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Gen-AX、コンタクトセンターなどの照会応答業務を支援する生成AIアプリを提供開始

 Gen-AX株式会社(ジェナックス)は23日、コンタクトセンターやバックオフィス部門向けに、照会応答業務の効率化を支援する生成AI SaaS「X-Boost(クロスブースト)」の提供を開始した。

 Gen-AXはソフトバンクの100%子会社で、生成SaaSプロダクトの提供とプロダクトを生かした戦略立案などを行うコンサルティング事業を業務とする。

 今回、初めてのプロダクトとなるX-Boostの提供を開始したが、代表取締役社長 CEO 砂金信一郎氏は、「X-Boostは、生成AIを活用したSaaSの業務アプリケーション。我々の業務は、生成AIを活用したプロダクトの提供と、『うちのAIは賢いのでどんなものにも対応できます』といったことをいう方々もいらっしゃるが、現場の業務ってそんなにシンプルではない。そこで現場業務に対応できるよう、泥臭く対応していくことをコンサルティング事業としてやっていく。さらに将来、コーポレートミッションとして、自律して動く、自律AIエージェントという新しい技術を提供し、業務変革を行っていくことがGen-AXの役割となる」と、目指すビジネスについて説明した。

Gen-AX株式会社 代表取締役社長CEOの砂金信一郎氏

 Gen-AXは、AIの開発と活用を進めるソフトバンクグループの企業として、グループ企業の人材を集結して誕生した。「社員数は約60人だが、兼務のスタッフも多く、現在のコアメンバーは約20人」(砂金CEO)と、グループで協力した体制となっている。

 砂金CEOは、コールセンターや企業のバックオフィス向けSaaSアプリを提供する前段として、「遅くとも2027年ぐらいには、皆さまのお手元に、自分の代わりにいろいろな判断をしてくれるAIエージェントが普及しているであろうと予測できる。その時、企業側のコールセンターや店頭などのお客さま接点がAIではなく、人間だったらどうなのか。それまでに、企業はAIエージェント、企業エージェントを立ち上げなければならないのではないか。ただし、いきなり何か道具を入れて一発で完了というものではない。企業の中にいろいろあるデータは、ボリュームとしてはたくさんあるが、AIが学習しやすいよう整理されているかというとそうではない。それをAIで学習しやすいものとしていく支援をすることが我々の役割になっている」と述べ、企業側のデータを整えることを想定し、コールセンターやバックオフィスで活用するアプリを開発したと説明する。

 またX-Boostに続き、AIが自動で音声応対し、応対業務の8割自動化を目指したSaaSアプリを現在開発中で、「2025年度中にリリースする計画となっている」(砂金CEO)ことも明らかにしている。

AIエージェント時代を見据えてコンタクトセンター業務などの効率化/自動化へ

 今回提供する照会応答業務の効率化は、「カスタマーサポート業務を、解像度を上げて見ていくと、いろんな業務がある。コールセンターと聞いてインカムを付けたオペレーターの方々が対応する様子を思い浮かべるだろうが、それは氷山の一角で、裏側で上長や責任者に、『こういう回答の仕方をして本当に良いのか?』と確認する、照会作業が付きものとなっている。この手間を削減するのが、今回提供するX-Boostになる」(砂金CEO)という。

 X-Boostの特徴は、1)直感的なUI/UX、2)LLMOpsによるAIモデル・データの効率的な運用、3)安心安全のセキュリティの3点。

照会応答業務を支援する生成AI SaaS「X-Boost」の3つの特徴

 Gen-AX プロダクトマネージャーの永野玲氏は、「生成AIを活用したというのに特徴の1つ目が直感的なUI/UXというと、技術の話ではないのか?と感じる人もいるかもしれないが、コンタクトセンターでシステム入れ替えとなった際、導入段階で抵抗されるケースが多い。利用する側は操作に慣れるまでに時間がかかる、経営者側も教育に時間がかかるといった問題が起こることになる。そこで、できるだけ直感的に操作できるように開発を行い、オンボーディングの時間を最小限にしている」と、説明する。

 オペレーター側の画面は、誰でも簡単に操作できるよう、使いやすいUI/UXで、応答業務の効率化を行うことを想定したものとなっている。社内に蓄積したナレッジを活用した検索、回答水準の統一、検索・回答文章作成の時間短縮を実現する。

使いやすいUI/UXで、応答業務を効率化

 特徴の2つ目であるAIモデル/データの効率的な運用では、企業が生成AIを導入する際の課題を調査すると、AI運用人材とノウハウ不足がトップに来ることに着目。非エンジニアでも簡単かつ効率的に運用できる仕組みにより、個社のAIモデルを『賢く、育てていく』を目指す。

 「AIモデルを活用する際、直面する課題がたくさんあるが、代表的なところでは、そもそも投入するデータの前処理、モデル学習バージョンの管理制度の維持などが挙げられる。これらを効率的に解決するのが本サービスのLLMOpsだ」(永野プロダクトマネージャー)。

 LLMOpsのポイントとして、まずデータ前処理段階で、利用者の社内データの中から学習に適さない低品質なデータを除去・整理し、AIモデル学習と検索に適した形に処理する。次のAIモデル学習では、汎用的なデータではなく、個社データを活用した個社専用のAIモデルにしていく。そして運用については、簡易なプロセスで、ノーコードかつ少ないステップで運用可能なものとするという。

低品質なデータを除去/整理しAIモデル学習/検索に適した形に処理
個社データを活用した個社専用のAIモデル
ノーコードかつ少ないステップで運用可能

 3つ目の特徴である“安心安全なセキュリティ”については、マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを利用し、日本国内のデータセンターにデータを置いて利用。安全が担保された状態でデータを蓄積していくことができるとした。

国内のサーバーでデータを管理

 販売については、ソフトバンクの法人営業部門が担当。当初はターゲットを年商1000億円以上の大企業で、金融、小売、製造業の7業界に特化し提案を行っていく計画だ。

 「まず、フォーカスした業界向けに提案を行い、経験とノウハウ、そして業界ごとの知識を深め、よりこの業界の皆さまに浸透し、かつこの業界の皆さまがお持ちのサプライチェーンに広げていく戦略を取りたいと考えている。早期に100社への導入を目指す」と、ソフトバンクの専務執行役員法人副統括で、Gen-AXの取締役COOでもある藤長国浩氏は話した。

 すでに2社に試験導入中で、その1つである保険会社では、社内ヘルプデスクの運用効率化に向けて導入を行い、多様化する問い合わせへ迅速に回答する体制を目指している。導入前は、目標として1件あたり30分以内に回答することとなっていたものの、実際には2・3日かかる場合もあったとのこと。しかし導入後は、5分程度で回答が可能となり、対応時間が8割程度削減する見通しだという。

 もう一件の試験導入先である小売会社では、Web問い合わせ対応業務の迅速化に向けて導入を行い、顧客満足度の向上と機会損失を低減することを目指している。導入後は情報検索と回答生成までが5分程度で完了し、ROI 250%超を見込んでいる。

社内ヘルプデスクの運用効率化に向けて導入
Web問い合わせ対応業務の迅速化に向けて導入

 会見には、パートナー企業である日本マイクロソフトの執行役員常務クラウド&AI ソリューション事業本部長である岡嵜禎氏も登壇。

 「皆さまが言われた通り、生成AIのモメンタムが大きいことは間違いない。その中でも、今日発表いただいたカスタマーサポートへの生成AI利用に関しては、非常に多くのお客さまから問い合わせいただいている領域だ。今回のX-Boostによって、お客さまのDX、AIトランスフォーメーションが加速することになり、非常に喜ばしいことだと思っている。マイクロソフトは、ソフトバンクグループと戦略的なパートナーシップを結んでいるが、特に生成AI領域に関して、お客さまのイノベーションを加速することになることを期待したい」とエンドースメントを述べた。

日本マイクロソフト株式会社 執行役員常務 クラウド&AI ソリューション事業本部長の岡嵜禎氏