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ネットワークをクラウド化する Coltテクノロジーサービスのアーキテクチャ
2023年9月7日 06:15
Coltテクノロジーサービス(以下、Colt)は、今年2月に実施した企業戦略記者説明会に続き、日本市場への投資と同社のコミットメントについての説明会を8月29日に開催した。
英国ロンドンに本社を置くColtテクノロジーサービスは、専用線、イーサネット、広域イーサネット、クラウド接続、インターネット接続などのネットワークサービスや、電話サービス、セキュリティサービスなどをグローバルに提供するインフラサービス事業者で、特に金融系ビジネス向けに強みを持つ。日本国内では、1999年からKVHの社名でビジネスを開始し、現在データセンター集積地となっている千葉県印西地区で最初期にデータセンターを開設するなど、日本での事業歴が長い。
日本のネットワーク需要は爆発的に伸びる
説明会ではまず、英国本社でCMOを務める水谷安孝氏が、グローバルでのアップデートや最近の導入事例を紹介した。
Coltは、24年間継続的に日本への投資を行っている。例えば、ネットワークの拡張については、2022~23年に4G/5Gのアクセスネットワークを開設、金融取引で使うマーケットデータをクラウド上から展開するサービスをAWSと提供するなど、ソリューションに近いものも提供している。
最近の導入事例としては、日本に本社を置く航空宇宙事業者が、Coltのグローバルネットワークを導入。現在、日本とルクセンブルクにある拠点を接続しているが、今後中東や北米にも拠点を増やす計画があり、Coltがワンストップでネットワークインフラ提供を行う予定。これが可能な事業者は世界的に見ても珍しいという。
Coltは日本に非常に注力しているが、その理由を水谷氏は次のように言う。
「ガートナーの調査によると、今後5年間のネットワーク需要の伸び率が、グローバルでは1.7%であるのに対し、日本単体では5.8%と予測されている。日本は爆発的に伸びると予想し、数ある国の中でも日本に特化してどのようなことができるか、本社側でも常に考えている状況」(水谷氏)
オープンネットワーク・アーキテクチャ
さらに、ISPの株式会社エアネットでは、「Colt On Demand」を採用している。
Colt On Demandは、必要な時に必要なだけリソースを利用するクラウドの考え方を、ネットワークにも適用したサービスだ。ユースケースとしては、例えば以下のようなものが考えられる。
①遠隔バックアップ
遠隔地にバックアップ用のデータセンターがあり、常時使うわけではないので最低限の帯域のネットワークで接続しているが、有事の際には爆発的に帯域を増やす。必要性がなくなれば、また最低限の帯域に戻す。
②AIなどのクラウドサービス
機械学習を行う時に、大量の学習用データをクラウドにアップロードする必要がある。ただし、それだけの帯域が常に必要なわけではなく、瞬間的に爆発的な帯域が必要となる。
「ネットワークは固定のものではなく、フレキシブルな、クラウドに近い使い方が求められていると実感している」(水谷氏)
このために必要になるのが、ネットワーク帯域をフレキシブルに変更できる、技術的な裏付けだ。
ネットワークを仮想的なものとして考え、柔軟に拡張・縮小できるようにするのはソフトウェアレベルの実装だが、ネットワーク自体は物理的な光ファイバーのケーブルである。つまり、必要になった時にすぐに追加でケーブルを敷設するというわけにはいかない。
そこで、既存ケーブルに対して、帯域拡張が可能になる新しい技術が開発されたら、すぐに実装できるようなアーキテクチャを持ったネットワークが必要になる。これを、Coltでは「オープンネットワーク・アーキテクチャ」と呼んでいる。
光ファイバーネットワークは、光スイッチとトランスポンダーで構成されるが、現在トランスポンダーの技術革新が非常に早く、ベンダー各社がさまざまなアップデートをしている。しかし従来は、トランスポンダーと光スイッチが一体のものだったため、新しい高性能のトランスポンダーが出たからといって、簡単にはネットワークの刷新ができなかった。
そこでColtでは、光スイッチの中にあらかじめパスを作り、任意のベンダーのトランスポンダーをPoC導入して、ネットワークを作るという協力体制を、各社と構築している。ちなみに、日本企業では富士通がこのトランスポンダーの技術開発を行っている。
「弊社のネットワーク構成として、オープンネットワーク・アーキテクチャを採用した。今後も、トランスポンダーを変えることで常にネットワークを最新のものにすることができるようになる」(水谷氏)
グローバルに考え、ローカルで活動する
続いて、ジャパン・カントリー・マネージャーを務めるジェラルド・バーン氏が日本における24年間の投資実績などを紹介した。
Coltは、「グローバルに考え、ローカルで活動する」という方針のもと、英国本社に所属して現地で活動するカントリー・マネージャーと、各現地法人の代表者とが連携し、現地法人がその国の顧客にサービスを提供するという体制をとっている。カントリー・マネージャーの役割は、本社の戦略を明確にローカルレベルで実現することを担保すること、そしてローカルレベルの要件を本社に伝えることだ。
「Coltは、20カ国以上で事業を展開し、60以上の拠点を持っている。世界全体で、戦略や価値観を整合性、一貫性を持って実施するが、各国の状況に合わせてビジネスを行う。そのためにカントリー・マネージャーをすべての国に配置している」(バーン氏)
本社と現地法人は人材も行き来するということで、日本人でありながら英国本社でCMOの任についている水谷氏がいい例だろう。
日本における24年間の投資実績としては、以下のようなものがある。
- 日本における主要パブリック・クラウドベンダーへの接続支援
- 日本証券取引所参加企業の80%以上が直接、間接に接続
- 国内で100以上のデータセンターに接続
- 国内の主要都市において、2400以上の商用ビルに接続
- 海底ケーブルの陸揚げ局複数に接続
「1999年の創業当時より、累計で1000億円の設備投資を行ってきた」(バーン氏)という。
また、将来的な計画としては、以下のようなものが挙がっている。
- 日本国内におけるネットワーク拡張(西日本)
- 顧客満足度向上の為のネットワーク品質の向上
- 自動化(革新的なオンデマンドサービス)
- パートナー戦略のためのAPI構築
- 社内システムの変革
さらに、説明会には在日英国商業会議所(BCCJ)の会頭であるリチャード・ライル氏が参加し、日英関係やColtの貢献などについて講演した。「経産省は、2030年までの対日直接投資額が100兆円という野心的な目標を設定しており、英国も、目標達成を支援する施策を行う」(ライル氏)とのコメントを寄せている。