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IBMとNASA、気象・気候のさまざまなユースケースに対応する新しいAI基盤モデルを公開

 米IBMは現地時間23日、科学者や開発者、ビジネスのコミュニティ向けに、オープンソースで利用可能な、気象および気候のさまざまなユースケースに対応する新しいAI基盤モデルを発表した。IBMとNASAが、オークリッジ国立研究所の協力を得て共同開発したこの基盤モデルは、短期的な気象予測と長期的な気候予測に関連するさまざまな課題に対処するための、柔軟でスケーラブルな方法を提供する。

 IBMでは、気象や気候に関する基盤モデルは、その独特な設計と学習体制により、既存の気象に関するAIモデルよりもはるかに多くの応用例を検討できると説明。潜在的な応用例としては、局地的な観測に基づいたターゲットを絞った予報の作成、異常気象パターンの検出と予測、地球規模の気候シミュレーションの空間解像度の向上、数値気象・気候モデルでの物理プロセスの表現方法の改善などがあるという。

 今回発表した基盤モデルは、NASAのModern-Era Retrospective analysis for Research and Applications, Version 2 (MERRA-2) による、40年間の地球観測データを使用して事前学習された。グローバル、地域、ローカルの規模にファインチューニング可能な独自のアーキテクチャーを備え、基盤モデルとしての柔軟性が、さまざまな気象研究に適しているとしている。

 この基礎モデルはHugging Faceでダウンロード可能なほか、特定の科学的・産業的応用に対応する、「気候と気象データのダウンスケーリング」と「重力波パラメタリゼーション」の2つのファインチューニングモデルも利用できる。

 ダウンスケーリングは、低解像度の変数から高解像度の出力を推測する気象学の一般的な実装の一つで、入力する典型的なデータには、気温、降水量、地上風などがあり、これらの解像度はさまざまとなる。この基盤モデルでは、気象と気候データの両方を最大12倍の解像度で表示でき、局地的な予報と気候予測を生成する。ファインチューニングされたダウンスケーリングモデルは、Hugging FaceのIBM Graniteページで公開されている。

 重力波は、大気中に遍在しており、雲の形成や航空機の乱気流など、気候や気象に関連する多くの大気プロセスに影響を与える可能性がある。従来、既存の数値気候モデルは重力波を十分に捉えておらず、重力波が気候プロセスにどの程度正確に影響を与えるかという点で不確実性につながっていたと説明。今回公開した気象・気候基盤モデルは、科学者が重力波の発生をより正確に推定し、数値気象・気候モデルの精度を向上させ、将来の気象・気候現象をシミュレーションする際の不確実性を抑制するのに役立つ。重力波パラメタリゼーションモデルは、NASA-IBM Prithviモデル・ファミリーの一部として、Hugging Faceで公開されている。

 また、IBMは既に、新しい別の気象予測ユースケースでモデルの柔軟性をテストする目的で、カナダ環境・気候変動省 (ECCC) と協業している。ECCCは、このモデルを使用して、リアルタイムのレーダーデータを入力として取り込む降水ナウキャストと呼ばれる手法を使って、非常に短期の降水量予報を模索している。チームはまた、15kmの解像度での全球モデル予報からkmスケールへのダウンスケーリングアプローチもテストしている。

 この気象および気候モデルは、IBM ResearchとNASAがAI技術を使用して地球を探索するための大規模なコラボレーションの一環であり、AI基盤モデルのPrithviファミリーに加わる。IBMとNASAは、2023年にPrithvi地理空間AI基盤モデルを、Hugging Faceで利用可能な最大のオープンソースの地理空間AIモデルにした。この地理空間基盤モデルは、災害パターン、生物多様性、土地利用、その他の地球物理プロセスの変化を調査するために、政府、企業、公的機関によって使用されている。基盤モデルと重力波パラメタリゼーションモデルはNASA-IBM Hugging Faceページから、ダウンスケーリングモデルはIBM Granite Hugging Faceページからアクセスできる。