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日本IBMが社長交代を発表――46歳の村田将輝氏が8月1日付で新社長に就任、山口明夫社長は会長へ
2026年7月28日 00:00
日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は27日、8月1日付で、代表取締役社長執行役員に、村田将輝取締役副社長執行役員 テクノロジー事業本部長が就任すると発表した。山口明夫代表取締役社長執行役員は代表取締役会長に就任するとともに、米IBMの事業開発担当エグゼクティブに就任する。
7月27日午後1時から、同社箱崎事業所で行われた社長交代会見で、村田次期社長は、「日本IBMの強みは、確かな技術力と強力な実践力である。創業から89年目を迎えた日本IBMは、新しい働き方、新しいシステムの開発を日々実践し、定着させ、お客さまとともに日本社会に浸透させてきた歴史がある。お客さまとともに新たな価値創造を実践するパートナーといえる存在になりたい」と抱負を述べた。
また、「私が、これまでの仕事で重視してきたのは、信頼と責任である」と語り、「日本IBMのお客さまは、社会システムの安心・安定・安全を支えている企業や団体ばかりである。IBMの責任は重く、信頼を重ねていくことは簡単な仕事ではない。日本IBMには世界トップレベルの専門性を持つ社員がいる。私の役割は、その社員たちが最大限に力を発揮できる環境を作ることである。お客さま、パートナー、社員が一体になり、緊密に協力し、社長という重責を果たしたい」と決意を述べた。
46歳への大幅若返り――座右の銘は「素直な心」
村田次期社長は、1979年11月28日生まれ、北海道出身の46歳。2026年8月に62歳になる山口社長から、15歳もの大幅な若返りとなる。
2003年3月に立教大学経済学部卒業後、同年4月にIBMビジネスコンサルティングサービスに入社。システムエンジニアやコンサルタントを経験した後、2005年3月に日本IBM人事部門に異動し、同社経営企画部門にも在籍した。その後は、IBMビジネスコンサルティングサービス グローバルビジネスサービス事業本部製造セクターを経て、2009年1月に日本IBMグローバルビジネスサービス事業本部 役員補佐に就任。2012年4月には米IBMに出向した。
帰国後の2013年7月に日本IBM 金融第一事業部第一営業部部長、2015年1月に理事 金融第一事業部営業統括担当、2017年1月に理事 金融第一事業部 事業部長、2018年8月に執行役員 金融第一事業部長、2020年4月 常務執行役員 金融第一事業部長、2022年1月 常務執行役員 戦略・経営企画担当兼金融インダストリー担当として、約10年にわたり金融分野を担当した。「金融業界向けのコンサルティング、システム開発に従事し、日本の金融システムの発展、最新化に注力することができた」と振り返る。
2023年1月には、常務執行役員テクノロジー事業本部長に就任。2024年4月に取締役 常務執行役員、2025年4月に取締役 専務執行役員、2026年1月に取締役 副社長執行役員 テクノロジー事業本部長に就き、IBMの製品、サービス全体を担当。さらに、チーフAIオフィサーとして日本IBM全体のAIビジネスを推進してきた。
2026年1月には、米IBMコーポレーション 経営執行メンバーに兼務で就任。ここ数年にわたり、社内外からは日本IBMの次期社長候補の大本命と見られてきた。
村田次期社長は、「テクノロジーを活用し、新たな価値を創造する機会に恵まれてきた。IBMのDXの基盤であるデジタルサービスプラットフォーム(DSP)や、三菱UFJ銀行とIIJとともに構築した地域金融機関向けハイブリッドクラウドプラットフォーム、AI駆動型開発により企業界の変革をリードするIBM BobおよびALSEAなど、新たな価値提供の仕組みづくりを行い、コンセプトで終わらせずに実践し、実現していくことにこだわってきた。こうした経験を通じて培った現場感覚と経営視点、戦略の実現能力を生かして、日本IBMのさらなる成長に貢献したい」と語った。
また、「困難と感じたことは、成長の機会である。日本IBMの先輩たちが培ってきた信頼を、未来に届けたいという一心で向き合ってきた」とし、「直近では、難しくもあり、やりがいがあった仕事が、地域金融機関向けハイブリッドクラウドプラットフォームの構築であった。約30行の金融機関とともに作り上げたものである。関係者が多く、しかもミッションクリティカルな業務を支える基盤であるため、安全性を確保しながら、進化を遂げなくてはならないという要件が求められていた。ひとつのプロジェクトではなく、ひとつの歴史を作るという観点で取り組んできたものだ。この取り組みに関わってよかったといってもらえるお客さま、パートナー、社員がいると考えている」と述べた。
一方、「自分では、性格はポジティブだと思っている。前向きに取り組む姿勢がある」と自己評価。座右の銘は、パナソニックグループの創業者である松下幸之助氏の「素直な心」だという。製造業向けコンサルタントだった時代に、パナソニックのプロジェクトに関与。「そのプロジェクトは、パナソニックの歴史を理解した上で、いかに社会貢献するかを、サプライヤーとともに考え、価値観を醸成するものであった。そのときに、松下幸之助歴史館を訪れて、出会った言葉である」と説明。
「いまは、技術を取り巻く環境がダイナミックに変化し、AIの登場によって社会環境も大きく変化している。こうした動きを、自分たちの視点だけで見るのではなく、素直な心で社員やお客さまに接し、技術の変化に対しても先入観を持たずに、あるがままに受け止めて、どういう方向に持っていくべきかを考えていくことが必要である。私は、『素直な心』という言葉を大切にしている」と語った。
趣味はスキー。冬場は、家族全員でスキー場を訪れて楽しむという。また、小学校3年生の子どもとできる限り、一緒に登校して、話をする機会を増やしていることにも触れ、「私にとっての心理的安全性にもなっている」と笑う。
社長交代の狙いと「AI時代」における新たな経営・成長戦略
今回の社長交代に関して、村田次期社長は、その理由を自ら分析。「社長交代の狙いは、使命、ミッション、役割の明確化し、実行スピードを向上することにある」と発言。
「AIや量子コンピュータといった革新的テクノロジーの登場によって、企業システムを取り巻く環境はダイナミックに変化している。そのなかで、お客さまからのIBMへの期待は、革新的なアイデアや技術の紹介にとどまらず、それらの本質的な価値を理解し、現行の業務やシステムにどう統合し、持続的な企業価値向上につなげることができるかを一緒に考え、実行してほしいということである。AI時代において、お客さまから最も信頼される企業であること、お客さまとともに変革を実行するパートナーであり続けること、お客さまとともに進化することが、日本IBMに求められている」と述べた。
また、「量子コンピュータや半導体は、新たな産業モデル、新たな経済圏を、日本に生み出す活力になる。先進テクノロジーによって、社会課題を解決し、政府や企業と新たな経済圏を作ることで、日本の競争力を向上させることも重要である」とし、「今回の新体制は、これを2人のリーダーで取り組むことが、社会とともに、お客さまとともに、日本の企業価値と社会価値を創造していくためには最適であるとの判断によるもの」と位置づけた。
さらに、「テクノロジーを取り巻く環境は、メインフレームからインターネット、AIといったように30年ごとに大きなパラダイムシフトが起きている。いま考えなくてはならないのは、AIを前提としたシステム開発や業務の在り方を理解し、新たな価値を創造し、実行し、定着させることである。これができるのが日本IBMである。いまは、お客さまの近くに社員を配置し、価値の最大化を図る体制を取ることが大切であると考え、前線の営業を強化し、技術検証を行うエンジニアも前線に出しているところである」と話す。
そして、「日本のお客さまは、テクノロジーに対する感度を高めている。米国や欧州で先行し、実証された技術が、日本で定着するという流れではタイムラグがあったが、いまは日本が主導してソリューションを開発するといったケースが増えている。日本は技術と実践を融合し、価値につなげることが得意である。日本発の事例やソリューションが、グローバルの事例につながる事例も出てきた。日本IBMは、これをもっと増やしたい」とも語った。
その上で、「AIは不可逆な技術であり、変化に対応していくのではなく、前向きに取り込んでいかないと、破壊される立場に陥る。だが、AIに取り巻く決定的なビジネスモデルは出来上がっていないのも事実である。日本IBMの役割は、お客さまが描いた方向性に対して、いかにそれを促進するかという点にある。システムエンジニアリングサービスやコンサルティングサービスのなかにAIを取り込んでおり、新たなやり方を早期に形にしていくことが大切だと考えている」と述べた。
また、7年前に、山口氏が社長に就任した際のエピソードも披露。「山口さんから、『自分に、何を期待するか』と聞かれた。私は、『日本IBMが社会から一層信頼されるように取り組んでほしい』と生意気に答えた。山口さんは、その期待をはるかに超える形で、日本におけるIBMのブランドの価値向上、社会的な存在感の確立に貢献してきた。今後も二人三脚で、日本の社会課題の解決や、日本の企業競争力の向上に取り組みたい」と意気込みを語った。
村田次期社長の46歳という年齢からも、長期政権が見込まれそうだ。山口社長の年齢まで在任すると仮定し逆算すると、その期間は15年間にも及ぶ。もし、それが実現すれば、椎名武雄氏の約18年間に次ぐ長期政権となる。
村田次期社長は、「いまの時点で、何年間、社長をやるかは考えたくない」と笑いながら、「米IBMでは、2031年の目指す姿を打ち出している。日本IBMがそれを実現するために何をすべきかを考える必要がある。現状のビジネスモデルと、2031年の姿のギャップをとらえ、まずは、そのギャップを埋めることに取り組んでいきたい。一方で、新たな技術が次々と登場し、先週と今週では状況が大きく変化するということが頻繁に起きている。例えば、今週は『Kimi K3』が登場した。これによって状況は変わることになるだろう。長期的に見たテクノロジーの本質を理解しながら、打つ手は迅速に判断し、モードチェンジしたことを社員にわかるように伝えることも大切にする」と述べた。
また、「具体的な方針については、9月以降に発表することになる」とし、「1990年代後半に作られたシステム開発やシステム運用の常識を変えようと考えている。アイデアにとどまらず、実践していくところにまで踏み出す。お客さまが『この方法で行ける』という手触り感を持てるような提案をしていきたい。そこにお客さまとともに取り組みたい。ここは、私の経営のなかでも注目してほしいポイントである」と語った。
いずれにしろ、村田次期社長体制へと移行することで、中長期的視点と、短期的視点の両輪を持った経営戦略を打ち出すことが可能な体制へと移行したことは明らかだ。
日本IBMでは、2026年9月8日に、年次イベント「IBM Think Japan 2026」を、オークラ東京で開催する予定であり、そこで行われる基調講演が、新社長として方針を示す最初の場になりそうだ。
山口現社長が語る指名理由と在任7年間の総括
一方、日本IBMの山口社長は、今回の社長交代について、「テクノロジーが、かつてないスピードで進化していること、社会が激変していること、テクノロジーおよびITが、社会や企業経営に占める割合が大きくなっている。そのため、経営のスピード化を図り、これまで以上にお客さまの要望に応えられるような製品、サービスを提供しなくてはならないと考え、新たな経営体制への移行を決めた。日本IBMは、村田体制のもと、今後もお客さまに向き合い、マーケットに向き合い、なくてはならない存在を目指す」と述べた。
村田氏を次期社長に選出したことについては、「長年、一緒に仕事をしてきたが、お客さまの視点で何をすべきかという姿勢を、絶対にずらさない仕事のやり方をしている。製品や提案、プロジェクトがお客さまにとってベストであるのかどうかをしっかりと考え、頑固なまでに、お客さまの成功に向けて実行し続ける姿勢を持っている。安心して、社長を任せられると思った」と評価した。
村田次期社長にまつわる具体的なエピソードとして、次のように語った。
「お客さまのCIOを訪問したところ、『IBMを信じてお願いしたのに、この結果は何なんだ』と言われたと報告があった。期待に応えられずに、とても落ち込んでいた。だが、2・3日間、ほかの仕事をすべて止めて期待に応えようと努力し、必要に応じて海外のIBMの協力を得てお客さまに再提案し、結果として、お客さまの要望に応えることができた。なんとか応えたいという姿勢と、何が正しいのかということに向かって取り組む姿勢を持っている。こうした事例がいくつもある」という。
なお、社長交代を決意した時期については、「社長就任時点から、サクセッションプランを策定し、後任人材の選定や交代のタイミングを検討している。今回は、市場環境が変化するなかで、経営を強化したいと考えた結果」として、明言はしなかった。
山口社長の在任期間は、7年3カ月に達した。
「米本社や各国IBMと、日本IBMが、ひとつのチームとなり、お互いの信頼関係が強固になった。課題やゴールを共有し、議論することが増えた。売上高は、日本が世界で2番目に大きく、日本の存在感は大きい。量子コンピュータや最先端半導体への取り組みを、いち早く日本の企業や団体と一緒に進めるという実績も生まれた」と総括。「日本において、IBMに対するイメージを変えることができたとも考えている。お客さまやビジネスパートナー、社員に対しては感謝しかない」と述べた。
今後は、代表取締役会長として、業務執行に関する社長の支援を行うだけでなく、米国本社の事業開発担当として、量子コンピュータや最先端半導体などに関して、米本社と日本のパートナー企業、顧客とのグローバルレベルでのアライアンスを支援。さらに、これらの社会実装や技術展開を推進する活動も担うという。
また、山口社長は2026年1月から、経済同友会の代表幹事を務めている。「日本IBMの執行の全責任は村田次期社長が担う。私は、当面の間は、代表取締役として健全な経営ができているかどうかといった会話をしながら、お互いの経験を生かし、一緒に経営をしていきたい。経済同友会も大切な時期に入っている。大事な仕事であり、しっかりとやっていく」と語った。



