週刊海外テックWatch

ハイブリッド戦略で差別化を図る IBMが「ソブリンAI」市場に参入

 IBMは1月15日、AIワークロードを企業や政府機関が自らの管轄内で制御・運用できるソフトウェア「IBM Sovereign Core」を発表した。急拡大中の「ソブリン(主権)クラウド市場」でハイパースケーラーが提供するクラウド特化型ソリューションとは一線を画し、オンプレミスとマルチクラウドに対応するハイブリッド戦略で差別化を図る。この新たなアプローチがどこまで受け入れられるか注目される。

規制ラッシュと急拡大する市場

 「企業は、厳格化する規制要件を満たしながらイノベーションを推進するという圧力の高まりに直面している」。IBMのソフトウェア製品ゼネラルマネージャーPriya Srinivasan氏はこう語る。実際、欧州では規制の波が押し寄せている。

 2024年10月、「Network and Information Systems Directive 2(NIS2指令)」の国内法化が適用開始となった。2025年1月にはDORA(デジタル運用レジリエンス法)が適用開始。同年9月には「EU Data Act(EU データ法)」が法的拘束力を持つようになった。そして11月、仏独両政府が欧州デジタル主権サミットを開催し、AI、データ、公共インフラにおける主権構築を宣言した。

 IBM Sovereign Coreは、こうした規制環境の変化に対応するため開発された。企業や政府機関、サービスプロバイダーがAI対応のソブリン環境を構築・運用するための「業界初のAI対応ソブリン対応ソフトウェア」(IBM)という。2月からテックプレビューを開始し、2026年半ばに正式リリースする予定だ。

 Gartnerの予測では、ソブリンクラウドの市場規模は、2023年の370億ドルから2028年には1690億ドルへ、4.6倍に拡大する。AIワークロードに対応したこの分野は「ソブリンAI」とも呼ばれ、同社は「2030年までに75%以上の企業がデジタル主権戦略を持つようになる」とも予測している。もはやニッチ市場ではない。

 デジタル主権の概念そのものも変化している。従来、デジタル主権の議論はデータの保存場所(データレジデンシー)に焦点を当ててきた。しかし現在では、「誰がプラットフォームを運用するか」「AIモデルがどこで動くか」「推論がどう統制されるか」「管理アクセスが誰にあり、どう実施されるか」「コンプライアンスをどう継続的に証明するか」へと拡大している、とIBMは主張する。

 Eurasia Groupのジオテクノロジー担当ディレクター、Erik Fish氏は「AIは主権問題が理論から日常業務に移行するペースを加速している」と指摘。課題は、オープン性と主権のトレードオフではなく、増大する規制と地政学的制約の中でデータとインフラを統制することだと述べている。