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TIS、量子回路シミュレーター「Qni」を産総研のGPUスパコンABCIを用いたWebサービスとして提供
2024年8月7日 15:43
TIS株式会社は7日、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)が整備し、産総研のグループ会社である株式会社AIST Solutionが運用するAI橋渡しクラウド「AI Bridging Cloud Infrastructure(以下、ABCI)」上で、TISが開発した量子回路シミュレーター「Qni(キューニ)」をブラウザー経由で実行可能なWebサービスとして提供開始すると発表した。
Qniは、TISが開発した、Webブラウザーで動作する量子回路エディタ兼シミュレーター。量子回路を編集しながら、リアルタイムにシミュレーションを実行できる。
量子コンピューターのプログラミングには高度な専門知識が要求されるため、従来のプログラミングに比べてハードルが高いという課題があるが、Qniは量子回路をドラッグ&ドロップによって直接編集でき、操作結果が即座に表示されるため、量子ビットや量子ゲートの仕組みをインタラクティブに理解できる。TISでは、国内・海外での量子コンピューターエンジニア育成への貢献を目的に、無料で提供をしてきた。
今回、産総研グループが運用する計算基盤のABCIを使用し、共同でQniを改良することで、扱える量子ビットがこれまで最大16量子ビットだったところ、最大30量子ビットのシミュレーションが可能になった。これにより、これまでスパコンユーザーのみが可能だった、高速GPUを活用した大規模な計算や量子回路シミュレーションが、誰でもブラウザー上で可能になるとしている。
Qniの最も大きな改良ポイントは、シミュレーションをCPUではなくGPUで実行できるようにした点で、GPUを効率的に使うための仕組みとしてNVIDIAの量子コンピューティング用SDKであるcuQuantumを利用することで、ABCIに搭載されたGPUの性能を最大限に発揮できるようになった。また、ABCIをはじめとするスパコンには利用ユーザーごとの計算ジョブの優先度などを調整し、利用効率を向上させる「ジョブスケジューラ」、安全なユーザーログインを可能にする「ユーザー認証」といったサブシステムがあり、新しいQniではOpen OnDemandを活用することで、こうしたサブシステムとの連携を可能にしている。
産総研では、今回の取り組みがABCIを通じて広まることで、量子コンピューティング導入の敷居を下げ、「量子未来社会ビジョン」の実現に貢献することを期待すると説明。また、AI研究者や量子アルゴリズム研究者など、スパコンの専門家以外でも大規模な量子回路計算を容易に実行できるようになるため、近年注目されている量子機械学習をはじめとする量子コンピューターとAIのクロスオーバー分野など、量子コンピューターを活用した新分野での研究加速も期待できるとしている。
産総研で2025年度に運用開始予定の次期ABCIシステム「ABCI-Q」でも継続提供を計画しており、産総研ABCIでは量子未来社会ビジョンに関する取り組みとして、多様なユーザーがアクセスでき、さまざまなユースケースを探索・創出するための量子コンピューターの利用環境の整備を進めていくとしている。
TISでは、Qniをはじめとした量子コンピューティング向けオープンソースソフトウェアの拡充に取り組んでおり、量子コンピューターの進化や活用事例の広がりに合わせ、機能強化をオープンな開発体制で行っていく予定としている。