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シスコがAIを活用した「Webex」のアップデートを紹介、ハイブリッドワークのイノベーション促進を図る

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は1月31日、コミュニケーションツールであるWebexの強化について説明した。

 米Cisco アジア太平洋・日本・中国地域 コラボレーション アーキテクチャ事業担当マネージングディレクターのサンディープ・メフラ氏は、「WebexプラットフォームのすべてにAIを浸透させる」と述べ、AIを活用したアップデートについて紹介した。このなかには、帯域幅が狭い状況でもパケットを再構築し、音声をクリアにする技術や、ネットワーク状況が悪いため270pで送信した映像を、1080pに再スケーリングする技術などが含まれている。

米Cisco アジア太平洋・日本・中国地域 コラボレーション アーキテクチャ事業担当マネージングディレクターのサンディープ・メフラ(Sandeep Mehra)氏

WebexOneで発表された4つの機能

 同社では2023年10月25日に、米国アナハイムで「WebexOne」を開催。Webexの新たなAI戦略を発表し、コミュニケーション機能やコラボレーション機能を強化した。今回の説明では、「Real-time Media Models(RMM)」、「Webex AI Codec」、「Super Resolution」、「Webex AI Assistant」の4つの機能について触れた。

4つの機能を説明

 業界初となるRMMは、ビデオ会議などの際に、どんなトーンで話をしているのか、どんな身ぶりで話をしているのか、相手の反応はどうかといったことを、音声や画像をもとに、AIを用いて判断できるのが特徴だ。「LLM(大規模言語モデル)が言語を対象にしたモデルであるのに対して、RMMは、オーディオやビデオにも対応したものになる。会議中に宅配便が届き、PCの前から離れると、自動的に映像や音声をミュートにし、戻ってくると再開。参加できなかった部分はAIが要約したメモとして提供したり、離席中に会議で名前を呼ばれていたかどうかも確認できたりする」という。

Real-time Media Models(RMM)

 またWebex AI Codecは、生成AIによって音声品質を強化するもので、「オーディオの考え方を抜本的に変えることができる」と自信をみせる。業界標準のコーデックに比べて最大16分の1の帯域幅で優れた音声品質を提供し、85%のパケットロスがある音声でも、生成AIによってパケットを再構築できるといった特徴を持つ。

 「どんなにテクノロジーが優れていても、音声品質が悪ければ意味がない。Webex AI Codecは、ネットワーク状態が悪くても、わずかな帯域幅で優れた音質を実現できるようにした。ウェブ会議中に、聞こえない、音声が悪いという会話がなくなる」と語る。

Webex AI Codec

 そしてSuper Resolutionについては、「ビデオに革命を起こす技術」と位置づけ、生成AIによって、帯域幅が悪い状況でも動画を再構築することができることをデモンストレーションしてみせた。ネットワーク状況が悪い場合には、270pにまでダウンスケールして送信したものを、Super Resolutionの機能を使うことで、1080pに再スケーリングすることができる。

 「在宅でウェブ会議に参加しているときに、子供が別の部屋でXboxのゲームをプレイして帯域幅を取ってしまっているといった場合でも、映像を利用したウェブ会議ができる」とユースケースを紹介した。

Super Resolution

 またWebex AI Assistantは、ハイブリッドワーカーやコンタクトセンターエージェントの業務改善をサポートする機能であり、RMMとLLMとの組み合わせによって、さまざまなニーズに生成AIが対応。「私が参加していなかった15分間の会議内容を教えて」、「有給休暇を取った金曜日に参加できなかったすべての会議の内容を教えて」といった文を入力すると、リアルタイムで回答が生成されるという。

Webex AI Assistant

 メフラ マネージングディレクターは、「企業における課題は、ハイブリッドワークが機能しているのかどうかという点にある。98%の会議で、少なくとも1人がリモートで参加しているものの、ビデオに対応している会議室は15%にとどまっているのが実態であり、ネットワーク、セキュリティ、ビデオの体験がうまくいっていない。そのため70%の企業は、オフィスに社員が戻りはじめているのにあわせて、オフィスの再構築に投資を行っており、出社したくなる『磁力』を持った場所を作ろうとしている」という点を指摘。

 その上で、「シスコは、Webexプラットフォームを通じて、『働き方の再構築』、『ワークスペースの再構築』、『顧客体験の再構築』の3つの課題解決にアプローチしており、そのための機能を強化している」と述べた。

お客さまの課題解決への3つのアプローチ

 さらに、「Webexプラットフォームが実現するのは、高いセキュリティと管理性、相互運用性を持ったインテグレーション、そして、AIによる言語、音声、ビデオのインテリジェンスである。シスコは10年以上、AIに関わってきており、言語インテリジェンスでは、100言語以上の文字起こしを行い、35言語の翻訳を行うことができる。また、音声インテリジェンスでは、ノイズ除去して、隣で会議をしている人の声も拾わないスピーカーフォーカス機能を実現している。そして、ビデオインテリジェンスでは、最もよく見えるフレームを使うことができるピープルフォーカスと、複数のカメラを活用し、会議室の参加者全員がつながることができる画角を、AIによって実現するシネマティックミーティングを新たな機能として提供している」などと語った。

 また、Cisco RoomOS搭載のデバイスによって、Webexだけでなく、Microsoft TeamsやGoogle、Zoomとの相互接続を実現していること、Room Kit EQXにより、会議室向け機能をパッケージ化し、簡単にインストールできるデザインを採用したこと、Campfireでは取締役会などの会議を行う部屋を再構築する際に適した環境を実現できること、そして、Bang & Olufsen 950の採用により、優れた音声品質やアダプティブノイズキャンセリング機能、エンタープライズグレードのオンイヤー型呼制御などを備えることができるとした。

AI搭載のコラボレーションデバイスを提供
Campfireは、このほど日本で開催したWebexOne Japanで世界初公開となった

 さらに、「顧客体験の再構築」の実現においても、AIを積極的に活用。コンタクトセンターにおけるインテリジェントな要約を可能にするGenerated wrap-upや、すべてのエージェントのスキルを高位平準化できるCoaching Highlights、エージェントの燃え尽き症候群につながるような心身の疲労を検知するAgent Burnout Detectionを提供する。

 「デジタルカスタマーエクスペリエンスが広がり、あらゆるものがワンクリックで注文できるようになる一方で、3分の1が、一度だけの良くない顧客体験で、そのブランドから離れてしまうという調査結果がある。コンタクトセンターの役割はますます重要になっている」と前置きし、「優れたカスタマーエクスペリエンスを実現するためにAIは不可欠になっている。顧客とのやり取りを自動的にまとめ、内容を把握し、アクションアイテムを入力し、次のステップに移行できる環境を生成AIによって実現できるようになる」と述べた。

AI搭載のクラウドコンタクトセンターで優れたカスタマーエクスペリエンスを実現

生成AIを活用して新たなコラボレーションの基盤づくりに取り組む

 一方、Webex AIのエンジニアリングチームを率いる米CiscoのWebex Collaboration AIエンジニアリング担当バイスプレジデント、クリス・ローウェン氏は、「これまでのAIは、言葉の分析や画像の認識を行うものだったが、生成AIはそれだけでなく、新たなコンテンツを生成することができる点が大きく異なる。さらに、機能の高度化とコストの急激な低下が起きているのも特徴で、その結果、基盤モデルが急増している。そして、組織のインサイトを吸収し、作成するための新たな方法によって、会議や通話のサマリだけでなく、何万人もの人の声も要約することができ、組織全体のナレッジの収集、共有も可能になる」と、生成AIが与える影響について言及。

Cisco Webex Collaboration AIエンジニアリング担当バイスプレジデントのクリス・ローウェン(Chris Rowen)氏

 その上で、「シスコは、生成AIを活用することで、新たなコラボレーションの基盤づくりに取り組んでいる、これにより、組織や人は、最も重要な部分に時間を割くことができるようになる。例えば、すべての会議に出席し、最初から最後までその内容を目撃する必要はなく、正確なサマリとアクションアイテムリストがあれば十分という場合もある。これはカバーする会議の数を増やすことにつながり、リーチできる業務の範囲を広げることにもつながる。企業内のコミュニケーションの考え方を根本から変えることができる。また、生成AIにより、さまざまな業種や業務において必要とされるワークフローをサポートすることにも、シスコは力を注いでいる。まずは、カスタマーサポートの部分から成果を出し、それを広げていくことになる」などと述べた。

コラボレーションのための高度なAI戦略

 また、「これを実現するために、AIの機能を作るだけでなく、完全なプラットフォームの構築にも乗り出した。基盤に集約するだけでなく、ライブラリやプラグインによる拡張ができ、サードパーティーサービスともAPI連携ができる」と語り、「世界中でリーダーとなっているシスコのテクノロジーを統合し、新たなエクスペリエンスを提供することで、生産性や効率性、効果を組織で実現できる。顧客の成功につなげるために、生成AIのテクノロジーを活用している」と語った。

 なお、2024年1月1日付でシスコシステムズ(シスコジャパン)の社長に就任した濱田義之氏は、「日本のハイブリッドワークを実現する上で、すべてをセキュアにつなぎ、統合したプラットフォームを提供するのがシスコの役割であり、セキュリティ、オブザーバビリティ、ハイブリッドワーク、サステナビリティ、ハイブリッドクラウドとともに、AIが主力領域のひとつになる」とコメント。

 さらに、「以前は、会社に来て仕事をするのが当たり前であったが、コロナ禍では、すべてが在宅に切り替わった。昨今ではオフィスへの回帰がはじまっているが、すべての人がオフィスに出社するという時代には戻らない。本当の意味で、ハイブリッドワークが定着していくことになる。集中したいときには在宅勤務をしたり、効率よく仕事をするにはリモートワークを活用したりといった働き方に加えて、オフィスも、すべての従業員が出社し、執務を行う『箱』から、リアルにつながることでコミュニケーションを増進し、イノベーションを醸成する場に役割が変わっていくことになる。シスコは、ホームオフィス、リモートワーク、次世代オフィスに必要なコミュニケーションおよびコラボレーションの機能を提供することが使命になる。そして、これをエンドトゥエンドのプラットフォームとして提供できるのがシスコの強みであり、シスコにしかできないことになる。AIを含めた最先端のテクノロジーを使って、日本のハイブリッドワークのイノベーションを促進していきたい」と語った。

シスコ 代表執行役員社長の濱田義之氏