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「日本のAI支出は2028年に2兆5000億円を超える」とIDC――インテルプレスセミナーにて
2024年6月11日 11:00
インテル株式会社は10日、日本でのAI利活用に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、IDC Japan株式会社 グループバイスプレジデント チーフリサーチアナリストの寄藤幸治氏が、AIの市場や成熟度について解説。その後、6月にインテル 代表取締役社長に就任した大野誠氏が、同社のAIに対するビジョンと製品を紹介した。
AI市場の現状とこれから
IDCの予測によると、アジアパシフィック地域のAI支出は2022年から2027年の間に年平均成長率28.9%で成長し、2027年には907億ドルに達する見込みだという。
寄藤氏は、アジアパシフィック地域でAIの普及を促進している要因について、「現在は効率性や生産性の向上、コスト削減など、内部フォーカスのものが中心だ。それが今年からはAIのユースケースが拡大し、より外部フォーカスになるだろう」と説明する。また、今後については「2028年には予測できないような新たなユースケースが生まれるのではないか」と述べている。
さらに寄藤氏は、現在クラウド中心で行われているAIの処理が、レイテンシーの課題を解決するためエッジ側に移行していくことも予測、「リアルタイム性が必要なケースではエッジでの処理が増加し、ハイブリッドAIの時代が到来する」としている。
日本のAI支出については、「調査した8カ国の中で最大だった」と寄藤氏。その額は、2028年には2兆5000億円を超える見込みだという。産業分野別では、2023年時点で最もAI支出が大きいのが小売業で、次いで製造、金融となっている。IT市場全体では製造、金融、流通(小売含む)の順だというが、「AIは顧客接点のユーケースが非常に多く、これが小売でのAI投資を牽引している」と寄藤氏は説明する。
次に寄藤氏は、AI利用の成熟度について解説。この成熟度は、IDCのアンケート調査と二次データを基に、組織的側面45%、社会経済的側面40%、政府政策側面15%という重み付けをした上で評価したものだ。
その結果、アジアパシフィック市場のAI成熟度はあまり進んでいないことがわかったという。ステージ1をAI探索者、ステージ2をAI実践者、ステージ3をAIイノベーター、ステージ4をAIリーダーとして評価したところ、ステージ4の段階にいるのはシンガポールのみだった。日本は、オーストラリア、韓国と並んでステージ3に位置づけられており、インド、台湾がステージ2、インドネシア、マレーシアはステージ1だった。
日本について寄藤氏は、「組織、政府政策、社会経済の3つの側面すべてでアジアパシフィック地域の平均を上回っている。中でも組織面では8カ国中最もスコアが高かった」とし、「日本は今後AIイノベーションを進めるにあたっての強固な社会的・経済的インフラがある」と話す。
ただし、AIが自社の競争力強化に貢献していると考えている企業は10%にとどまっていることから、「この点がリーダーポジションに位置づけられなかった要因ではないか」としている。
また寄藤氏は、それぞれの側面における日本の課題についても言及。組織的側面での課題としては、高齢化やトップダウンの企業文化によるイノベーションの阻害、レガシーシステムの温存によるAIの適用遅延、カスタム開発志向によるAI実装の複雑化を挙げ、政府政策側面ではAIに特化した規制がないこと、社会経済的側面ではAIの人材不足やスタートアップの不足、日本語モデル志向となること、そして日本語の高品質データの不足を挙げている。
こうしたことから寄藤氏は、「組織的側面では、プロセスを標準化してサイロを打破し、柔軟で拡張可能なインフラに投資する必要がある。政府政策側面では、倫理とのバランスが取れた規制を導入し、国際的な協調を推進すること。社会経済的側面では、とにかくAI人材を育成し、起業家文化を醸成していくことが重要だ」と提言した。
AI Everywhereの実現に向けて
セミナーの後半は、インテルの大野氏が、「AI Everywhere」という同社のビジョンを実現する製品を紹介した。
そのひとつは、AIの学習処理と推論に特化した「インテル Gaudi 3 AI アクセラレーター」だ。生成AIのパフォーマンスと生産性に特化したアーキテクチャ設計となっており、Tensorプロセッサーコア数は64、行列演算エンジンは8基搭載している。メモリも前世代より拡大し、ネットワークに関しても超大規模システムに拡張できるとしている。
大野氏によると、広く利用されている大規模言語モデルを実行した上で、Gaudi 3とNVIDIA H100の平均推定パフォーマンスを比較したところ、Gaudi 3の学習処理時間はNVIDIA H100の1.4~1.7倍高速だったという。
推論面においては、同じくGaudi 3と、新たに発表した「インテル Xeon 6 プロセッサー」を用意していると大野氏。同氏はXeon 6について、「高密度でスケールアウトワークロードの効率化に最適なE-core(Efficient-core)と、コンピュータ集約型でAIワークロードのパフォーマンスに最適なP-core(Performance-core)を搭載している」とアピールする。
また大野氏は、Gaudi 3の推論速度についてもNVIDIAの製品と比較し、NVIDIA H200の平均推論パフォーマンスより1.3倍高速だったとしている。
さらに大野氏は、今後AIの分散処理が進む未来を見据えてインテルがAI PC分野にも取り組んでいることについて触れ、「インテル Core Ultraが搭載されたAI PCは、すでに800万台以上出荷されており、今年の終わりまでに4000万ユニットが出荷される見込みだ」と述べている。
AI向けクライアント製品としては、現在提供中のMeteor Lakeに加え、2024年第3四半期にはLunar Lakeが、2024年第4四半期にはArrow Lakeが出荷開始となる予定だ。Lunar Lakeは、すでに20以上のPCメーカーが80以上の機種で採用することを決定しているという。
「インテルは、エッジからデータセンター、クラウドまで、あらゆるプラットフォームでAIを提供し、AI Everywhereを実現させる」と大野氏は述べた。