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AWSジャパン、生成系AIサービスに関する最新の取り組みや金融領域での活用事例などを説明

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は13日、生成系AIサービスに関する最新の取り組みとともに、金融領域における生成系AIの活用事例などについて説明した。

 AWSジャパンは、日本における生成系AI関連サービスを強化しており、今週から東京リージョンにおいて、「Amazon Bedrock」や「Amazon SageMaker JumpStart」などのサービス提供を開始。AWSがサポートする基盤モデルの品ぞろえの拡充も図っている。

 AWSジャパン 金融事業開発本部長の飯田哲夫氏は、「AWSは、2006年から機械学習を提供しており、すべてのお客さまに機械学習を届けることがミッションである。すでに10万社以上の企業が、AWS上で機械学習を実行している。また、日本の金融領域においても、Amazon Bedrockをはじめとする生成系AIへの取り組みが進展している」と述べた。

AWSのミッション:すべてのお客さまに機械学習をお届けする
AWSジャパン 金融事業開発本部長の飯田哲夫氏

 AWSジャパンでは、生成系AIサービスとして、業務用途にあわせた基盤モデルを選択でき、最も簡単に生成系AIアプリケーションを構築、拡張できる「Amazon Bedrock」の一般提供を開始しているほか、わずか数ステップで、生成系AIアプリケーションに必要なタスクを完了できる「Agents for Amazon Bedrock」のプレビュー版を提供。また、あらゆるユースケースに対応した機械学習モデルを独自に構築したいという場合には、「Amazon SageMaker」および「Amazon SageMaker JumpStart」を提供している。

 さらに、コード提案をリアルタイムで生成し、より安全にアプリを構築できる「Amazon CodeWhisperer」の一般提供を開始しているほか、社内コードベースに基づいて、推奨コードを生成する「Amazon CodeWhisperer customization capability」を近いうちに正式リリースすること、自然言語を利用して、生成系AIによる高度な可視化を実現できるBIツール「AMAZON QUICKSIGHT Generative BI」のプレビュー版を提供していることも示した。

Amazon Bedrock
Agents for Amazon Bedrock
Amazon SageMaker JumpStart
Amazon CodeWhisperer customization capability

 AWSジャパン 技術統括本部 技術推進グループ本部長の小林正人氏は、「生成系AIサービスは、組み上げられているものをそのまま利用したいといった要望や、仕組みは提供してい欲しいが、自分たちのデータを活用し、最適化したものを活用したいといったニーズ、フルカスタムで構築したいといったように多岐に渡っている。AWSは、すべてのお客さまが容易に実現することを支援する。お客さまからは、最先端の基盤モデルを自由に選択でき、新たなバージョンに変更したい、自社のデータを安全に活用して基盤モデルをカスタマイズしたい、あるいは安定的に稼働でき、高いコストパフォーマンスのインフラの上で活用したいという要望があるが、AWSの生成系AIサービスは、これらのニーズすべてに対応できる」と胸を張った。

AWSジャパン 技術統括本部 技術推進グループ本部長の小林正人氏

 その上で、「Amazon Bedrockは、単一のAPIでさまざまな基盤モデルにアクセスでき、独自のデータを非公開で、基盤モデルのカスタマイズに活用できる。また、検索拡張生成(RAG)向けナレッジベースにより、基盤モデル外の情報源を引用した応答を容易に実現し、ハルシネーションを抑制できる。Amazon Bedrockでは、お客さまのデータが基盤モデルの学習に利用されることはなく、プライベートとセキュアを維持する。データセキュリティとコンプライアンスを実現できる」と語った。

選択可能な基盤モデル
Amazon Bedrockなら、お客さまデータはプライベートかつセキュア

 また、生成系AIのビジネス活用を支援するために、情報収集をサポートする「AIユースケースエクスプローラ」、生成系AIジャーニーをデザインする「生成系AIデザインワークショップ」、トレーニングを提供する「AWS Training and Certification」、ユースケースの選定を行う「生成系AIディスカバリー」、無償の技術検証プログラムである「AWS Generative AI Innovation Center」、生成系AIを実装する「生成系AIプロトタイプ実装支援」などを用意していることも示した。

生成系AIのビジネス活用へ向けて

 AWSジャパンでは、金融領域の取り組みに関して「Vision 2025」を策定しており、インフラプロバイダーから、金融ビジネス変革の戦略パートナーへと転換を図っている。

 同社 金融事業開発本部長の飯田哲夫氏は、「生成系AIは、機能の特徴だけを検証する形で終わってしまう場合が多い。ユースケースでの検証が重要であり、AWSでは、お客さまの課題を起点としたサービス開発と課題解決の支援を行っている」とする。

 クラウドサービスを通じて、「既存の枠組みを超えたビジネスモデルへの挑戦」、「新生活様式を織り込んだ顧客との関係構築」、「予測できない未来に耐え得る回復力の獲得」、「変革を実現する組織と人材の育成」の4点からアプローチしていることを示しながら、「生成系AIに関しても同様のアプローチを進めることになる」と述べた。

 また、「AWSの生成系AIサービスを活用することで、基盤モデルを活用した金融サービスや商品の開発、パーソナルライズされた金融アドバイスや情報の提供、金融犯罪への対応力の向上を支援するほか、運用負荷やセキュリティ、コンプライアンスへの対応、生成系AIを活用するためのトレーニングの提供なども行っていく」とした。

顧客課題に対応した生成系AI活用の支援とAWSの提供価値

国内3社の取り組み事例

 一方、金融分野における生成AIに取り組み事例について、3社が説明を行った。

 三菱UFJ銀行は、2021年から生成系AIの内製チームを立ち上げており、生成系AIの有用性と安全性を見極めた上で業務に取り入れ、業務のあり方を変革してきたという。すでに、ChatGPTを活用して、30個の銀行固有のユースケースと、80個の汎用的な業務活用をもとに、PoCを進めている。

 AWSを活用した生成系AIの取り組みでは、2023年5月にプロジェクトチームを立ち上げ、わずか半年の間に、15の検証モデルと、4件のユースケースに取り組んできたという。

 三菱UFJ銀行 市場企画部市場エンジニアリング室の堀金哲雄氏は、「実データを使用することで、より実務に即したモデル評価ができた。本番化に向けては、Servingエンジンの選択やGPU構造を踏まえた工夫が必要なこと、進化していくモデルやデータの増加、利用ケースの多様化に対応できる開発運用体制(LLMOps)の構築が重要であることがわかった」としたほか、「SageMaker Studioを活用することで、GPUを自由に、柔軟に活用できたこと、AWSのGenerative AI Innovation Centerから、最新の研究動向について情報共有を得たことで、網羅的な検証が可能になった。生成系AIのユースケースは拡大しており、至るところで活用できると考えている。金融機関においても、生成系AIの内製化は競争力の源泉になる」と語った。

AWSを活用した生成系AIへの取り組み

 Finatextのグループ会社であり、金融機関向けにデータプロダクトを提供するナウキャストでは、同社が行ったLLM開発について説明。決算短信から、セグメント別売上情報を抽出するケースでは、タスクの正解が簡単に判断できるとともに、ドメイン知識が必要ないこと、LLMに共有が必要なコンテキストがほとんどなく、ユーザーがプロンプトを入力せずに利用できることから、LLMの開発テーマ選定としてはいい条件がそろっていると指摘した。ナウキャスト プロダクトマネージャーの片山燎平氏は、「LLMはテーマの選定が重要になる。LLMを万能アシスタントではなく、自然言語処理の要素技術としてとらえ直してテーマを選定することが、業務に対するインパクトを出しやすい。身の丈にあったタスクを渡すことが重要である」と述べた。

 同社がAWSを選定した理由には、基盤モデルの選択肢が多く、LLMのロックインが発生しにくいこと、アプリケーションの実装が容易であることの2点を挙げ、「約100銘柄を対象にした検証では、LLMによる抽出精度は90%以上を達成した。短期間でのアプリケーション開発を実現しており、2023年11月から対象銘柄を拡大していく」としている。

LLMを自然言語処理の要素技術としてとらえ直してテーマを選定する
基盤モデルのバラエティーとアプリケーション実装の容易さからAWSを選定
プロトタイピングの結果と今後の開発方針

 金融機関向けにITサービスを提供するシンプレクスでは、AIエンジニアを中心とする生成系AI専門チームを設立し、まずは、社内業務の効率化にフォーカスした取り組みを開始した。具体的には、生成系AIを用いて、ミーティングの音声から情報整理を行い、業務効率化への貢献を検証したという。Amazon Transcribeを用いて、話者分離や音声認識を実施し、Amazon BedrockでClaude 2を活用して、音声認識結果の補正や情報抽出、要約、示唆出しを行っているという。

 シンプレクス クロス・フロンティアディビジョン プリンシパルの氏弘一也氏は、「生成系AIによる要約は、たたき台としては十分活用でき、5時間分のミーティングでは、3人日の作業を約1人日に削減できると見込んでいる。Amazon Bedrockでは、GUIやAPIが提供されており、容易に利用がはじめられること、基盤モデルのホスティング作業や管理が不要であり、スケーリングもAWS側で制御されるため、ユーザー数が増えても特別な対応が不要であり、本番環境での利用にも適している」と評価。「音声データに加えて、企業固有のデータを、LLMで扱うことができれば、業務ナレッジの整理や顧客接点の改善に応用できると考えている」とした。

AIエンジニアを中心とする生成系AI専門チームを設立
検証環境構成
AWSを活用することで得られた成果やメリット

海外での活用事例

 また、説明会のなかでは、海外における金融領域における事例についても触れた。

 英国のNatWestでは、Amazon Bedrockを活用することで、高度化する金融犯罪の脅威に対応。米国Principal Financial Groupは、Amazon BedrockとAmazon Titanを利用して、基盤モデルをサービスに組み込み、顧客との電話対応に活用しているという。

 米国Nasdaqでは、Amazon Bedrockを金融犯罪対策やサーベイランスの強化に適用。米国Intuitは、独自の生成AIオペレーティングシステムである「GenOS」をAWS上に構築。Amazon Bedrockと組み合わせて、革新的な顧客体験を提供しているとのこと。

 さらに、米国LexisNexisでは、Amazon Bedrockにより、会話型検索や要約、高度な法務資料のドラフト作成などに活用し、効率性や生産性を高めていると説明している。

グローバル金融におけるAWSの生成系AIサービスのユースケース