラインアップの拡充、「映像×AIソリューション」領域での新規ソリューションの創出に取り組む。他社サービスとの連携提案も進めていくという。
須山社長は、「サービス事業が、キヤノンITSを大きく成長させるレベルに到達していないという反省がある。お客さまの課題の先にある社会課題につなげていくことがサービス提供には必要であり、いま一度、原点に戻り、お客さまを知ること、社会課題や業界、業務を理解したサービス創出を加速させていく」と自らの課題を指摘した。
2つめは、「価値創出システムインテグレーションモデル」である。これは、従来の「システムインテグレーションモデル」を進化させたものになる。
顧客が魅力に感じる価値を創出するシステムインテグレーションと定義し、食品や化学、素材業を対象に、業界標準ベストプラクティスモデルを提供するほか、銀行や証券、カード、リース/レンタル、保険などを対象にした基幹業務システムのITライフサイクルフルサポートの提供、小売・卸売業をメインターゲットとした流通業向け業務トータルソリューションの提供などに取り組む。また、モビリティ市場においてはSDV領域における上流設計を含めた車載ソフトウェア開発の提供、企業システムインフラにおけるITライフサイクル全体を担うインフラSIの強化などにも取り組む。
「環境変化が激しいなかでも、お客さまからのSIへの期待は高い。競争力向上のために基幹システムを強化する動きも活発である。長年培ってきた業務知識をベースにした高度な課題解決力で、お客さまの固有の課題を理解し、最適なシステムを提供する」としながら、「だが、お客さまから要件を受けて開発する構造だと差別化が難しく、利益率も上がらない。お客さまのありたい姿を想像し、構想し、開発、運用までを一気通貫で提供できる強みを生かす」と述べた。
3つめが、「未来共創イノベーションモデル」であり、これは「ビジネス共創モデル」を進化させたものだという。顧客の目指す姿に向けた事業変革を未来視点で共創するコンサルティングビジネスであり、コンサルティングからシステム開発まで安定したサポートを提供するという。
「3つの事業モデルのなかで、一番伸びしろが大きく、ほかの2つの事業モデルを循環する起点になり、重要な領域」と位置づけ、「お客さまの想いを起点に、将来の社会や事業の未来を見据えた構想を描き、事業変革に向けた取り組みをリードしていくことになる。コンサルティング領域への挑戦は後発となるが、蓄積した業務知見とR&Dの存在によって、実現性の高いコンサルティングを行い、SIやサービスの提供につなげていく。製造および流通中心から、ほかの業務領域へも拡大していく」とした。
また、「こうした実績や、探究した成果を広く市場に発信していくことも未来共創イノベーションの重要な役割になる」と述べた。
須山社長は、「これらの3つの価値創出は、個別に完結するものではなく、相互に連動させることで価値を高め合うことができる。構想から実行、継続的な価値創出へとつなげていく」としたほか、「3つの価値創出のためには、AIの活用が重要になる。AIは特定の領域にとどまるのではなく、お客さまへの新しい価値の提供や業務プロセスの変革など、あらゆる事業活動を進めていく上でのドライバーとして位置づけている」とも話している。
なお、新ビジョンの実現に向けては、成長を支える基盤への投資と、成長スピードを高めるための投資を進める考えも示した。
成長を支えるITインフラへの投資では、AIやクラウドサービスの高度化を背景に、高付加価値型データセンターへの継続的な投資を進めるとともに、既存資産の有効活用や外部リソースの活用も組み合わせながら、柔軟な基盤拡張を図る。
「AIの利活用の促進にあわせて、データセンターに対する需要は旺盛である。西東京データセンターの一部を高付加価値化するだけでなく、さらに拡充していくことも考えている。土地や電力供給問題があるため、さまざまな利用方法を検討している」と語った。
また、AIを含めた先進技術領域においては、数理や映像などのR&D部門の強みを生かした研究開発を継続するとともに、AIの本格活用を支えるAI活用基盤の整備を進め、事業との連動を強化する。
さらに、人材においては、共想共創人材をキーワードにした育成を進めるという。「成長の加速に向けて、必要なM&Aや資本業務提携についても、戦略的に推進していく」と述べた。
なお、新たなビジョンは、4つの言葉で構成されている。
「未来を見すえる」では、顧客の立場で、その業界の進む未来を創造し、構想するために、業界、業務の理解を深めていくことを目指すという。また、「変化に挑戦する」では、社会や顧客の環境変化をとらえた挑戦に加えて、自らを変化させることにも挑戦する。そして、「価値を創出し」では、顧客に届ける本質は価値であり、コスト削減や時間短縮、顧客の競争力向上、業務効率化など、どの価値が必要なのかを見極めていくとした。最後の「社会へ届ける」では、顧客や市場に対して、求められて作るのではなく、自らが主導していく姿勢を示したという。
7つの重点事業領域で2030年売上目標の50%以上を担う
キヤノンITSでは、重点事業領域として、「スマートSCM」、「モビリティDX」、「金融コアIT」、「文教ICT」、「バックオフィス」、「クラウドセキュリティ」、「ITプラットフォームサービス」の7つを掲げ、2030年には、これらの領域による売上高構成比を、全社の50%以上を高める計画を打ち出した。2025年実績では2~3割の構成比だったという。
「スマートSCM」では、製造業においては、生産から配送まで最適化した仕組みを提供するとともに、小売・卸売業には、販売管理を中心にしたトータルソリューションを提供する。
「SCMは、即日配送や在庫最適化ニーズの高まりに加え、AIやIoTによる需要予測精度の向上や需給計画の高度化、ブロックチェーン技術などを活用したトレーサビリティの強化、サプライチェーン全体の可視性強化、さらに地政学的リスクを踏まえたサプライチェーンの再構築などの動きを背景に、今後も市場規模が拡大すると予想している。コンサルティングの拡大や、製造業向け基幹業務トータルソリューションのAvantStageのラインアップ強化などにより、お客さまの業務課題を高度に、幅広く、解決していく」とした。
「モビリティDX」は、自動車OEMや部品サプライヤー、重機および建機メーカーに対して、車載ソフトウェアの組み込み開発で技術貢献する事業となる。車載ソフトウェア開発の標準プラットフォームであるAUTOSARに関する知見と、車載システム全般への幅広い開発実績をもとに差別化を図る。
「自動車業界は、車載ソフトウェアのアップデートが可能な車への進化や、車外サービスとの連携など、SDVへと進化している。その領域で価値が提供できる体制を整えていくとともに、強みとする車載セキュリティなども組み合わせ、自動車のSDV導入の加速を支援していく」と述べた。
「金融コアIT」は、金融機関の中核領域への価値提供を通じて、社会インフラを支えていく事業領域と位置づけている。
「金融分野では、基幹システムの高度化、AI活用などによる新サービスが進展する。キヤノンITSは、各業種の主要な金融機関の大型システム構築や運用を担ってきた経験があり、業務知見の蓄積に強みを持つ。ここにAIなどのテクノロジーを組み合わせ、お客さまの中核領域と新サービス創出のリードをしていきたい」との考えを示した。
「文教ICT」に関しては、初等教育から高等教育までを対象に、文教領域のITインフラを支えてきた実績を生かすとともに、同社の代表的サービスである「in Campusシリーズ」を展開。全国の既存顧客の人的ネットワークなどを活用し、ハードウェア、ネットワーク、サービスを組み合わせた教育DXの提案を進める。
「バックオフィスDX」では、SuperStreamを中心に、バックオフィス業務の自動化や省力化を支援。時間や人材といった資源を高付加価値な取り組みに振り向けていく仕組みを提案する。
「クラウドセキュリティ」では、サイバー攻撃などのリスクに対するセキュリティサービスとして、アセスメントからコンサルティング、監視・運用までをトータルで提案する。「日本の大手企業では、取引先や関連会社が侵入経路となって大規模なサイバー攻撃に発展した例が相次いだこともあり、サプライチェーン全体でセキュリティリスクに対する意識が高まっている。先進的なセキュリティソリューションを幅広くそろえることで、さまざまなニーズに応えていく」とした。
「ITプラットフォームサービス」は、モダナイゼーション、データマネジメント、ITインフラサービスを統合した領域としており、特にモダナイゼーションにおいては、COBOL環境のリホストに加えて、対応環境や対応言語のラインアップを強化する。また、ネットワークサービス、システム運用・保守サービス、データセンターサービスをワンストップで提供する「SOLTAGE」の認知度向上、サービスの拡充にも取り組む考えを示した。
2027年に「AI駆動開発」を全社標準化、持続的な価値創出ループの構築へ
AIへの取り組みについても説明した。
社内のAI活用について須山社長は、「2026年は、開発部門・間接部門を問わず、現場でのAI活用を幅広く推進し、AIを使いこなすための実践知を全社的に蓄積する。2027年には、システム開発におけるAI駆動開発の活用、間接業務ではバックオフィスAIを前提とした業務へと移行し、AIを活用して顧客への価値提供を継続的に行っている状態を目指す」としたほか、「こうした現場での実践に加え、R&D部門によるドメイン特化AIやマルチモーダルAIなどの先端技術への挑戦も並行して進めていく。現場実践と先端技術へのチャレンジを両輪として、AI活用のレベルを段階的に高めていく」と語った。
その上で、「キヤノンITSでは、生成AIツールの導入や個別業務の効率化に本格的に着手しているが、AIを前提としたシステム開発やお客さまへの価値提供は、まだ一部の領域にとどまっている。だが、AIは、業務効率を高める支援ツールの位置づけから、ビジネスそのものに組み込まれるユースケースへと広がっている。今後も大企業を中心に、サプライチェーンやセキュリティ、ソフトウェア開発などにおいて、AIの活用が進むことになる。これらは、キヤノンITSが注力してきた領域となり、優位性が発揮できる」とした。
また、3つの事業モデルにおけるAI活用についても言及した。
価値創出システムインテグレーションモデルでは、先に触れたように、2027年に開発プロジェクトへのAI駆動開発の全面適用を目指すという。さらに、顧客に対して、AIエージェント、特化型AIなどによる業務の自動化、効率化、意思決定支援の高度化などの提供を拡大する。
マーケットイン型サービス提供モデルでは、過去の開発実績や事業アイデアをもとに、AIを活用して、高速にサービス化。既存のソリューションサービスへのAI機能の実装も加速する。「開発で得たアーキテクチャやノウハウを全社で共有し、自社AI提供基盤の整備を通じて、サービス創出のスピードを高める」という。
未来共創イノベーションモデルでは、顧客が持つ課題の解像度の向上や、意思決定プロセスの解析にAIを活用し、課題解決の精度を高めるという。あわせて、R&Dやデータマネジメント領域で培ってきたAI活用のノウハウを、顧客のAI活用ニーズにあわせて提供する。
さらには、3つの事業モデルの実践で得られたAI活用ノウハウを、事業モデルを横断して蓄積、再利用することで、持続的な価値創出ループを形成する考えも示した。
「価値創出ループを機能させるエンジンとして、3つの事業モデルのすべてと接続することができるAI活用基盤を整備する。キヤノンITSには、文書や設計書、ソースコード、業務ノウハウなど、長年にわたって蓄積してきた知的資産がある。これらをAIが活用しやすい形に構造化するとともに、それぞれの事業活動のなかで生まれた現場の知見をAI活用基盤に蓄積し、全社で再利用していく」という。
また、「ナレッジベースやMCPサーバーを通じて、AIエージェントが全社の知見を横断的に活用できる仕組みを整備する。同時に、認証、認可、監査の統制基盤を組み込むことで、安心安全に活用できる環境を確保する。現場で得た知見を、AIを活用することで、社内に横展開していく。この循環を回し続けることで、AI活用は一過性の取り組みではなく、持続的な競争力の源泉となる」と述べた。
このほか、社内DXの取り組みとして、間接部門や本社部門における業務改革を通じて、AI活用の実践力を底上げし、価値創出を担う人材の育成にもつなげるという。
「VISION2025」の振り返りと次なる成長に向けた課題
一方、キヤノンITSは、2025年度を最終年度として推進してきた5カ年の長期ビジョン「VISION2025」の成果についても振り返った。
VISION2025の開始時点では、コロナ禍の影響もあり、一時的に業績が落ち込んだが、その後は回復基調へと転換。売上高は、年平均11.1%の成長率で推移して1472億円となり、営業利益は2020年度比で約2倍の158億円となった。
お客さまエンゲージメントと社員エンゲージメントで構成する「エンゲージメント経営」により、経営の土台を強化するとともに、「システムインテグレーション」、「サービス提供」、「ビジネス共創」の3つの事業モデルを推進してきたことを示しながら、「3事業モデルを通じて一定の手応えを得ることはできた。だが、このままの延長戦では、次の成長には十分ではないという課題も見えてきた」と総括した。
システムインテグレーションモデルでは、2021年比1.3倍の売上目標に対して、同1.5倍の実績となった。製造、金融での大型基幹システム案件が貢献したほか、車載機器や産業機器などの組み込み分野も好調だったという。
「データ利活用の領域において提案の余地があると見ている。また、コンサルティングチームによる案件獲得が増加しており、上流案件や大型案件を担えるエンジニアの育成を進める。さらに、開発工程におけるAI活用を進めており、全社でノウハウを蓄積し、短納期化、業務効率化などにつなげる」とした。
サービス提供モデルは、2021年比2.0倍の売上目標に対して、実績は1.6倍と未達だったが、事業基盤の拡充に成果があったことを強調した。具体的には、企画や検証、事業化を担う専門組織であるサービスインキュベーションセンター(SINC)を設置し、サービス創出に向けた体制を整備。「SOLTAGE」ブランドによるデータセンターやクラウドセキュリティなどのITインフラサービスの展開を進めたという。
ビジネス共創モデルは、この5年間でスタートした新たな取り組みであり、人員育成を重視。経営指標では、人材育成目標として2021年比5.0倍を掲げたが、結果は2.8倍にとどまった。上流工程のコンサルティング集団として、ビジネスイノベーション推進センターを新設し、公募を中心として人材を獲得。「バックグラウンドが、製造および流通が中心だったこともあり、実績には偏りがあった。ビジネス共創の成功体験は、ビジネスイノベーション推進センターで共有し、質を重視することになる。育成と実行の両立によって、確実な成長を続けていきたい」と述べた。

















