日本IBM、基幹業務に対応するマネージド・クラウドサービス「SmarterCloud Enerprise+」


 日本IBMは5月15日、新クラウドサービス「IBM SmarterCloud Enerprise+(SCE+)」を発表した。日本でのサービス開始は8月初旬を予定。利用形態によってサービス・レベルを選択できる4段階のオプションを提供し、料金はサービス・レベルによる月額課金となる。

OSやミドルウェアのアップデートまで面倒を見るマネージドサービス

日本IBM 取締役 副社長執行役員 下野雅承氏

 SCE+は、IaaS環境を、企業に必須のサービス管理やセキュリティ機能とともに、マネージドサービスとして提供するクラウドサービス。一般的なIaaSでは提供されていない、企業システムに不可欠な運用サービスをITILに基づき、仮想化された個々のVM上のOSレベルまで提供。また、ネットワーク、OS、パッチマネジメントなどさまざまなレベルのセキュリティー・マネジメントを規定・運用する。

 米国とドイツのデータセンターで4月から提供を開始しており、日本、ブラジル、フランス、オーストラリアなど各国のデータセンターに拡大していく。監視サービスの拠点はポーランドとインドに別途設けている。日本でのサービス開始は8月初旬を予定、顧客企業は日本で契約することで世界のどのデータセンターからも同一サービスを同条件で利用できる。

 SCE+は、リソース(サーバー、OS、ミドルウェア)、サービス・レベルによる価格構成となる。

 サーバーは仮想CPUのコア数、メモリー容量、ストレージ容量で全12プランを用意。最小構成はx86オプションの32bit構成で仮想CPU×1、メモリー1GB、ストレージ64GB。最大構成はPowerSystemsオプション(64bit構成のみ)の仮想CPU×16、メモリー32GB、ストレージ512GB。

 OSは、Red Hat Enterprise Linux 5.4/5.6(32/64bit)、Windows 2003(32/64bit)、Windows Server 2008 R2(64bit)、AIX 6.1に対応。ミドルウェアは、Microsoft SQL、Microsoft IIS、Oracle Database、WebLogic、DB2、WebSphere Application Server、WebSphereMQ、Apache Tomcatに対応する。

 サービス・レベルはVM可用性により4つにクラス分けされる。ブロンズはVM可用性98.5%、シルバー同99.5%、ゴールド同99.7%、プラチナ99.9%。

 ITILベースでグローバルに標準化された基本運用サービスに加えて、パッチ管理やOSレベルのセキュリティー脆弱性管理などを基本サービスとして提供する点が大きな特長となる。

 IBMでは、現状の運用形態やコストにより効果は異なるが、一般的に自社で運用する場合や、従来のホスティングと比較した場合、運用コストまで含めると数十%以上の削減が可能なコスト削減効果があると試算しているという。

 SCE+は、SmarterCoudブランドの製品やサービスとの連携を図ることができる。また、顧客企業が設置・運用するプライベートクラウドとの連携や既存アプリケーションを円滑にSCE+上に移行するためのソリューションに対応するため、IBMリサーチとともに開発を進めるとしている。

 販売面では、IBMはSAPなど業務アプリケーションの領域のパートナーとの協業を推進し、アプリケーションをPaaSとして提供するサービスの開発を予定する。その第一弾としては、SCE+をインフラとし、SAPのアプリケーションをPaaSとして提供するIBM SmarterCloud for SAP Applications (SC4SAP)の開発を表明。 SC4SAPは2012年後半に、日本のデータセンターでのサービス提供を開始予定だとしている。

 またIBMは、パートナー企業との協業を強化し、とくに大手の顧客企業に関しては、パートナー企業を介してSCE+の販売を推進したい考えだ。


吉崎氏「迅速・グローバルなビジネス展開にクラウドを活用してほしい」

日本IBM 執行役員 クラウド・スマ―ター・シティー事業 吉崎敏文氏

 日本IBM 執行役員 クラウド・スマ―ター・シティー事業 吉崎敏文氏は、「開発・テスト・分析など新しいアプリケーションをクラウドで利用することも非常に多くなってきた。とくに震災以後は、グローバル展開やバックアップなどの事業継続性といった面からクラウドが見直されている。また、新サービスのスピードアップを図る意味で、新規事業におけるクラウド導入が進んでいる」とクラウドへの需要を指摘。

 吉崎執行役員はまた、「今回のSCE+はシェアードクラウドサービスに当たり、提供場所はIBMのデータセンター、運用管理はIBM、資産もIBMの資産で共有でお使いいただくサービスになる。Smart Cloud Enterpriseの拡張版と考えていただければ良いと思う。今回のSCE+は、最初に共用モデルになるが、専用などへの展開も考えており、ハード・ソフト・サービスという観点で、断続的にサービスをリリースしていく形になる」と新サービスの位置づけを説明した。

 「IBMでは、『Rethink IT』(ITの再生)というコンセプトと『Reinvent Business』(ビジネスの創生)というコンセプトを掲げており、これまでのITを見直し、新規ビジネス展開を迅速なスピードを活かしていただくなど、クラウドをドライバーとして使っていただきたいと考えている。」(吉崎執行役員)

2011~2012のクラウドサービス導入事例IBMのクラウドサービスモデルIBMの考えるクラウド・コンピューティングの方向性


下野氏「ITILに基づいたサービス管理機能、SLAも厳格な基準で適用」

 取締役 副社長執行役員 下野雅承氏は、SCE+の特長を、「IBMのクラウドアーキテクチャに基づき設計・標準化されたIaaS環境に、ITILに基づいたサービス管理機能や、セキュリティ機能を付加し、マネージド(運用)サービスとしてIBMデリバリー・モデルで提供するクラウド・サービス」と説明。「シェアリングだけでなく、運用サービスもつけた形で、IBMが温めてきたクラウドサービスを発表したもの」だとした。

 また、サービス・レベルをVMの可用性によりブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの4プランに分けたことについては、「使用目的に応じ、可用性によりシステムを組むというのはそう簡単ではない。開発環境は95%でいいからコストとバランスを取りつつ構成したいと言っても、現実には難しいので、オンプレミスで構築する場合には、開発環境も本番のサービス環境も99.9%でということになりがちだが、SCE+ではサービス・レベルを設定。最適な選択をしていただけるようになっている」と述べた。

 また、アプリケーションについては、利用頻度の高いミドルウェアを用意したほか、IBMで用意していないアプリケーションについては、“BRING YOUR OWN LISENCE”、ライセンスの持ち込みも可能だと述べた。

 運用サービスは、OSのバージョン管理とパッチ管理、ITILマネージドサービス、脆弱性の管理などのセキュリティ管理機能を提供。

 下野副社長は、「運用サービスでは、OSのバージョンアップやセキュリティパッチ、ITILに合わせたサービス・カタログによるインシデント管理も提供。セキュリティ管理機能も選択できる。ミッションクリティカルなシステムを1000台で管理しているといった場合など、システム管理者は常にどこにどんなセキュリティアップデートを適切にあてるべきかということに注意を払っていなければならないが、これが実際にはかなりの負担になる。SCE+をご利用いただければ、決めていただいた水準に合わせて、適切なレベルのパッチをあてるなどの対処を行う」と運用管理の負担軽減メリットを説明した。

 下野副社長はまた、「SCE+では、SLA(Service Level Agreement:サービスレベル保障契約)も交わし、定義に従って測定し、外れた場合はペナルティをお支払いする。SLAもベンダーによって定義が違うが、SCE+は、いろいろな定義の中でもかなり厳しい基準を採用しており、個々のVMに対するSLA――つまり、VMひとつ倒れてもシステムとして代替が動くからOKというものではなく、1つが倒れたらNGという基準を採用している。このためにサーバーのプラットフォームを二重化したり、ディスクをミラーリングして二重化するなどの対策を行い、品質を担保している」と説明。基幹業務にも用いることのできる、高い品質を担保することを強調した。

SmarterCloud Enterprise+とはSCE+サービス概要~サーバーキャパシティサービス・レベル


OSおよびミドルウェア運用サービス日本および世界各地8カ所に構築されるデータセンターから顧客企業が利用するデータセンターを指定


関連サービスIBMのサービスを支えるアーキテクチャ今後想定しているインダストリー・クラウドの活用事例


パートナーとの協業によるサービスの提供協業を表明しているパートナー企業の例IBMは幅広いクラウドサービスを提供するが、パブリッククラウドはやらない方針


関連情報