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富士通が中期経営方針を発表、2015年度に営業利益2000億円以上を目指す~国内外で5000人を削減へ
第3四半期の連結決算は減収減益、通期見通しは下方修正
(2013/2/8 00:00)
富士通株式会社の山本正已社長は7日、2015年度に営業利益2000億円以上を目標とする中期経営方針を説明。半導体事業の再編による同事業における4500人の社員転籍および、国内外の富士通グループで5000人の人員削減策を発表した。さらに、欧州子会社である富士通テクノロジー・ソリューションズ(独Fujitsu Technology Solutions:FTS)の、サービス事業会社への転換を加速する考えを明らかにした。
攻めの構造改革を推進
山本社長は、「攻めの構造改革」と表現。「半導体ビジネスの構造改革、欧州ビジネスの再構築が最大の課題となる。この課題解決を図ると同時に、『人事施策』、『徹底的なコスト構造の見直し』、『効率的なコーポレートの実現』、『市場構造の変更への対応』に取り組み、さらに踏み込んだ攻めの構造改革を実行する。急激なV字型の損益回復を実現するためには、大胆なコスト削減と、成長軌道回帰に向けて思い切ったリソースシフトを同時に進めていくことが必要であり、これにより、富士通の強みである垂直統合力を生かして、成長戦略を推進していく」などと、新たな経営方針について説明した。
今回の経営方針策定の背景には、2012年度業績において、海外事業、PC事業、デバイス事業が、年初見通しから大幅に悪化したことが挙げられる。
これらを課題事業と位置づけ、「来年度以降の収益回復を確実なものにするために実施する抜本的な構造改革」とする。
2012年度通期見通しにおいて、特別損益として1700億円を計上した。内訳は、事業構造改善費用として1420億円、減損損失で280億円。また、事業構造改革費用のうち、1120億円が半導体事業における固定資産売却や人事関連費用。300億円が欧州のFTSにおける事業構造改革によるものとなる。
「これらの特別損益は、来年度に向けて必要な措置である。FTSは、ハードウェアに依存し、市場動向に左右されやすい事業構造が低収益の原因となっている。今後はハードウェアを基盤としながらも、サービスビジネスを中心としたモデルへと転換を図る」とした。
欧州における事業再構築では、FTSの構造改革が主軸となる。
「欧州景気の低迷に伴うIT投資の落ち込みと、価格競争の激化で損益が急速に悪化。PCやサーバーなどの依然として箱売りとなっていることが影響している。FTSはサービスを中心としたビジネスモデルへ転換するために、人員削減を踏まえて、150ミリオンユーロの収益改善策を実行する。FTSは優良な顧客ベースとパートナーネットワークを保有している。ハードウェアビジネスのコスト構造改革を進めると同時にサービスビジネスを拡大することで収益性を改善できる。英国では民需ビジネスを拡大し、オフシェアの拡大により、コストを下げ、利益を拡大できる」などと語った。
半導体部門でも大幅な再編を実施
半導体事業の再編では、富士通セミコンダクターの半導体事業を部門別に分けて、複数のパートナーとの話し合いを進めてきた経緯を説明した。システムLSI事業では、パナソニックのシステムLSI事業との統合し、ファブレス・システムLSI統合会社を設立。日本政策投資銀行も出資ならびに融資を検討する。「両社が得意としてきた製品分野に経営資源を集中し、グローバル市場におけるリーディングカンパニーを目指す」という。
最先端の三重工場300mm生産ラインは、台湾のTSMCを含む新ファウンドリ企業への移管を検討。ファウンドリ企業には富士通も出資する予定だという。
マイコン・アナログ事業に関しては、ビジネスの発展を視野に入れて、今後あらゆる可能性を検討。三重工場の200mm生産ラインや富士通セミコンダクターテクノロジといった基盤系工場などは、人員の適正化を図りながら会津若松地区に集約し、商社機能を持ちながらも、コンパクトな経営体質へと転換させて事業を継続する。
なお同社では、岩手工場のデンソーへ譲渡したほか、LSI生産後工程である富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジの会津、宮城、九州の拠点を、ジェイデバイスへ譲渡している。
SPARCチップについては、「アーキテクトの部分は引き続き富士通が担当するが、レイアウトは新たなSoC会社、製造は新たなファブ会社で行うと考えている。場合によっては、レイアウトおよび製造をそれ以外の会社で行うという選択肢もある」とした。
これら一連の人事施策について、山本社長は、「苦渋の決断である。日本の半導体技術とノウハウのベースを絶やさずに、顧客への安定供給を維持すること、雇用と地域社会の要請に最大限に応えながら、適切な規模で自立して発展していくといった、相反する要素を達成しながら、これを遂行し、来期以降の利益改善に直結させたい」と語った。
国内外で5000名の人員削減を実施へ
人事施策については、国内では約3000人、海外が2000人とする5000人の人員削減を実施。早期退職優遇制度、転進支援施策、外部リソースの削減を実施する。5000人のなかには、富士通セミコンダクターなどの半導体部門で約2000人の人員対策も含まれる。
また、これとは別に半導体事業再編では4500人が転籍。さらにこのほか、すでに岩手工場などの譲渡で2400人を対象に転籍、退職などの再配置施策を実行済みだという。
また、以前から実施している役員報酬カットに続き、幹部社員の報酬カット、人事制度および運用の見直しを含む緊急人事施策を実行する。
さらに、本社機能を見直すことで、営業などの直接部門へと人員配転を進めるほか、戦略投資分野および戦略事業部門へのシフトを図るという。
加えて、2012年4月から実施している全社コスト削減運動を加速。重複機能の一本化、SCMでの業務プロセスの見直しなどを行う。
山本社長は、人事施策、コーポレート費用の圧縮、徹底的なコスト構造の見直しを通じて、確実な営業利益改善額として400億円を確保するとし、「これをなるべく2013年度中に前倒しで達成していきたい」とした。
一方で、営業部門および成長分野への人員シフトを1000人規模で実施。「新規商品の拡販に必要な営業や、新規事業の開発人員が不足している。これらの分野に向けて、組織の壁を越えた大胆な人事を行い、成長戦略を後押しする」とし、この領域に500人規模でリソースを確保するという。
また、ユビキタスビジネスにおいては、PC開発およびマーケティングの人員を、モバイルサービスや次世代端末の開発部門へと、100人規模でシフトさせるという。
垂直統合型ビジネスモデルの追求を成長戦略と位置づけ
今回、富士通が打ち出した経営方針のなかで、山本社長が成長戦略と位置づけているのが、「垂直統合型ビジネスモデルの追求」である。
「企業システムにおいては、クラウド導入が本格化するフェーズに入ってきた。これを受けて、ICTベンダーには、ハードウェア、ソフトウェアの技術に裏打ちされた信頼性の高いプラットフォームを顧客のビジネスに対する深い理解に基づいたインテグレーションと運用サービス、モバイルデバイスやビッグデータ活用などの付加価値を生むICT利活用の提案力、これを兼ね備えた垂直統合力を持ったビジネスパートナーが求められている。富士通は、幅広い技術やサービスを持っており、体系化された製品群がある。リソースシフトにより、垂直統合型の新たな商品群からの売り上げ拡大を狙う」などと語る。
また、「ユーザーには既存アプリケーションをスリム化し、長く使えるフレームワークに移し替えたいというニーズがある。富士通のこれまでのシステム構築経験を生かし、これに応えるサービスを強化していく。ハードウェアとソフトウェアを一体化した垂直統合型製品を積極的に拡充していくことになる。これは富士通の豊富なインテグレーションや運用サービスノウハウを組み込んだ付加価値の高い製品になる。さらにSIの経験とノウハウを生かして、アプリケーションの共通部品化を進め、ソリューションソフトウェアを拡充し、SIの収益性を高める」と語った。
加えて、「世の中に膨大な数のセンサーが広がり、これらから集まってくるデータに対して、リアルタイム技術を活用し、コンシューマ活用やビジネスの現場、フィールド機器での新サービスを提供するチャンスがある。タブレットなどを活用するスマートデバイスソリューションは、商談が活発な分野となっており、富士通はこうしたフロント領域での新たなビジネスを『BtoBtoFront』サービスと位置づけて強化していく」などと述べた。
2015年度の中期目標として、営業利益2000億円以上、純利益1000億円以上、フリーキャッシュフロー1000億円以上を掲げ、「既存ビジネスに、課題事業の構造改革と事業体質強化策の効果を確実に乗せるとともに、営業部門と成長分野へのリソースシフトと垂直統合型ビジネスモデルの追求によって、成長を遂げる。実行あるのみ」として、営業利益2000億円以上に向けたシナリオを示したほか、「構造改革に伴う特別損失と、会計規則変更の影響による年金未認識債務のオンバランス化によって、連結自己資本が20%を割るところにまで低下するが、今回の対策により最終利益を急速に回復させ、速やかに20%超への回復を目指す」などと語った。
2012年度第3四半期は減収減益
また同社は、2012年度第3四半期(2012年4月~12月)の連結業績を発表した。
第3四半期累計の売上高は前年同期比1.6%減の3兆1200億円、営業利益は同65.2%減の35億円、経常利益は同37.6%増の55億円、当期純損失は前年同期の14億円の黒字から901億円の赤字となった。
第3四半期単独の売上高は、前年同期比2.9%減の1兆482億円、営業損失は前年同期の31億円から73億円悪化し、41億円の赤字に転落。経常利益は同年同期から17億円減の25億円の黒字、当期純損失は747億円悪化して790億円の赤字となった。
富士通 取締役執行役員専務の加藤和彦氏は、「第3四半期にはユビキタスソリューションが赤字転落し、デバイスソリューションの赤字幅がさらに拡大。だが、上期まで減収だったテクノロジーソリューションは下げ止まりとなっている。事業構造改善費用で591億円を計上、このうちLSIの構造改革が570億円となっている。一方で、新規ビジネスへの戦略投資については拡充している。また、最終利益の赤字では、2009年にシーメンスから資本の買い増しを行った100%子会社、FTSの減損が影響している。買収から3年間のキャッシュフローは計画通りであったが、今年度第1四半期から計画を大幅に下回る状態が続き、構造改革策に取り組まなくてはならず、第3四半期にのれん代の減損を計上した」と、状況を説明する。
盛り返したテクノロジーソリューション
第3四半期単独のセグメント別業績は、テクノロジーソリューションの売上高が前年同期比2.1%増の7006億円、営業利益は前年同期から23億円減の235億円。そのうちサービス事業は売上高が前年同期比3.1%増の5765億円、営業利益が前年同期から3億円減の217億円。サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は前年同期比1.7%増の1948億円、インフラサービスの売上高は同3.8%増の3817億円となった。
「ソリューションSIでは第3四半期で産業向けの受注が好調。インフラサービスでは海外ビジネスは減収だが、現地通貨ベースで前年を若干上回り、国内は引き続き好調に推移している。また、サービスは国内の増収効果と海外ビジネスの生産性向上により改善。だが、国内の一部プロジェクトにおいて、計画外の追加コストが発生したのが減収の要因になった」という。
システムプラットフォーム事業の売上高は前年同期比2.3%減の1241億円、営業利益は前年同期から19億円減の18億円。そのうち、システムプロダクトの売上高が前年同期比1.4%増の586億円、ネットワークプロダクトの売上高が同5.4%減の654億円。
「システムプロダクトでは、クラウドを背景にしたソフトウェアの伸長が続き、ハードウェアの減少をカバーした。ハードウェアはUNIXが低調で前年同期比2割減になっている。さらに大口商談の先送りの影響もあった。ネットワークプロダクトでは国内では高水準の売上高が続いている。また、北米での所要がようやく増加しはじめ、クラウド関連の投資も増やしている」という。
国内のPCが赤字が残る、携帯電話も計画を下回る
ユビキタスソリューションは、売上高が前年同期比11.5%減の2665億円、営業損失は前年同期から41億円減で20億円の赤字。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高が前年同期比11.0%減の2069億円、モバイルウェアの売上高が同13.4%増の595億円となった。
「PCについては、10月公表時に価格低下を理由に一度見直しを行ったが、第3四半期は見込んだ以上に価格低下が進んだこと、販売数量減で厳しい状況が続いている。PCは赤字が残った。欧州におけるPCビジネスが 第2四半期まで厳しい状況であり、採算性が悪かったが、第3四半期の後半から大幅に改善してきている。ようやくイーブンのところまできた。国内においては、在庫対策を打ったため、赤字が大きく出ている。携帯電話は第2四半期に投入した製品が好調だったこともあり、10月公表時に強気の計画に見直したが、第3四半期に入って市場競争が厳しいなかで需要が一巡。第3四半期での新機種の一部で発売日の延伸もあり伸び悩んだため、計画を下回った」という。
デバイスソリューションは、売上高が前年同期比6.3%減の1295億円、営業損失は、前年同期から9億円悪化の93億円の赤字。そのうち、LSIの売上高は前年同期比6.6%減の706億円、電子部品は同5.7%減の593億円となった。
通期見通しは下方修正、売上高の修正は3度目
一方、同社では、2012年度の通期業績見通しを下方修正した。2012年10月の修正に続いて、売上高の修正は今期3度目となる。
10月公表値に比べて、売上高は500億円減少の4兆3700億円。営業利益は据え置きの1000億円、経常利益は100億円増加の950億円、当期純損失は1200億円減少のマイナス950億円の赤字とした。
テクノロジーソリューションは売上高が400億円増の2兆9650億円。サービス事業のなかのインフラサービスで400億円の売り上げ増を見込む。
また、ユビキタスソリューションでは、売上高が650億円減の1兆800億円とする。内訳は、PC/携帯電話で550億円減、モバイルウェアで100億円減。PCの年間出荷計画は当初の700万台から100万台減の600万台、携帯電話は同800万台から150万台減の650万台と下方修正した。デバイスソリューションでは、売上高で250億円減の5400億円とした。
各セグメントにおける営業利益見通しには変更はない。
加藤取締役執行役員専務は、「今回の修正のポイントは2点。ひとつは為替レートの見直しによるもの。売上高では、ユビキタスビジネスの市況悪化で1200億円の減額があるが、為替レートの見直しで700億円の増額を見込む。2つ目は半導体事業の再編、経営効率改善施策に伴う特別損失の追加によるもの。売り上げ減でも営業利益横ばい、経常利益の100億円増加は、為替の影響によるもの」とした。