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レッドハット、エッジ製品「Red Hat Device Edge」を解説 複数の導入事例も紹介
2023年11月20日 06:30
米Red Hatは、工場の産業機器などエッジデバイスに向けた製品「Red Hat Device Edge」を一般提供開始したと、米国時間11月6日に発表した。このRed Hat Device Edgeとその国内展開について、日本のレッドハット株式会社が、11月15日に横浜で記者説明会を開催した。
記者説明会は展示会イベント「EdgeTech+ 2023」に合わせて行われたもので、パートナー企業も出席して取り組みを紹介した。ここではその内容を、「EdgeTech+ 2023」での展示もまじえて紹介する。
工場などの制御コンピューターのアプリを柔軟かつ自由にデプロイ
Red Hat Device Edgeは、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)をエッジに最適化した軽量な「RHEL for Edge」と、軽量版OpenShift「MicroShift」、運用自動化のための「Ansible」をパッケージングして、エンタープライズサポートをつけて提供する製品だ。MicroShiftで動くコンテナのRHELベースイメージ(UBI)も提供し、そのエンタープライズサポートも含まれる
エッジデバイスの最小要件は、CPUが2コアで、メモリが2GB。CPUは、Intelアーキテクチャのほか、ARM64もサポートしている。
Red Hat Device Edgeが必要となる背景としては、アプリケーションの改修などの更新がある。特にエッジコンピューティングにおいては、ハードウェアなどのリソースが限られ、さらに多数のデバイスという「群」を対象に更新を考えないといけないため、煩雑な運用を生む課題があると、レッドハット株式会社の小野佑大氏(クラウドスペシャリストソリューションアーキテクト部)は説明する。
Red Hatのプラットフォームのアプローチは、従来のアプリケーションやクラウドネイティブアプリケーション、データセンターやパブリッククラウドなど、柔軟かつ自由にワークロードをデプロイできるようにするというもの。これをさらに、エッジにも適用するソリューションが、Red Hat Device Edgeというわけだ。
Red Hat Device Edgeでは、アプリのほかOSの更新の効率化にも焦点を当てている。例えばインストールでは、USBメモリを挿して電源をオンにすると、自動インストールが行われるようにできる。さらに、インストール後に、Ansibleのコントローラに自動登録したり、Gitリポジトリと連携したりという構成も作れるという。
国内展開の戦略としては、まず工場などの産業分野でエッジ環境のシステムをスマート化し、ITとOTを融合したプラットフォームを構築できるようにする。また、産業分野での取り組みを通信にも還元し、ネットワーク仮想化に加えて、ロボットやAIカメラなど各キャリアが展開する+αの部分もカバーすると、小野氏は語った。
レゴブロックによる工場の模型でRed Hatのエッジソリューションをデモ
「EdgeTech+ 2023」のレッドハットのブースでは、レゴブロックによる工場の模型を使って、Red hat Device Edgeによる工場のスマート化をデモしていた。
流れとしては、倉庫、研磨機、検査装置の3つからなる。色によって分けられたボールを倉庫から取り出し、それを研磨機にかけ、その後、検査装置で色を検査するというものだ。
Red Hat的な構成としては、生産ラインの横でPLCを制御する「Edge」、Edgeと外部とをつなぐ「Fog」、クラウド上の「Fog」からなる。EdgeではRed Hat Device Edgeが動き、FogとCentralではOpenShiftが動く。
デモではEdgeに産業用PCが使われていたが、そのほか後述する株式会社たけびしのDevice Gatewayも用意されていた。
Edgeで動くアプリケーションは、OpenShift GitOpsのArgo CDでデプロイされるようになっている。それにより、Gitリポジトリでコードや設定が変更されると、変更されたものがFogを経てEdgeにデプロイされる。また、Edgeのデータは、Red Hat Application Foundationsに含まれるApache ActiveMQやApache KafkaによってストリーミングでクラウドのCentralに送られる。
たけびし:生産現場の機器をITシステムにつなぐDevice GatewayをRed Hat Device Edgeに対応
パートナーとしてはまず、「Device Gateway」のメーカーである株式会社たけびしの小林弘明氏(技術本部 ソリューション開発部 オリジナル商品開発課 専任)が登場した。
Device Gatewayは、生産現場の設備に取り付けたPLCなどの装置から、IoT用のOPC UA規格で通信できるようにする装置。320種類以上のデバイスに対応している。
Device Gatewayによって、現場で長く使われている機器からのデータ連携を行えるようにする。それにより、設備稼働率の改善、エネルギーコスト、生産ロスの削減などを目的としたデータ分析に活用できると小林氏は説明した。
「最近は、ITと同様に、製造でもクラウド活用が進んでいる。複数工場全体の最適化や、統合監視、BIを活用した生産性向上だ。そのために多くデータを集める必要がある」(小林氏)。
通常はハードウェアとして販売しているが、今回はそれをコンテナ上で動くソフトウェアにしてRed Hat Device Edgeに対応させた。これにより、Kubernetesによるデプロイや管理に対応し、これまでは専用コンソールで一台ずつ設定していたのに対して、大量のデバイスを一斉展開できるようになるという。さらに、Apache CamelやApache Kafkaなどによるデータ連携にも対応する。
小林氏の話によると、工場の設備は、まず1カ所のパイロット工場で試し、うまくいくようなら海外を含む多数の工場に一気に横展開するといったケースが増えているとのことだった。
「EdgeTech+ 2023」のたけびしブースでは、Red Hat Device EdgeとDevice Gatewayを搭載したRaspberry PiおよびArmadilloが展示されていた。
マクニカ、NVIDIA JetsonでのエッジAIにRed Hat Device Edge導入へ
株式会社マクニカは、GPUを搭載したAI組み込みボードコンピューター「NVIEDIA Jetson」によるエッジAIと、そこでのRed Hat Device Edge導入について、株式会社マクニカの野本裕輔氏(クラビス カンパニー 第1技術統括部 技術第3部 部長代理)が説明した。
エッジAIへのRed Hat Device Edge導入による効果が期待される分野としては、まず小売業界を野本氏は挙げた。小売業界では、人流分析や属性分析、動線解析などのためにビジョンAIの導入が進んでいるという。この場合、日本全国に展開する必要があり、保守運用に関する課題が発生する。
そこで、Red Hat Device Edgeにより、遠隔地の端末のアップデートや、アプリケーションのメンテナンスができるようにするという。
2つ目の分野としては、ロボティクスを野本氏を挙げた。従来はぎりぎりのハードウェアスペックを使い切る組み込み開発をしていたが、最近はクラウドネイティブの考え方が入ってきたという。ハードウェアに余裕をもたせて、後からアプリケーションのアップデートが可能にしたり、クラウドと連携したりといったことが期待される。
そこで、Red Hat Device Edgeにより、新しい機能をコンテナで安全に追加したり、新バージョンのコンテナに切り替えたりして、より負荷の少ない開発ができると考えているという。
「EdgeTech+ 2023」のマクニカブースでは、これからRed Hat Device Edgeの導入が期待されるJetsonを使った組み込みAIとして、車のナンバーを映像から読み取るデモなどが展示されていた。