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日立、センサーデータをリアルタイムで解析する省電力エッジAIを開発
2025年10月15日 10:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は14日、顧客の課題解決や持続的な成長に貢献する価値の創出を目指して、Lumada 3.0の現場適用を強化するエッジAI技術を開発したと発表した。
同技術は、画像・音・振動など多様なセンサーデータの処理を一つの半導体チップに高密度に集積し、省電力かつコンパクトな実装を実現している。さらに、先端システム技術研究組合(RaaS)が提供する設計試作環境を活用することで、同程度の処理速度のAI半導体と比較して消費電力を約10分の1に抑えることに成功した。これにより、電源供給や設置スペースに制約のある現場でも、エッジAIによるリアルタイムデータ解析が可能となり、設備の安定稼働や生産性向上、品質管理の高度化を実現する。
日立は今後、半導体製造を行うパートナー企業との連携などを通じて、開発した技術を自社の検査装置や外観検査ソリューションなどに展開し、デジタライズドアセットの価値向上を目指す。これにより、現場で収集したデータを価値へと変換し、産業分野や社会インフラの高度化と持続的な成長、社会価値の創出に貢献する。また、大規模なシステムで活用されるGPUなどのAI半導体と、現場に最適化した技術を組み合わせることで、クラウドから現場まで一貫したAI処理基盤を提供し、幅広い社会課題の解決を目指すとしている。
日立では、AIを活用したLumadaの進化を通じて、さまざまな現場でのデータをリアルタイムで処理し、顧客の課題解決や持続的な成長に貢献する価値へと変換する取り組みを進めているが、従来のエッジAIシステムでは消費電力や設置スペース、複数センサーのデータ処理に課題があり、現場への実装が進みにくい状況だったという。また、今後、現場データをリアルタイムで活用し、持続可能な社会や産業の変革を実現するためには、より高効率なAI処理基盤が必要だとしている。
こうした状況を受け、日立は産業現場の多様な課題解決と社会価値の創出を支える基盤技術として、Lumada 3.0の現場適用を強化するエッジAI技術を開発した。
開発した技術は、産業用設備の異常検知や検査アプリケーションに最適化した半導体回路設計と、RaaSが提供するFinFET CMOS設計試作環境を活用して製造することで、従来の同等の処理速度のAI半導体と比較して、消費電力を約10分の1に抑えた。具体的には、センサー信号を画像に変換し、AIエンジンを画像認識用ニューラルネットワークの演算に最適化した回路で効率的に動作させるとともに、演算の中間結果をチップ内のメモリに格納してチップ外への書き出しを不要にすることでデータ移動によるエネルギーを削減し、消費電力を低減した。さらに、これらの機能をセンサーインターフェイスであるA/D変換器とともに一つのチップに高密度に集積することで、コンパクトな実装を実現した。これにより、電源供給や放熱用のスペースに制約のある幅広い現場でのAI処理を可能にする。
また、独自の低電圧・小面積アナログ回路技術を活用することで、多数の高性能A/D変換器をAIエンジンとともに一つのチップに集約し、リアルタイムかつ省電力で解析できる。例えば、画像データだけでなく、機械のわずかな振動や異音も同時に捉えて統合・解析することで、従来は見逃されやすかった微細な異常や複合的な変化を検知できる。これにより、設備の安定稼働や現場の安全性・生産性向上に貢献する。
日立は、開発技術を適用したAI半導体を、半導体ウェーハの欠陥検出やモーターベアリングの異常検知などの作業に適用した結果、同程度の処理速度のAI半導体と比較して、消費電力を約10分の1に抑えられることを実証した。さらに、ウェーハ表面に形成される微細なパターンの欠陥やベアリングの複数箇所で生じる微小なキズなど、わずかな異常を誤りなく検出できることを確認した。
日立は今後、開発した技術をLumada 3.0を支える中核技術の一つとして位置付け、半導体検査装置や外観検査ソリューションなどをはじめとするデジタライズドアセットの高付加価値化を目指し、さまざまな産業分野や社会インフラのプロダクトやサービスの高度化に展開していく。また、半導体製造を行うパートナー企業との連携やエコシステムの構築を通じて、現場のリアルタイムデータ活用やAI処理の高度化を加速することで、産業分野や社会インフラの変革および持続的な成長を目指すとしている。