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ソフトバンク、Beyond 5G/6Gに向け独自アンテナ技術によるテラヘルツ無線の実証実験に成功

 ソフトバンク株式会社は4日、Beyond 5G/6G時代を見据えて、独自のアンテナ技術の活用により、300GHz帯テラヘルツ無線(以下、テラヘルツ無線)を用いた、屋外を走行する車両向けの通信エリアを構築する実証実験に成功したと発表した。これにより、固定通信や近距離通信といった用途での活用が多く想定されていたテラヘルツ無線のユースケースとして、走行する車両向けの高速通信という新たな用途の実現の可能性を示すことができたとしている。

 無線通信の高速化・大容量化が求められる中で、100Gbps以上の伝送速度を実現するBeyond 5G/6G技術に関する研究開発が世界的に行われている。こうした中、テラヘルツ無線は5Gで利用されるミリ波帯と比べて、より広い周波数帯が利用可能なため、超高速無線システムを実現する技術として期待されている。

 テラヘルツ無線の周波数帯は電波の伝搬損失が大きいことから、実用化のためにはビームを細くして電力を集中させ、電波を遠くまで飛ばす研究が進められてきた。通信可能な距離を伸ばすことで、光ファイバーの代替技術として、光ファイバーの敷設が困難なエリアにおける高速通信などへの活用が期待されている。

 ソフトバンクは、テラヘルツ無線を移動通信として利用するための研究開発を進めており、これまでに屋外での通信エリア構築の検証に成功し、見通し外でもテラヘルツ通信ができる可能性があることを確認している。しかし、端末向けの通信での活用には、常にビームを追従するシステムの開発が必要となるため、装置の複雑化や端末を追従する精度が課題となっている。また、既存の移動通信の基地局のようにエリアを広げようとすると、電力が分散してしまうため、テラヘルツ無線の通信エリアがかなり小さくなってしまうという課題もある。

 そこでソフトバンクは、通信エリアを車道のみに限定することで、電力の分散を防ぎ、通信可能なエリアを広げられると考え、屋外を走行する車両向けのテラヘルツ無線通信エリアを構築する実証実験を行った。

走行車両向けの通信エリアを構築する実証実験の様子
車両向けテラヘルツ通信のイメージ

 通常の基地局では、なるべく広い通信エリアを構築するため、利得の高いセクターアンテナが採用されている。こうしたアンテナでは、水平方向は広く、高さ方向は鋭くなるように電波が放射されるが、基地局のごく近くでは、少し離れたところに比べて電波が弱いという現象が起きることがある。そこで、車両向けのテラヘルツ無線通信では、水平方向を鋭く、高さ方向に広い電波を放射することで、車の走行方向に対して安定するようなエリアを構築した。

 また、今回の車両向けのエリア構築においては、コセカント2乗ビームの特性(以下、コセカント2乗特性)を応用した。コセカント2乗特性とは、航空レーダーで利用されている技術で、高低差のある送受信アンテナの水平距離に関わらず、基地局と端末それぞれの受信電力が一定となる特性のことを指す。

 このコセカント2乗特性を通信で実現するためには、特殊なアンテナ構成が必要となるが、ソフトバンクはコセカント1乗ビーム特性のアンテナ(以下、コセカントアンテナ)を独自開発して、それを基地局と端末の双方に用いることで、高いアンテナ利得を維持しながらコセカント2乗特性を実現し、受信電力を一定にするシステムを考案した。なお、こうした特殊な特性のアンテナは、既存の移動体通信の周波数帯ではサイズが大きくなってしまうが、テラヘルツ波は波長が短いため、1.5×1.3×1.0cm(基地局用)、1.5×1.3×1.5cm(端末用)というサイズを実現した。

コセカントアンテナ

 実証実験は、ソフトバンクの本社ビル(東京都港区)付近の道路上で実施した。送信側は、地上約10mの高さにある歩行者用デッキに、コセカントアンテナを取り付けた基地局相当の無線機を設置し、5Gの変調信号を300GHzに変換して送信した。受信側は、コセカントアンテナを取り付けた測定車に、300GHzを5Gの周波数に変換する機材を搭載して、歩行者用デッキの下を通る直線道路上を実際に走行しながら5Gの信号の測定を行った。

実験風景

 実証実験では、車の走行速度を徐行から道路の制限速度である時速30kmまで変化させながら測定を行ったが、いずれの場合も基地局の近くから道路の突き当たりまでのおよそ140mの区間において、走行中でも常に安定して試験信号を受信・復調できることを確認した。今回は、道路の長さの制限により140mまでの測定になったが、通信不可となる電力まで余裕があるため、さらに長距離のエリア化が可能であると考えられるとしている。

受信電力の分布

 ソフトバンクは、今後もテラヘルツ無線の実用化に向けて、さまざまなユースケースの検証を行うとともに、Beyond 5G/6G時代の超高速無線通信の実用化に向けた研究開発を加速し、通信事業の発展に貢献していくとしている。