ニュース

富士通が新中計を発表、2016年度に過去最高水準の営業利益2500億円を目指す

富士通 代表取締役社長の山本正已氏

 富士通株式会社は29日、2016年度に営業利益2500億円、当期純利益1500億円以上、フリーキャッシュフロー1300億円以上を目指す中期経営計画を発表した。いずれも米国会計基準によるもので、2500億円の営業利益は、過去最高水準になるという。

 売上高については、テクノロジーソリューションで、2016年度に3兆8000億円(2013年度実績で3兆2430億円)を目指すことを明らかにしたが、「ユビキタスソリューションおよびデバイスソリューションにおいて、まだコミットできない部分がある。そのため、2016年度の売上高は公表しない」(富士通の山本正已社長)と説明した。

 またクラウドビジネスについては、2013年度実績で1870億円の売上高を、2016年度には3500億円への拡大を目指すことを明らかにした。

 山本社長は、「2013年度は、テクノロジーソリューションの好調ぶりが寄与。構造改革にも一定のめどがついたと考えている。2014年度は、成長戦略を経営の最大の焦点に掲げる」とした。

利益成長へのロードマップ
2013年度の実績
中期目標として、2016年度に営業利益2500億円を掲げた

2014年からの3年を成長戦略フェーズに

 同社では、2012年度および2013年度を構造改革フェーズと位置づけ、半導体やユビキタス事業といった課題事業への対応、海外拠点の再編などに取り組んできたことを強調。半導体事業の構造改革として、システムLSI事業の新会社をパナソニックなどと設立したこと、ユビキタスソリューション事業における1000人規模での成長領域へのシフト、キャリア向け携帯電話事業の構造改革、ドイツの富士通テクノロジーソリューションズの構造改革を実施。さらに、本社・間接部門から営業フロントへ500人規模での配置転換、グループ連結従業員では6340人の人員削減効果などをあげた。

半導体分野やユビキタス分野で構造改革を進め、成果を上げたという
海外でも構造改革を行った
本社・間接部門から営業フロントへ500人規模での配置転換も実施
成長戦略の枠組み

 一方、2014年度~2016年度までの3年間を、成長戦略フェーズと位置づけ、モダナイゼーションやビジネスイノベーションといった「企業向けICT領域の拡大」、ソーシャルイノベーションによる「新たなICT活用領域への拡大」と、海外事業の拡大を目指す「グローバルでのビジネス領域の拡大」に取り組む姿勢を示した。

 また、事業体制の刷新と効率化、IFRS導入による「グループ効率化、経営革新」にも継続的に取り組むという。

 ひとつめの「企業向けICT領域の拡大」では、「ビジネス分野でのイノベーションを実現することでICTの活用領域を増やしたい」とし、「ビッグデータを活用した新たなソリューションや、顧客のあらゆる接点を網羅するオムニチャネルへの展開などのマーケティング革新、現場でのスマートデバイスの活用などによるワークスタイル変革、3Dプリンターの活用などによるモノづくり革新に取り組んでいく」と述べた。

 富士通では、クラウド、ビッグデータ、SDN、セキュリティ、モバイル、システムインテグレーションの6つの領域で、“コンセプト”“オファリング”“商品”をイニシアティブという形で体系化したことを説明する。

ビジネスイノベーション分野の例
イノベーションを支える商品・サービス

 中でもクラウドについては、SaaSで100種類、PaaSで10種類、IaaSで5種類という豊富なラインアップや、インテグレーションサービスを提供していること加えて、クラウドインテグレーションを担うクラウドエンジニアを、2000人規模まで育成したことを示した。

 「クラウドビジネスは順調に成長しており、2013年度はプライベートクラウドビジネスを中心に、1870億円の売上高となった。顧客のクラウド活用はますます加速しており、そのニーズに確実に応えることで、2014年度には2500億円、2016年度には3500億円の売上高を目指す」とした。

 2013年度から2016年度のまでの平均成長率は23%増で、ハイブリッドクラウドの適用により、ビジネスを拡大させる姿勢をみせた。

クラウドビジネス戦略
クラウドビジネスの状況

 また「次世代クラウドプラットフォームの開発にも取り組む」として、「各種デバイスの活用や、IoE(Internet of Everything)などにより、大量データの高速処理や、多様な利用形態への対応が求められている。SDNや超分散処理などの最先端技術を活用することで、次世代クラウドプラットフォームの開発を進める。それに向けて、SIとプラットフォーム双方の事業部門からメンバーを集結した専門部隊を新設。富士通の強みである顧客起点、アプリケーション起点でのプラットフォーム開発に取り組む」と語った。

 次世代クラウドプラットフォームの開発推進組織は、事業部横断型にするとともに、社長直下の組織に位置づけられている。

次世代クラウドプラットフォームの開発

 さらに、SDNによるネットワーク仮想化の強化、モバイルソリューションの強化、イノベーション領域SIビジネスの強化、インテグレーション体制の拡充などに取り組むとしたほか、「モバイルビジネスにおいては、端末中心から、より収益性の高いアプリケーションやサービスの比重を高めていく。法人ニーズに対応したソリューション提案を強化していく」とした。

SDNによるネットワーク仮想化の強化
モバイルビジネス戦略

 さらに、「ユビキタスソリューションの次の分野として、ウェアラブル、ロボット、センサーといった領域に注力していく。ここは次世代フロント領域といえるものであり、今後の重点的な投資対象になる」と述べた。

 ビッグデータについては、ビッグデータ活用ニーズが高い分野のオファリング、ソリューションを拡充。高度な分析能力を持ったソフトウェアやアプライアンスの強化、ビッグデータイニシアティブセンターによる顧客およびコラボレーションの強化を図るという。さらに、セキュリティビジネスについては、自社実践で培ったセキュリティ対策および運用ノウハウをソリューションとして提供。セキュリティイニシアティブセンターを通じたサポート体制を構築。2016年度には、セキュリティエンジニアを700人体制にまで拡充する考えだ。

次世代フロント領域の強化
ビッグデータ戦略と強化ポイント
セキュリティビジネスと強化ポイント

大きな成長機会を期待する新たなICT活用領域

ソーシャルイノベーション分野への取り組み例

 2つめとなる「新たなICT活用領域への拡大」については、「ここには、大きな成長機会がある」と前置きし、健康・医療、交通・車、食・農業の3つの領域をソーシャルイノベーション分野と位置づけ、社会問題の解決に向けた取り組みをビジネスとして展開していく考えを示した。

 健康・医療では、2016年度に1600億円のビジネスを目指す。「電子カルテシステムでは、国内シェアナンバーワン。大学病院では49%のシェア、全病院では34%のシェアを持つ。また、地域医療ネットワークの展開では全国24カ所の団体でHuman Bridgeを導入している。さらに、2013年12月には、未来医療開発センターを設立。最先端技術をベースに新薬の開発や予防型医療などに貢献することになる。病院、大学、研究機関、行政機関、製薬企業などと連携して、未来医療の実現や、健康社会の形成に貢献したい」と語った。

健康・医療分野
次世代医療分野への事業展開

 交通・車分野では、自動車をネットワークにつなぎ、モニタリングすることで、燃費向上や故障診断などの新たな価値提供に加えて、交通渋滞の緩和やいまいる場所でのサービスを実現する共通プラットフォームの提供を進める。「今後の自動車市場は、新興国を中心に大きな成長が期待される。自動車向けICTにも重点的に取り組んでいく」と述べた。

 食・農業分野では、2008年から農業分野におけるICT活用の実証実験を繰り返し、2012年に食・農クラウド「Akisai」を発表したことを紹介。「Akisaiは、農業法人、流通・小売り、自治体、JAなど、200社以上で利用されており、イオングループでは、Akisaiを利用することで、野菜の安定供給に取り組んでいる」としたほか、「農業は、グローバルでみれば、まだ拡大の余地がある市場。人口増加を背景とした食糧問題を解決するには、テクノロジーを活用した新たな農業生産モデル『スマートアグリカルチャー』による飛躍的な生産性の向上が必須。日本の農業が持つ高い技術に、ICTやロボット技術、エネルギー技術を組み合わせることで、新たなスマートアグリカルチャーを育てたい。政府や関連企業と連携することで、日本発の輸出モデルの一翼を担いたい」と語った。

次世代交通分野への展開
食・農業分野での取り組み

 また、「マイナンバー制度では、基盤システム構築や、自治体および法人のシステム改修、将来に向けた行政サービス、金融、医療への利活用領域の拡大を関係省庁と連携しながら進める。一方、前回の東京オリンピックでは、鉄道や道路の整備が進み、日本列島全体を大きく変える場となった。2020年に向けてはICTインフラ整備がその役割を担う。富士通が持つ先進技術を活用し、日本のさらなる飛躍に貢献したい」とした。

マイナンバー制度

 3つめの「グローバルでのビジネス領域の拡大」については、グローバル事業体制を見直し、これまでの日本、海外の区分けから、日本、EMIA、米国、アジア、オセアニアの5つのリージョン体制に再編した。「それぞれのリージョンがフラットな形で事業を行う。IBMをはじめとする世界のICTグローバルカンパニーは、こうした体勢をすでにとっている。富士通がようやくグローバルカンパニー並の組織をつくれるようになった」とする。

 グローバルデリバリーサービス機能についても強化。グローバルサービス拠点の整備、拡充のほか、サービス提供に必要なツールや基盤を全世界で共通化。それに向けた開発投資や人材育成のほか、M&Aも検討していくという。さらに、ASEANでの高い成長を見込み、ミャンマーに新たな拠点を開設。現地でのビジネス開拓のほか、日系企業の現地進出をICTでサポートする。

グローバルビジネス強化に向けた事業体制の見直し
グローバルデリバリー機能の強化

 なお、同社では、2016年度に、クラウド関連事業で3500億円の売上高目指すほか、モバイル関連事業で2600億円、ビッグデータ関連事業で2500億円、ソーシャル関連事業で2400億円の売上高を目指すとしたほか、2016年度までの3年間で、ビジネスイノベーション領域で1000億円の戦略投資を行うのに加えて、ソーシャルイノベーション領域で500億円、グローバルデリバリーサービス領域で500億円の投資をそれぞれ行う考えも示した。

大河原 克行