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富士通研、“IoT時代に備えた”広域分散処理技術を開発

 株式会社富士通研究所は14日、最適な処理を行うための配備先を決定し、自動配分する分散サービス基盤技術を開発したと発表した。

 業界初となるこの技術は、クラウド上のアプリケーション処理や、コンテンツデータの一部を、広域ネットワーク上のサーバーに分散配備し、サービス要件の変化に応じて、システムの構築・運用を自動化するもの。「2011年から研究開発を進めてきた。実現に向けたさまざまな複雑な課題を解決し、このほど基盤技術として完成させた。富士通が提供するサービス体系のひとつとして、2015年度の実用化を目指すことになる」(富士通研究所 システムソフトウェア研究所 分散プラットフォーム研究部の阿比留健一部長)としている。

IoT時代には、広域ネットワークでの分散処理技術が必要に

富士通研究所 ユビキタスプラットフォーム研究所 ユビキタスネットワーク研究部、佐々木和雄主管研究員

 現在では、デバイスの小型化や通信技術の進展によって、ICTの活用領域が拡大し、さまざまな“モノ”がインターネットに接続する「IoT(Internet of Things)」の時代が訪れようとしているのは周知の通り。2020年には約500億個の“モノ”がインターネットに接続されると予測されている。

 これをもとに、渋滞予測サービスや災害予測サービス、街内での空き駐車場情報の提供といった効率的で、安全性を高めることができる社会的活動への応用のほか、商品の売れ行きなどをもとにした製品のライフサイクル管理、移動する製品の温度管理トレースによる品質保証、データ配信サービスによるサービス向上と行った経済活動への貢献などが見込まれている。

 だが、その一方で、さまざまなデバイスを通じた情報発信や、時間と場所を問わない情報発信などによって、情報量が急激な勢いで増大。通信トラフィック増大によるコスト負担の増加が大きな課題となっている。

 「通信トラフィックの増大により、クラウド設備の増強、通信帯域の増強によるコスト負担の増大は、大きな課題となっており、最終的には最終エンドユーザーの利用料の値上げなどへとつながる可能性もある」と語るのは、富士通研究所 ユビキタスプラットフォーム研究所 ユビキタスネットワーク研究部の佐々木和雄主管研究員。

 続けて、「そこで近年、注目を集めているのが、センサーやデバイスといったデータ発生源の近くに設置したゲートウェイサーバー(中間サーバー)でデータの処理および蓄積を分散して実行し、処理結果のデータのみをクラウドに送信することで、通信トラフィックを削減しようという、広域ネットワークでの分散システム化である」と話す。

広域分散システムの基本アプローチ

 しかし、「分散システム化においては、『ゲートウェイサーバーのうち、どれで実行すると通信トラフィックの削減効果が高いのか』といったことを設計する必要があるものの、機器やデータ量の変動などの要件変化にあわせて、手作業で最適環境を維持するには限界がある。データ量や配備先が多い場合や、コンシューマ利用のように頻繁に要件が変化するシステムの場合には、人手での対応は不可能だといっていい」と指摘。

 「今回した基盤技術では、要件変化に追随した分散配備の自動化を可能にしていることが大きな特徴だ。要件変化に応じた配備先計算と、再配備を繰り返して実行することで、構築・運用を自動化。人手では無理だった大規模システムにも適用可能となる」と語る。

 機器のデータ発生量、ネットワーク上のゲートウェイサーバーの位置、処理内容、ネットワークの通信コストなどを総合的に評価して自動判断することで、最適配置を可能にする。

 さらに今回の基盤技術では、開発環境および運用環境を、基盤として一体提供していることから、開発者は処理フローと配備ポリシーを記述するだけで、トラフィック量を重視した最適配備にするか、データをクラウドに配信する時間を短縮するレスポンス重視型とするか、あるいは配備するエリアを重視するスループット重視にするといったように、配備ポリシーに基づいたパラメータ要件を自由に設定できるという。

分散システム化の課題
今回開発された分散サービス基盤技術
処理フローと配備ポリシーを記述するだけですむため、構築・運用を自動化できる

2つの技術で分散配備の自動化を達成

 今回の分散配備の自動化技術は、「自動配備の高速化技術」と「インフラの変化検知技術」の2つの新たな技術で構成されている。

 自動配備の高速化技術では、これまでの配備先計算では、最適な組み合わせを判断するために、時間がかかり、ゲートウェイの規模が多い場合には対応できないという問題があった。「数万台規模のゲートウェイだと計算時間が1日以上という場合もあった。そのため自動配備は難しかった」(佐々木主管研究員)。

 そこで富士通研究所では、新たなアルゴリズムを開発し、処理の特性にあわせて、ネットワーク経路を優先して探索する仕組みと、ネットワーク経路よりもデータ発生源との近さを優先する探索戦略とを組み合わせ、最適な配備先を計算するための時間を、従来比で約500分の1に短縮することに成功したという。

 さらに、インフラの変化検知技術では、処理の配備先が変わりうる条件を配備前に計算し、2番目に最適化された配備候補を事前に用意。軽微な要件変化にも柔軟に対応できるようにしたという。

 「要件変化への追随性を高めるためには、収集頻度をあげる必要があり、それがトラフィック増大の要因となっている。特に大規模なシステムでは、管理トラフィックの増大が大きな課題となり、トラフィックを削減するために、管理トラフィックが増えてしまうということになりかねない。今回開発したインフラの変化検知技術を用いることで、管理トラフィックを従来の700分の1に削減できる」(佐々木主管研究員)とする。

 これらの技術によって、これまで数万台規模の分散システムでは、数日かかっていた手作業による分散システム配備を、数分で再配備できるようになるという。

インフラの変化検知技術
自動配備の高速化技術

 今後の実用化に向けては、運用部分における操作性、管理性などの強化を図るほか、広域ネットワークに分散したクラウドシステムに対して、複数のサービスを収納するマルチテナント化への対応、SDNとのシステム連携などを図るという。

 「富士通の事業部との連携によって、実用化に向けた検証を行っていくことになる」(阿比留部長)としている。

大河原 克行