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生成AIの普及・活用を推進する「Generative AI Japan」が本格活動を開始

「研究会・Lab」「イベント・共創」「連携・提言」を軸に

 産学連携で生成AIの普及・活用を図る一般社団法人Generative AI Japan(略称「GenAI」)が、3月27日に本格活動を開始した。

 同日、会員向けのキックオフイベントがオンラインで開催され、六本木のGoogle Cloud Tech Acceleration ProgramのGenAI Labからライブ配信された。イベントでは活動の方向性や今後の活動について説明がなされたほか、生成AIに関するパネルトークも行われた。

一般社団法人Generative AI Japanが3月27日に本格活動を開始

研究会を月1回開催、7月と12月には会員サミットも

 活動方向性と今後の活動については、業務執行理事兼事務局長の國吉啓介氏(株式会社 ベネッセコーポレーション データソリューション部 部長)が説明した。

 國吉氏はまず、PwCコンサルティングの調査結果をもとに、生成AIの認知と期待が高いことを紹介した。ただし、ツールを使って生成AIでいろいろなことができるが、それをサービスとして世の中に届けるとなると不安も多いと指摘した。

 その中でGenAIの意義として、1社だけでは解決できないことなどについて、共創によって勇気も出て、アイデアも広がるということを語った。

 また、アンケートでGenAI会員から集まった声も國吉氏は紹介した。生成AIの利用をどう広げるか、ユースケースが知りたい、利用が定着しない悩み、コラボレーションへの期待、産官学連携への期待、実践的なガイドラインへ作成の必要性、アワードの創設の希望などの声が集まったという。

生成AIの認知と期待は高い
実際に世の中に届けるには不安も多い
GenAIの意義
アンケートでGenAI会員から集まった声

 今後の活動としては、GenAIの活動テーマの中から3つを國吉氏は取り上げた。

 「研究科・Lab」では、オンラインでユースケース・技術動向研究会を4月から月1回開催する。研究会・部活の立ち上げたいという声も出てきており、そうしたところから共創事例を作っていきたいという。

 「イベント」では、7月と12月に会員サミットを開催する。12月については、アワード設立を望む声についても検討していくという。

 「連携・提言」では、政府の団体などさまざまな団体と連携し、周辺技術や社会実装なども含め勉強し、政策提言なども考えていきたいという。

GenAIの5つの活動テーマ
具体的に活動を開始する3テーマ

全社員の90%に生成AIの活用が定着している例

 パネルトークは、ユースケースに関するものと、技術の進展に関するものと、2つのセッションが開かれた。

 ユースケースについてのパネルトークは、國吉氏がファシリテーターとなり、理事の白井恵里氏(株式会社メンバーズ執行役員 兼 メンバーズデータアドベンチャーカンパニー社長)、瀧澤与一氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長)、則武譲二氏(株式会社ベイカレント・コンサルティング 常務執行役員)、山田勝俊氏(株式会社Recursive共同創業者・代表取締役COO)の4人が登壇した。

生成AIのユースケースのパネルトーク

 1つめのテーマは「着目しているユースケース・事例」。

 白井氏は、自社で全社員の90%が生成AIを活用していることを例として挙げた。SQLクエリなどコードの生成や、論文の要約、アイデア出し、文章作成など、日々の業務に使っているという。

 則武氏は、TCS(Tata Consultancy Services)の社内調査で数十%の工数削減がわかった件や、CrushBankが運用保守のITチケットシステムを生成AIで効率化した件を紹介した。

 瀧澤氏は顧客からの声として、コード生成や、情報検索、質問回答、データ分析のニーズを挙げた。また、音声でやりとりした内容から生成AIで電子カルテの原型を作成できる「AWS HealthScribe」を紹介。さらに、RAGなどの技術によって、自分たちのデータを使って生成AIによって業務を効率化するニーズも説明した。

 それを受けて山田氏は、企業内の情報を元に生成AIで問い合わせたり文書作成に使ったりできるようにする自社のAIサービス「FindFlow」を紹介した。

1つめのテーマ「着目しているユースケース・事例」
白井氏の挙げた例
則武氏の挙げた例
瀧澤氏の挙げた例
山田氏の挙げた例

 2つめのテーマは「社会実装を進めていくうえでのポイントは?」。

 國吉氏が白井氏に90%利用のポイントについて尋ねると、最初に使ってもらうことと、使い続けてもらうことの2つに留意したと答えた。「ドキュメントのないコードを読み解く」など現場の“あるある”なユースケースで興味を持ってもらったり、使い方や設計などを相談できるチャットを設けたりしたという。

 山田氏は、テキスト生成だけでなくバナー生成などが効果がわかりやすいことや、社長がまず役員たちに現場のやることを判断できるよう生成AIの研修を受けさせた例などを紹介した。

 則武氏は、労働集約型と資本集約型などビジネスモデルによって収益が上がるポイントが違うため、トップがそれを理解するのが重要だと語った。

 瀧澤氏は生成AIのニーズとして、ビジネスユーザー向け、生成AIアプリ開発者向け、基盤モデル開発者向けという3層に分類した。そしてそれぞれに対するAWSのサービスを紹介した。

2つめのテーマ「社会実装を進めていくうえでのポイントは?」

 3つめのテーマは「生成AIが生み出す社会変化の見立ては?」。

 山田氏は、生成AIによって人間がやるべきところは何かが再定義されてくると思うと答えた。

 白井氏は、生成AIにどのようなデータを与えるかでビジネスインパクトに差が生まれると答えた。さらに、これまではデータは人間の活動の結果だったが、生成AIではAIに与えるためにデータを整備するようになるだろうと語った。

 瀧澤氏は、生成AIの未来は明るいと回答。ただし、変化が速いと問題も起きるため、ブレーキとアクセルのバランスが必要であり、生成AIにガードレールや基準を作ることで明るい未来ができると思うと語った。

 則武氏は、DXが取り組みと部分的な製菓で終わって浸透の段階に進んでいないことを紹介。そして、生成AIがこれを突破する鍵になるのではないかと語った。

3つめのテーマ「生成AIが生み出す社会変化の見立ては?」
則武氏の回答

生成AIのROIは3.5倍、ただしユースケースの複雑性と価値を判断する必要

 技術進展についてのパネルトークは、理事の漆原茂氏(ウルシステムズ株式会社 代表取締役会長)がファシリテーターとなり、理事の大谷健氏(日本マイクロソフト株式会社 クラウド&AIソリューション事業本部データプラットフォーム 統括本部 業務執行役員 統括本部長)、小俣泰明氏(アルサーガパートナーズ 株式会社 代表取締役社長 CEO/CTO)、寳野雄太氏(グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 ソリューション&テクノロジー部門 統括技術本部長)の3人が登壇した。

技術進展についてのパネルトーク

 1つめのテーマは「着目している技術動向は?」。

 大谷氏はMicrosoftで提供しているAzure OpenAI Serviceのうち、画像分析の「GPT-4 Turbo with Vision」を挙げた。また、OpenAI以外のモデルも使えることを紹介した。

 小俣氏は、Azure、Google Cloud、AWSの3大AIプラットフォームをどう選ぶかを論じた。Teamsを始めとするMicrosoft系の技術が浸透している企業ならAzureを使うのがよく、そうでないGoogle・Slack陣営の企業はGoogle Cloudを使う選択肢もあるというのが小俣氏の意見だ。そして、そこにAWSがどう入るか期待していると語った。

 寳野氏はプロダクトから離れ、GoogleのGeminiやAnthropic Claudeが問い合わせのトークン数を最大100万に拡大したことを挙げた。トークン制限がなくなると、RAGのように検索した結果を生成AIにかける必要はなく、文書をまるごと生成AIにかけられるようになり、アーキテクチャが大きく変わるのではないかと語った。

1つめのテーマ「着目している技術動向は?」
大谷氏の回答
寳野氏の回答

 2つめのテーマは「生成AI技術をどうビジネス価値創造に繋げるか?」。

 ここで大谷氏が、生成AIのROIについて、1ドルの投資に対して3.5ドルのリターンが出るというインパクトのある論を紹介した。ただし、すべてがこのROIという意味ではなく、ユースケースによって異なる。これを氏は、complexity(難しさ)とValue(得られる価値)の2軸で分類した。

 要約やQ&Aは生成AIのユースケースとして取っ付きやすい例だが、ROIは低めだ。データ分析によるデータドリブンな意思決定は、それより難しさもROIも上がる。その先の自社への生成AIのパーソナライゼーションになると、さらに難しさも上がるが、これでROIが3.5倍になる。そして最終的に完全なオートメーションとなれば、難しさもROIもさらに高くなる。これらのROIを平均すると3.5倍になると大谷氏は説明した。

 さらに、Complexityの高低と、Valueの高低で4象限に分け、ユースケースをマッピングして判断することを薦めた。まずComplexityもValueも低いユースケースは「できること」であり、当然やるがROIは低い。一方、Complexityが低くValueが高いゴールデンユースケースは「絶対やるべき」だが、なかなか見付かるものではない。

 ComplexityもValueも高いものは「やるべき」ものがあり、やるべきであれば今から着手すべきだという。そして、Complexityが高くValueが低いものは「やらなくてもいい」ことであり避けるべきだというわけだ。

 小俣氏は、生成AIを企業で使うにあたって、各社の規定が大変な課題となるということを紹介した。例えば、生成AIで作ったスライドやプレゼン動画を顧客に出すことが会社として認められるかの判断するところで、各社とも止まってしまうという。そのため、GenAIでガイドラインが作れるといいと思っていることや、まずは各社ごとにガイドラインを作る必要があると語った。

 寳野氏は、生成AIは何でもできる魔法のロボットではないという期待値設定の必要性や、ユースケースによって必要な精度が異なりユーザーの期待値コントールが必要なこと、チャット以外の画像を意味で検索するようなユースケースも大事なことを語った。

2つめのテーマ「生成AI技術をどうビジネス価値創造に繋げるか?」
大谷氏:生成AIのROIは3.5倍
大谷氏:Complexity(難しさ)とValue(得られる価値)でユースケースを分類

 3つめのテーマは、ユースケースのパネルトークと同じく「生成AIが生み出す社会変化の見立ては?」。

 大谷氏は生成AIのスピードを挙げた。携帯でもSNSでも1億ユーザーを獲得するのに年単位がかかったが、ChatGPTは2か月で獲得した。氏はこのスピード感に着いていけるようになる必要性を語った。

 小俣氏は、生成AIが絶対やらない(人間がやらせない)こととして、決断、判断、行動の3つを挙げた。そして、この3つをできる人の価値がとても高くなるだろうと語った。

 寳野氏は、これまで日本語や日本の企業はデジタルで不利とされてきたが、生成AIは非構造化データやハイコントラストを扱える技術であり、日本の社会全体が今エキサイティングな時期にあると語った。

3つめのテーマ「生成AIが生み出す社会変化の見立ては?」。